アイドルも恋バナ好き
(私はなんでここに居るんだろう……)
天出優子は東京に居るのに、何故か広島のアイドルグループ「アルペッ女」のメンバーに囲まれていた。
まあきっかけは、夏フェス限定ユニット「カプリッ女」に、姉妹グループから加えるメンバーオーディションの為、メンバーが上京して来た事である。
これに東京在住の長門理加、筑摩紗耶が合流し、学校に押しかけて優子を拉致同然に連れ去ったのである。
普段なら守ってくれる「白馬の騎士」こと堀井真樹夫と「暗黒卿」伝統芸能のドラ息子だが、アルペッ女メンバーを見た瞬間、回れ右して逃げてしまった。
彼等は、この変人グループのヤバさを知っているので、関わり合いになりたくなかったのだ。
この日は武藤愛照がフロイライン!の仕事で終日欠席していたので、哀れ優子は助ける人なく、一人変人たちに攫われてしまう。
「皆さん、酔ってます?」
優子が呆れながら聞くと
「ウーロン茶で酔うわけないじゃん、ギャハハハハ」
「そこのねーちゃん、今度はジャスミン茶1杯、あと君の胸を〇っぱい、なんちゃって!」
「お冷だ!
水をピッチャーで持って来んかい!」
「ここにタッパーがある。
ピッチャーとタッパーの二刀流、なんちゃって、ガハハハハ」
と、どう見ても出来上がっている返答が戻って来た。
なお、本人たちの言う通り、アルコールは一滴も入っていない。
この回は、オーディションが終わった打ち上げらしい。
アルペッ女だけでなく大阪のアダー女、更にはスケル女の後輩研究生も加わっていた。
二十歳未満のメンバーもいるから、アルコール無しのファミレスでの食事となったようだが、どう見ても厄介な酔っ払い集団にしか見えない。
そしてアルコールの有無はともかくとして、こういうテンションの女子が多数集まると、こんな話が出始める。
「ねえ、師匠。
あの彼とはどうなの?」
筑摩がテンション高く絡んで来た。
「彼?
何の事ですか?」
「あのピアニストの彼よ。
世界大会で2位とかじゃない。
将来有望ですよ!」
周囲が一気に盛り上がり始める。
「いや、堀井君と私はそういう関係じゃないです。
単なる同級生かつ、作曲を指導する、されるの関係です」
「でも、彼が師匠を見る目が優しさに満ちていたよ。
あれはまさしく天上の愛!」
「違いますから」
「じゃあ、もしかしてあの伝統芸能の彼?」
長門が話に割り込んで来たが、この問いには優子も食い気味で
「無い!」
と断言。
堀井の時との温度差に、長門と筑摩もこっちは可能性ゼロと判断。
それでも
「あの子も、この前良い脚本書いたとかで、テレビで取り扱われていたじゃない」
「無い!」
「家柄的にも、将来困らないよ」
「無い!」
「悪ぶってるけど、中々有望株だと思うよ」
「Nein!」
優子は途中から否定とドイツ語で言っていたのだが、「無い」と発音が似ていた為、アルペッ女の面々は気づいていなかった。
「ところでさあ、妃芽ちゃんもマネージャーとどうなったの?」
本日オーディションを受けに上京した、後輩の最上妃芽に突如着弾。
振られた子も困惑する。
「マネージャー?
何の事?」
この子は後輩ではあるが、年齢的には筑摩よりも上なので、双方がタメ口で話す事にしたらしい。
「男性マネージャーが、『俺、あいつに惚れられたかも』って悩んでたよ」
「なにそれ、自意識過剰!」
他のメンバーも食いついてくる。
「なんか、『貴方しかいないんです!』って言ったとか」
キャーと騒ぐ面々。
「いや、それは誤解。
断片だけ切り抜かないで」
「きっかけはどうでも良いの!
で、実際のところどうなの?
あの人、おじさんだけど、いい感じじゃない?」
「……殺しますね」
「待った!
ベアークローしまって!
私が悪かった!」
後輩とはいえ変人集団の一員、実際はアメコミヒーローの鉄の爪なのだが、何故か常備して歩いていた。
なお彼女は、自転車が趣味ではあるが、その車輪から外したスポークが武器になっていて、あまり怒らせると
「地獄に堕ちろ!」
と襲ってくるらしい。
「あれ~?
