表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/160

人の口に戸は立てられぬ!

「話は聞いた!

 天出さん、貴女ミュージカルを作るんですって?」

「待て!

 どっから聞いた?」

「フロイライン!の先輩経由よ」

「フロイライン!って事は、強オタクの灰戸洋子(あのひと)からか……」

 中学校の芸能クラスで、二人のアイドルが会話をしている。

「私じゃないから!

 私の同期が作りたいって言ってて、私はその添削って言うか……」

「え?

 天出さんが曲作るんじゃないの?」

「いや、作曲担当は斗仁尾(とにお)恵里って子なんだけど……。

 なんで話に混ざって来たの? 堀井君」

 毎度、どこからともなく会話に加わって来たのは、若手世界的ピアニストの堀井真樹夫である。

(聞き耳立ててたのかな?

 世界に名が知れた人なのに、ストーカー気質?)

 武藤愛照(メーテル)が内心毒づいている。

 だが、聞き耳を立てていたのは、堀井だけではなかった。


(天出の奴、うちに見学に来たのはそういう魂胆だったのか?

 あの音楽の化け物が、役者なんかするはずが無いと思っていたが、まさか作る側になるとはな。

 祖父(じい)ちゃんが言うように、大したタマだよ)

 伝統芸能のドラ息子が、真面目な表情で会話を聞いている。

 同じ女子同士の会話に入るのでも、堀井は軽く注意されるだけだが、自分は変態呼ばわりされるから、少し離れた場所で無関係を装いながら聞いていた。


「よし、演劇勝負よ!」

「へ?」

「分からない?

 天出さんのミュージカルに対抗して、私もミュージカルを作るって言ってるのよ!」

「私のミュージカルじゃないし……。

 ていうか、武藤さん、作曲とか出来るの?」

「だーかーらー、そういう人を馬鹿にした言い方やめなさい!

 悪気なくても、凄く上から目線で馬鹿にしてるように聞こえるから」

「それはごめん。

 で、どうなの?」

「無論、作れない!

 だから、よろしくね、堀井君」

「僕?」

「女の子の会話に勝手に入って来たんだから、責任取りなさい。

 それに、あんたも天出さんとは勝負したがってたじゃない」

「あー、堀井君なら作曲は出来るね。

 別に交響曲を作れって言ってるわけじゃない。

 オペラのアリアよりももっと短いし、歌詞ももって回った言い方をしない。

 だから、教えた事の十分の一でも実践出来たら良いからね」

「そういう事なら、勝負させてもらいます」

「返り討ちにして差し上げますわ」


 この流れに入って来た者がいる。

「待て待て、お前ら!

 演劇をそんな簡単に考えるんじゃねえよ!」

「出た、変態」

「お巡りさん、こいつです」

「君ねえ、人の話にそうやって割り込むものじゃないよ」

「てめえが言うな、堀井!

 てか、この扱いの差、酷いよな。

 まあ、いい。

 お前ら、芝居の脚本書いた事とかあるのかよ?」

「ない」

「ないな」

「私はオペラで結構書いてる」

天出(てめえ)は黙ってろ。

 そこの2人だよ。

 脚本のフォーマットも知らない癖に、一丁前に劇を作るとか言ってるんじゃねえよ」

「なによ、止めろって言いたいの?」

「君の言い分は一理ある。

 だが、勉強すればどうにかなるだろう?

 誰だって、最初は初心者だろう」

「そんな初心者の脚本、演出、芝居で、この天出(バケモノ)に勝てるって?

 笑わせんじゃねえ。

 こいつに勝つには、俺の協力が必要じゃねえのか?」

「結構です」

「いや、待って、武藤さん。

 いつもの他人を見下した表情じゃなく、真剣な表情だ。

 言ってる事も理にかなっている。

 もっと詳しく教えてくれないか?」

天出(こんにゃろう)と勝負したいって思ってるのは、お前らだけじゃないんだよ。

 それに、何かを創作してみたいって思ってるのも。

 俺は伝統的な芸を、代々受け継がれた脚本を、継承を望む者たちの為に受け継ぐ。

 だけど、新しい芝居(もの)だって作ってみたいんだよ。

 許されるのは学生の内だけだ。

 だから、つべこべ言わず、俺にもやらせろ!」

「うん、良いんじゃないかな?

 歌と演技の武藤さん、曲の堀井君、脚本・演出のそこの馬鹿。

 3人がかりなら、まあまあ良い勝負になるんじゃない?」

「またその上から目線、本当にムカつく!」

「今回は同感だ!

 協力を頼む!

 一緒に天出さんをギャフンと言わせよう!」

「てめえと手を組む事になろうとはな。

 だが、共通の敵の前だ、そんなの関係ねえ。

 俺の力を貸すから、てめえも全力を出しやがれ!」

「利害を乗り越えよう!」

「私たちが力を合わせれば、きっと勝てる!」

 こうして、何故かミュージカルを作って、どっちが良い作品になるかの勝負が決まった。

(この流れ、なんか私が悪役になっているように思うんだけど?)

