第32話
外から大量のお客さんがやって来る。
そのため街は総出のおもてなし準備に大忙しだ。
特に街の外ではある一定の場所からの木々を全て切り倒している。
これは下手をすると森全体が火災になりかねないため、その予防措置として切り倒しておく。
更に街の入口付近に一定間隔で木々から加工したそれなりのサイズの棒を地面に突き刺す。
そこにグルグルと有刺鉄線を巻き付けて貰う。
城壁の上にはポリカーボネート製の盾を改造した矢除けの壁を用意する。
これで視界を確保しつつ防御も出来て便利だろう。
もちろん白兵戦の希望者にもポリカーボネート製の盾を持たせている。
軽くて見た目以上に頑丈であり盾として機能しながら視野を妨害しない。
視野に関してはメリット・デメリット双方あるが概ね好評だ。
女子供は後方支援という名目で動いて貰っている。
戦闘力のない女性達は戦う者たちの食事などの世話を担当。
子供や逃げ場の無い孤児達は、その元気の良さと小柄さを利用して伝令兵として利用している。
目の前に脅威が迫っているとはいえ、衣食住がしっかりしてる職場ということもあり特に孤児が凄く頑張っていた。
あとでカール辺境伯と相談して、正式な伝令兵としての役割を与えても良いかもしれない。
そうすることで孤児も立派に労働力となるし、孤児も僅かではあるが職業選択の自由も出てくる。
冒険者達には防衛準備以外に武装の使い方や、その威力。
何より取扱の注意事項などを叩きこんだ。
そして辺境伯やギルド長に、後日全てしっかり回収するので持ち逃げが無いようにと念を押しておいた。
まあ使い切りなのでさほど脅威ではないもの、やはりあまりにもオーバースペックなものは取り扱いを徹底しておいた方がいい。
武器も食料もほとんどウチの持ち出しになっているが、投資した額に比べれば問題ない。
あとで辺境伯とギルドに請求するつもりでもあるし。
そんなこんなで準備が本格化していくと、謎の現象が起こり始めた。
最初は街から避難する人間が5~6割ほどで半分ぐらいが逃げる予定だった。
しかし本格的な防衛準備が開始され、逃げない連中がせっせと働くのを見てなのか、それとも良心の呵責なのか。
結局は街に残る数がドンドンと増えていった。
最終的には逃げ出した数は全体の1割。
あとは全てが残ったことになる。
なのでその中でも戦えそうで反発しなさそうな若者を戦闘に加えることに。
そのためギルドでは今、徹底して心構えやいざという時に焦ってパニックにならないよう指導してもらっている。
人数が多くなるほど防衛成功率は飛躍的に高まる。
……その分、出費も増えるけどね。
こうしてあっという間に当日となった。
連中がやって来る日。
城壁の上には大量の人が武器を持ち待機している。
俺もその中の1人だ。
そんな中、インカムでのやり取りがされていた。
「こちらジュリア。準備完了」
「パメラです。同じく準備完了」
「エレナよ。こっちも問題なし」
乙女の旗には各地の部隊を指揮して貰うためにインカムを渡してある。
この方が連絡が楽だからだ。
ついでに辺境伯やギルド長にも渡してある。
「しかしこの「いんかむ」っていう道具は便利ですね」
「確かにな。これがあれば軍の統率が簡単に出来てしまう」
「冒険者達でも連携や安全確認などやれることが大幅に増えるぜ」
とまあこんな感じでインカムはやはり便利だという話になる。
こんなことでもない限り出すつもりはなかったんだけどな。
そんなことを考えていると馬に乗った人間が旗を振りながら街に走ってきた。
開いている門から入るとスグに門が閉まる。
そして入った所にある鐘を勢い良く鳴らした。
『予定通り街に向かって侵攻中』
それを知らせる合図に全員の表情が一気に引き締まる。
「―――来た」
森の方から地鳴りのような音が聞こえてきたかと思えば木々を薙ぎ払うような勢いでモンスター達が姿を現した。
ファンタジーでよく見かけるような人型の小人とか豚とか大きなオオカミっぽいのとか、爬虫類っぽいのとか色々だ。
中には岩が動いているのかと錯覚するような岩をまとった巨人みたいなのまでいる。
それが数匹とか数十匹ではない。
数百、数千という単位でワラワラと溢れ出てくるようにやってくるのだ。
そのあまりの光景に思わず恐怖の声を上げる者も出てくる。
俺も思わず声を上げそうになった。
そして恐怖心からか、まだ遠いにも関わらず攻撃しようとした連中が居たようで―――
「落ち着けッ!!!まだ攻撃する場所じゃないだろッ!!!」
アレクさんの一喝によって皆が多少落ち着きを取り戻す。
流石は、元冒険者でギルドマスターといったところか。
そして緊張の中、攻撃ラインと決めた場所に相手の先頭集団が到着した瞬間。
「撃てェッ!!!」
その言葉と共に城壁で構えていた連中が一斉に『引き金』を引いた。
後ろに煙が出ると同時に相手に向かって弾頭が飛んでいき―――
恐ろしいまでの爆発音と共に黒煙が上がり、地面に穴が開いて相手が吹き飛んだ。
その光景に一瞬誰もが呆然として―――そして喜びの声を上げた。
「何やってんだッ!!!まだ終わってねぇぞッ!!!」
