表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/160

対決! 天出優子VS武藤愛照

「なんか、大事おおごとになったね」

 心配そうに言って来た灰戸洋子に、

「誰のせいだと思ってるんですか」

 と毒づくのは流石の優子でもしなかった。

「仲が良いフロイライン!の子と話をしたら、まさかこうなるとは思わなくてね。

 なんか知らない内に、あれよあれよと話が大きくなっていってさ。

 私のせいか分かんないけど、なんかごめん。

 でも、優子はいつフロイライン!と繋がったの?」

「小学校の時からの同級生が、フロイライン!の研究生になったので、勝手に繋がっちゃったんです。

 灰戸さんも知ってると思います。

 何回か挨拶したあの子、武藤愛照(メーテル)

「え?

 でもあの子、別のグループだったじゃない。

 あ、そういえば、そこ倒産つぶれたんだった。

 まさか、そこから這い上がったの?」

「そうです」

「うわーーーーーー……羨ましい、そんな道があったんだ」

「灰戸さん?」

「フロイライン!研究生になるのも大変なのよ。

 応募者数桁違いで、受かっても一年以内に1人か2人残して辞めていく。

 オーディションも毎年してるわけじゃない。

 今まで外部から合格したなんて、聞いた事もない。

 私も今からなれるかな?」

「灰戸さん!!」

(あんた、ここの主力メンバーだろうが!)

「まあ、それは置いといて(諦めたとは言ってない)。

 あ、じゃあ、その子と対決するんだ」

「いや、私と武藤さん個人の対決じゃないですよ。

 私たちのチームと、武藤さんのチームなので、個人的な事はどうでも良いです。

 紗里ちゃんと恵里ちゃんの初創作を、変なことに巻き込んだのは悪いと思います」

 灰戸が優子の肩をガシッと掴んだ。

「気にせずマイペースで……って言いに来たけど、気が変わった。

 その武藤さんとは、全力でぶつかろう。

 あのフロイライン!に外から入れる子なんて、ただものじゃないからね」

(努力と根性と挫けない心は凄いけど、音楽ではまだ私に遠く及ばない。

 全力でぶつかるまでも無いと思うけど……)

 確かに優子の評価は間違っていない。

 愛照だけじゃなく、一緒にミュージカルを作る堀井真樹夫も、伝統芸能のドラ息子も、自分モーツァルトが全力を出せば問題無く勝てる。

 だが、折角の優秀な後輩音楽家たちを、ここで自信喪失させてはもったいない。

 それよりも、同じスケルツォメンバーで、創作意欲が目覚めたばかりの安藤紗里、斗仁尾とにお恵里のフォローの方が優子にとっては重要だ。


……確かにその通りだ。

 だが、天出優子モーツァルトは才能があるゆえに気づいていない事がある。

 1+1+1は3である。

 その算数が、人間には当てはまらない場合がある。

 相乗効果というもので、10にも20にもなり得るのだ。

 某新世界の神が、1人1人なら勝てる相手に、対立する2人が同じ目的の為に動き、その屍を乗り越えて戦う事で敗北した漫画。

 愛読してる癖に、その可能性に気付かなかったのは、才能が有り過ぎるゆえの驕りであっただろう。




「伝統芸能ってのは、演目が決まってるんだ。

 能なら道成寺(どうじょうじ)、安宅、土蜘蛛、葵上(あおいのうえ)

