研究生の後輩
人気アイドルグループ「スケル女」は新陳代謝をするグループである。
卒業と加入を繰り返し、CD発売に際しては選抜メンバーを決め、毎回のように違った顔ぶれとなっている。
加入は絶えずオーディションと、研究生からの内部昇格から行われていた。
天出優子たちが加入した後も、オーディションが行われていた。
このオーディションでは合格者は無し。
2人が研究生として加入していた。
(研究生って、こんなに下手くそだったか?)
後輩2人のレッスンを見ながら、優子はそのように思う。
自分の同期は、辞めた盆野樹里もだが、もっと歌もダンスも上手かった。
それが後輩2人は、顔とスタイルと笑顔は良いが音楽のレベルは低い。
(顔で選んだのかな?
それならそれで良いけど。
これから鍛えれば良いのだし)
本人に自覚がないが、彼女の同期生のレベルが高いのは優子自身の為なのだ。
彼女はオーディションの時に、余りに上手過ぎたし、それを誇示し過ぎた。
結果、打ちのめされた候補生たちが次々と辞退し、優子の才能を見てなお頑張ろうとした女の子が残ったのだ。
まあ、正規メンバーになった富良野莉久を含め、同期は全て東京会場以外のオーディション組で、優子の圧倒的才能に触れたのは最終審査のみ、ダメージが少なかったからではある。
他の会場にも「東京オーディション組に化け物がいる」と伝わっていたし、東京から派遣されたスタッフの審査の目も自然と厳しいものとなっていた。
一人の優れた存在が、属する集団のレベルを引っ張り上げるという事は有り得るのだ。
スポーツ界では〇〇世代と呼ばれるようなものである。
……この時は、夢破れた万骨の枯れた野山の上にだったが。
次のオーディションでは、通常に戻る。
ズバ抜けた天才がいない分、スキルの低い女の子が自信を失う事はない。
いや、昨年心を折られた女の子たちは、今年は応募していない。
既にアイドルへの道を諦めたか、優子のいない違うアイドルグループへ切り替えたのだ。
優れた才能が集まった次の世代が「谷間の世代」とか呼ばれるようなものである。
それでも、即正規メンバーはいないが、研究生としては2人加入が決まった。
優子から見れば
(顔とスタイルだけで選んだのかな?)
と思われる後輩。
だが、ここは優子の前世では知られないビジネスで、事が決まっていた。
コンテストというものは、受賞者が居ないと続かない。
新陳代謝は、し続けないと意味がない。
常に新しい人材が入り続けている、それが「スケル女グループ」の存在意義であり、アピールポイントであった。
例えば才能の天出優子、美貌の富良野莉久を採用の基準にしたとする。
それだと当分、合格者なんかは現れない。
新メンバーや新研究生が数年入らないと
「スケ女、ちょっとヤバいんじゃないか?」
「最近落ち目?」
という評判が立つ。
評判に敏感な芸能界では、ネガティブな噂から仕事依頼の減少が始まり、それが更にネガティブな噂を呼ぶという負のスパイラルに陥る。
だから、天出優子・富良野莉久という逸材が出た次の年だからこそ、凡人でも研究生合格者を出して、業界や未来のアイドルを安心させたい。
人材確保は大事である。
逸材しか取らないと噂されれば、質は上がるかもしれないが、多くの女の子は他の受かりやすいオーディションに切り替えてしまうだろう。
このようなビジネス的観点から、昨年に比べて「とてもレベルに達していない」子が加入したのだ。
だが、スケル女グループの総合プロデューサー戸方風雅は
「だからこそ、磨きようがある」
と妙にわくわくしていた。
彼には、優子のような完成品は余り面白い存在ではない。
少しあった欠点も修正されて、年齢以外は今すぐにでもデビュー可能だ。
まあ優子には、その才能から編曲・作曲を頼み、ともにグループを盛り上げるという楽しみがあるが。
戸方Pからすれば、田舎者の斗仁尾恵里を垢抜けさせるとか、ダンスは素晴らしいが今一つ歌で目立たない李友里の歌を上手くするとか、そういう方が面白いのだ。
全く才能が無いのは論外だが、磨けば光る珠ならば自分色に光らせたい。
前世がモーツァルトで、音楽については視点が高い優子に比べ、戸方Pはかなり甘く採点している。
今がダメの下のダメダメでも、どうにか出来ると信じる理想家でもあった。
今日もレッスンで、後輩研究生が怒られていた。
彼女たちは、研究生に入って初めて、いつも楽しそうにパフォーマンスをしている先輩たちの凄さを知った口である。
更には、先輩研究生だが自分たちよりも年下の優子の才能も知った。
絶賛挫折経験中である。
(だが、見どころはある)
優子は年下のくせに、偉そうに見ていた。
まあ、彼女の場合前世の享年分を、プラス35するのが妥当だが。
後輩たちは歯を食いしばって頑張っている。
ダンス指導のKIRIE、歌唱指導の晴山メイサも、厳しい事は言っているが、適切に指導をしていた。
「どうして出来ない?
