第36話
■side:とある冒険者
「……噂は本当だったのか」
俺達「銀の盾」は、とある噂を聞いて拠点から遠く離れたこの街にやってきた。
地方都市エーアイ
マイバーン辺境伯の領土であり、少し遠いとは言え陸路でファルス王国との国境の街だ。
そして何よりダンジョンが近隣に2つもある街としても有名で、一攫千金を狙う者たちが集まる所でもある。
ただダンジョンはリスク・リターンが激しくて冒険者の中には敬遠する者もいる。
普通にその辺の魔物退治や護衛でコツコツ稼ぐのも悪い選択肢じゃない。
ガーナック王国は他と比べて比較的山賊なども少ないので、護衛はオイシイ仕事に分類される。
そんな中で俺達は北部を拠点にダンジョンで適度に稼いでいたのだがある日、とある噂を聞いた。
「エーアイの街で質の良い装備や見たことも無い品が売られている」
最初は半信半疑だった。
しかしその頃から少しづつだが、本当に珍しい品が流れてくるようになった。
小さな木の棒をこするだけで火が簡単に付く品や、電池とかいう金属棒を入れると火よりも明るく長持ちして雨でも消えないランプ。
簡単に作れるテントという野営するための道具など、どれも素晴らしいものばかり。
缶詰なる保存食も中に魚の煮つけが入っており、半年は保存出来るらしい。
海がない国にとって魚など超が付く貴重品なのに割安で保存食に出来て、しかも美味いのだ。
持ってきた商人に聞けば王都で仕入れたものらしく、その王都もエーアイの街から仕入れているそうな。
気づけば街に居た冒険者チームのいくつかがエーアイの街に行くと言って出て行った。
俺達も気になっていたが、少し遠い距離。
どうしようかと思っていると、ちょうど王都への護衛依頼に出会う。
みんなが乗り気だったこともあり、護衛任務ついでに王都へ。
初めての王都は大きい街に人が多すぎて圧倒された。
何とか冒険者ギルドに行くと運が良いことにエーアイの街までの護衛依頼があった。
みんなでその依頼に飛びつき、エーアイの街までやってきた訳だ。
街は王都と同じぐらい大きくて人が多い。
何より巨大な馬車がひっきりなしに中央を行き来しており、商人達の数も王都より多く感じる。
そして驚いたことに王都では銀貨1枚はするだろう肉の串焼きが半額近い値段で売っており、試しに食べてみると王都よりも塩が効いていて凄く美味いのだ。
近くの露店で売っていたスープなど食べたことがないほど美味いのに、そんなに高くはない。
話を聞くと、凄く有名な店があり、そこが出来てから街が更に賑わったらしい。
店の場所を聞くと、俺達は店へと向かった。
「し、信じられない」
誰が呟いたのか、そんな言葉が聞こえてきた。
大きな像が置いてあるだけでそこまで目立つ店ではなかった。
そこそこの大きさの店という程度なのに、入る人と出ていく人で人が途切れることが無い。
勇気をもって中に入ると、低い棚を中心としていて店内が良く見える。
どうやら品物の種類などによっておいてある場所が集中してあるらしく、冒険者ばかりの場所や商人だらけの場所に一般人が居る場所などわかりやすい状態になっていた。
「え?何でこの値段?」
「嘘ッ!! なんて便利なのッ!?」
「これは買うしかないでしょ!」
冒険者達がウロウロしている場所には装備を中心に冒険者がよく使う品が置かれていた。
鉄の剣1本にしても新品だけしか並んでいない。
しかもその1本が王都で中古の鉄の剣1本を買うのとほぼ同じ値段である。
王都で新品の鉄の剣を1本買うぐらいの値段を出せば、鉄の防具が一式買えてしまう。
武器と比べるなら、あと銀貨を2枚足せば鋼鉄の剣が買えるじゃないか!!
仲間達も槍や杖に弓などを見て驚いている。
よく見れば俺達以外でも驚いている冒険者がチラホラ居るのが救いだ。
俺達だけじゃないと安心出来るし、田舎から出てきた等と馬鹿にされたくもないからな。
しかし本当に新品でこの値段など、値札を間違えてるのではないか?と疑いたくなる。
更に北部で見たテントやランプもここでは半額ぐらいの値段になっている。
そりゃ遠い距離を商人達が運んだからこそ北で購入出来ると考えれば、割高になるのは理解出来るが、それでも倍になっていたとは……。
そんな値段ですら売れていたのだ。
ここで買わない理由はない。
更にテントも様々な種類があって、保存食も安い。
見たことも無い品も多くて見ているだけでも面白い。
商品に絵で使い方などが書かれているのでわかりやすい。
店内では家族が経営しているのか、小さな子供も商品を紹介していて微笑ましい。
主人らしき男に声をかけると、何と雇われている従業員らしく、店主は王都に行っているそうな。
ついでに何か面白いものが無いかと質問をしていると、入口の方が騒がしくなった。
何事かと店の男と行って見ると入口の像が動き出して冒険者の1人を捕まえているではないか。
「泥棒はダメですよ、お客さん」
またかと呟きながらそう言う男に俺は驚いた。
防犯用にゴーレムなんて聞いたことがない。
しかもよく見ればかなり高価な装備をしているゴーレムであり、これと戦うなんて無謀だと見ただけでわかる。
何とか逃げようともがく冒険者だったが、ゴーレムはビクともしない。
そうこうしているウチに警備兵がやってきて、泥棒を連行していった。
色々と衝撃的な光景だったが、大半の客は既に買い物に戻っており、これがいつものことであるというのが何となくわかった。
とりあえずメンバーを集めて宿屋に行き、部屋を確保してから相談を開始する。
「まず何を購入するかだ」
女達はテントや外用トイレ。
男達は武器や防具。
俺はランプやマッチなどの便利品。
見事に意見は分かれてしまう。
そこからは互いにそれらを優先する利点を説明し始めた。
ここまで運良く仕事をしながら来れたため、予算は多くある。
しかし持ち金を全てを使ってしまう訳にもいかない。
当面はダンジョンで稼ごうという意見で一致している。
だが今スグ購入するものに関しての妥協はしたくない。
「さて、じゃあ俺の話も聞いてくれ」
こうして俺も購入する品物の会議に参加した。
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