移動すらもビジネスだ!
フランスで行われる日本フェスの招待アーティストとして、正式に「スケル女」が発表された。
フロイライン!リーダー比留田茉凛の政治力は凄まじかった。
急遽追加という形で、日本の3大アイドルグループの内の2つがパリでライブをする事になる。
「発表になりましたね」
「ああ、計画通りだ」
スケル女運営ではこんな感じで、パリ公演に向けての諸々が発動される。
「おーい、ちんちくりん。
お前のとこ、中々阿漕だよな」
話に割って入るのではなく、最初から伝統芸能のドラ息子が天出優子に話しかけて来た。
「私は何もしてないよ」
「お前じゃなく、ファンクラブがだよ。
なんだよ、このツァー料金は」
そう言って、ファンクラブのサイトを見せる。
『この度、スケル女はフランス・パリで開催される”JAPON ANIME POP OTAKU FES.”に参加する事になりました。
つきましては、皆様ともこの感動を共有すべく、ファンクラブ限定のパリツアーを開催します。
(以下略)』
「これで、三泊四日で35万円って、ぼったくってないか?」
「知らないよ」
「安いでしょ」
「堀井、これのどこが安い?」
「ヨーロッパ行くなら、最低でも80万くらいはするんじゃないの?」
「……堀井、それグレードは?」
「最低だとしたらビジネスクラスだけど」
「違うよ!
このツァーはエコノミークラス使うんだよ!」
「使わないから分からないけど、ビジネスクラスの半分としても40万円くらいでは?」
「あのなあ、ツアー価格とかで、格安価格とかで15から20万円くらいに下がるんだよ!
お前、海外しょっちゅう行ってる割に、知らないのか?」
「自分でチケット買うわけじゃないからなあ。
時々、コンクール主催者から招待状が来て、そこにファーストクラスの航空券が入っていて……」
「ああ、もういいわ。
お前は口挟むな。
常識が違い過ぎる」
(このドラ息子に常識が無いとか言われてるよ……)
呆れる優子だが、彼女も人の事は言えない。
スタッフが航空券手配するから、彼女も成田~パリの適正価格を知らないのだ。
なおドラ息子の方は、兄と違って海外から招待される事はない為、海外旅行するなら自分の小遣いで行けと言われていた。
中学生~高校生で、小遣いで海外旅行出来るのは金持ちの部類なのだが、遊びの旅行に家族は手伝ってくれない為、自分で調べる癖がついたのだった。
「え?
スケル女はファンクラブツアーも一緒にするの?」
フランス公演のきっかけとなった、フロイライン!所属メンバーでもある武藤愛照が話に割り込んで来る。
「フロイライン!もそれやって欲しいなあ。
なんかうちって、商売っ気薄いから……」
「そっちはそうなんだ。
フロイライン!の方のサイトも見てみようか」
そこには素っ気なく
『フロイライン!はパリで開催される”JAPON ANIME POP OTAKU FES.”に参加します。
チケット価格(金額はユーロ)』
といった感じで、購入サイトのURLと席種ごとの料金が記載され、最後に
『交通機関、気象等の問題でイベントに参加出来なかった場合でも、払い戻しには応じられません』
と注意書きがされていた。
「せこいね」
「いや、イベント会社とフロイライン!は別物だから、金の事言われても関係ないってスタンス」
「現地まで自己責任で来いって事?」
「というより『来たかったら来れば~、うちらは来いとは言ってないからね』って感じ。
本当にこの辺、商売っ気が無いのよ」
「でも、移動はプライベートジェットなんだっけ?」
「そうみたい」
優子と愛照の会話に、堀井は
「そんなものだろうね」
と頷いていたが、ドラ息子は
「どんだけ金持ちなんだよ」
と呆れていた。
「いや、リーダーの比留田さんの家が金持ちなだけで、サブリーダーとかは庶民だよ。
昔、安いアパートに住んで、犯罪に巻き込まれかけたから事務所に
『住宅手当出してるのに、どうしてそんな安い所にしたんだ!』
って怒られたから、良い所に住んではいるけど、それ以外は
『スーパーには値下げするタイミングがある、その気配を感じ取るのだ!』
とか言ってる庶民的な人だよ」
超絶感知能力をそんな事に使っているのか、普段からそういう事に使いまくった結果研ぎ澄まされたのかは不明である。
「とりあえず、出せない事もないから、観に行ってやるからな」
「別に~」
「来いって頼んでないし」
「現場のチケットだけ買って、往復はこっちの自由手配にするわ。
俺様がオタクたちと一緒の安ホテルで、二人同部屋とかゾッとするからな」
(あんたも最近じゃ、立派なアイドルオタクじゃないか!)
