初のフェスだ!Teil 2~他グループとの交流~
カプリッ女初のアイドルフェス、出番は13時から。
午前中に打ち合わせ……なのだが、その前に前日の惨状についての第二次説教大会が開かれる。
(そんな過去の事、どうでも良いじゃないか)
と天出優子は内心思っていたが、口には出さなかった。
まあ、彼女は前世での前科持ちである。
モーツァルトはパーティーが大好きで、アパートの中で騒ぐものだから、結構な迷惑をかけていた。
酒場で夜通し騒いだ事もある。
宵越しの金は持たない主義のように、散財し尽くす。
翌日にはもう終わった事として片付けていた。
まあ、前世は前世、転生後は転生後。
炭酸飲料で酔ったかのようにバカ騒ぎしたのは、良くなかったのだろう。
(あの女が悪いのだが……)
と、部屋替え後に同室となった、アルペッ女の長門理加をチラっと見た。
同じグループのメンバーの写真集を持って来て、2人でその品評会を始め、胸がどうとか、腰がどうとか、腕での隠し方がどうとか言っている内に、妙に盛り上がってしまい、枕や布団の破壊衝動にまで行きついたのが不思議なところだ。
安藤紗里と斗仁尾恵里の「サリ・エリ」コンビは神妙にしているが、他の問題児、優子と長門、そして大阪の藤浪晋波は説教を右から左へと受け流している。
「激流を制するは静水。
激流に逆らえば飲み込まれる。
むしろ激流に身を任せ同化する」
とは、スケル女の先輩・7女神の一人・暮子莉緒が伝えた説教を受け流す極意だ。
……本来、悪いから怒られているのに、この技でスルーは無いだろう。
説教タイムが終わり、ホテルの一室でリハーサルをしてから会場に向かう。
なおこのホテルは、次回からは借りられなくなる。
会場入りしたメンバーは、再集合までは自由時間となった。
フェス=フェスティバル=祭り。
キッチンカーも並んでいて、食事も(他よりも高いけど)楽しめる。
ただし、藤浪だけは盆野樹里から監視され、自由行動は許されなかった。
長門はまだ会場内をふらつく程度だが、藤浪は会場を飛び出すどころか、隣県まで移動する危険性がある。
どこに飛んでいくか分からないボールとまで言われる為、楽屋的なテント内で軟禁される事になった。
「優子ちゃんはどうするの?」
富良野莉久が湿った視線を送って来る。
まあ、昼間だし、人前だし、お互い変ないちゃつき方もしないだろう。
「私は、他のアイドルのパフォーマンスを観たいけど」
「同じだ!
一緒に観に行こうよ」
こうして二人はライブを見て回る事になった。
既に衣装に着替えているし、そのままでは目立つ。
目立って、観に来たアイドルの現場をぶち壊すな、とは先輩の灰戸洋子に散々言われて来た。
暑い中、アウターを羽織り、サングラスと帽子とタオルですっかり不審者と化す2人。
こういう、よく見れば可愛いのに明らかな不審者スタイルの女の子は、他のアイドルが観に来ただけだからそっとしておく、というのが現場の不文律となっていた。
(歌にケチはつけない。
下手でも良い、楽しければ良いんだ。
客が楽しいなら、評論家みたいにあーだこーだ言うのは間違いだ。
分かっている。
分かっているが、どうしても疑問がある。
どうして同じ曲をあちこちのグループで歌っているんだ?)
それは数年前から起きている「某曲歌われ過ぎ問題」というものであった。
弱小アイドルグループは、オリジナルの持ち歌が少ない。
売れてるアイドルやアーティストの曲をカバーする。
その中でも、今歌われている曲はカバーの定番曲と言える。
スケル女のライバル・フロイライン!は基本的にアイドルフェスには出て来ない。
以前あった姉妹グループはフェスに参加した。
その姉妹グループから精鋭を集めたユニットが披露したこの曲は、観に来た他のアイドルの度肝を抜いたのだ。
余りの凄さに「ああいう風に歌いたい」と目標にされる。
その結果、どのグループもカバーしまくり、フェスや対バンの定番曲となってしまった。
盛り上がるし、ヲタの方もコールの仕方を分かるから、誰が歌っても対応可能という状態になっている。
一通り聞き終えて立ち去ろうとした優子たちに、スーツ姿の男性が小さく声を掛けた。
『スケル女の富良野さんと天出さんですよね?』
「え、違います」
『いや、私は今出てるグループのスタッフの者でして、後で楽屋に来て欲しい、挨拶したいってメンバーから言われてまして……』
そう言って名刺を渡された。
こういう時、年長で常識人の富良野がいて良かったのだろう。
彼女はスタッフに電話をし、集合時間に遅れないから、という条件でOKを貰った。
「粗相しないでね、ってスタッフから注意受けたよ、優子ちゃん」
「バカメ……と返事して下さい」
「もう電話切っちゃったから、後で直接自分から言ってね」
そんなやり取りをしてから、彼女たちは楽屋に案内される。
「きゃー!
