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私も出るよ!

 天出優子は小学6年生である。

 当然小学校に通っている。

 この学校には、もう一人芸能活動をしている子がいた。

 そのもう一人、武藤愛照(メーテル)が、指をクイクイさせて優子を呼び出す。


「あんたも夏フェス出るのよね?」

 人前では笑顔を作る癖が染み付いている、ある意味優子より余程プロのアイドルな愛照だが、校舎内ではその必要もないようだ。

 真顔でじろっと睨みながら尋ねて来る。

「さて、何の事?

 あ、トボけているんじゃないから。

 言いたい事は分かるけど、まだ公式にメンバーが発表になってないから、言いたくても言えないんだ。

 分かってね」

「まあ、そういう事情を伝えてくれるくらいには、私も評価されて来たって事ね。

 当然でしょうとも!

 それはさておき、実際の所はどうなのよ?」

「だから、言えないんだってば」

「うん、その態度で出るものと判断した。

 出ないなら、はっきり出ないって言うもんね」

(いや、出なくても緘口令敷かれてるから、言わないけどね)

 一人で勝手に納得する愛照だが、実際外れてはいない。

 優子は夏限定グループで、各地の夏のアイドルフェスに出演するのだ。


「うちもね、フェスに出るんだ」

「へえー」

「興味なさそうな口調、ムカつくわ。

 でも、どこかの会場で顔を合わせるかもね」

「さあ、出るか出ないか決まってないから、わかんな~い」

「いいや、あんたは絶対出演でしょ。

 あんたはそういう女だ」

「さあねえ」

「出るものだと仮定して言うよ」

「どうぞ」

「……チケットって、学校で売っても良いのかな?」

「へ?」

「あんたの所みたいな大手には分かんないと思うけど、うちらにはノルマがあってねえ……」


 聞けば、愛照たちのグループでは「関係者用チケット」なるものが作られているそうだ。

 スケル(ツォ)にも「関係者席」のチケットは出るのだが、それを貰えるのは申告した者のみ。

 親族友人が見に来たいって時に、必要枚数を言って、空きが有ったら貰えるのだ。

 その空きは非常に少なく、会場や日程によってはゼロの時もある。

 だから、アイドル自らがチケットを売りに行くというのは、知らないわけではなかったが、改めて聞くと新鮮な驚きだった。

「でも、フェスって企画したとこがチケット売るんじゃなかった?

 各グループで売らなくても、会場に入った人が見に来るんでしょ」

「あんたの所は知らないけど、参加グループごとの割り当てもあるの!

 企画としても、そのアイドル目当てで来るお客さんを確実に確保したいからね。

 で、割り当てられたチケットすら捌けないアイドルは、来年から出られなくなったりするの!」

「ほえ~~」

「さらに!

 その割り当てられたチケットを、メンバーが売るんだけど、普通そこは家族とか友達に売るわけ。

 ただ私は小学生だから、学校で売っていいものかな? って……」

「いいんじゃない?

 吹奏楽やってる子たち、演奏会のチケット売ってるし」

「それは学校の部活だからでしょ!

 ああー、もうじれったい。

 要するに、売っていいか先生に聞きに行くから、あんたも着いて来てって言ってんの!

 学校で売らなくても、来る人は来るだろうけどね。

 この前のあんたたちみたいに。

 でも、どうせ来るんだったら、私の首の皮を繋げる為にも、売上って数字が欲しいの!

 分かって!」

(面倒臭っ!

 自分だけで行きたくないから、スケル女はどうか? って言って来て、それで察しろって事だね。

 本当、面倒臭っ!)