 本人(モーツァルト)が無自覚なのは、いつもの事である。


 クラスでも目立つ彼等だが、それ故に優子以外の3人も鈍感になっている事があった。

 こんな大声でしている会話、他の生徒にも聞かれてしまっている。

 それでも「聞かれたところでどうでも良い」、彼等はそんな風に高を括っていた。

 ゆえに、クラスのドアからこちらを覗き込んでいた人影が、スッと消えていった事に気づかない。




「研究生の武藤、ちょっとこっちに来なさい」

 レッスンに行った武藤愛照を、フロイライン!リーダー比留田茉凛が呼び出す。

(怖いなあ……)

 この女性、「皇后(カイザーリン)」という異名を持ち、いざという時の威圧感は男性も一目置く。

 とはいえ、内心の恐れを表面には出さず、にこやかな表情で

「何でしょうか? 何か良い事ですかぁ~?」

 と返す愛照も大した女性である。

「貴女、勝手にスケル(ツォ)とミュージカル対決を決めたんですって?」

「違いますよ。

 グループは関係無いです。

 単にクラスメイト同士の対戦ごっこみたいな……」

(トンッ)

 比留田が机を指で強く叩く。

 思わずビクっとする愛照だが、笑顔は崩さない。

「怒らないで下さいよぉ。

 本当にグループ間の対抗戦なんて、そんな事するつもりは無いですぅ。

……ていうか、私にそんな権限ありませんから」

 最後の台詞は素が出ていた。

 比留田は告げる。

「私がなんで知ってるか、理由を知りたい?」

「えー?

 うちらのファンの、灰戸さん経由で聞いたんじゃないですかぁ?」

「違います。

 プロデューサー経由です。

 貴女、世界的ピアニストと、伝統芸能の御子息を巻き込んだでしょ?」

(御子息?

 ああ、アレか)

「ああ、はい、クラスメイトですからぁ~」

「どうしてそんな事をしたの?

 両方とも、何かすればマスコミが動く子たちだよね」

「はい、だから内々で脚本勝負するくらいの事だったんです。

 あの二人も、どっちかというとあっちから巻き込まれに来ていて。

 私は曲さえ書いてもらえば、それで良かったんですよ。

 誰も大きな、他人を巻き込んだ勝負なんかする気は無かったんですぅ」

「本当にそれだけの理由?」

「そうですよぉ。

 それ以外に何があるんですかぁ?」

「ふむ……」

 比留田から怒りのオーラが収まっていく。

 少し考えてから説明を始めた。

「伝統芸能の関係者を通じて、話があったのよ。

 これこれこういう対決をするから、池袋の劇場を抑えたってね。

 それでプロデューサーが

『そんな話は知らない』

 ってなったの。

 話を詳しく聞いたら、貴女が首謀者だって言うじゃない。

 独断専行で勝手な事をした場合、軍律に照らし合わせて処分が妥当よ。

 でも、聞いた感じ、クラス内での話が勝手に大事(おおごと)にされたみたいね」

「ええ、そうなんですかぁ?

 それ、迷惑な話ですぅ」

(あの馬鹿が余計な事を親に言ったようだな……次の登校日、〆てやる。

 腕力じゃかなわないから、下剤でも飲ませてやるか……)

「事情は分かりました。

 それで、貴女には残念なお知らせです」

「え? 何ですか?

 怖いですぅ~」

「対抗戦は、それを仕切りたいテレビ局が現れました。

 BS放送ですが、この対決は全国に流れます。

 本当に、お金になりそうな案件にはすぐに食いつきますねえ。

 そんなわけで、貴女は負けられなくなりました。

 勝ち負けは時の運とは言いますが、情けない負け方は私たちの名誉に傷をつけます。

 しっかりやりなさい」

「はいっ、頑張ります!」

(なんだそりゃ、勝手に大事にして、こっちはいい迷惑だ)

「研究生を何人か、役に起用して下さい。

 フロイライン!としても、貴女に任せっぱなしというわけにはいきません」

(本当に大事になって来たなあ……)




 大事化はこれに留まらなかった。

 芸能クラスには、他のアイドルグループや劇団員もいる。

 伝統芸能のドラ息子が大声で喚いた為、一連のミュージカル対決はクラス中の知る所となっていた。

 そして、BS放送されるという情報が流れると

「勝てないかもしれないけど、うちのアイドルグループでもミュージカルを!」

「アイドルグループが何を言っているか!

 本職の劇団の力を見せてやろう!」

 と張り切られてしまい、いつしか


『全員未経験、新人脚本家たちの挑戦! 若き才能によるミュージカル対決!!』


 と銘打つ一大イベントに格上げされたのであった。

おまけ:

あの世にて

ワーグナー「よし行くぞ!」

チャイコフスキー「腕が鳴りますな」

ビゼー「自分も!」

バルトーク「下界は久々だな」

神の使い「張り切っているようだが、神の御許からの外出許可は下りてないからね!

 転生もそうだが、生きている人間に取り憑いたり、夢枕に立つ事も禁止です!

 ……って、シェイクスピア先生、何をする気ですか?」

シェイクスピア「いや、折角モーツァルトと戦えるんだ。

 脚本を書く誰かに、私の啓示を与えようかと思ってね。

 地上には行かないよ、あくまでも天啓って形でね……」


さて、一体どうなる事やら。


おまけの2:

ドラ息子「冤罪だから!

 俺から親父とか兄貴に頼んだとか、マスコミに内情バラしたとかしてねえから!

 だから、もう一服盛るのはやめてくれ!」

(トイレの中から悲痛な叫び)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
豪華同人誌かと思ったらアニメやゲームまでみたいな話に…w
このイベント、在野の才能の宝庫になりそうだw 中にはMMDドラマの類で一人で参加する猛者もでてきそうかな
>独断専行で勝手な事をした場合、軍律に照らし合わせて処分が妥当よ。 銃さt…… >全員未経験、新人脚本家たちの挑戦! 完成後の編曲で立ち位置はどっちかというとアドバイザーならセーフかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