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第11話






 次の日。

 お世話になったことを伝えて屋敷を出る。

 リシアさん達は、朝に弱いらしくまだ寝ていたのでお世話になった話と、報酬の金貨30枚をクレアさんに渡しておく。

 クレアさんに『部屋が余っているからこのままウチで』なんて社交辞令を頂いたが、それを本気にするほど若くない。

 というかそれがもし本当だとしても、そこまでお世話になる訳にはいかない。

 これから通販スキルを使って大々的にやっていくのだ。

 信頼出来る人が出来れば違うだろうが、今は一人でやっていく以上、一人になれる環境は必須と言える。


 午前中は、商業ギルドに行った。

 あいにくユーリさんは居なかったが、職員の若い女性に住居選びを手伝って貰った。

 店のスグ近くの建物で、小さな雑貨屋さんをしていた物件らしい。

 ちょっと手直しをすれば普通の住居として使えるだろうということで、ここを使うことにした。

 1年間で金貨10枚に改修費用で金貨5枚。

 少し手痛いダメージだったが、明日で引き渡せるとのことで、街のメイン道路っぽい所にある宿屋で1日だけ部屋を借りる。


 その店は、宿屋だけではなく1階が酒場というか食堂のようになっている。

 巨体のオッサンが料理を作る店で、美人の奥さんと娘さんが給仕をしているようで繁盛していた。

 そこで店一押しという一角ラビットのステーキを食べる。

 名前からして角の生えたウサギかな?なんて思いながらも出てきたステーキを食べる。

 少し野性味溢れる感じが残っているものの、硬さが無く食べやすい。


 昨日の貴族の食事もそうだったが、やはり香辛料が高いのか、使われていないことが多い。

 そのため素材の味で勝負しているような料理が多く、優しい味わいのものばかり。

 それが悪いとは言わないが、やはりパンチが欲しいところ。

 どうしても1~2つほど足りない。

 やはり地球産レトルトは最強か。

 しかしそれでもこの世界基準で考えれば十分美味しい部類だ。

 だから『美味しかった』と声をかけて部屋に戻る。


 マットレスなど無いので非常に硬いベットに寝そべりながらネット通販を開く。

 じっくりと眺めたことが無かったので、この際しっかりと何が売っているのか確認する。

 特に異世界通販の方は、今後かなりお世話になる予定だ。


「やはり香辛料は、そこそこに抑えて値崩れを防ぐべきか」


 ■胡椒


  香辛料の1つ。

  非常に高価で高値で取引されており、宝石に例えられることもある。


  平均価格:1小瓶 金貨1枚~3枚


 鑑定スキルの良い点は、調べなくとも平均価格が解るという点だ。

 まあ地方によって価格差があったりするので、これを完全に鵜呑みにすることは出来ないが。


 例えば身に着けるだけで体温が3度上昇するアイテムが金貨1枚であったとする。

 寒冷地だと需要があるだろうし、金貨3枚でも欲しがる奴は居るだろう。

 しかしこれが砂漠だと、どうだろうか?

 ただでさえクッソ暑いのに持っているだけで体温が上昇するアイテムなんて罰ゲームでしかない。

 そんなものを金貨1枚出して買うだろうか?


 まあそういう感じで色々と考えなければならない。

 例えばこの街は海が近いが山に阻まれて交流が無い。

 つまり海産物がほぼ入ってこないということだ。

 そんな所で、例えば刺身包丁や鱗取り器など売れるだろうか?

 そういうことを考えながら店で売る商品を決めていく。

 幸いポイントは結構あるのだ。

 散財したが、ここから十分取り戻せるだろう。




 夜になって酒場に降りると、まあ酒飲みどもの大宴会と化していた。

 さっさと食事をすると、宴会の中でも比較的大人しく酒を飲んでいて、かつパーティーに女性が居る集団を見つけた。

 さりげなく近づいて声をかける。

 やはり冒険者だったみたいで、ランクはCランク。

 駆け出しを抜けて中堅クラスといったところか。


 さっそく俺は『田舎から出てきた行商人』という設定で、冒険者達から色々な話を聞き出す。

 もちろん対価に酒を奢ると言えば、彼らの口と警戒心は緩んでくれた。

 やはりこの街には迷宮目当てで来たようで、もう何年も滞在しているらしい。

 ひたすら洞窟の中を潜り続けるというのは大変そうだなと言うと笑われた。

 どういう原理か知らないが、迷宮内部は洞窟のような所から地下なのに青空や太陽が存在するエリアなどもあって、完全な別世界らしい。


 何そのオーバーテクノロジー。

 むしろそういう所こそファンタジーだと思えばいいのか。

 何が怖いかって、そんな意味不明な場所を『当たり前』だと思っている冒険者達だ。

 洗脳とまでは言わないが、ずっとそれが常識だと思って生きていけば、明らかにおかしな現象でさえ何の疑問も持たなくなるのか。

 ちょっと異世界の闇を見てしまった気分だ。

 まあ魔法なんて原理不明なものまで普通に存在するのだから、仕方がない話ではある。

 こう考えると世の中の仕組みや原理を解析してきた学者という職業は、非常に重要だったのだなぁと思ってしまう。


 聞きたいことを聞き終えた俺は、最後にこの街で店をやるのでよろしくと挨拶して席を立つ。

 ついでに試しにと作って置いた『2割引き券』を酒代と一緒にテーブルに置いていく。

 これをどうするかは、彼ら次第だ。




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