 とりあえず付き添いで校長室に行ってみた。

 校長、及び教頭の見解は

「それが小学生のお小遣いで間に合う程度なら、学校でも大丈夫。

 小学生のお小遣いではちょっと……というくらい高いなら、親御さんかご兄弟に売る事。

 大々的にやって、学校を混乱させない事。

 無料招待枠とかあるなら、友達にはそっちを回す事」

 であった。

 述べたように、部活の演奏会も小さいながら会場を借りて行う為、同級生にチケットを売った場合は代金を貰っている。

 その額は300円とかだから、それくらいなら問題無い。

 小学生のお小遣い程度は、この学校の見解では3,000円くらいまで。

 それ以上は、学校で扱ってはいけない。

 個人的に学校の外で売ったりするのは、目を瞑るけど、発覚したら問題にするよ、という脅しもかけられた。


「良かった~。

 中学生以下のチケットは安いんだ~。

 それなら売って大丈夫ね。

 じゃあ天出さん、手伝ってね!」

「なんで私が?」

「勉強手伝ってあげたでしょ!」

「全く役に立たなかったけどね」

「とにかく、手伝ったんだから、協力しなさいよ!」

「嫌です。

 私が売ったら、私もそのフェス出るもんだって勘違いするでしょ」

「どうせ出るんでしょ。

 分かってるのよ」

「仮にそうだとして、言うな、情報漏らすなって言われてる中、ちょっとでも情報漏れに関わる事をしたら私がどうなると思うのさ。

 私の首の皮の方が危うくなるよ」

「……ごめん、考えが及ばなかった」

「まあ、ポスター書くくらいなら協力するよ」

「ありがとう」

(意外に素直な所もあるんだな)

 小学生ながら、チケット売って来いとか言われて焦っていた事を想像すると、なんだか怒る気にはなれない。

 とりあえず、先生たちが言っていたように、派手にならないように

「夏のアイドルフェスのチケットがあります。

 欲しい方には売ります。

 小学生/中学生は1,500円。

 高校生/大学生は2,000円。

 大人は3,000円。

 2日通し券は大人のみで5,000円。

 当日券よりは安くなっています。

 欲しい人は、6年の武藤愛照まで。

 枚数には限りがあります」

 という、文字とちょっとしたイラスト、会場地図を書いたポスターを貼る。

 ポスターの後ろの方には、校長が掲示許可を出した判子をついてもらった。


 流石に低学年には敷居が高かったようだが、中学年以上はどんなものなのか質問に来る。

 愛照の同級生は、彼女を助けてあげる意味でも、とりあえずお買い上げ。

 あとは担任と学年主任が

「ちゃんと夏休みの宿題は出せよ」

 と説教しながら、大人2枚分お買い上げ。

(皆に愛されてるじゃないか)

 優子は微笑ましく眺めていた。


 が、当然もっと格上のアイドルである優子にも、同じ質問がやって来る。

 いや、愛照よりも数は多い。

「天出さんもフェスに出るんですか?」

「ゆっちょも出るんだよね?

 チケット買ってあげるよ」

(誰がゆっちょだ!

 照地さんの呼び方を真似るんじゃない!)

「スケ女のチケット、無料でくれ!」

「友達なんだから、良いよね!」

 子供ながら、こんな感じである。

 小学6年生にもなると、中途半端に大人っぽくなるのがいるから

「もうお金稼いでるんだし、くれてもいいでしょ」

 なんて言って来る生徒もいる。

 まあ、同じクラスの自称「親衛隊」が、そういう厚かましいのは撃退するのだが。


「私は何も言えない!

 出るとも出ないとも、言っちゃいけない。

 大人から、言っちゃダメだ、言ったらペナルティって言われてるの。

 子供じゃないなら、分かって!」


 お子ちゃま扱いされたくない年頃である。

 こういうので何とか詮索を避ける。


 だが、いずれ公式発表があるだろうし、そこに自分の名前も入っている。

 その時に、改めて騒動が起きるだろう。

 優子は、レッスンに行った後でスタッフに相談してみた。

 スケル女には、膨大な数の自枠販売チケットが割り当てられている。

 ファンクラブで先行販売する分だ。

 その中から、イベントごとに異なる身内用チケットと、各5枚ずつ貰える事になった。

 発表があったら、まずはクラスメート、自称「親衛隊」にだけ無償で配ろうか。

「私も出るよ!」

 って堂々と言えるその日が来た時には。

おまけ:

天出優子は校長室に呼び出された。

校長「スケル女のチケットは無いんですか?」

優子「あ、出るとか出ないとか、言っちゃいけないんで」

教頭「まあ、君が夏休みにどんな生活をしているか、教師としては確認する義務がありましてね。

 出る、出ないに関わらず、チケットは売って下さい」

優子「……出なかったら、見に来る必要ないでしょ」

教頭「出ないとしても、会場にはいるんでしょう?」

優子「そこは何とも……」

校長「まあ、私たちも色々勉強したいので、そういう会場も見てみたいんです。

 別に楽屋に入れろとか、サインくれとか、灰戸さんに会わせろとか、最前くれとか言わないので」

優子「……本音ダダ洩れです」

校長・教頭「とりあえず、大人2枚分確保しといて下さい!!」

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