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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
小さな冒険者
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10.深夜の来訪者

本日一話目です。


シェリー視点です。

 ここは夢の世界なのかな……ドラゴンから逃げた時、何かしらの罠にかかって眠りに落ちたままなのかな……


 だってダンジョンの奥でこんなふかふかの寝床で眠れるなんて誰も思わないじゃない!



 ソウイチさんが用意してくれた寝床は、今までのどんな高級な宿のベッドより上質だった。ソウイチさんは申し訳なさそうな顔をしていたけど、これ以上のものがあるなんて想像できない。巨人の国、いったいどれだけすごいのよ……


「茶々、しっかり頼む」

「ワン!」


 ソウイチさんに言われてチャチャさんが私の傍に来て丸くなる。でもそれは私を害そうとするためじゃなく、私を護ろうとしてのこと。その証拠にチャチャさんの目からは全く敵意が感じられない。こんな強そうな魔獣の護衛に護られて眠るなんて、きっと王族でも経験したことないと思う。


「暗くするぞー」


 ソウイチさんの声が聞こえた直後、昼間のようだった室内が突然暗くなった。でも完全な闇じゃなく、天井には月明りのような光がほのかな明るさを振りまいている。昼と夜を自在に変えることができる部屋、きっと王国の宮廷魔導士でもこんなことできない。


 もしこんな力を持った巨人が攻めて来たら、王国は一夜と持たずに滅ぶ。ソウイチさんは優しいけど、他の巨人が皆そうだとは思わない。王国にだって良い人もいれば悪い人もいる、それはきっとここでも変わらないと思う。ソウイチさんがそういう人じゃなさそうだということは何となくわかったけど……


 ここでの出来事は私の胸の中にしまっておくべきなのかな。帰る方法を探したい気持ちは強いけど、元の場所と繋がったことがソウイチさん以外の巨人に知られて、それが原因で攻め込まれたりしたら……その原因を作ったのは私になる。


 ならここで死ぬまで暮らすべき、そんな考えが生まれる。たった一人で、この知らない国で、どんなに心細くても、どんなに苦しくても……


「……ッ!」


 知らず知らずのうちに涙が零れる。暗くなって僅かに感じた不安が大きくなっているのかもしれない。でもそれを止めることができない自分がもどかしくて、悔しくて、悲しくて、でもどうしようもなくて……


 私一人が我慢すれば、王国を護れる。そこまで義理のある国じゃないけど、それでも仲の良い友人は多い。その友人たちが蹂躙され、殺される未来だけは何としても避けなくちゃ……


「くーん」

「……チャチャ……さん」


 恐怖に涙して身体を震わせる私の顔をチャチャさんが優しく舐めてくれる。まるで我が子を慈しむように。その目はとても優しかった。その優しさが私の心に沁みこみ、恐怖に凝り固まった心をゆっくりと解してゆく。不安に凍てついた心の奥底に温かいものが生まれる。



『大丈夫、安心して眠りなさい。ここにいれば怖いものはないから』


 温かい優しさに包まれてゆっくりと眠りに落ちていく中、そんな声が聞こえたような気がした。




**********



 眠りに落ちてからどれほど経っただろう、聞き慣れない物音にふと目が覚めた。周囲はまだ暗く、夜明けが来たわけでもない。物音は次第に大きくなってきて、やがて金属がこすれ合うような音が聞こえてきた。


(……鍵を……開けてる?)


 聞こえてきたのは明らかに鍵をあける音。でもその音はソウイチさんが入っていった部屋とは違う方向から聞こえてくるからソウイチさんが何かしてるとは思えない。やがて何かが動くような音、それに続いて聞こえてきたのは……足音?


「グルルル……」

「……チャチャさん」


 いつの間にかチャチャさんが起きだして私の傍で唸り声をあげている。怒りの形相はもし出会ったら即座に自分の命が終わったことを察してしまうくらいの迫力だけど、今はそれがとても心強い。でもそれはチャチャさんがここまで敵意を剥き出しにしなきゃいけない存在が近づいているということ。


 足音は間違いなくこちらに近づいてくる。ゆっくりと、できるだけ足音をたてないように歩いているつもりだろうけど、私にははっきりとその音が聞こえる。足音を立てないように歩いているということは……暗殺者? でもどうして? まさかソウイチさんが私を売った? 


 色々考えるけど、全く思考が纏まらない。足音はゆっくりとこちらに向かって大きくなる。チャチャさんは牙を剥き出しにして警戒してる。そしてそれはゆっくりと姿を現した。


「シェリーちゃーん……どこですかー……」


 姿を見せたのはやはり巨人。天井から室内を照らす薄明りに輝く大きな目はゆっくりと動き、そして一点に固定された。その先にいるのは……私だ。


「……いたー」


 私を見つけた巨人は嬉しそうに口を大きく裂けさせた。


 怖い。ただその感情だけが身体を支配し、自分の身体じゃなくなったみたいに言うことを聞かない。逃げなくちゃ、と思えば思うほど身体は動くことを拒む。巨人の動きに比べれば私が必死に逃げたところで簡単につかまる。でも、それでも動かなきゃ助からない。なのに……恐怖という鎖が私を絡めとってしまっている。


(……助けて!)


 声を出そうにも全く声が出ない。身体は微動だにしない。ドラゴンと相対した時だってこんなことにはならなかった。未知の存在の恐怖が私を縛る。


「ワンッ!」


 もう駄目、そう思ったとき、オレンジ色の魔獣がその身を躍らせた。 

もう一話更新します。

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