やって来なかったのか?」
というパワハラ、ロジハラ指導ではなく
「これくらいで涙を見せるな!」
「先輩たちも乗り越えて来たんだ」
「上手くなりたいんだろ!」
という叱咤激励である。
(頑張ってはいるが、余り伸びしろが無いようにも見える。
本人たちも何となく、このままでは厳しいと思っているな。
才能が無いから諦めろ、と言うのは簡単だ。
だが、努力する意気込みは買いだ。
その心底にあるものを知れたら、もっと協力してあげられるかもしれない)
天出優子は努力する人は好きである。
自分が隠れ努力家だからだろう。
何かあって必死に努力しているなら、応援してやりたい。
……逆に言えば、無意味な努力、目的も分からぬ努力なら、才能無いから止めた方が良いと言い放つ、天才ならではの残酷さも併せ持っているが。
とりあえず、この後輩2人がどうしてアイドル歌手を目指しているのか。
優子は、自分にも同じ事を聞いて来た先輩・辺出ルナと、同じように質問された富良野莉久を巻き込んで、話を聞いてみる事にした。
「え?
一緒にお風呂に入るんですか?」
「嫌です、恥ずかしい」
2人とも即時拒否。
既に天出優子のセクハラについては、虚実折り混ざって拡がっていた。
「大丈夫、何もしないから、何もしないから!」
傍目には、下心あるオッサンが女性に詰め寄っている図式であった。
当然、大先輩の辺出が
「天出を誘ったのがサウナだったからって、同じ事をしないでいいの」
と釘を刺すも、
「そういうのは、私とだけでいいでしょ」
と富良野が発言した事で、後輩2人は更に怯えてしまった。
(私たち、何をされるんだろう?)
(きついレッスンには耐えられるけど、女同士でそういう関係になるのはちょっと……)
(噂には聞いていたけど、変態小学生ってガチなんだ。
ヤバいよ……)
(もう中学生になったって聞いてるけど、私たちより年下じゃない。
嫌だよ、年下に手籠めにされるとか……)
「あー、そういう事にはならないから。
私が責任持って、この変態は止めておくから。
それはそれとして、この子は変態だけど、ただの変態じゃないから。
分かったと思うけど、音楽の才能は凄い子だから。
その天出から、音楽の事で話がしたいって事だから、付き合ってくれない?
下心は今のところ無いみたいだからさ」
大先輩で、人気メンバー「7女神」と言われる一人からそう言われたら、否やもない。
後輩研究生は、先輩たちと個室ありのレストランに入っていった。
「では、話を聞こうか」
「優子ちゃん、偉そうだよ」
「本当、中学1年生の癖に、何様だよって話だね。
2人とこうして話すのは初めてだよね。
貴女たちの事を知りたいんだよね。
お話ししよう」
後輩研究生には緊張の時間が始まる。
おまけ:
オーディションの時の様子。
スタッフA「いやあ、去年よりも気が楽だね」
スタッフB「一人で周囲を威圧する子がいないから?」
スタッフA「そう、皆でワイワイ楽しそうだから、なんか和むね」
スタッフB「その分、緩くなっているから我々が注意して気を引き締めないと」
スタッフA「そっちの方が良いよ。
去年は天出のパフォーマンスの後、周囲は『帝光中学キセキの世代に叩きのめされた他校』みたいな感じで、目から光が失われていたし。
大分前だけど、品地の特技紹介を見た後、他の参加者は魂を抜かれたような感じになっていたし。
暮子莉緒にリズムをかき乱されて、本来の実力出さない人が続出した年もあった」
スタッフB「うちのプロデューサー、どうしてそういう子を集めるのが好きなんでしょうね?」
(※:この辺は、つ●く♂氏の「ええやん、面白いやん」で女の子を評価してた部分を参考にしました)