 鐘入りとか、義経打擲とか、蜘蛛の糸とか、六条御息所の生霊登場とか、この辺の場面が有名だと思う。

 歌舞伎なら、正月は曽我兄弟の仇討ち、師走は仮名手本忠臣蔵、客足が減るから若い衆に経験積ませる夏なら東海道四谷怪談てな具合にな」

「なんかこいつ、いつもと違う……」

「武藤さん、まずは黙って聞こうよ」

「あのなぁ。

 俺は芸だけは譲れねえ、妥協出来ねえんだよ。

 じゃ、続けるぞ。

 それが伝統だし、俺たちを観に来て支えてくれる旦那衆が望んでいる事だ。

 だけど、ワ●ピースとかエ●゛ァとか、アニメを演目に取り入れるニューウェーブってのがあって、俺はそっちをやりたい。

 伝統が嫌いじゃねえ、絶対引き継ぐ。

 だけど、新しい風を入れるってのは必要なんだ。

 それがあって、守・破・離だと思う」

 武藤愛照と堀井真樹夫を前に、ドラ息子が柄にも無く熱弁している。

「異論は無い。

 決まった演目じゃなく、自由に創作したいね。

 むしろ、能や歌舞伎と同じ演目なら、ミュージカルではなくそっちを観ろってなるから、妥当な考えだ」

「まあ、ミュージカルはそんなものだよね」

「俺たちの武器は、あざと女の歌と、堀井のピアノだ。

 それを活かす為に、こんな脚本考えた」

 そう言って、2人にドラ息子は自身が書いた脚本を手渡す。

「えーと……第二次世界大戦時のポーランド。

 収容所に入れられる所を、ピアノの腕が余りに良過ぎるから、ユダヤ人である事を隠されて市井に残された男がいた。

 それを許せない、ナチスの女将校は秘密を明かそうと男に付き纏う。

 そうしている内に、元々音楽家志望だった思いが再燃し、いつしか共に音楽の道を進む2人。

 だが秘密はバレて、男は収容所に、女はスターリングラードの戦いに送られ、戦死する。

 君が書いたの?」

「ああ、俺だ」

「オリジナルかい?」

「映画からヒントは得たが、オリジナルだよ」

「凄いな。

 見直したよ」

「ちょっと待って。

 流れ的に、この女将校が私だよね?」

「お前しかいねえな、あざと女」

「嫌だよ。

 私のキャラじゃない。

 営業妨害だ!」

「お前の素の方に近いだろうが!

 はっきり言うが、お前対象の当て書きキャラなんだよ」

 当て書きとは、キャラがあってそれに見合う俳優を当てるのではなく、俳優が決まっていて合わせたキャラを作る事だ。

 ドラ息子は言う。

「多分だけど、アイドルらしい歌より、怒りや嫉妬や羨望を乗せた歌の方が、お前の実力を発揮出来るんじゃねえかな。

 まあ、俺の意見じゃねえけどな」

「あんたの意見じゃない……って事は、堀井君?」

「うん。

 君も僕も挫折をバネに伸びるタイプだ。

 僕は内に篭もるタイプだけど、君は発散型。

 それを形に出来たら、一皮剥けそうに思った」

「というわけだ。

 伝統芸能を継ぐ身が言うのもおかしいが、所詮は芝居だ、それで人格を判断されるわけじゃねえ。

 役者が役で人格を見られたら、女形おやまは全員オカマになっちまう」

「いや、今は風評被害ってのがあるけど……。

 ああ、もう、いいや!

 やってやるわよ!

 サディスティックなナチスの女だろうが、なんだろうがやってやるわ!

 私が言い出した事に、あんたらが協力してるんだから、わがまま言ってられない」

「分かったか!

 いいか、天出に勝つ為だ!」

「そうだよ。

 あの天出さんに勝つには、限界を超えないと無理だ。

 そして、協力し合わないと!」

「分かってるわよ、そんな事くらい。

 あの子の実力は、小学生の時から近くで見て来た私が一番よく知ってるんだから」




 三人組が結束していた頃、優子は安藤紗里・斗仁尾とにお恵里のフォローに終始していた。

 自分が仕組んだ事でないけど、結果として自分のせいで話が大きくなってしまった事を詫びる。

 そして

「勝ち負けなんてどうでも良い。

 いや、確かに評価は得たいし、負ける気なんて無いけど、今回は2人がミュージカルを作る事が一番。

 作り上げられたら、もうそれが勝利だから。

 だから、2人が一番作りたい内容で書き上げよう。

 それをブラッシュアップするのが私の役割だから」

 と、あくまでも優子は裏方に専念するつもりだ。

「でもねえ、悪い知らせがあるよ」

 と、斗仁尾恵里が言う。

「主役を頼もうと思ってた寿瀬(碧)さん、他の舞台の仕事があるから出演出来ないって。

 富良野さんも別仕事が入ったって、謝ってた。

 帯広(修子)さんは出られるみたいだけど……」

「だから優子ちゃん、お願い!」

「主役の一人として出てくれない?」

「主役よりトリックスター好きなのは知ってるけど、ここは主役お願い!」

「まあ、今回は2人の舞台。

 監督、脚本、演出を任せてる。

 その2人が言う以上、私は従うよ」


 こうして計らずも、天出優子と武藤愛照はミュージカルにおいて、直接比較される事になったのだった。

 

おまけ:

愛照「えー?

 私ってあざとい演技なんてしてないですぅ。

 普通に可愛いだけなんですけどぉ」

比留田茉凛「そう思いたいなら、それで良いんじゃないか?

 貴女の中ではね」

濱野環「私がお前の演技を見抜けぬとでも思ったか、俗物が!」

瀬田のり子「貴女は仮面をかぶっていても、感情が結構漏れてますよ。

 私のように、全ての感情を無くしたのとは違うでしょ」

留流(ドメル)エル「それが我が軍の為になるのであれば、それで良かろう」


基本的に全員クールで、メンバーへの当たりが強いフロイライン!たちは、本性はとっくに見抜いてましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アスリート集団の中に1人アイドルいたら人気出そうですね
そういう意味では多分テレビは制作ドキュメンタリー込みで流すだろうからこの辺も編集して放映されるのかも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