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王妃になるはずだった  作者: 天川ひつじ
ケルネ=オーディオ
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第3話 出会い

入学の日。

ケルネは支給品である制服に身を包み、支給品である靴を履いて、支給品である鞄に・・・とにかく支給品一式で出かけた。


国ってものすごくお金持ちだなぁ、などと、ケルネは思った。

こう思うのは、自分の家が貧乏だからだろうか。それはひがみみだろうか。いいや、ただの事実のような気がする。


ケルネはそんな事を考えてみながら、かつての次姉も歩くのに苦労したというヒールの高い靴を、転ばないように踏みしめて歩いた。


イセリちゃんは、道で転んでしまったから、王子様に出会ったんだなぁ・・・。


・・・ここで転んだら私の場合はどうなるのだろう、と、ふとケルネは思った。


まぁ、何も起こらないだろう。自信があった。

イセリちゃん、すごく美人だったからなぁ。


幼少時のケルネからみても、次姉は他の人とは違ったのだ。笑っても、歌っても、何をしても輝いている。

それは、姉が大好きとかに関わらず、やはり真実だったように思う。


地面にヒールの穴を開けるつもりで大地を踏みしめながら歩き続けたケルネは、校舎がすぐ見えるところにある門まで辿り着いた。

制服を着た女の子が、門の傍でうずくまって茫然としていた。見るからに平民だ。きっと、過去のイセリちゃんと同じように転んだのだろう。


そして、誰も手を差し伸べてはくれない、と。


気の毒になったので、ケルネが手を差し伸べることにした。

「大丈夫ですか?」

油断すれば自分もバランスを崩してしまいそうなのを頑張って、ギリギリのところで屈んで顔を覗き込む。


「・・・嘘・・・嘘よ・・・」

「・・・あの」

ケルネの声は届いていない。


「どうして、まさか、ここって『鬼バラ』のっ・・・!? で、でも、あれっ、じゃあ、イセリ・・・イセリ=オーディオ! えっ、嘘、もう終わってるし!?」

「・・・」

あれ。おかしな人だった。そっか、だから皆放っておいたのね。うん、私もそうしよう。イセリちゃんの名前も呼び捨てだし。

ケルネが、さっと親切心と差し出していた手をしまい込み、刺激しないようそっと門を通ってしまおうとした時だった。


「うわぁあああん・・・せめて、イセリ=オーディオ、見たかったよぅ・・・いくらモブでも酷すぎる・・・もうこれ私何すれば・・・」

「・・・」

心底残念で、しかもなぜか泣きそうなつぶやき声が、ケルネの耳に入ってきた。

驚いて、ケルネは振り返った。


その子は、未だに門の前でうずくまり、泣きそうに校舎を見上げていた。


「・・・」

ケルネは、数歩戻って、その子のところに行った。

そして、手を差し出した。握手もかねて。

「初めまして。私は、ケルネ=オーディオです。今日からこの学校で学びます」

「へ」

突然話しかけられて驚いているその子に、ケネリは自己紹介を続けた。どうせ、学校が始まれば自分の名前と家族の事は、すぐ分かる。

「私は、いわゆる悪女『イセリ=オーディオ』の妹です。ご興味がありましたら、是非今後ともどうぞよろしくお願いいたします」


つい、癖でうっかり、相手をじっと観察しながら、ケルネは自虐的とも長姉に評されている挨拶をした。

とはいえ、ケルネは思うのだ。

人にはいろんな人がいる。

これで嫌がる人は嫌がるし、驚きながら、ケネリを知ってくれようとする人もいる。それを見極めるためには、結局、自分から名乗り上げるのが一番だった。

次姉の妹と言う事実は、隠そうとしても、どうせ分かる。それは秘密でも何でもない。

ケルネにとって、重要なのは、それを知った相手が、どういう対応をしてくるか。


「嘘・・・」

茫然と、相手は呟いた。

「妹・・・」


パチパチと、瞬く。その様子を、ケルネはじっと見つめていた。

それから、こう呟いた。

「全っ然、イセリ=オーディオと似てない・・・」


ケルネの機嫌が急降下した。

悪かったね。私だってイセリちゃんに似ていたかった!


***


「ごめんねって、そんなに怒らなくて良いじゃん。ケルネっち」

「怒ってません。あと、ケルネっちってなんか嫌」


「ケルケルの方が良い? 私の事も好きに呼んでくれていいよ」

「ケルケルも嫌。あと、じゃあ、マルク=フレイユ?」


「それフルネーム! ちょっと、目が真面目なんだけど! 冗談の時は冗談言ってるって分かる表情してくれないと怖いから!」

「マルク、ものすごくうるさい人だったんだね・・・」

失敗したかもしれない。静かに密やかに過ごそうと思っていたのに。

すでに浮いている気がする。

周りはウフフとか言って、扇子まで持ってる人もいるのに。


「良いじゃないの一杯おしゃべりしましょ、じゃ、とりあえずケルネって呼ぶね」

「うん、それでお願いします。よろしくね、マルク」

ケルネが隣を向いて微笑むと、ニカリと明るい笑顔があった。

嬉しい。

これからどうなるか分からないから、気を許しすぎちゃいけないと知っているけれど。


入学の日に、いきなり変わった友達ができた。

やっぱり、嬉しい。

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