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スクールカーストなんてくだらない!

 天出優子が通っている私立中学校には、実質的な「芸能クラス」が存在する。

 そこは、芸能活動を校則で禁止している中学校には通えない生徒が集まっていた。

 そして、内部は大きくは3つの派閥に分かれている。


 1つは、いわゆる「セレブ」組だ。

 伝統芸能の役者の子女なんかが多いが、要は

「自分たちは選ばれた人間なんだから、庶民と一緒とか嫌だな」

 という連中である。

 伝統芸能関係の子女は全員こんな思想なわけはない。

 いわゆる「テレビタレント」なんかと違い、平日に仕事があるとか、学校行事を休まなければならない、なんて事も少ないから、普通に公立中学や進学校に通う事も出来るし、普通の学生生活をしている子もいる。

 そうでない子や親の受け皿として、こうした芸能クラスを持った私立校があるのだ。

 金と国内での影響力が基準であり、テレビで有名になった芸能人の子女なんかもここに通う。

 自分は芸能人でなくても、親が有名で金持ちならば、準芸能人として扱われ、プライバシー保護が厳重なクラスに置かれるのだ。

 まあ、情報漏洩とか有名人狙いの詐欺なんてのを行った場合、直ちに退学となる。

 こうした親が金持ちの芸能関係者が一つの派閥となり、その内部で親の力によるカーストが作られていた。


 2つ目の派閥は「才能(タレント)」組である。

 人数としては少ないが、世界にも認められた者が、セレブ組に対抗して結束している。

 彼等には国内のマスコミ、芸能界の力関係は無意味なものだ。

 脅しや嫌がらせをされても屁でもないし、親の圧力で活躍の場を奪われる事もない。

 学校生活で孤独なのも寂しいから、とりあえず数は力とばかり、同じような者たちで固まっていた。


 3つ目の派閥は、「その他(モブ)」組である。

 基本、セレブ組の下っ端みたいな存在だが、彼等の派閥からは排除されている者たちだ。

「アイドルデビューしてます!」なんて言っても、芸能界の中では下っ端も下っ端。

 なにかあったら潰されてしまう。

 アイドルでも親が金持ちならセレブ組に入れるが、そんな人は多くはない。

 子役とかモデルとかでも、親の稼ぎがなければこちらである。

 最大にして最弱のこの勢力に、優子の小学校からの付き合いである武藤愛照(メーテル)は入れられていた。


 では天出優子はどうだろう?

 彼女の両親は貧乏ではないが、大金持ちの部類でもない。

 よってセレブ組ではない。

 スケル(ツォ)は有名アイドルグループとはいえ、世界の名だたるコンクールで評価されているような存在ではない。

 となるとモブ組が適当なはずだが、実は違った。

 国際コンクールのジュニア部門で入選するようなピアニスト・堀井真樹夫が

「あれは自分より上だ」

 と言って評価した事もあるが、お互い顔が広い中学の理事長とスケル女の戸方プロデューサーが知り合いであり

「あの子の才能は別格だ」

 という情報が得られていた。

 それが漏れた、というか意図的に漏らされたというかで、「才能」組に受け入れられているようなものだった。

 才能組は少数派で、特に「世界でも認められてない奴が」という選民意識もない。

 セレブ組に媚びる連中が多いから、少数の選ばれた者たちみたいになっていたが、優子のようなセレブ組の圧を跳ね返せて、かつ能力もある人間なら大歓迎であった。




(くだらないなあ)

 優子は13歳にして大人の社会の縮図のようなクラスの様子に、正直失望していた。

 彼女は前世においても、派閥争いには興味がなかった。

 全く興味無かったのだが、それに巻き込まれてはいた。


 18世紀のヨーロッパでは、「音楽はイタリアだよ」とばかり、自分の名前さえイタリア語読みにする風潮が強かった。

 その一方で、「母語でオペラ書こうよ」という動きも出ていて、音楽は「必ずしもイタリア風でなくても良い」という派閥も生まれている。

 優子の前世・モーツァルトは、「音楽はイタリアだよ」という派閥からは距離を置いていた。

 彼はドイツ語でもオペラを書く。

 しかし、留学したのはイタリアのボローニャだし、大半のオペラはイタリア語で書かれている。

 要するに、「音楽はイタリア」でも「ここはドイツ語圏だ」でもない、派閥とかどうでも良いという無頓着な人間であったのだ。

 実際、ミドルネームの「アマデウス」はラテン語だが、イタリア語での「アマデーオ」、フランス語読みの「アマデ」、ドイツ語での名前「ゴットリープ」と様々なものを使っている。

