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リンカの星  作者: 江古左だり


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1/2

(1/2)大人になれない少女

『セトの星』の続きです。

 リンカは大人になれない星の子でした。


 @@@@


 リンカの国では赤ん坊は星とともに産み落とされます。

 星は最初薄いピンク色をしているのですが、日がたつにつれて徐々に輝きを増してゆきます。白く強い光をピカピカと放つようになれば『大人になってよい』という合図でした。


 満月の良い晩を選んで子供たちは星を飲みほします。やがて眠りにつくと、星から放たれる糸がまゆとなって柔らかなベットのように子供たちをおおいます。目を覚ました彼らは大人の姿でまゆを破ってでてくるのでした。


 @@@@


 ところが5歳のリンカに神託が下ることで、彼女の人生は変わってしまったのでした。


 アクラス(巫女)に選ばれたのです。『神の花嫁』になる運命の子です。


 アクラスは神殿に自分の星を捧げ。それがどんなに輝やこうともけっして飲みほさず。子どものまま死んでいくのです。


 15歳になったリンカの星は日ごとに白く(きら)めいて薄暗い神殿の祭壇を照らしたけど。リンカと神官は何も言わず毎日を神に仕えるのでした。


 ところが困ったことがおきました。


 幼なじみのセトです。


 セトは無事星を飲みほしてまゆを作り、羽化して、水色の髪の美しい大人になって出てきました。


 リンカは神殿で涙ぐみながら羽化したばかりのセトを祝福しました。


 子供たちはまゆの中で一旦溶けてしまうのです。


 ほとんどの子が記憶をなくして羽化します。

『何か』は覚えているけれど自分では選べない。

 子供の頃の記憶をそのまま持って大人になる子もいます。でもそれは本当にまれで、中には『人間だったこと』すら忘れて動物のように這い回る子もいました。


 セトはおおむね良好でした。


 リンカのことは忘れてしまっていたようでした。でもしっかり自分で歩いていたし大人の指示にも従えました。


 リンカを好きだったことも全て忘れてしまったはずでした。


 @@@@


 ところが。翌日。


 収穫祭の祝福を神官としていたときのことです。

 とれたばかりの野菜や果物を前にリンカは祝いの花びらをまきました。神官は聖水をかけました。

 大勢の村人が神を前にひざまづいていました。


 そこに(はね)をはばたかせたセトが神殿の玄関から飛び込んできたのです。

 皆が驚いて空中を眺めやると、そのままセトがリンカの前にふわりと着地し、彼女を抱きしめ、大声で言ったのです。


「リンカ好きだっっ!!」


 どよめく民衆。


 神官はカンカンでした。大事な儀式を邪魔された上、こともあろうに神の花嫁を、一生結婚もせず子もなさずましてや恋などするはずもないアクラスにとんだ狼藉を働いたのですから。


 たまたまセトの親戚がその場にいてセトをリンカから引きはがしました。


 当然問題になりました。セトの両親は神官に呼び出されきつく注意を受けました。


 セトの両親はこんこんとセトに『アクラスに触れてはいけない』『ましてや「好き」などと言ってはいけない』『リンカは大人にならない特別な子』とさとしたのですがセトにはわからないようでした。


「どうして好きな子に『好き』って言っちゃいけないの?」と言うんです。「そういうものだ」と教えたけど首をふるばかり。


「やだ。やだ。リンカが好きだ」って言うんです。


 結果的にセトの罪は不問に付されました。


 羽化したばかりの子はとても不安定で、普通じゃなくて、何もかもを忘れているのだから。


 でもリンカにはけっして会えなくなりました。


 @@@@


 3ヶ月程経って神殿の脇の小屋にあるリンカの部屋を叩くものがいたのです。雨戸の辺りです。誰でしょう?もう夜中です。


 リンカは恐るおそる雨戸を1センチ程開けました。そこから10本の指が差し込まれ外からガラッと雨戸を開かれてしまいました。


「リンカ!」と言って飛び込んで来た子。

 水色の髪。緑の目の子。


「セト!」


 叫んだ瞬間にリンカにセトが抱きつき、そのまま2人で床を転がりました。


「どうしたの!? セト! こんな時間に!」

「昼間は見張られてるんだ! 会いたかった!!」


 セトがぎゅーっとリンカを抱きしめリンカはどうしたらいいかわからなかった。


「ダメよセト。大人になったらアクラスには儀式以外で会えないのよ」言っても聞いてくれない。


「やだ。やだ。会いたい。リンカが好きだもの」涙をこぼすから床に落ちてポロンポロンと跳ねました。

 涙はゼリーのように固まってリンカの膝にも落ちました。


 リンカはセトの涙をふいてやる。


「逃げようよ。リンカどこか遠くに」

「ダメよ。セト。私は神さまに仕えているのよ」

「なんで仕えなきゃいけないの?」

「アクラスだからよ」

「アクラスだからって何で神さまに縛りつけられてるの?」  


 何で………でしょう?


