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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
偶像(アイドル)でもあり創造者(クリエイター)でもあり
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可愛いのプロ

 とある人の話である。

 とあるテーマパークでパレードをやっていた。

 カップルの男性が

「あの中には人が入ってるじゃん。

 あれ、実際はキモいハゲオヤジが入ってるかもよ」

 と、パレードに盛り上がる彼女を茶化す。

 しかし彼女は言った。

「中に人がいるなんて知ってるけど、今言う必要無いでしょ!」

 そして、中の人はどうでも良いと割り切り、今そこにある「可愛い」を楽しんだという。




 女性は可愛いものが好きな人が、男性よりも多い。

 だからといって盲目になってはいない。

 例え着ぐるみの中に人がいると言われて

「そんな事ないもん、うえーん」

 なんて返す女子でも、実際はちゃんと分かっている。

 分かっていて没入しているのだ。

 可愛いぬいぐるみは、デザイナーが考えたもので、外は単なる布、中は綿。

 可愛いデザインのアニメキャラも、描いているのは下働きのアニメーター。

 そんな事はどうでも良い!

 自分が見ている前で可愛さが破綻していなければ、それで良いのだ。


 今回、夏限定ユニット「カプリッ(チョ)」をプロデュースしている照地美春も、その辺は分かっている。

 彼女はかつて、いじめを受けていた。

 女性は身近にいる「ぶりっ子」が嫌いなのだ。

 しかし照地がアイドルになり、遠い存在になる。

 すると一転し、照地はチヤホヤされ出した。

 最初は以前同様に、今さら態度は変えられないと距離を置いていた人も、照地が活躍するようになり、テレビの画面の中の人になっていくと

「ごめんなさい、謝ります」

 と言って、負けを認めるが如く、以降は照地のファンとして接してきた。


 照地美春は可愛いものが大好きだ。

 だが、可愛さをプロデュースするにあたり、本人の嗜好だけを反映させてはいない。

 冷静に、自分の経験も踏まえて

「可愛いキャラは、現実を見せるようなものではいけない。

 遠い世界の、夢のような存在で良い。

 切り離して考えよう」

 と思ってプロデュースしていた。


 なお、本人は真正のぶりっ子である、優子他後輩を猫可愛がりし、幼女を見るだけでも癒されるという部分はリアルなものである。

 決して計算ではない。

 計算は、あくまでもステージ上でのパフォーマンスだけである。




 カプリッ女のフェス出演も今日が最終日。

 この日は自分たちの仕事で調整が出来た為、天出優子と照地美春は現場に来て、カプリッ女の雄姿を見ようとしていた。

 だがこの日の見物者は彼女たちだけではなかった。

「戸方先生!

 来て下さったんですか~?」

 照地が嬉しそうに叫ぶ。

 カプリッ女メンバーは緊張しながら礼をしていた。

 そうしたメンバーに一言ずつ声を掛けた後、戸方は照地に話しかけた。

「照地さん、よくやったね!

 君の可愛いは完璧だったよ!」

「ありがとうございます!

 嬉しいです!」

 言葉と表情に乖離はない。

 照地は本当に嬉しそうで、幸せそうだった。

「天出さんも良い曲作りましたね」

「何回もミハミハさんにやり直し食らいましたけどね」

「いや、それで良かったよ。

 実に可愛い曲に仕上がりました。

 これは本当に、照地さんのプロデュースが良かったですね」

 そして

「今日は僕も見ていくからね。

 ああ、緊張しないでって言っても無理かな。

 じゃあ逆に、僕が見ているから気合い入れて頑張ってね」

 そう言って、楽屋から去っていった。

 廊下では関係者と思しき人たちから挨拶を受けている。

 そして色んな人たちに囲まれながら遠ざかっていった。


 やがてパフォーマンス開始。

 この日は、照地美春もステージに立っている。

 元々カプリッ女は新人や姉妹グループメンバーで編成される為、都合が合えば人気メンバーも加えてパフォーマンスをするグループである。

 今回はプロデューサーが現役メンバーという事もあり、優子と照地のどちらか、もしくは両方がステージに立っている。

 たまたま2人とも都合が悪く、かつフェススタッフがどうしても人気メンバーも加えた形でパフォーマンスして欲しいと言われた時があり、その時はカプリッ女初代メンバーであった富良野莉久がステージに立った。

 という経緯もあり、今日は照地が後輩たちとステージに立ち、優子は舞台袖から眺める形になっている。


「やっぱり勉強になりますね」

 いつの間にか優子の背後に戸方Pが立っていて、そのように呟いた。

「戸方さん!