 イタリア至上主義なんかではない。


 しかし才能は物凄くある。

 ゆえにイタリア派からは嫌われ、そちらの音楽家のパトロンとなっていた貴族からも嫌われている。

 では反対のドイツ派から味方されたかというと、そうでもない。

 モーツァルトにしたら、必要と思えばドイツ語、という程度のもので派閥活動なんかはしていない。

 結果、味方はほとんどいなかったのだ。

 彼が宮廷音楽家を辞めてフリーになった後、貴族から誘いの声がほとんど無かったのも、こういう部分が影響していたからかもしれない。


 なお、才能は凄まじいから、評価をした人たちもいる。

 他国の音楽家だがハイドンとは交流があったし、中立の立場の皇帝も評価した。

 映画「アマデウス」のような対立こそしていないが、度々衝突した「イタリア派」の音楽長サリエリも、派閥の枠を超えて親交を持った間柄である。


(小学校の頃は良かったなあ。

 こんな醜いもの見なくて済んだし。

 一気に俗人どもばかりで、嫌になって来たよ)

 そう思う優子だったが、そんな中で小学校の同窓生・武藤愛照については見直している。

 彼女は上昇志向が凄いし、その為には手段を選ばないような感じがした。

 しかし、意外な事に彼女はセレブ組に靡いていない。

 なんとなく、権力に媚びを売って

「私たちもテレビに呼んで下さいよ~」

 と言いそうに思えたのだが、着かず離れずの位置にいる。

「敵に回すと厄介そうだね」

 とは言っているが、同時に

「私が媚びを売るのはファンに対してだけ!

 同級生の中で上下関係を作る気はないし、腰ぎんちゃくになる気はない。

 とりあえず天出さん、貴女には負けない」

 とも言っていた。

 優子はこういう気概は嫌いではない。

 セレブ組は、武藤のような弱小ライブアイドルは歯牙にもかけていないようなのだ。

 彼女が才能組の天出優子と仲良い……いや、結構一方的に文句を言っている様子も見るが……でも特に気にしていない。


「折角だし、武藤さん、レベルアップしようか」

 優子の中の天才音楽家が気まぐれを起こした。

「なによ、私はまだ低レベルだって言いたいの?

 分かってるけど、面と向かって言われたら腹立たしい……」

「いや、そうじゃなくてね。

 身体を見てみたら?」

「は?

 なに?

 スケル女で言われてるアマハラ(天出セクハラ)を私にもする気?」

「えーっとねえ、私は貴女を女としては興味持ってなくてねえ。

 そうじゃなくて、武藤さん、成長期じゃないの」


 そう、ロリ系で小柄な優子には羨ましい事に、武藤愛照は急に背が伸び、出るとこが出て、くびれるところがくびれかけているのだ。

 どこぞの変態が

「女の子から、少女の身体に変わりかけが一番ハアハア

 とか言っていたが、そんな感じで身体も顔つきも小学生の時からは変わって来ている。

 その身体に合った発声とかを学べば良い。

「幸い、このクラスには声楽学んでいる人もいるし、一緒にレベルアップしよう」

 話を振られた件の生徒は

(一緒にって……あんたはレベルカンストしてるじゃないか)

 と困惑していた。


 それは本当に、天出優子の中の人の気まぐれであった。

 敵……というわけではないが、それでも所謂「敵に塩を送る」ような真似は必要なかった。

 ではあるが、同じ小学校から来た、派閥やカーストに興味がない少女の音楽スキルを高めてみたのだ。

 それが優子の自称「ライバル」武藤愛照を、その自称に相応しいレベルに引き上げる事になるのだった。

おまけ:

優子「とりあえず、私が知ってる感じで、宮廷礼拝堂少年聖歌隊レベルに歌の質を上げましょう」

愛照「何、それ?」

堀井「それ、かなり昔の呼び方で、今はウィーン少年合唱団って言うよね?」

愛照「おい! なんで世界最高峰を?」

優子「まあ、それくらいは歌えないと」

愛照(時々思うんだけど、天出の基準ってどこかおかしくない?)

堀井(我々には高いレベルだと思っていても、天出さんの実力的には「それくらいでいいんじゃない」って言ってもおかしくないから、怖いんだよなあ)

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― 新着の感想 ―
まあライバルを名乗るなら音楽家としても一定の実力が要るのは確かなんだよな。 今はまだ子供なので良いですが、将来的に中途半端にキャンキャン吠えてるだけと客に捉えらえるとよろしくないですからね。 幼少期…
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