第38話
とりあえず謁見という大仕事が終了した。
何だかんだあったものの、結局は定期的に色々品物を注文するから売ってくれということらしい。
特にテントやランタンにマッチ等のキャンプ系が凄く売れた。
まあ軍隊が必要なものって野営とかだから、キャンプの大人数版と考えれば当然ではあるが。
やることはやったのでこのまま帰っても良いのだが、せっかく王都に来たのだ。
街に来てくれる職人が居ないかどうか、色々と声をかけてみる。
今の商売は俺のスキル前提なので少しは改善したいというのもある。
だがやっぱりというかプライドだけは高くてどうしようもない連中が多い。
中にはちゃんとした職人も居たが『新技術』と『守秘義務』でダメだった。
今の自分の技術が大正義であり、他人様の技術は信用出来ないそうな。
逆に新技術に食いつく職人も居たが、守秘義務でアウトだ。
別に一生黙っていろという訳ではない。
10年間は専属の職人として技術を他人に教えないだけでいい。
その後は独立してくれても構わないし、技術を公開しても文句は言わない。
むしろそうして広めていかないと、どうもこの国というか世界は、現状維持で満足する連中が圧倒的に多いのだ。
もっとやる気出せよと思わなくもないが、現状維持で平和にやっていけるならという感じだそうで。
理解出来なくもないが、それでいいのか職人よ。
何とか数人の職人というか、新人職人というか、修行中だった子を引き抜くことには成功した。
やっぱり若い子の方が新技術に興味があるし、守秘義務にしても10年ならまあ修行していると思えば妥当な年数と言える。
そう言えば拠点にしている王都の屋敷だが、いつの間にかリシアさん達やシャーリーが『若奥様』と呼ばれていた。
一瞬知らない間に結婚したのか?と思ったが、どうやらそうではなく俺の嫁という扱いになっているらしい。
いやいや、それは流石に彼女達に失礼だろうと思い、使用人の方々に誤解を解こうとしたのだが、何だか生暖かい目で見られてしまっている。
それとなくリシアさん達に言ったが気にしていないどころか、若奥様と呼ばれて平然としているではないか。
これはアレか?
やはりそういう立場というか、そういうのに憧れる歳だということか?
よく考えればこの世界では十分結婚年齢らしいからな。
理想の男性と結婚すればこんな感じになるのだろうかという「ごっこ遊び」なのかもしれない。
やはり貴族令嬢というのは、花嫁修業的なものもあるっぽい話も聞いたことがあるし、それの1つという可能性も。
そんなことを考えながら、たまにやってくる高圧的な大商人様とやらを追い返しながら王都の生活を堪能した。
と言っても、流石王都だ!品揃えが凄い!こんなの見たこともない!ってのは少ない。
あっても地方の特産品の1つとかで、あとは見たことあるものばかり。
そう考えるとやはり辺境伯の所は、発展している街と言えるのだろう、
驚いたのは値段の方だ。
俺の所で売っていた品物が、ここでは倍以上になっている。
思わず値札を二度見したほどだ。
そんなぼったくり価格でも身なりの良い高ランクだと思われる冒険者が購入して満足そうにしているではないか。
チラッとそんな話は聞いたことがあったが、実際に見ると何とも言えない気分になる。
でもまあ、本人達が合意の元で取引しているのだから俺がどうこういう話でもない。
そう言えば驚いたことがもう1つだけあった。
恐らく断りまくっている大商人様のお使いだと思われるチンピラっぽいのが定期的に喧嘩を売ってきていた。
まあそれだけならアレなのだが、何故かそいつらが強引に人気の無い路地まで連れ込んできたとしても。
いきなり馬車で強引に拉致してこようとしても。
シャーリーを人質に取ろうとしても。
どこからともなく一般人っぽい恰好をした一般人じゃない方々が現れて連中を片付けて去っていく。
一度、夜中に屋敷に侵入してきた連中も居たが、中庭で戦闘が発生して全員捉えられていった。
その時も黒いローブに身を包んだ集団が、執事さんに声をかけてから撤収していく。
何なのかと尋ねても「お気になさる必要などございません」と華麗にスルーされてしまったからなぁ。
まあ、守って貰えるなら有難い話なので構わないのだが、どんどんと平凡な暮らしから遠ざかっている気がしなくもない。
という感じで色々あったが、ようやく我が家というか街に帰ってきた。
ホント、今回は疲れたよ。
って思っていたら、デパートモドキが完成したとのこと。
確認しにいくと街の中央に4階建ての大きな店が完成していた。
5階建てにしたかったのだが、この世界の建築技術とか安全性を考えて4階にしておいた。
完成したということで、ここから引っ越しやら整理やらでそれなりに時間が掛かってしまった。
そりゃもう何をどうするかもそうだが、商品の数が問題で。
一時的に大量の人手を募集して荷物を移動させたが、やっぱりというか何というか。
中身をちょろまかす奴が出てきたりして、その対策をしなければならなかったりと、色々大変だった。
そして1か月ほどかけてようやくほとんどが終了した。
1階は食料品売り場。
一部は本場デパートのように売り場をテナント方式にして屋台や路上売りをしている人達でも利用できるようにした。
料金も格安にして誰でも手が出せるようにした結果、一瞬でテナントが埋まってしまう。
