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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
偶像(アイドル)でもあり創造者(クリエイター)でもあり
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珍道中

 昨年、アルペッ(ジオ)は台湾・香港での海外ツアーを行った。

 スケル(ツォ)の姉妹グループとして初の事で、全国ツアー成功のご褒美とも言えた。

 その様子が地方限定ながら、テレビ放送された。

 まあ、ネット配信がある昨今、ローカル放送でも視聴は可能なのだが。




 元々ファンクラブ限定のDVDで見られるだけの予定が、テレビ放送になるまでには過程がある。

 それはアルペッ女全国ツアー序盤の沖縄公演に始まった。


 当時兼任メンバーであった天出優子は、「音楽の天才」と言われている。

 スポーツでポンコツぶりを披露していたが、ライブでは完璧な立ち回りをしている。

 東京在住の問題児、長門理加・筑摩紗耶の暴走を封じる役すら担っていた。

 そんな優子が、思わぬ醜態を晒す。

 それが羽田空港での事だった。

 彼女は途中までは、いつも通り完璧だった。

 だが、飛行機が離陸する前から挙動不審になる。


「自動車は分かる、これは馬車の延長だ、エンジンが馬に代わっただけだ。

 船は分かる、古来ああいう形のものは水に浮かぶものだ。

 だけど、飛行機は嘘だ。

 こんな鉄の塊が、本当に空を飛ぶものか!

 見上げると飛んでいるもの、あれは、そうだ、日本にしか住んでいない謎の鳥なんだ!

 そうだよ、こんなものが空を飛ぶはずがない……」

 そうブツブツ言いながら、小刻みに震えている。


 天出家は家族旅行もする方だが、基本陸路移動であった。

 自家用車なり鉄道移動なりである。

 彼女はこれまでに、飛行機に乗った事は無かった。


 天出優子(モーツァルト)の前世において、陸路の馬車、海路の船が見た事があった。

 しかし、飛行機は影も形も、前身となるものすら存在していなかった。

 一応モンゴルフィエ兄弟による気球の発明は、モーツァルトが生きている時期にあった。

 しかしモーツァルト自身は気球に乗った事も、見た事もない。

 ゆえに空路というものへの潜在的な不安が、今になって噴出したのである。


 天出優子として現代日本に生を受けて15年、テレビで見て、本などで学んで飛行機というものを知らなかったわけではない。

 しかし、自分が乗るとなった時、急に一切が信じられなくなったのだ。


「長門さんと筑摩さんが正しかった……船で行くべきだった……どう見てもこれは自動車より重いだろ。

 こんな重い物が空を飛ぶなんて有り得ない……」

「師匠!

 お気を確かに持って」

「呼吸を整えましょう。

 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

「息を整えたら、10分間息を吐き続け、10分間吸い続けるんです」

「待って、それは違う呼吸法。

 優子ちゃんもしなくていいから!!」


 こんな感じの無茶苦茶なやり取りが機内で繰り広げられた。

 そして帰りは、既に那覇空港到着時点でおかしくなっていた。

「今からでもフェリーに変更出来ませんか?」

「フェリー、良いですね!

 師匠、私もお供します!」

 こんな光景を見ていたスタッフが

(使える……)

 と閃いた。

 そして、全国各地を巡る変人たちの珍道中を撮影し、撮り溜めてDVDにして販売しようと考える。

 だが、最初の沖縄公演の往復で醜態を晒した天出優子は、それ以外の場面では普通に振舞って、どうにも面白くない。

 アルペッ女のメンバーが変人なのは、知る人は既に知っている。

 それに他所行きモードだから、普段よりも大人しい。

 企画はボツ、単にグループの公式チャンネルでの配信になろうとしていた。


 そこに海外ツアーの話が沸き上がった。

 戸方総合プロデューサーが、全国ツアー成功の見込みを受けて、海外にオファーをしたら台湾と香港で公演可能となった。

 それを広島のスタッフに伝えたところ、

「珍道中DVDが撮れる!」

 となったのだ。


 完璧超人天出優子は、飛行機不信で高所恐怖症、パニックに陥ると時代錯誤な事を言い出す。

 完璧ゆえに、ギャップ萌えというのもあって面白い。

 他のメンバーも、海外という事もあって、変人ぶりを爆発させるかもしれない。

 制御不能になるのはまっぴらごめんだが、上手く良さを引き出せるなら……そういう皮算用であった。

 結果は想像以上だった。




「ここは海に浮かんでいる島?

