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第34話






 目の前にある非常に高級そうな素材で出来た手紙に思わずため息が出る。

 封蝋に押された紋様は、この国の王家のもの。

 そう、確実に面倒な中身であることは言うまでもない。

 かといって放置も出来ない。

 何しろ辺境伯様を経由してきた無視出来ないものだからだ。


 いつまでも現実逃避している訳にもいかず、思い切って開封する。

 すると中身は非常にシンプルだった。


 ぶっちゃけると王都に一度来て王に会えということだ。

 表向きは街を守ったことに尽力したことを表するためらしい。

 一応辺境伯様からは『気が向かないかもしれないが、悪いようにはならないはずだ』と言われている。

 俺自身もそうならないことを祈るよと言いたい。

 面倒事はとにかく不要だ。

 適当に商売をしながらまったり生活するはずが、ドンドンと深みにハマっている気がしなくもないが。


 仕方が無いのでしばらく旅行に行くような気分で出かけると周辺の連中に声をかけておく。

 特に買取に関しては休みとなるので注意しろと。

 念のために看板も設置して告知しておく。

 奴隷達にも休暇をやろうと思ったら、何故か店は通常通り営業したいと言われてしまった。

 まあ在庫の問題が無い訳ではないが、それ以外はぶっちゃけ支店とかになると放置しているレベルなので任せても問題ない。

 彼らも頑張って働くことで早く奴隷から解放されたいのだろうと考え、働くことを許可しておいた。

 無理しないようにとも言ってあるので大丈夫だろう。


 王都までの道のりは、乙女の旗のメンバーが護衛を引き受けてくれることになった。

 というか、物凄い笑顔のゴリ押しで決まったというべきか。

 そして何故かシャーリーまでがついてくると言い出した。

 もう訳がわからないよ。


 とりあえず移動をどうするのか考えて通販スキルを確認する。

 流石にここで自転車や自動車などを出して「異世界人ムーブ」をする勇気はない。

 こういう系の小説だとバスとか出して全員乗せて走るとかやってるからな。

 残念ながら俺はこれ以上目立つ気などない。

 既に手遅れな気もしなくはないが、最悪な状況になれば全てを捨てて逃げ出せばいい。

 通販スキルさえあれば、どこであろうがやり直せる。


 そんなことを考えていると、面白いものが売っていた。

 もはや何でもありだな通販。

 まあそんなこんなで準備をしていると、あっという間に王都へ行く日となった。


 目の前には荷物が積み込まれていく巨大な連結式の馬車。

 前方部分は人が乗る用で、後方部分が荷物などを入れる用となっている。

 ちなみに繋がれている2匹の馬も通販だ。

 ……君たちも異世界に連れてこられて思う所はあるだろうが、まあせめて異世界を満喫してくれ。

 そしてこれが良さげだなと思って手配した馬車なんだが、まあこれが問題だった。


 この世界には一般的な荷物を多く積んだり人を乗せる馬車や貴族向けの豪華な細工の馬車ある。

 しかし何故か連結式の馬車は無いそうで。

 どこから聞きつけたのか、職人などが見学に来るほどだった。

 他の人間も概ね好評で、馬車をいくつも準備するよりも効率的だなんだと言っていた。


 出始めから色々ツッコミどころ満載になってしまったが、ようやく王都へと向かう。

 まあ王国の隅っこみたいな所からの移動なので急いでも10日ほどかかる。

 道中では相変わらず缶詰やレトルト食品などを使用すれば簡単で美味しい食事になる。

 立派なテントだけでなく屋外用のトイレや風呂なども完備した。

 風呂なんて組み立て式のやつに水をぶっ込んで投げ込み式のヒーターで温めれば完璧だ。

 通常の旅ではあり得ない数々だったが乙女の旗は既に体験しているので今更だった。

 というか今回も期待してます!って目で見られたら……ね。


 逆に面白かったのはシャーリーだった。

 初めて体験する数々に、店の商品達がどれだけのものなのか改めて知ったようだ。

 頻りに帰ってからの売り込みプランを考えていた―――のだが、数日もすればそんな光景も懐かしく思えてくる。

 今では一番旅を満喫してるのではないか?と思えるほどの態度だ。


 1度だけモンスターと盗賊の襲撃があったが、どちらも瞬殺だった。

 色々あって乙女の旗はウチで売ってる装備の中でも上位の装備をフルセットで持っている。

 おかげで女ばかりだと舐めてた盗賊どもは一方的な虐殺で皆殺しにされ、モンスター達も一瞬で殲滅されていた。

 ……やはりかなりお値段がする装備セットは、お値段以上に働くらしい。


 逆に問題というか、よくエレナさんとルルさんが夜に俺のテントに来ることだ。

 まあそれ自体は良いんだけど、何故かシャーリーと謎の張り合いを開始して最終的に3人で牽制し合って寝るという方向に行く。

 ……正直、そこに俺が入っても……いや、これを言ったら本当にそうなりそうで怖い。

 こちらを信頼している女性達に抱き着かれて手が差せない状態で寝るなんて健全な男には不可能だ。


 こうして特に何かある訳でもなく、比較的旅を愉しむ感じで王都へとやってきた。

 途中で立ち寄った街よりも、はるかに人も多いし街の規模もデカい。

 まずは王都にあるマイバーン辺境伯邸にお邪魔する。

 辺境伯からも王都滞在中はここを利用してくれと言われていた。

 普段はお兄さんのテルムッドさんの方がこちらに居ることが多いらしい。


 リシアさんの好意で使用人を利用してまずは王宮へ、こちらが到着したという連絡を入れて貰う。

 そこから「じゃあ〇〇日後に会いましょう」と予約を取るらしい。

 確かに急に王宮に行って王様に会えるほど暇だという訳でもないだろうから当然だとも言える。

 なのでしばらく街の商業エリアと呼ばれる所にある場所代を支払うフリーマーケットみたいな場所で軽く商売でも~と準備をしていた。

 しかしそんな俺の予定は綺麗に吹き飛んだ。


「明日、お会いになるとのことです」


 リシアさんからそれを聞いて「この世界の王様は暇なのか?」と失礼なことを考えてしまった。









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