カプリッ女をプロデュース
かつて天出優子も活動していた、スケル女・アダー女・アルペッ女の3グループ合同ユニットとして、カプリッ女がある。
夏フェス専用のユニットで、1年ごとにメンバーを変えていた。
優子は最初の年はメンバー入りしたが、翌年以降は別メンバーが選出されている。
研究生や新加入メンバーのお披露目、姉妹グループからは売り出したいメンバーをアピールする場となっていた為、同じメンバーが選出される事はない。
だがこのカプリッ女、最初の年は注目を浴びたものの、翌年以降はインパクトも薄れてしまった。
新人や地方メンバーが選ばれる、ゆえに人気メンバーが入っているわけではない。
全国区の人気グループ及びその姉妹グループだから、人気が無いわけではないが、運営としてはあとひと伸び欲しいといったところである。
そこで戸方プロデューサーは、またも奇策に打って出た。
「照地さん、天出さん、後輩をプロデュースしてみない?」
プロデューサーに呼ばれた照地美春、天出優子はそんな事を言われる。
当然、顔を見合わせて2人は訝った。
「あの、どういう事でしょうか?」
いつもはぶりっ子で甘えた声を出している照地が、声はそのままだが真面目な口調で問う。
さっきまで握っていた優子の手も離していた。
「簡単に言えば、カプリッ女のマンネリ化を防ぐ為です。
広島のアルペッ女のテコ入れをした天出さんなら分かるんじゃないですか」
話を振られた優子だが、彼女はやる気がある一方で、丸投げ気質のプロデューサーに一言言ってやりたい気分にもなった。
アイドルをプロデュースする人間が、やりたそうだからとアイドルにプロデュースを任せたら、職務怠慢も良いところだろう。
「分かるんですけどね。
本来そういう仕事は、戸方さんがする仕事じゃないんですか?
なんで私たちに、自分の仕事を任せるんですか?」
少し強い口調だが、戸方は平然としていた。
「理由はいくつかあります。
まず君の方ですが、君には経験を積ませたい。
君は女子アイドルや軽妙なJ-POPが好きで、それを楽しんでいるけど、やがてただのアイドルでは収まらなくなる。
早ければあと3年、18歳の大学進学の年齢で岐路を迎えると思う」
これは優子に限った話ではなく、芽が出そうにない研究生は高校進学の15歳、早熟なアイドルだと高校卒業して大学や社会人になる18歳、もう少しアイドル人生を楽しみたい人は大学卒業相当の22歳、そして今後のキャリアを考え出す25歳に転機を迎える子が多いのだ。
「天出さんには僕たちの仕事を分担して貰います。
僕は君をアイドルとしてと同じくらい、アイドルを……いや音楽を創る人として育てたい。
やがては僕の分身のように、色々やって欲しい。
これが理由の一つ目です」
そう言って、今度は照地の方を見る。
「二つ目の理由ですが、照地さん、君は可愛い子をプロデュースしたいよね?
他のメンバーが作詞をしたり、曲を作ったり、演劇を書いたり、サッカーの解説をしたり、バイク雑誌に連載を載せたりしている中、自分だけがアイドル仕事しかしていないので、寂しく思っていますよね」
「え?
なんで分かったんですか?」
戸方は何もしていないようで、ちゃんとメンバーの様子を観察していた。
照地はスケル女でもズバ抜けて可愛い。
顔やスタイルに加えて、雰囲気が可愛過ぎるのだ。
だから映画やテレビ番組出演に引っ張りだこだし、ライブイベントでも「照地さんを出演させて欲しい」という依頼が絶えない。
彼女もそれによく応えているが、その一方で創作的な仕事をしている同僚を羨ましく思っていた事も確かだ。
「照地さんには、後輩を可愛くしてあげて欲しい。
君は可愛い子が大好きだよね。
よく、こうしたら可愛いとか、こんなバッグが可愛いとか、アクセサリーや衣装とかアドバイスしてたよね。
それを大々的にしてみませんか?」
「します!