 有り得ない、有り得ない。

 そこにあんな鉄の塊が下りて来るなんて信じれない……」

 メンバーと合流する為に、関西国際空港に到着した瞬間からパニックになる優子。


「皆いますか?」

「筑摩さんがいません!」

「どこ行った????」

 集合時間を守らず、観光夜市のあらゆるメニューを食い尽くす勢いで食べ、どこかの屋台に引っかかっていた筑摩紗耶。

 なお、懲りずに夜にホテルを抜け出し、午前2時まで食べ歩いて香港公演での衣装がぱっつんぱっつんになってしまう。


「皆いますか?」

「長門さんがいません!」

「どこ行った????」

 朝から開いている豆乳かき氷の店に潜っていた所を発見される長門理加。

「黒糖とマンゴーもいけるっすよ」

「そんな事聞いてないから、さっさと荷物まとめて空港に向かうぞ」


「皆いますか?」

「秋津洲さんがいません!」

「どこ行った????」

 鉄道好きが高じて、高速鉄道に乗って高雄まで行ってしまった秋津洲由美。

 台湾から香港への出発時間に間に合わない為、彼女は別便で合流という事になった。

「酷いですなぁ、自腹だなんて。

 しかし、ここでしか見られない鉄道が見られて、お金には替えられないでござるよ、ぐふふ」

 どうにか香港公演までには間に合ったのだが。


「皆いますか?」

「リーダーがいません!」

「どこ行った????」

 台北の青年公園で太極拳の演舞を見学し、何故か地元の武闘家と一手手合わせという流れになり、

「私は名を継げなったとは言え、流派は千年不敗。

 私が敗れては先祖に申し訳が立たない」

 と、奥義を使ったのか内出血をした左手を抱えながら帰って来た陸奥清華(さやか)

「なんか、暗殺稼業をしていた一族とかで、ルゥとかなんとか言ってたなあ。

 呂雉(ルゥヂィ)とか言ってた女性拳士だったけど、かなりえげつない戦い方をして来た。

 勝ったけど、勝ち逃げは許さんとか囲まれた。

 なんか一族で一番偉そうな爺さんがその場を収めてくれたけど、いつか再戦を……」

「いいから黙って治療させなさい。

 そんな腕でライブする気ですか?」

 結局香港公演では、包帯グルグルで参加し、現地ファンから心配される事になる。


「皆いますか?

 …………。

 君は誰ですか?」

「駒橋アル」

 香港で京劇を見て、そのメイクと衣装で現場に現れた駒橋杏。

 怪我の功名か、衣装は流石に無理だが、京劇メイクで公演に出たら妙にウケてしまう。

 現地マスコミからも取材を受け、広東語は話せず難儀していたが、彼女は香港では人気メンバーとなるのだった。




 等等、使えないものもかなりあったが、概ねこんな感じの珍道中で撮れ高満載であった。

 編集していて笑えて仕方がなかった。

 まあ、振り回されたスタッフ、マネージャーは

「あの連中を野放しにして良い、自由に振舞わせろって言った結果がコレです。

 本当にしんどかったです。

 もう二度とこんな企画しないで下さいね!」

 とゲッソリした表情で文句を言っていたが。


 なお、台湾・香港公演を取材する為に同行した広島のテレビ局スタッフが、この珍道中の商品化を耳にして

「あの珍道中を収録していたんですね。

 言って下さいよ。

 是非うちで買い取りたいんですが。

 放送したいもので」

 と言って来た。

 買取金額ですったもんだあったが、結局戸方Pの調整で落着し、瀬戸内一帯でのテレビ放送という運びになる。


 そしてオンエア。

 ネットでも拡散され、編集の結果かなりマイルドにはなったものの、アルペッ女の変人ぶりは広く知られる事になったのだ。


「一緒にしないで欲しい……」

 嘆く優子だが、そもそものきっかけゆえに、変人一派扱いは仕方ない事だろう。

おまけ:

作者は台湾は10回くらい行っているので土地勘がありますが、

香港は1回も行った事がないのでエピソード作れませんでした。

あと、陸奥さんと台湾の某家のネタは、以前から温めていたものです。

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