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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
偶像(アイドル)でもあり創造者(クリエイター)でもあり
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故郷だ!

 パリでの公演後のファンクラブイベントや、帰国前の打ち上げにも参加出来ないまま、天出優子はオーストリアの首都ウィーンに移動していた。

 本人は忘れていた……というより、頭に入れていなかった。

 スタッフは連絡済みな上に、何度か確認もしていたのだが、音楽以外の事ではポンコツな優子は気にしていなかったのだ。

 このあたり、度々脱走や移動手段の勝手な変更で迷惑をかけている、藤浪・長門・筑摩と大して変わらない。

 一番最新の予定確認時は、その3人のホテル脱走によって完全に聞く耳を持っていない、目もメールが滑る状態だった。

 そして、本来なら準備万端な筈なのに、初めて知った形で国境を跨いだのである。




(この町は、私の前世とほとんど変わっていないなあ……)

 空港を降り、町を突っ切って移動していると、目に入る光景から天出優子(モーツァルト)はそう感じる。

 前世で活動した夏の離宮・シェーンブルン宮殿と冬の主皇宮・ホーフブルク宮殿。

 シェーンブルンは後回しで、空港から放送局へ向かうと、その近くにはホーフブルク宮殿、ベルヴェデーレ宮殿、カールス教会が見える。

 ウィーンはナポレオン戦争、第一次・第二次世界大戦で、被害皆無ではないが、主要部は戦火に見舞われていない。

 パリは戦争で破壊される危険があったのだが、有名なドイツ軍司令官コルティッツの命令拒否により、文化的なものは守られている。

 この辺り、戦火に焼かれ、大きく生まれ変わった東京とは違っている。


「あ、来た」

 放送局のロビーでは、同級生で若手世界的ピアニストの堀井真樹夫が待っていた。

 優子は、流石にここまで来る途中は、どうして自分が呼ばれたのかを見聞きしている。

 堀井がピアニストとしてだけでなく、作曲家としても注目を集め始めた。

 その堀井が「自分以上の女性がいる」と言って回っているせいで、

「だったら呼んでみたい」

 と話が進んだのである。

 堀井の影響力は案外大きくて、例のドイツ人双子音楽家の他、堀井に関心を持つ音楽関係者は謎の音楽家「ユウコ・アマデ」を知るに至っている。

 本人は全く意識していないのだが。


 今回は若い才能にインタビューするという内容で、メインゲストはコンクールでも有名な堀井だが、優子もタイミング良くヨーロッパに来ている為

「ついでに呼ぼう」

 となったのだ。

 こうして急に決まった事もあり、矢継ぎ早の連絡をしていたのだが、当の優子はパリ公演の方に意識が向き過ぎていて聞いていなかった。

 そして飛行機恐怖症の優子は、機内では全く使いものにならない。

 飛行場までの移動と、降りてからのレクチャーで

「堀井との師弟関係や、どうやって作曲しているのか、代表曲の披露」

 というのが自分の話す内容だという事を頭に叩き込む。


(こんな短期間のレクチャーで大丈夫か?)

 スタッフは気を揉んでいた。

 なにせ、数週間時間があったのに、散々連絡したのに、意識していなかった女だ。

 海外のテレビ収録でまともな事が言えるのだろうか?


