同級生のレベルアップ
天出優子は高校生になった。
元々私立の中高一貫校である為、受験もせずそのまま進学する。
公式ではないが、いわゆる「芸能クラス」であり、活動実績という曖昧なものが評価対象となるが、それでも優子の場合は問題なかった。
全国で通じるアイドルグループの一員であり、学力は二の次、三の次で高校進学となった。
同級生の武藤愛照、堀井真樹夫も実績面で問題がない。
堀井は世界でのコンクールで2位、3位を一度ずつ受賞し、最近では作曲の面でも評価されている。
世界的な知名度には及ばないが、愛照も全国級アイドルグループ「フロイライン!」の一員で、十分な活動実績だった。
まあ、この3人と伝統芸能のドラ息子は、私立の学校法人にとって抜群の功績を残している。
かつての「若手ミュージカル対決」はこの4人から始まった。
それがBSながら全国放送され、4人の評価と共に学校の評価も高まった。
更にこの成功により、この「十代限定で、過去に脚本を書いた事がない完全な新人によるミュージカルのコンクール」は、演劇界と放送局がタイアップして、一企画からは格上げされた協会のコンクールになって毎年開催される事になった。
第2回でも優子の同級生、後輩、更には高等部に通う劇団員の卵がそこそこの活躍をし、学校としては満足がいく状態である。
流石に初代であるこの4人「作曲もこなせる演奏家」「狂気の女優」「若手の癖に慣れている脚本家」「それら全部一人で出来る化け物」のような生徒がそうそういるわけではなく、第2回はインパクト的には第1回に及ばなかった。
ゆえに、この4人の評価は各方面で高いものとなっていた。
「おい、ちんちくりん、あざと女。
これやるわ」
ドラ息子は優子と愛照にチケットを渡す。
優子の身体は全く成長していない。
相変わらず背が低く、胸は小さく、童顔で「小学6年生」と言っても通じるくらいだ。
まあ、醸し出す雰囲気が小学生のそれではなく、直接会えば大人を感じるが、写真だけだとそんな感じである。
一方の愛照は、すらりとした長身モデル体型美人に成長している。
優子と愛照は世間から「ライバル」と見られているが、一方で凸凹コンビ、「C-3P●とR2-■2」のような陰口も叩かれている。
愛照も写真だけ見れば「凄い美人」、テレビやライブでの言動を見れば「可愛いアイドル」なのだが、個人的に知っている者が見れば「猫を何重にもかぶっているだけで、実態は気が強く、かなり攻撃的な女」なのだ。
だからドラ息子は、中学以来「ちんちくりん」と「あざと女」という呼び方を変えていないが、口こそ悪いもののこの2人への評価は年々高くなっていた。
「で、このチケットは何?」
「俺が継ぐ伝統芸能の入場券だよ。
格式高いからな、中々入手困難なものだぞ。
俺に感謝するが良い!」
「いや、それは見れば分かるけど、なんで私たちに?」
「スケル女もフロイライン!も観ているからな。
だからお前たちにも、俺の凄さを見せてやりてえんだ。
(お前たちのコンサートで刺激を受けたし、その感謝もあるが……)」
「えっと、最後の方、声が小さくてよく聞こえなかったけど」
「うっせー、それはどうでもいいんだよ。
観に来いよな。
あと、理事長も観に来るらしいし、サボったのが分かると印象悪くなるかもよ。
俺もお前らも勉強はからきしだから、安心して芸能生活出来るようになるには、理事長とかの評価が良いに越した事はないぞ」
そう言って彼はどこかに去って行った。
「他にもチケット渡す人がいるようだね」
「うわ、堀井君、また急に話に入って来て。
……って、堀井君もチケット貰ったの?」
「ああ。
『俺の凄さを教えてやるから、絶対観に来いよな』
って言われたよ」
「なにがどう凄いんだか。
まあ、うちらはあいつがただのドラ息子じゃない、素の顔は芸に真面目な奴だって知ってるけどね。
悪ぶってるだけの生真面目人間だってさ」
「武藤さん、口が悪い」
「いいじゃない。
あいつ、いつまで経っても、人前でも私の事を『あざと女』とか呼ぶしさ。
貴女もちんちくりん呼ばわりじゃない」
「実際に成長してないから、自分でもそう思わない事もないし……」
「大丈夫さ!
ちんちくりんだろうが、胸ペタだろうが、合法ロリだろうが
『だが、それが良い』って人は絶対にいるから!」
「……堀井君も酷い事言ってるって、分かってる?」
「え? どこが?
天出さんの魅力を語ったつもりだけど」
(だがそれが良い、って思ってる人はお前の事だな?)
とりあえず、3人は連れ立って、この伝統芸能を観劇する事になったのである。
「…………」
(天出さん、何?)
(後で詳しい事教えて欲しい。
私、この劇の主人公の立ち位置、何をした人なのか、さっぱり頭に入って来ない)
(堀井君、私にも)
(武藤さんも?)
