(番外)天才・秀才・凡才・奇才
世の中の大半は凡才である。
というのも、一番多い層を「平凡」としているのだからだ。
そこから優れた方に突出している人たちを「秀才」と呼ぶ。
だが、凡才の上位互換の秀才とは違い所に「天才」と呼ばれる人たちがいる。
音楽で言おう。
スケル女プロデューサーは自分でも凡才と認めている。
作る曲は平凡で、音楽的な技術で特異な事はしていない。
だが、だからこそ売れたりもする。
また、足りない部分を他の優れた人に補ってもらい、曲をより良くも出来る。
フロイライン!の現プロデューサーと、彼が抱える作曲陣・編曲陣は秀才だ。
スキル特化のフロイライン!のメンバーに合う、ギミックを用いた曲を創り出せる。
16ビートだ、フェイクだハモりだ、表拍と裏拍だ、と歌手にも技術を要求する。
そしてフロイライン!の曲は、好きな人は物凄く好きだが、一般受けとなるとスケル女に一歩及ばなかったりする。
そのスケル女の中で、天出優子は「天才」と言われる。
この女性、前世はかのモーツァルトで、その人格と才能を持ったまま転生したのだが、ゆえに天才っぷりは群を抜いていた。
複数人で創り出す楽曲を、彼女は一人で創れる。
しかも脳内に出来上がったものを楽譜に起こすのが作曲である為、速度も半端じゃない。
前世では紙の楽譜に書くのが億劫な事もあったが、現在のデジタル化に対応した為、前世以上の作曲速度となっていた。
モーツァルトは努力も惜しまない天才であり、死後から現代までの音楽知識は全て吸収済みだ。
新しい音楽も含めて、息をするように曲を創り出せる。
彼女がたまに苦戦するのは、アイドルゆえの文化があり、それに合わせてダウングレードする必要があるからだったりする。
フロイライン!初代プロデューサー「イリたん」も、天才に近い。
ただし彼は「奇才」というカテゴリーにいるかもしれない。
西谷霊樹は沖縄生まれで、地元の音楽からアメリカの音楽、日本のポップミュージック等を聞いて育ち、高校生になるとバンド活動を始めた。
その時から、どこか他の人とは違う曲を作っていて、それが個性となっていた。
その後、関西の大学に進学し、そこで事務所に所属してメジャーデビュー。
とあるテレビ番組の企画から、素人の女の子を集めてアイドルグループを作り、プロデューサーをする事になる。
だから初期は、素人でも歌えるような、いかにもなアイドルソングを作曲した。
初期フロイライン!曲は穏やかなバラードや、明るい王道ソングばかりである。
しかし、それでは売れないし、没個性であった。
売れなくてもグループ活動が長くなり、メンバーのスキルが伸びて来た事を認めると、イリたんは次第に個性を出し始める。
ある時は沖縄民謡調、ある時はバブル期のディスコ調、ある時は演歌風と、様々な曲に独特のワードセンスを合わせた、他とは違う音楽を提供する。
その内の何個かがヒットし、フロイライン!はスケル女結成前は「国民的アイドル」と呼ばれる存在に成長したのだ。
しかし、このイリたんはビジネスセンスが無い。
基本的に自分が作りたい曲を作るのだから、当たりハズレがある。
音楽的には上質だ。
しかし、売れ筋ではなかったりする。
そうして彼は、フロイライン!をもっと売り出したい事務所の意向により、現プロデューサーと交代する事になった。
基本的にお人好しなイリたんは
「まー、仕方ないですね」
と気にせず、楽曲提供だけになっても不満を漏らさなかった。
後を継いだ「秀才型」プロデューサーは、イリたん時代の売れ筋を分析し、それを活かしつつ流行の曲調とも合わせ、「フロイライン!っぽい」音楽を創り出していた。
また二代目プロデューサーはメンバーからの意見もよく聞き、望む形の曲やセットリストにする事も多い。
フロイライン!の特徴である「メンバーが偉そう」というのは、こういう部分からも見て取れた。
ゆえに基礎を築いたのが初代、それを発展させて「らしさ」を確立させたのが二代目という位置づけとなる。
そしてイリたんは気落ちする事もなく音楽活動をしていたが、最近は重病を患ってしまい、故郷で静養していたのだった。
「お久しぶりです、西谷さん」
「おひさ~。
僕も東京で飲むの久しぶりだよ」
スケル女プロデューサー戸方風雅と、フロイライン!初代プロデューサーイリたんが、高級レストランで会食をしている。
元々物理学者の卵だった戸方が、音楽の世界に入った時に世話をしてくれたのがイリたんである。
双方がプロデュースしたグループはライバルと看做されていたが、中の人たちは案外仲が良い。
この2人も、頻繁ではないが、こうして話をする間柄であった。
「復帰されるそうですね」
「うん、こんな面白い事は、そうそうないから」
面白い事とは、スケル女とフロイライン!がドイツの音楽祭に招待された事である。
クラシックを至上とする連中に、日本のアイドルというものを見せつけてやる!