(自分の事を、他と違うとか思ってんじゃないよ、同じ穴の狢だよ)
内心毒づくアイドル2人であった。
学校が終わり、レッスン場に向かう優子。
メールをチェックすると、フランスツアーについての情報が大量に入っている。
優子は演じる側だから、単なる旅行案内ではない。
開催日前後の気象情報と、それに合わせた衣服の情報。
宿泊ホテル周辺の情報。
GPSの使い方と、追跡の仕方。
道に迷った時の質問の仕方。
治安情報、何かあった時に逃げ込み先、大使館の情報etc...。
(これって、脱走した人の追跡とか捕獲方法、脱走した人間が何かあった時の対処法じゃないのか?)
優子の脳裏に、一切無視して放浪したり、移動費をケチって勝手に違う手段を選んだり、食事を求めてホテルを抜け出したり、謎に強者から戦いを仕掛けられてどこかに連れ去られた後にふらっと帰って来るメンバーたちが思い浮かんだ。
(大丈夫だよね。
おかしな事は起こらないよね)
と不安になる。
そして、フッとおかしくなって来た。
(前の人生において、ヨーロッパ各地を演奏旅行して移動した時、父上は姉上に言っていたな。
この子は落ち着きが無いから、馬車から降りてどこに駆け出すか分からない。
しっかり見張っていてくれ、とか。
まだ音楽以外に興味があるようで、すぐにフラッとどこかに行ってしまうとか。
まああの時、私は7歳だったかな?
落ち着きがなくて当たり前じゃないか。
面白そうな所に行きたくなって当然じゃないか。
馬車の中なんて詰まらないのだから、外に出たら解放感で走り出しても良いだろう?
転生してから考えると、よくもまあ、子供をこき使ってくれたものだ。
そして私も、後から考えれば音楽に向いていたとはいえ、音楽漬けの幼少期を反抗もせずに過ごしたものだ。
それに比べたら……)
こちらの世界は自由過ぎるかもしれない。
そして
(父上や母上の心配が段々分かって来た。
目を離したらいけない子供っていうのは、確かにいるんだ。
跳び出していって、何をするか読めない子ってのいうのは、不安なものだね。
今になって実感してますよ。
まあ、相手は子供じゃなくて、いい歳をした成人女性な所が度し難いが)
と感慨深げにする。
そして
(あの演奏旅行は、将来金を稼ぐ為のものだった。
先行投資って、こっちの時代では言ってるね。
でも、今回の私たちは旅行そのものが金を稼ぐ手段にもなっている。
私も金を稼ぐ事には無頓着、使う一辺倒だったけど、金の稼ぎ方にも色々あるんだなあって学べたよ)
そう天の父母に向かって思う。
それが届いたかどうかは分からない。
旅行そのものが金儲けの手段、それは迷子対策だけでない、送られて来た今後の事についてのメールを見ればよく分かるだろう。
「空港でのお出迎えの際の作法」
「ホテルでのファンクラブイベントにおける、ファンとの距離についての注意事項」
「海外ファンとの接し方、特に撮影を求められた場合の対応について」
「同じ飛行機に乗り合わせた場合の対応」
等等、移動の最中から仕事であり、移動するだけで金が動くのである。
時代は変わったものだ、と思いながら優子はメールをそっと閉じた。
とりあえず、次の文章が軽く気に障る。
そんなに簡単なものか! と思ってしまった。
その内容とは「飛行機恐怖症、高所恐怖症の対処方法について」であった……。
おまけ:
こういう計算をしました。
2009年AKB48のパリ公演を参考にする。
3泊5日のスケジュールで、費用は24万8000円(2名1室利用の場合、エコノミークラス利用)
この24万8千円は、旅費(航空運賃、宿泊費、その他諸経費)+「イベント参加料」。
イベント参加料は変わらないものとして、旅費を現在の物価上昇で計算。
面倒だったので、AI君投入。
248,000 = 150,000(2009年の旅費)+98,000(イベント参加費)
これを
為替レートの上昇分: 150,000円 × (160円/130円) - 150,000円 = 約34,600円
燃油サーチャージ、現地の物価上昇など: 諸費用として30,000円の上昇
2025年の旅費 = 150,000円 + 34,600円 + 30,000円 = 約214,600円
2025年のツアー総額 = 214,600円 + 98,000円 = 約312,600円
そして、運営や日本の旅行会社の取り分がそのままなわけないので、この31万をベースに一人あたり4万円上乗せしたのが、作中の35万円という価格設定になりました。
ネット小説書くにあたって、こんな計算とかしてしまった……。
(コロナ以降、海外公演少なくなったし参考価格が古いものしかなくて……)