(こーのもろなお、って何者よ?)
(高師直はね……、えーっと、今話すと劇に集中できないから、後でね)
この伝統芸能では、新しい脚本での演目が披露されていた。
歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」は、初回上演当時まだ存在していた浅野家や吉良家に遠慮して、江戸時代から室町時代に置き換えて、赤穂浪士吉良邸討ち入りを演劇化したものである。
悪役・吉良上野介の代わりに、高師直がヘイト役となった。
史実の高師直は、室町幕府初代将軍・足利尊氏の執事である。
多くの合戦で手柄を立て、新興の武士たちの支持を受け、権力を握った。
しかし、それが朝廷や伝統を軽んじる「婆娑羅」な振る舞いをする武士を増やす。
高師直本人は婆娑羅者ではなかったが、朝廷や伝統軽視な事には変わりない。
それが、伝統重視の平安時代以来の武家の勘に触った。
伝統と秩序を重んじる武家は、足利尊氏の弟の足利直義の周りに集まり、高師直と足利直義は政敵となる。
それが「観応の擾乱」という内戦に発展し、高師直は滅亡した。
伝統軽視の主君の威を借る狐、「徒然草」を書いた随筆家の吉田兼好に艶書を代筆させたとんでもない人物、と既に死んだ人物だけに、好き放題悪役に描かれる。
さて、この劇ではその高師直の亡霊が、江戸時代の劇作家の元に現れ、己を悪しざまに描きまくる作者を怒鳴りつけ、やがて余りの悪評で死後の世界においても居場所が無いと無念を訴える姿が演じられていた。
肝心のドラ息子は、高師直の無念を受ける作者の息子で、師直の霊が見えないから、傍目にはどんな感じなのを伝える、そこそこ重要だが主役たちのように演技を要求される役ではなかった。
(あいつ、『俺の凄さを見せてやる』とか言って、ちょい役じゃない)
(武藤さん……、彼の役はそこそこ重要な役ですよ)
(堀井君、そうは言うけど、アレは別に奴じゃなくても出来る役じゃない。
主人公と霊は見事な演技力だけどさ)
(主人公はお兄様だよね)
(ああ、天出さんはあのお兄様に気に入られていたよね。
まだファンクラブ続けてるの?)
そんなひそひそ話に、隣から咳払いがされたりする。
ともかく、劇は終了した。
すると、マスコミが舞台に集まる。
そしてインタビューが行われた。
「今回の、歴史上も芸能上も悪役である高師直にスポットを当て、無念を訴えるという脚本ですが、書かれたのはこちらにいる……」
その様子を見ていた優子・愛照・堀井は驚いた。
脚本を書いたと紹介されているのは、同級生のドラ息子。
勉強が出来ないおバカアイドル2人は、歴史背景こそ分からなかったが、内容はちゃんと理解出来た。
劇として決して悪くないし、過去に伝統芸能において悪役である設定も踏まえ、単なるニューウェーブの脚本ではない、過去も踏まえた作品に仕上がっていた。
あれを、あいつが書いたと??
マイクを向けられたドラ息子は、ちらりと優子たちの方を見る。
そして答えた。
「俺の同級生に、結構凄い奴等がいましてね。
そいつらは、ジャンルは違うけど、創作も出来るんですよ。
俺もそいつらに負けたくないって思って、色々書いていたんです。
何個も書いて、父や祖父に見せてはダメ出しされ、今回やっと許可が下りました。
同年代に凄い奴がいると、負けたくないって思った、それが原動力ってやつです」
聞く人が聞けば誰の事か分かる。
その対象の3人は一様にこう思った。
「前から別に低く見ていたわけじゃない。
でも、今日見て思った。
お前、凄いよ、一段二段レベルアップしていたんだな」
クラスでは毎日見かけ、大体が豪快ぶった振る舞い、傲慢な態度でふんぞり返っていた。
そのドラ息子が、実際の姿をよく知る3人からも見えない所で、密かに脚本を書いて伝統芸能に貢献しようと努力していた。
他のクラスメイトと違って、実際の姿を知っていただけに、隠れた努力に頭が下がった3人であった。
おまけ:
インタビュアー「この劇、少しシェイクスピア風の台詞回しや、感情表現もありましたが、勉強されたんですか?」
ドラ息子「いや、特にシェイクスピアは読んでいないです。
俺、勉強はダメなんで英語は読めないし、あんな劇とか見ていたら頭が痛くなりますから。
なんか、悩んでいた時に、こういう表現が下りて来たんですよね。
夢の中で、見たような……」
あの世にて:
シェイクスピア「やっと、自分の表現を誰かに伝える事に成功したわい」
神の使い「それ、天啓って形でやってる人いますけど、多用しないで下さいね。
で、誰に天啓を授けたんですか?」
シェイクスピア「知らん。
誰でも良かったから、適当にやった。
波長がたまたま合った人が拾ったと思う」
神の使い(この人はまったく……)
たまたま受信出来た結果、それが日の目を見た模様。