させて下さい!」
即答であった。
戸方Pのやり方はこんな感じである。
裏事情を知らない人からは「丸投げ」と陰口を叩かれる。
しかし、彼は「仕事をしたくない人」には任せない。
基本的に、そういう事をしたい人に任せるのだ。
無論、自分の仕事を減らしたいという意思はある。
彼は自分にそれ程才能が無いと自覚している。
ゆえに、細部まで抱え込んだらパンクすると、限界をよく知っていた。
彼の才能は、筆が速い、つまり作品を作る時間がとんでもなく短い事だ。
それが多作を可能にしている。
しかし、その精度は低い為、多くの編曲家や監修、振付師、歌唱指導といったチームを必要としていた。
そのスタッフに、仕事を一任している。
任せる質や量が尋常じゃないので、丸投げと言われてしまう。
昨年のアルペッ女全国ツアーの後半、広島のスタッフは
「普通に投票結果に沿って、上位のメンバーにソロやデュオ曲を任せても芸が無いから、何かアイデアが無いか?」
と尋ねて来た。
これはアイデアが欲しかった事に加え、「総合プロデューサーの意思を無視して勝手に突っ走れない」という保身もあったのだ。
だから
「メンバーを間近で見て来た広島のスタッフが考えて」
と拒絶したのだが、それで広島のスタッフは頭を抱えると同時に
「こっちで決めて良いんだ」
と気が楽になった一面もある。
人生で一度、天狗の鼻をへし折られた、というか粉砕骨折して再建不可能になった戸方は、他人の才能に全く嫉妬しない。
優れた才能や、伸びる才能を見つけたら、手助けしてやりたいと思う、教育者的な面もあった。
まあ、金儲けは忘れない、自分でも言う「俗物」さは満載であるが。
曲作りが趣味の優子の事はよく分かっているが、一見ボーっとしていて、ただ可愛いものに目が無いだけの「お人形さん」のような照地美春についても、戸方Pはその裏にあるものを知っている。
彼女は「仲間外れにされる」のが怖いのだ。
彼女の為にも、彼女を創作陣の一員に入れたいと考えたのである。
照地美春は、子供の頃から可愛かった。
皆からチヤホヤされて育った。
だが、可愛くて男ウケするぶりっ子がそのままでいられるのは、小学校中学年まである。
次第に彼女は、クラスの女子の中で浮き始め、中学の時には仲間外れにされる形でのイジメをされたのだ。
形式的な連絡とかはある。
必要な事は手助けする「村八分」というのに近い。
鈍い彼女でも次第に気づいていき、どうしようもない孤独を抱えてしまった。
そんな彼女の心の拠り所は、幼い頃から買ってもらったファンシーグッズの数々であった。
部屋の中で可愛い物を撫で回しながら、通学以外は外出しようとしなくなった彼女。
それを変えようと、彼女の両親はアイドルのオーディションに応募する。
最初は親の手前、嫌々参加した彼女であったが、次第にのめり出す。
自分以外にも可愛い子がたくさんいて、自分が浮いていない。
自信がある可愛い子たちだから、照地美春のぶりっ子に対する「キショ」とか「キモい」という言葉にも棘がなく、単なるじゃれ合いと感じられた。
「私の居場所はここなんだ」
と思った照地は、芸能活動に前向きになった。
人間、貫き通せば何かが変わる。
可愛い、ぶりっ子、これを貫き通してスケル女の一員になった彼女に対し、周囲の扱いが変わった。
今まで無視していたクラスメイトたちが、一転して話しかけてくるようになる。
大らかな照地は、その手のひら返しに対して恨みは抱かなかった。
そうではなく
「やっぱり、可愛いは正義なんだ!」
という妙な信念を持ってしまう。
これが彼女の奥底にあるものだ。
彼女が後輩たちを猫可愛がりするのは、幼少期の自分に対する周囲の態度、またイジメに遭って孤独だった時の可愛いアイテムの扱いなどで、そのようにしか接しられないところがあるからだ。
スケル女には多才なメンバーが多い。
特に天出優子加入以降、創作的な才能を発芽させ、成長していくメンバーが出て来た。
照地は、自分がそれに参加出来ない疎外感を持ちつつあった。
それが成長する前の初期段階で、戸方Pが察知する。
照地には、心身に染み付いた「可愛いもの大好き」から「可愛いものを作り出す」才能がある。
それを使って、後輩たちのプロデュースという「創作」を任せれば良い。
思った通り、照地は喜んでその仕事を受けたのだ。
天出優子は、基本的に何でも一人で出来るタイプの音楽家である。
それに対し、戸方風雅は「工房主」というタイプで、分業型であり、人をよく見て使うタイプの人間だ。
戸方は優子の才能を大いに認めつつ、プロデュースという多くの人が関わる事になる作業において、自分のやり方も学ばせようと思っていた。
だから、優子にも早い内から色々な事をさせよう。
こうして「照地美春・天出優子タッグ」によるカプリッ女のプロデュースで、マンネリ打破が行われる。
先行して知らされたメンバーは
「これ、セクハラコンビによる後輩狩りにならないか?」
と戦々恐々したのだが、それは置いておく事にする。
おまけ:
いつぞや書いた「照地美春には、彼女なりの闇がある」の伏線回収しました(自分で説明してる……)。