 それは杞憂である。

 天出優子(モーツァルト)はオーストリアこそ故郷なのだ。

 ウィーンは長年活動していた場所。

 緊張どころか、心安らかなものである。

 そして作曲論は、本気で語らせたら止まらない。

 スタッフが気にするぶっつけ本番は、全く問題になっていない。


「パリの公演どうだった?」

「うん、上手くいった」

双子音楽家(あいつら)、来た?」

「来た。

 イヤミ言って去っていった」

「お疲れ様」

「まったくね」

 日本語で会話をしながら控室に向かう。

 堀井は、自分のせいで優子がヨーロッパに出向く羽目になった事を気にしていた。

 なにかと気を使っているが、当の優子は気に介していない。

 気を使われている事に気づきもしない。

 同級生の武藤愛照(メーテル)が見たら

「あんたのそういうところが問題!」

 と文句を言うところだろう。


 ところで優子は、ウィーンに来てからは、パリでのような感傷には襲われていない。

 実に穏やかで安定し、普段通りだった。

 パリを見た時は、例えるなら「自分がしばらく帰省していない内に、建て直され、思い出が断片的にしか残っていない実家を見た」気分なのだろう。

 それに対してウィーンは昔ながらの姿で残っている。

 ゆえに「実家に帰ったら、最新の家電はあちこちにあるけど、自分の部屋とか物置とか、変わってないなあ」といった感じだ。

 つまり、ウィーンでは寛いでいた。

 そんな落ち着いたいつも通りのテンションで収録に臨む。


 収録前には打ち合わせをし、大体の流れは掴んだ。

 自分が作曲した中で、木之実狼路、海外向けには「ロージー」名義の曲は使われない。

 天出優子名義でのアイドル曲と、非公開ながら堀井に提供したメヌエットが数曲使用される。

 現在のところ興味が向いていないから、交響曲なんてのは作っていないが、短い曲でも優子の非凡さは、分かる人には分かるようである。


 まずはメインゲストの堀井真樹夫が演奏をしている姿を紹介される。

 経歴が語られた。

 国際コンクール2位を筆頭に、入賞は複数回。

 師匠もドイツの音楽界では名の知れた人物で、今は引退して後進の育成に当たっていると解説された。

 そして、単なるピアニストではなく、最近は作曲も手掛けているという話に。

 曲数は少ないが、聴く人は「これは名曲に、片足……とまではいかないが、つま先を突っ込んでいる」と感じさせているようだ。

 要するに「これからが楽しみな、若手の有望株」というのが、欧州での評価である。

 保守的な人が多い欧州のクラシック界で、東洋人の高校生がここまで注目されるのは中々大したものである。

 まあ、そういう日本人が過去にもいなかったわけではないが、それでもごく少数しか存在しない。


 そして

「マキオ・ホリィと一緒に作曲し、彼に指導しているのは、実は彼のクラスメイトで、可愛いガールフレンドなのです」

 と優子の紹介が始まった。

 紹介VTRを流しながら、多少からかい気味に

「実に可愛いですね、君の彼女?」

「日本のアイドルと呼ばれる歌手もしていますね。

 こんな子と付き合っていたら、マキオも彼女も人目を気にしないとならず、大変だね」

 とコメントし、堀井と、舞台袖でまだ登場していない優子を「違う!」と否定させていた。


……オンエアされた時、この箇所を見た双子音楽家の妹・ゾフィーが発狂した事は言うまでもない。


 そしてカメラの前で否定を出来ぬまま、天出優子が登場。

 話は一転して真面目な作曲論へ。

 打ち合わせで司会と話した時、優子には尋常ならぬ音楽の知識があり、それを古めかしいが流暢なドイツ語で話せると分かり、内容をこのように変更したのだ。

 優子は、クラシック界が喜ぶような作曲への心構えを話す。

 別に媚びてなんかいない。

「音楽は楽しむもの」というポリシーとは別に、前世で習って転生後でも実践している作曲は、割と普遍的なもので、奇をてらったものではないからだ。

 優子はここに、日本の伝統芸能の言葉を加える。


「日本語では『守・破・離』と言います。

『伝統的なものを引き継ぐ』(Die Tradition fortführen)、

『伝統的から自分なりに発展させる』(Entwicklung vom Traditionellen zum Einzigartigen)、

『伝統を新しい形に進化させる』(Tradition in neue Form bringen)

 と言った感じですね」

「なるほど、実に興味深い。

 確か、茶の湯(Teezeremonie)の千利休(リキュー)の言葉ですね」

「そうです。

 私は彼に、まず教会音楽、そしてバロック音楽を学ぶように言いました。

 ここにヨーロッパの音楽の基礎がある。

 後の音楽は、そこから守破離、哲学でいうアウフヘーベンさせていたものの積み重ねです。

 私は、基礎を踏まないでいきなり最新の音楽を創る事を否定しません。

 これも日本語では『型があるから型破り、型が無ければ形無し』と言います。

 形無しの音楽も否定しませんが、私は彼には音楽の歴史の全てを追体験して欲しいと思ったのです。

 これはあくまでも私の音楽論ですけどね」

「マキオはどう思うんだい?」

「僕は作曲のセンスが無かった。

 いきなり無から有を生み出す事は出来なかった。

 だから手順を踏んで、自分の中に音楽の歴史を再構築するのは理にかなっています。

 同じ事は誰かが思いつき、実践しているけど、彼女はその音楽の選び方と教え方が上手い。

 まるで(いにしえ)の大音楽家を相手にしているように感じられる時があります」

「芸術家らしいナイーブな答えだね。

 でも笑わないよ。

 僕も今日初めて会ったんだけど、彼女からは名指揮者だった人たちと会った時のようなものを感じるんだ。

 こんなに可愛いお嬢さんなのにね」


 お堅い番組だったので、変にオチもなく番組は終了する。

 日本でも何度かテレビ出演をして段取りの重視、変なアドリブはテレビ局を困らせると知っていた優子は、傍目には「アルペッ(ジオ)の事を色々言ってるけど、貴女も十分変人だから!」という態度を控えめにし、無難にテレビ出演を終えた。

 やがてこの番組は、日本でも放送される。

 紹介文(テロップ)の在学中の高校名を見て満足そうに頷く学校理事長。

 そして、伝統芸能のドラ息子も、何故か自分の事のように鼻高々だったという。

おまけ:

作者、シェーンブルン宮殿で「魔笛」を観劇した事あります。

と書けば「この作者、特権階級か!?」と思われるかもしれませんが、

あそこ、割と普通に借りられるっぽい。

普通に市民楽団に貸し出してました。

なお、音響はクソ。

まったく反響せず、壁や柱に染み入る蝉の音というか、そんな感じでしたよ。

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