第31話
「はぁ、大氾濫……ねぇ」
急にギルドまで連れてこられたかと思えば、そこには大の大人が顔を突き合わせて悩んでいた。
ギルドマスターのアレクさんも、奥さんのユーリさんも悲壮感漂う感じである。
更に辺境伯様までもが頭を抱え、最近は冒険者業に勤しんでいた乙女の旗まで揃っていた。
「それは、あのダンジョンから出てくる奴とは別なのか?」
「そのあたりも含めてよくわかっていないのよ。そもそもどこからあんなに増えてるのかも」
リシアさんの言葉に思わずため息が出る。
そりゃそうだ。
調査とかしてないというか、そこまでの余裕もないだろう。
ただでさえ人間同士ですら争っているのだ。
それを怪しいというだけで何が待ち受けているのかわからない未開の地への探索など出来ないだろう。
……まあわかりやすく言えば、この街に異世界あるあるのモンスター大規模侵攻イベントが発生したらしい。
そしてこれはダンジョン内から溢れてくるのとは別件だそうな。
そういうのがあるなら先に言って欲しかった。
ダンジョンばかりに工事を集中させたのが馬鹿みたいじゃないか。
問題点は、いつもは辺境伯が持つ個別の軍隊によって何とかしていたらしい。
しかし今回、その軍隊は別の街で起こった大規模侵攻に対応するため、3日前に出撃した後だそうな。
残っているのは僅かな予備兵500と冒険者達100に住民だけ。
対して相手は推定で3万ぐらいのモンスター軍団。
住民が兵士なら十万以上を見込めるが、そういう訳にはいかない。
男手や元兵士や冒険者をかき集めても1000いくかどうか。
それなりに立派な壁や門があるが、3万は厳しいだろう。
相手もどんなモンスターが居るかもわからない。
という訳で、絶賛意見が割れている。
戦うか、逃げるかだ。
ほとんどが逃げることに賛成している。
しかしその後が問題だ。
壊滅した街を立て直すのにどれだけの金と時間がかかるのか?
その間、住民の生活はどうするのか?
とてもではないが壊滅した被害を考えると一時的に街を放棄しなければならないほどの状況になる。
治安悪化もそうだが、下手をすればファルス王国が攻め込んできても不思議ではない。
だからどうしよう?
そうだ、彼を呼んで意見を聞こう!
となったらしい。
いい迷惑だ。
「逃げることに賛成しておきながらグダグダ言ってる時点で、逃げたくないんだろ?」
「い、いや……それは……」
「だったら時間の無駄だ。さっさと住民に知らせて逃げる奴は逃がせばいい。残りは迎撃準備だ。グダグダしてる時間がもったいなさすぎるわ」
「しかし、どうやって3万もいるモンスター軍団を蹴散らすというのだね?」
「街に立てこもってひたすら迎撃するだけだろ。数の少なさは火力で補えば良いし、今ならまだ色々仕掛けも間に合う」
「―――だが」
「時間が惜しいと言っただろう!」
どうしてこう重要な決断には躊躇うのか。
逃げたい奴は逃げればいい。
戦う奴だけ戦うでいいじゃないか。
それに俺にはあまり出したくはないが豊富な武器がある。
数々の戦場で使用された戦術を知っている。
いくらファンタジー世界と言えども、現代技術の方が圧倒的なはずだ。
何よりここまで金をかけた街を早々に蹂躙されてたまるか。
俺が叫んだことで何も言わなくなった連中に指示を飛ばす。
「辺境伯は、住民に説明!逃げたい奴はさっさと逃げろと言え!」
「ギルドマスターは冒険者に説明!こっちも臆病者は不要だ!逃げたい奴は街から蹴りだせ!」
「乙女の旗は、逃げる住民達が騒動を起こさないように監視と避難の指示を!人手が足りないならギルドから出して貰え!」
「それから戦う気のある連中は、進行方向にある城門前に集合させろ!これから戦闘用の仕掛けを行う!」
「同じく住民で戦う意思がある連中は、広場に集合させろ!仕事を割り振った後、それぞれの訓練をしてもらう!」
指示を出しながら追い立てるようにその場にいた全員を動かす。
同時に馬車を借りて急いで店に戻る。
そこでシャーリーに簡単に状況説明をする。
そして―――
「金をいくら使って構わないから運搬の連中を使って一番奥の赤箱を全て広場に送ってくれ」
「なるほど、あれはそういう品でしたの」
「ついでに従業員達にも避難したいなら避難させると説明してやってくれ」
「あら、お優しい。奴隷なのですから強制すればいいだけですのよ?」
「……俺が奴隷を奴隷扱いしたことがあったか?」
「ふふふっ、そうでしたわね。そういう所が甘い―――ですが、同時に好きでもありますわ」
「わかって貰えて何よりだ。ついでに騒ぎに便乗して商品が狙われないようにしておけよ。何なら一時的に閉めても構わん」
「わかりました。お店のことは全てお任せを。貴方様は、お心のままにどうぞ」
平民服のロングスカートではあるが、堂々としたカーテシーに思わず見事なドレスを着た彼女を幻視する。
流石は元貴族令嬢というところか。
何よりこれほど頼りになるとは思わなかった。
「わかった。全て任せる。ただお前も無茶はするなよ」
「わかっておりますわ」
会話を終えて店を任せた後は、先に城門前に移動する。
そこには既に冒険者達の姿と一部住民の姿もあった。
「集まったみたいだな」
「おう、冒険者は全員参加することになったぞ!」
ギルドマスターの声に冒険者達が騒ぐように声をあげる。
あとは住民でも比較的若い連中が居た。
「俺たちだって自分の街ぐらい守って見せるぜ!」
と元気のいい声をあげていた。
素人だろうが、ある程度の数は欲しかったので有難い。
「それで何をするんだ?」
その声に事前に馬車に満載していた積み荷を降ろすように指示する。
「コイツはなんだ?」
中身を見て不思議そうにする連中に俺は言う。
「これらを事前に仕掛けることが出来れば大幅に相手の侵攻を止めることが出来る」
「よし、わかった。ならコイツの使い方を教えてくれ!」
まだまだ目は死んでない。
今の士気を維持できれば十分勝ち目があるだろう。
「まずこいつに関してだが―――」
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