すると即アレクさんの一喝がまた飛んできて、慌てて皆は後ろから手渡されたものと交換して次を構える。
RPG-7
皆さんお馴染みの対戦車向けとかでよく出てくる歩兵用の無反動砲である。
それを持たせた城壁に居る冒険者達による一斉攻撃。
更にその後ろには弾を込めて渡すだけのサポート要員まで完備。
彼らはいざという時は一緒になって攻撃して貰うこともある。
もちろんそんな大雑把な攻撃だけではアレなので、弓を扱う人達には弓で攻撃して貰っている。
まあ火力が欲しい時用に火薬付きの矢を大量に持たせているが。
的が小さくて足の速い連中は、手前に設置された有刺鉄線が足止めをしている。
意外と有刺鉄線は切れない、まとわりつく等で面倒な奴なのだ。
対処法を知らない化け物ではどうしようもないだろう。
そんな有刺鉄線程度では止まらないであろう大物は、基本的にRPG先輩による攻撃で景気良く吹き飛んでいる。
それでも手数が足りないと思っていたので、俺だけは目の前に設置型の大型ガトリング砲を用意しておいた。
これで有刺鉄線まで来た連中やら空を飛ぶのが来たら一掃してやるつもりだ。
相手側も頭が良い人型などは弓矢で応戦してきたり、そこそこの岩を城壁に向かって投げてきているが、ほとんどがポリカーボネート先輩によって防がれている。
そのため城壁で戦っている連中は安心して攻撃出来るという寸法さ。
……え?そこは拳銃とかライフルじゃないのかって?
だって相手はモンスターですよ?
人間相手の重火器がどこまで通用するか不明だし、持ち逃げされた時が面倒だ。
それならまだ火力もあって持ち逃げされても長期悪用や仕組みを理解して再現など出来ないであろうRPGの方がマシである。
おかげで大岩の巨人とか一瞬で粉々になっている。
更に一応用意した火炎瓶などで有刺鉄線で苦戦していた小型モンスターなどが景気良く燃やされていた。
「勝てる……ッ!!勝てるぞッ!!」
「すげ~ぞ、こいつはっ!?」
「大岩人形も一撃かよ!!」
興奮する冒険者達の声が聞こえてくる。
しかし俺はそれどころじゃない。
少しはこういう光景も見てきたはずだが、規模が違うとダメだった。
火薬と肉の焦げた臭いに人型モンスターの千切れた腕や足が無造作に転がっている。
正直、吐きたい気分だ。
今まで順調過ぎてあまり気にしてこなかったが、やはりここはファンタジー。
地球とは違う異世界だ。
命の価値が驚くほどに低い。
そして何より、こうして簡単に『死』が近づいてくる。
決して舐めていた訳ではなかったはずなのに。
やはり心の何処かで気が緩んでいたのだろう。
「しっかりしろよ、俺」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
この世界はちょっとしたことでそれこそ人生が変化するのだ。
だからこそ、拳銃やマシンガンにクロスボウなどという中途半端なものを出さずにロケランを使ったんだ。
そして何より目の前の現実から目を背けず、立ち向かわなければならない。
「やっと思い出したよ。この世界がヤバいってことをな」
最初こそ必死に応戦していたが、こちらの恐ろしいまでの火力で相手の突進速度が落ちてきたように見える。
次第に地面が見えないほど居た連中が、次第にまばらになっていく。
役割分担とインカムによる連携にRPGというオーバー火力。
そして途中から切り替えたガトリング斉射によって面白いほど相手が消えていった。
やがて敵が居なくなって街中から歓声が挙がった。
結果として本来なら2~3日は戦い続けると言われるほど厳しい防衛線が、丸1日もかからずに決着してしまった。
残ったのは大量に吹き飛ばされてぐちゃぐちゃになったモンスターの死骸と燃えた木々に穴だらけの地面である。
防衛としては最高だったが、後始末が最悪である。
まあそれでも今までに比べれば格段にマシだというのだから、そう思っておくとしよう。
それに本来ならモンスター達から素材をかき集めて復興支援の予算に回すらしい。
今回は、ロケランで吹き飛ばしたり火炎瓶で燃やしたりガトリングでハチの巣にしたので状態の良い素材が驚くほどに少ない。
しかしその分、街に被害らしい被害がほぼ無いので十二分にプラスだった。
こうして終わった防衛戦だったが、これがまた色々な所に派生するとは思ってもみなかった。
俺としては必死にこの世界で生きようとしているだけなのに、どうしてこうもトラブル続きなのか。
最近思うのは『俺、何かやっちゃいました?』ってアホな小説の主人公を俺は笑えないということだ。
そりゃ何度も同じテンプレ繰り返すアホを通り越した何かよりはマシだとは思うが、ちょっとした加減に関しては分からんからな。
今回も本当にロケランが正解だったのか、ホントは拳銃程度で良かったんじゃないかとか、後悔し始めるとキリがない。
「気軽に楽な商売をしながら適当に暮らすつもりだったんだがなぁ」
思わず溜息を吐いた。
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