しかしここからが競争だ。
一定期間売上が低い、人気が無い、何かしら事故を起こした店は、即撤退となる。
生き残り方式のサバイバルとすることで良い店だけが残るという形にしてみた。
屋内で広々としており、天候に左右されにくいため非常に好評だ。
まあ半分以上は今まで通り好調な俺の店の品なのでテナントが失敗しても問題はない。
2階は女性専用エリアだ。
ちゃんとフロアの出入り口に専用の警備員も配置してある。
店の裏側に専用の高台と馬車を止める場所を作っており、貴族のお嬢様等が入れる専用口があったりするからだ。
女性向けの服や雑貨にアクセサリーなど、男の目を気にせず色々と選べるようにしてある訳だ。
そのため堂々と女性ものの下着なども販売していて、俺ですら安易に入れない空間になっている。
ここはシャーリーに完全に任せるしかないので、彼女の王国となる予定だ。
3階は一般人用の服や雑貨にアクセサリーなどが販売されているエリアだ。
男性向け商品もこのエリアにまとめられているが、まあ男は服の種類などにあまりこだわらないので文句も出てこない。
安価で頑丈で着心地が良ければOKという感じだからだ。
一部、子供向けのものも置かれているので、本当にこの階だけはゴチャゴチャしてしまった。
4階は冒険者のフロアだ。
エレベーターもエスカレーターも無い時代。
階段でわざわざ上に登るのも大変なので、体力のある冒険者達のエリアとした。
ここには装備を中心に野営に使うアイテムやダンジョンでも利用出来るアイテムなど便利グッズを大量に置いてある。
特にここには初心者向けというよりは、中級者以上向けの高級なものが多かったりする。
初心者向けの装備やアイテム関連は、ダンジョン入口の店や前に使っていた店を初心者向け店舗にすることで、客層を分けることにしたのだ。
何だかんだで奴隷も結構増やしたし、その中でも任せられる人には積極的に店長を任せたりしている。
彼らからしても自分のテンポで仕事が出来て、給与も待遇も良いしお金を貯めて自分を買い戻すことだって可能だ。
その後は好きにして良いと言ってはいるが、このまま店で働いてくれると助かるので、そういった下心も込みで破格の待遇にしている。
そのためか、ローレッドさんも積極的に問題が無さそうな奴隷が入ってきては営業にやってくる。
もう正直、全員採用でいいよと言いたい所だが、何故かルルさんが「そういうこともきちんとしないとダメですよ」と奴隷採用の担当者になってくれた。
正直有難いのだが、冒険者として旅に出ることだってある彼女にそこまで依存するのもなぁ。
と思っていたのだが乙女の旗は、しばらく休みになるらしい。
誰かが怪我や病気という訳ではなく、そろそろ今後を見据えての活動に切り替えるとジュリアさんが言っていた。
確かに今は若くて身体も無理が出来るだろうが、歳を取っても冒険者のままというのは辛い。
一般の冒険者も30歳になる頃には第二の人生を考えるそうで、お金を貯めて店を持って嫁さんを貰うのは代表的な成功例らしい。
他にも貴族のお抱え騎士となったり、冒険者ギルドの職員になったりと色々あるそうな。
彼女達がどんな道を選ぶのかは知らないが、せっかくこの世界に来て長く付き合いのある子達なので、全員幸せになって欲しいものだ。
呼び寄せた職人達やこの街で頑張っている職人達に、人気の品の制作を依頼する。
彼らからすれば未知のアイテムの作成だ。
失敗もするだろうし時間もかかるだろう。
それらを全てこちら側の投資として処理するので、思い切って挑戦して貰おうというものだ。
既に何人かの職人は、魔物の素材で高価な装備品を作れるようになっているので、時間をかければ十分成功すると思っている。
うちに来た職人達も「金も時間も気にせずひたすら技術を磨く挑戦が出来て最高だ」と好評のようだ。
これが上手くいけばそのうち、スキルに頼らない商売が完成するだろう。
何もかも順調だと上機嫌だったのが失敗だったのだろうか。
それともこれは神の試練なのだろうか。
リシアさんの父親になるカール辺境伯から呼び出しがあった。
「隣のダンジョンまでの道のりが少しあるのは知っていると思う」
「ええ、まあ」
この街には金の成る木であり、同時に厄災とも言えるダンジョンが2つもある。
1つは街の中に。
もう1つは少しだけ離れた森の中に。
この2つのおかげで冒険者が非常に多い街となっており、地方に関わらずかなり発展していると言えるだろう。
「せっかくなので、このダンジョンの上にも街を作って防衛を固めようと思う」
「はぁ……」
思わず生返事になる。
まあ言ってることはわからなくもない。
それがどれほどのお金や時間をかけた街づくりになるのかを除けばだが。
実際、森を切り開こうにも化け物どもがウロウロいる森を切り開くのも一苦労だ。
しかも森を大きく挟むとはいえ、隣は隣国である。
費用対効果が合わないためか、長年放置されてきた話でもある。
そのため森側にあるダンジョンの大氾濫は非常に面倒で被害も大きかったらしい。
「で、そこをキミが切り開いて街を作って貰おうという話なってな」
「―――は?」
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