皆、久しぶり~」
本当に偶然で、スケル女OGの灰戸洋子と店内で遭遇した。
灰戸はファミレスでなく、もっとグレードの高い店に行きそうなものだが、この時は「コラボした限定スイーツとノベルティグッズ」目当てでやって来たのである。
彼女はアルペッ女兼任していた事もあって、メンバーの変人っぷりはよく知っている。
アルペッ女メンバーも、スケル女グループの大先輩という事もあり、立って礼をした。
「ああ、大丈夫。
そういうの要らないから。
で、誰が誰を好きだって?」
「師匠が世界的ピアニストの彼と」
「おい……」
「優子、素が出てる。
堀井君でしょ?
彼とは無いんじゃないかな。
優等生と優等生のカップルって、案外プラトニックなものなのよ。
そうなると、ちょっと不良っぽい男性に攫われていって……」
またもキャーっと盛り上がるメンバー。
「やっぱり、あのチョイ悪男子が」
「無いって言ってますよね」
「いやいや、いつか情熱的に抱き着かれて、君が好きだって言われて……」
この一言は、優子のトラウマを呼び起こしたようだ。
目潰しと三半規管破壊で撃退はしたが、不快な事に変わりはない。
「最上さん、何か私も使える兵器持ってない?」
「紫外線照射装置なら……」
「それで良いわ。
筑摩さん、望み通り天に滅してあげますね」
「はい、ストップ!
物騒な物使うのはやめましょうね。
こういうトークは、笑える範囲で留めるのがルールだよ」
灰戸が優子と筑摩、双方を窘めた。
その後もメンバー間の恋愛トークが続く。
優子は聞いていて、ちょっと不安になった。
「灰戸さん……スケル女グループって、恋愛禁止ですよね」
「そうだよ。
だから優子なんかが、他のメンバーにセクハラしてるのは黙認してるんだ。
男作られるより、メンバー間の方がマシだって」
アルペッ女の若手はちょっと引いている。
先輩たちは、前に一緒に活動した時に、自分たちには手を出して来なかったから、大して脅威に感じていない。
なお、同僚の水着写真集をウヒョウヒョ言いながら読むのは、彼女たちも同類なので気にも留めていなかった。
「こういう話、まずいんじゃないですか?」
「本当の恋愛だったらね。
でも、どうせ口だけだから。
恋に恋するお年頃ってやつよ~」
「そのお年頃って割に、年齢がいってるような気がしますが」
「何か言った?」
「いや、三十路の灰戸さんの事じゃないです!」
優子が慌てて否定する。
灰戸はともかく、こういう話ではしゃいでいるのは二十歳超えが多く、年少メンバーは前のめりではあるが、そこまで騒いではいない。
「女の子は、何歳になっても恋がしたいの!」
(いや、恋をしたいってのは前世でよく知っている。
でも、こういう子供っぽい恋じゃなく、二十歳過ぎた大人の女性は、もっと生々しい、肉体的な恋愛をだな……)
18世紀のヨーロッパの貴婦人、特に「愛人を持つのは上流階級の嗜み」な時代と、現代では違う。
それでも、天出優子には、現代の女性はちょっと幼い感じに思えた。
灰戸はそういう優子には気づかず、笑いながら続けた。
「優子が言いたい事は分かるよ。
こういう話、誰が聞いてるか分からないものね。
雑誌とかに書かれたら大変だし。
でもねえ、女の子に恋話するなっていうのは、流石に締め付けキツ過ぎるわよ。
言論の自由に反するんじゃない?」
一同頷く。
そして灰戸はボソっと
「本命の話なんて、こういう場でするわけないからね」
と意味深な事を言っていた。
とりあえず、大声は程々にしながら恋愛トーク大会は継続された。
(私はなんでここに居るんだろう……)
冒頭の優子の思索に戻る。
中身が18世紀のオッサンな彼女には、何とも言えない面倒な時間であった。
そして、灰戸が合流した事で
(抜け出して帰れない……)
と、結局最後まで付き合う事になってしまった。
そして、ろくに会話に混ざらなかったものの、このトーク会に居た事で、後輩メンバーからもかなり懐かれてしまう、結果オーライな副作用の恩恵に預かるのであった。
おまけ:
元ネタには「この会話、使います」と報告済みです!




