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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
小さな冒険者
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11.深夜の帰郷

本日二話目です。


妹視点です。

「運転手さん! ○○村××の△ー□□まで! 急いで!」


 最終電車を降りて改札を出れば、ちょうど一台だけ客待ちのタクシーを捕まえた。いつもなら電話して三十分以上待たされるんだけど、こんな幸運滅多にない。これはきっと神がアタシを導いてくれているに違いない。トランクに荷物を押し込むと、後部座席に身体を滑らせる。


「お客さん、あんな辺鄙なところで何かあるんですか?」

「ちょっと実家で訳アリでね」


 どうやらこの運転手は最近このあたりに来た人らしい。というのはさっきの最終電車であの駅を降りる人はほとんどなく、タクシーはここで客待ちなんてしないから。ま、今はこの人の無知に感謝だね。


「焦ってるってことは……緊急事態だな?」

「緊急事態……そう、緊急事態よ。一刻の猶予もないわ」


 緊急事態に決まってる。もしお兄ちゃんが対応ミスってシェリーちゃんがいなくなったりしたらとんでもないことになる。一刻も早く保護しなや。私の神に相応しい待遇をしないといけない。


「そうか……わかった! おっちゃんに任せな!」


 運転手は何か納得したように言うと、突然アクセルを踏み込んだ。数少ない街灯が頻繁に通り過ぎていくのはかなりのスピードが出ている証。本当はこんな夜道でスピード出すなんてありえないけど、今は本当に時間が惜しい。


「これでもおっちゃん、昔は峠でブイブイ言わせてたんだぜ!」

「わかったから早く!」


 次第に街灯の数が少なくなり、目的地が近づいていることを感じさせる。当然ながら道を歩いている人などいるはずもなく、時折タヌキが驚いて逃げていく姿が見える。アタシの神にようやく会える喜びに身体が震える。


 フィギュア作製にハマったのはいつ頃からだろう、最初はお世辞にも上手とはいえない粘土細工からだった。次第に技術が向上して、他人に評価されるくらいになった。でもずっと思っていたことがある。


 このフィギュアが命を宿したら……


 こんな田舎で育ち、同年代の友達なんてほとんどいない。高校を卒業してすぐにフィギュアを評価してくれたデザイン事務所に就職して上京したけど、実際の仕事はフィギュアとは関係のないものばかり。でも我慢して仕事を続けた。どうしようもなく不安になって、大して好きでもなかった男と付き合って精神的に擦り減らした。いつのまにかフィギュア作製をしてる余裕もなくなった。


 そんな時にお兄ちゃんから送られてきた動画。アタシの大好きだったフィギュアの生き写しのような小さな生き物が美味しそうにイチゴを頬張るその姿、まさにアタシが望んでいたものがそこにあった。この時ほど神に感謝したことはない、いや、その小さな生き物こそ神だ。アタシを救ってくれる神だ。


 タクシーはやがて速度を落とし、数年ぶりの実家へと到着した。もう雨戸が閉まってるから中の様子はわからないけど、たぶんもう寝てるかもしれない。


「着いたよ、お客さん」

「ありがとう」


 運転手がトランクから荷物を下してくれたので、礼を言って料金を払う。去っていくタクシーのテールランプを見送ると、ポケットから実家の鍵を取り出す。お兄ちゃんが鍵を替えていないか心配だったけど、そのまま使えるみたいで安心した。


 出来るだけ音を出さないように、静かに移動する。お兄ちゃんのことだからシェリーちゃんを寝室に入れることはないはず、妹の目から見ても家族以外の女の人に免疫ないし。となれば物置? いや、お兄ちゃんは女の子をそんなところに寝かせるはずがないし、だとすると居間だよね。


「シェリーちゃーん……どこですかー」


 つい声が出てしまうくらいに自分をおさえきれない。縁側を進み居間へと近づけば、居間は豆球の灯りがついてる。お兄ちゃんは真っ暗にするはずだから、きっとそこに神がいる。間違いない。開けられたままの障子の陰から中を覗けば、小さな神と目が合った。


「いたー」


 居間の中央に置かれたクッションのようなものの上にちょこんと座ってこちらを見ている小さな存在。やっと会えたアタシの神。アタシの夢が現実になった、そう思ってしゃがみこんで手を伸ばす。あともうちょっと……


「ワンッ!」


 暗くてはっきりわからなかったけど、毛の塊のようなものが突撃してきた。ソレが飛び掛かってきたのとアタシがしゃがんだのが偶然タイミングが合ってしまい、ちょうど鳩尾のあたりにその攻撃を受けてしまう。


「うあ……おう……」

「ワンワンッ!」


 堪えきれずに尻餅をついたアタシにソレはさらに追い打ちをかけてくる。身体を駆け上がると、柔らかな獣毛が顔中を覆いつくす。


「ちょ、やめ、茶々!」

「ワンワン!」


 でもいくら言っても茶々は言うことを聞かず、アタシのことを押さえつけるように顔面にのしかかっている。いつもならアタシの言うことも聞くのに、まるでシェリーちゃんを護ろうとしてるみたい。そんなことをしてると、突然部屋が明るくなった。


「……騒がしいと思ったら……何やってんだ、お前ら」


 そこには寝間着がわりのスウェットの上下に身を包んだお兄ちゃんが眠そうな目を擦りながら立っていた。

明日より一日一回、18:00更新となります。


読んでいただいてありがとうございます。

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