「神さまは……お仕えしないといけないのよ。神さまは……偉大で……素晴らしくて……私たちを守ってくださるからよ」


「偉大で、素晴らしくて、守ってくれるのにどうして好きな人と一緒にいさせてくれないの?」


 絶句しました。答えられなかったんです。確かにそうです。どうして神さまにお仕えしてるのにリンカは不幸なのでしょうか? 大好きなセトの側にもいれないで。結婚もできないで。子供のまま死ぬのが決まってて。星は神殿の祭壇に祀られてて。


「セト? あなたは全てを忘れてるだけなのよ。みんなが教えてくれるわ。教えたもらえたらきっと一緒にはいれないってわかってくれるわ」


「リンカは僕が嫌いなの?」リンカは慌てて首を振りました。「じゃあ好きなの?」


 長い。沈黙が。リンカの本当の気持ちを物語ってしまった。


「それなら一緒にいようよ」


 月明かりだけが、2人を照らしていました。


 リンカは黙って立ち上がると。油が入ったランプに火打ち石で火をつけました。


 セトの顔のあたりにランプをかざします。


 そんなこと。できるわけないではありませんか。

 リンカはもう10年もアクラスで。アクラスは5つの村に1人しかいなくて。他に替わってくれる者もなく。なにより神を裏切れないではないですか。


 思いつめたセトの顔。

 透明な、それでいて集まれば水色に輝く髪。水色のまつ毛。背中の透明な羽。白すぎる手足。


 羽化したての星の子は本当にきれい。


 それから。変わらない深い緑の瞳。


 この瞳だけはずうっとリンカを見ていてくれたんです。まゆに入る前も、入ってからも。


 生まれたときからセトが好きでした。

 まゆに入る前の日にリンカを抱きしめてくれたことが一生の思い出でした。


 リンカに悪魔的な考えがよぎってしまった。


 確かにアクラスである自分は神を裏切れない。

 でも忘れてしまったら?

 忘れてしまったら『アクラスでいなければいけない』という思い込みからも解き放たれてこの人と一緒になれるんじゃないの?


 何もかも忘れてただセトのそばにいたい。


 リンカは決心したのです。

「わかったわ。ついてきて」


 そして2人でランプを灯したまま神殿へ入っていきました。神官はこの日村に用事があっていませんでした。


 冷たい石の床を2人ヒタヒタと歩いて神殿奥の祭壇に向かいました。


 神の像がこれ程恐ろしかったことはありません!


『ごめんなさい!』リンカは真っ暗な神殿を眩く照らすリンカの星をつかみました。

 それから金貨や、食料を盗みました。


「逃げるなら森よ!」2人で村とは反対方向の森へ向かって駆け出しました。

 セトが神殿にリンカがくれた人形を落としたことに気づかなかった。


 それはセトがここにきたという確かな証拠になってしまうのに。


 @@@@


 外を出ると満月でした!

 走って走って森にたどりつき、知ってる洞窟に入るとリンカが叫びました。


「星を飲むわ! これから2週間絶対私を動かさないで!!」


 まゆは最新の注意を払わないといけないことくらいリンカだって知ってました。


 まゆの状態で死んでしまっても構わない。

 この人のそばにいれるなら、死んだっていいんだ。


 リンカは自分の服を全て脱ぎました。恥ずかしいと思える余裕はなかった。


 ランプにだけ照らされたリンカの輝くような肢体。畑仕事をしないから。日焼けの跡のない白い肩に針金のような黒い髪がかかっていました。

 神々をかたどった額の組紐を引きちぎりました。


 もうアクラスの自分を捨てるんです。


 必死に星を口に含み。甘い光る液体に溶けたそれを飲み倒れました。


 リンカがまゆの中に取り込まれるのをセトは泣いて見ているだけでした。

 セトの周りに無数の涙が。透明なゼリーのように固まり散らばっていました。


 @@@@


 翌日は村中で大騒ぎになった。

 セトがいなくなってみなが真っ先に思ったのは『リンカのところでは』ということです。そうでしょう。でもリンカまでいなくなったとは誰も思わなかった。


 神殿に行ったら、金貨も、食料も、神さまに捧げた大事な星までなくなっていて。

 床にポツンと人形だけが落ちていたからです。


 セトとリンカに何かあったことは明白でした。


 村中を探して森にも人をやったけど2人とも見つけられませんでした。


 リンカは巧妙に洞窟を選んでました。複雑に入り組んでいて人を迷わせるようなところ。儀式のときにアクラスだけが立ち入れるようなところでした。

 セトはリンカがとってきた食料を少しずつ食べたけど。不安に耐えかねてしまった。まゆの側に1人ぼっちだったからです。


 まゆはぼうっと銀の殻から光を放ってました。星が放つ光です。


 セトが恐るおそる洞窟の奥(入口から1キロもあったんですよ)から入口まで歩いて外をのぞき込むと何と人と目があってしまいました。


 しまった! 追手だ!!

【次回 最終回】天翔る蝶

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