 びっくりした……。

 で、どういう事ですか?」

 優子が小声で戸方に問う。

「僕はね、男性なんだ。

 可愛いっていう感性が、女性とは違うって自覚してる。

 ドイツから招待されるより前に、君たちを使う事にしたんだけど、こういう僕とは違う感性を見られるのは気持ち良い事だね。

 まして、ドイツの音楽祭、スケル女(うち)はアイドルらしさ、可愛さを押し出していくから、照地さんのプロデュースは実に勉強になるよ」

 その答えに、優子は

「あ、スケル女(うち)はその方針という事は、フロイライン!(あっち)は違うんですね」

 と聞き返した。

 戸方は黙って頷く。

 フロイライン!は「アイドルもクラシックのような表現を出来る」と、あくまでもスキルを見せる事にこだわるようだ。

 ある意味彼女たちらしい。

 そして戸方は

フロイライン!(あっち)のプロデューサーが、君に会いたがっていたよ」

 と告げて来た。

 どんな人だろう?

 同級生の武藤愛照(メーテル)に聞いてみようか。


 それは後の事にして、ステージに視線を戻す。

 ステージ上のメンバーは、全員がぶりっ子なわけではない。

 顔は系統として可愛い系で、大人っぽい美人系はいない。

 見た目以外だと、リーダーの今長昇佳(のりか)は「歌う哲学者」なんて言われるちょっと難しい人物、変人集団アルペッ(ジオ)から選ばれた最上妃芽(ひめ)は何故か全身に武器を仕込んでいる危険人物で、中身まで可愛いとかお世辞にも言えない。

 しかしステージパフォーマンスは、実に可愛らしい。

 常に笑顔、足運びはちょこまかとしたもので、ターンする時は手を拡げて「天からの祝福を受けて、喜んで回る」感じ(照地美春の表現)である。

 仕草一個一個を照地が指導し、それを徹底していた。


 例えよう。

 某テーマパークの毎日夜に行われるパレード。

 あれに手抜きがあるか?

 可愛いだけで十分という事はない。

 きっちりとそのキャラになり切って、見る者に夢を与えるのだ。

 失敗をしてはならない。

 夢の世界に最後まで居させて、現実感を見せてはならない。


 こういうのは経験が大きい。

 何度も何度も足を運んで「可愛い」を見続けた女性ならではだろう。

 一回見たから、何度も見る必要ないだろ? と飽きてしまう男性の視点ではない。

 だからこそ、完璧を求められるメンバーも反発せずにやってのけた。

 可愛いを妥協しない。

 こういうのを見られたのは、戸方もとって大いに勉強になったと言う。


「天出さんにも勉強になったんじゃないか?」

「え? まあ……」

「君は、なんか分からないけど、感性が男っぽいよね。

 可愛いものを評価はするけど、大してこだわっていない。

 キャラクターグッズとかも持たないし、アクセサリーも実用一辺倒……って言ったら語弊があるなあ、アクセサリーそのものは実用品じゃないから。

 アクセサリーは綺麗に見えるもの重視で、人形がついてるとか、誰かとの絆の物を愛用するとか、そういう『可愛げ』がない」

(…………。

 まあ、言われてみればそうかもしれない。

 私は男だった時の人格が消えずに残っているし、だからか、ミハミハさんや灰戸さんのようなこだわりのアイテムには興味がない。

 可愛いを何となく理解はしたが、それに染まってはいない。

 だから、確かに勉強になる。

 灰戸さんからも、ミハミハさんからも「勉強するんじゃない、感じるんだ」って言われてはいるけどね)


 まあ、そもそも興味が無かった「可愛い」を、理解出来るようになっただけで十分だ。

 それを完全に身につけるより、勉強して、それを活かして音楽祭とかに使おう。

 この夏の「カプリッ女プロデュース」で、18世紀の音楽家は未知の分野に挑み、完全には吸収しきれていないものの、それを活かす事となるのだった。

おまけ:

あくまでも一般的な感じで男性、女性と書いてます。

男性でも可愛いもの好き、そういうのに目がなく妥協を許さない人がいるのは知ってます。

女性で全く興味ない人がいるのも知ってます。

(某アイドルはイルミネーションを「ただの電球」と言ってましたし)

そういうのを一々反映させていたら話が進まないので、細かいジェンダー論は抜きにしますね。

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