最終話 寄らば木人のおかげ
金で縁取りされた丸テーブルの上で、装飾の入った食器が輝いている。
透明な花瓶に薄いピンク色の花が生けられ、テーブルの中央に飾られている。
テーブルの足元では、大型獣を模した赤茶色のマッドゴーレムがうずくまっている。
傍らにはトネリコの木の椅子があり、長袖のドレスをまとった貴婦人が座っている。
テーブルの脇では赤いメイド服を着た銀色のメタルゴーレムがケトルを持ち、静かに紅茶を淹れていた。
「ビルザお嬢様、お茶が入りましたよー。こちらはお嬢様のお好きなジンジャークッキーです。焼きたてで少しお熱いですので、気を付けてくださいねー」
「ありがとう、アララ。君の淹れるお茶はいつも最高だよ」
ビルザはくつろぎながら、紅茶の匂いを楽しんでいた。
しばらく主人の横で静かに立っていたアララがビルザに声をかけた。
「ドベリさんがいなくなってずいぶん経ちましたねー。この屋敷もすっかり静かになりました。私、ほんのちょっと寂しいです。次の人型ゴーレムはまだ作らないんですかー」
「そうだな。あれと同じものはもう作らないよ。いや、あれ以上のものは私には作れない。何しろあれは私の最高傑作『クゥズ・ドベリ』だからね。……ふふっ」
ビルザは優雅な手つきでクッキーに手を伸ばした。
その様子にアララは違和感を感じた。
「あらあら、お嬢様? 今日はいつもよりご機嫌ですねー。何かあったのでしょうか」
その言葉に、ビルザは小さな笑みを浮かべた。眼鏡がキラッと光る。
「今日、商人の新しい使いが来るんだ。もうそろそろかな?」
「お嬢様、ひどいですー。私聞いてませんよー」
テーブルの下にいたロギムの耳がぴんと立ち、頭を少し上げた。
その時、屋敷の呼び鈴が鳴った。ビルザはクッキーを皿に戻して立ち上がった。
ビルザは右手を上げ、指をパチンと鳴らした。
すると丸い光の魔法陣が現れて、そこから白衣が出てきた。
やや速足で歩きながら、ビルザは白衣に袖を通す。
そのまま扉に向かった。
作画:ジャガイモ探偵様
「お嬢様ー。荷物の搬入の立ち合いは私の仕事ですー」
アララも女主人の後に続いた。ロギムは軽く伸びをして立ち上がり、のそのそとアララの後に続く。
屋敷の玄関の扉を開けると、外には雪が積もった銀世界が広がっていた。
小屋根と柱のある玄関ポーチの前で、大型の鹿をつなげたソリが停まっている。
「ちわーっス。ミカワヤでーす! ご注文の品をお届けにあがりましたっ」
厚い防寒着に身をつつんだ木のゴーレムが、白い息を吐きながらソリから荷物を下ろしていた。
ソリの御者台には雪ダルマに似た小さなフクロウがいる。
「おひさしぶりですー。やっぱりドベリさんだったんですねー。お仕事がんばってますねー。すこしお痩せになりましたかー」
「息災でなによりだ。ドベリ君。修行が終わったら必ず戻ってこい。君は私の助手なんだから」
さむいーと言いながら、ゴーレムは箱を抱える。
運ぶ荷物にも粉雪がはらはらとかかる。
紅茶や食料などの箱を、一人だけで運んでいく、
そんな仕事だが、楽しそうに働くゴーレムだった。
小さな風が吹き、粉雪が舞い上がる。雪は光の粒に変わり、ヒダ状に集まった。
淡い光のカーテンはゆっくりと空に上がり、そして溶けるように消えていった。
ここで本編は終了です。
次回は番外編を公開予定です。そこで人物紹介や裏話を載せて完結にします。
各話にこっそり散りばめた『縦読み』等の解答も載せる予定です。