その面白さが、病み瘦せこけたイリたんを突き動かしていた。
数日に一度、通院して治療しなければならない病人とは思えない程に、覇気は放ち、肌色も血色良くなっている。
食欲も戻ったようで、提供される料理もぺろりと平らげていた。
「お願いがあるんだけどさ、聞いてもらえるかな?」
「何でしょう?」
「音楽祭では、フロイライン!を先に歌わせて」
「それは容易い事ですが……。
理由を聞かせてもらっても良いですか?」
「うん、それはね……」
イリたんは語り始めた。
彼の書いた曲は、ヒットしたものも、そうでなかったものを多彩である。
それだけだと、ただの当たりハズレがある作曲家なのだが、彼が「奇才」と呼ばれるのは理由があった。
その時売れなかった曲でも、後日評価されたり、歌手を替えてヒットしたりする事がある。
リリースした時点で「早過ぎた」と言われる技法を使った曲もあった。
数年後にはどのグループもしている声の電子化とか、劇のような台詞読みとかも、最初にやった者は「何を変な事してるんだ?」と言われてしまう。
そういう人が書いた曲には、クラシックでもそのまま使えそうな楽曲や、神秘的な旋律の曲があったりする。
「僕は改めて曲を書かない。
既にヨーロッパに持っていける曲はいくつもある。
それを磨く事に専念する」
酒は流石に投薬の関係上飲めないから、ミネラルウォーターを流し込みながらそう言った。
「でも、これはアイドルを認めさせる事にはならない。
僕の音楽を認めさせる行為だし、女の子たちはクラシックに片足突っ込んだ曲を歌うものだ。
それだと足りない。
でも、僕はこのやり方でいきたい。
アイドルを認めさせるというより、うちの子たちはこんなに凄いんだ! って見せたいんだ」
一息入れる。
戸方は流れから、自分に要求されている事を察した。
「では、アイドルという存在を認めさせる役割は、スケル女に任せると?」
「うーん、どっちもアイドルを認めさせる行為には変わらないと思うんだけどね。
アイドルでもお前らが望むような音楽は出来るんだぞ、っていうもの。
アイドルという音楽は中々良いだろう、っていうもの。
両方ね。
で、それからしたら、フロイライン!が先の方が良いと思うわけ」
「そうですね。
後の方に、クラシックの方に合わせたアイドルを見せたら
『なんだ、結局クラシックに寄せて来てるんじゃないか!』
と思わせ、彼等に認めない理由を与える事になりますな」
「だからさ、後の方をお願い。
うちらで思いっ切りハードル高くしとくから、それに負けない王道アイドル曲をお願い」
「ははは……、実に迷惑な事です」
「いや、出来るでしょ。
君のところには、面白い子がいる」
「……天出優子の事ですね?」
「うん、あれは面白いよ。
僕ね、彼女が兼任参加した時の、アルペッ女の沖縄公演観に行ったんだ。
その時は、沖縄な曲はまだ魂が足りないなって思ったんだけど、アレってたった数日で作ったんでしょ?
そして本人が、あれではダメだって思ったって言うんでしょ?」
「よくご存知で」
「天出さんの同級生がフロイライン!に居るから、話を聞いたんよ。
で、その子から色々と話を聞いてね、こりゃ面白いって思いました」
「天出さんに可能性を見い出しているのは、僕も同じです。
ただ、今回は彼女の力は借りますが、僕がやろうと思ってます。
西谷さんじゃないですけど、こんな面白い事、他には渡せませんよ」
「それでええんちゃう。
君がしたいようにするのが正解よ。
でも、僕はあの天出さん、曲を作る方でも、パフォーマンスをする方でも、ヨーロッパの連中に衝撃を与えられる存在になると思ってるのよ。
だから、君もだけど、高いハードルを楽々飛び越えて、ヨーロッパの連中をぎゃふんと言わせるコンサートに出来るって思ってるんよ」
「そうなるよう、努力しますよ」
「つまらん答えやなあ。
ヨーロッパなんて、けちょんけちょんのギッタギタにしてやる、くらい言うてや」
そう言って笑い合うと、彼等はデザートを口にする。
そして最後にイリたんはこう言った。
「いつか、天出さんに会わせてね。
じっくり話をしたいのでね」
話題に挙がった天出優子が、くしゃみをしていたかどうかは分からない。
おまけ:
フロイライン!初代プロデューサーの名前は
「西」崎義展
円「谷」英二
松本「零」士
田中芳「樹」
を合わせた上で、沖縄読みしました。