富良野さんだ、やっぱり可愛い!!」
可愛い癖に、可愛いと言われるのが余り好きではない富良野は無反応である。
「あ!
セクハラ小学生の天出ちゃんだ!
きゃー、可愛い! お尻触って!」
優子は苦笑いしか出来ない。
どこからそんな風に伝わっているんだろう。
この業界は狭く、優子と別アイドルの候補生である武藤愛照が同じ小学校に通うように、スケル女の研究生や正規メンバーと同校生や同窓生であるライブアイドルもいるのだ。
当然、そういう経路で伝わっているのだが、本人は変な噂に困惑している。
「お尻とか、そんな触れませんよ」
富良野の嫉妬の籠った視線を受けながら、優子は常識的に拒否した。
「えー、折角ですから記念に」
「すみません天出さん、うちのメンバーもこう言ってるし、お願い出来ませんか?
「まあ、そんなに言うなら……」
富良野の殺気の籠った視線を受けながら、優子は仕方なく承諾した。
(嫌がるのを触るのが面白いんであって、こう「ほら、触って」っていうのは何か違うんだよな)
ちょっと興覚めしながら、お尻を触っていく。
これで前世のように酒でも入っていたら、楽しく遊べるのだが、流石の変態も真昼間にこんな事するのは『何かが違う』と思わざるを得ない。
「うん、柔らかい。
もう少し硬くてもいいかな。
形は……」
「きゃー、評価しないで~」
(私は一体何をやっているんだろう?)
こんな面白くないお尻は初めてだ。
何も伝わって来ない。
何も伝わらない?
どういう事だ?
他人のお尻を撫でたり、軽く揉んだりしながら、優子は軽い違和感に囚われていた。
挨拶代わりに触っているスケル女メンバー。
最近じゃ逆に抱き着かれる事もあり、変態の巣窟と化している。
その時に感じるものが、この子たちからは感じられない。
何なんだろう?
これは、スケル女リーダーの馬場陽羽とは違うセンスである。
馬場の場合、筋肉の付き具合、硬さや肉の戻る反応で、どれだけ鍛えたか、どれくらい疲れているかを読み取る事が出来る。
しかし、優子の場合はそうではない。
硬いか柔らかいか、上がってるか下がってるか、嫌がるか積極的か、そういうのでは現せない。
フィーリング的に、合うか合わないか、だ。
(なんだかんだで、私はスケル女のメンバーが好きなのかもしれない)
と、他人の尻を触りながらそう思う。
このシチュエーションは、何か知らんが気持ち良くない。
一通り楽屋での粗相を終えて、集合の為にそこを出る。
「きゃっ」
富良野が悲鳴を挙げた。
優子が、ムッとしている富良野のお尻を撫でたのだ。
「富良野さん、顔が怖い。
リラックス、リラックス」
そう正当化し、これはセクハラではなく緊張を取る為の行為としてみた。
(やはり違うな。
なんか、触って楽しかった!)
どうとは表現出来ない。
しかし、富良野の尻からは何かしらの「良さ」を感じられた。
これは他のメンバーの尻も触りまくって、確認してみないと……。
お尻ソムリエ覚醒の瞬間であった。
おまけ:
モーツァルトが、「ドン・ジョバンニ」(K.527)のリハーサルを観ていた時の話。
どうにも女優の叫び声が不満であった。
そこでモーツァルトは、女優の尻を思いっきりつねる。
凄い叫び声が上がり、女優は思わずモーツァルトをビンタ。
「ディ・モールト!(最高だ!)
ディ・モールト!
手首の利かせ方も良い!
非常に良い!
その調子でやってくれ!」
演技指導だと周りは解釈し、女優も叩いた事を謝罪する。
彼等は、モーツァルトが単に性的嗜好で恍惚となっていたのを、音楽的満足と誤解したのであった。
(実話を元ネタに脚色しました)




