アルペッ女全国ツアーも佳境
天出優子は、敬愛する先輩・灰戸洋子の卒業コンサート後に言われた事を、脳内で反芻する。
「いずれただの歌手じゃ収まらなくなる」
その自覚はある。
楽しい音楽、前世で絶対に経験しようもない「女子アイドル」というのを、転生後に満喫しているが、やはり前世で培った才能がうずうずして仕方がない。
だから編曲、更には作曲をしてグループに還元していた。
この時点で既に、ただの歌手では無くなっている。
自分だけの歌を作詞・作曲するならシンガーソングライターというタイプになるのだが、彼女の場合は作詞は出来ないし、自分ではなく他グループ用の曲を作っていた。
作詞は、厳密に言えば出来ないわけではない。
歌詞が仰々しいオペラ調であり、今の若い子に届く言葉で書けないのだ。
だから、ミュージカルの歌なんかは作詞出来たりする。
優子の作曲の恩恵を最大に受けているのは、優子が兼任し、今は全国ツアー中の広島の姉妹グループ・アルペッ女だ。
優子は正体を隠しているから、一部以外は気づいていないが、謎の作曲家と作詞家のコンビによって、一気に持ち歌が倍になった。
そして発売されたアルバムを引っ提げての全国ツアーを行ったが、とりあえず前半……というか全体の3分の2の日程を消化し、47都道府県の制覇を成し遂げたのである。
かなりの強行日程だった為、約一ヶ月半の休みが与えられた。
その休暇中、アルペッ女スタッフは頭を使っている。
後半日程では、各会場で投票して貰ったMVPや、ソロを歌って欲しいメンバーについて集計し、歌割りで起用するのだ。
アルペッ女全国ツアーが人気になったのは、全ての会場で「この会場でしか見られないライブ」を実行した事に加え、後半日程のコンサートは「観客が作る」という、参加型の面白さも理由だ。
それだけに、ただ単に1位の人間を千秋楽で歌わせるとか、そういうやり方では失望される。
もうひと工夫が必要だろう。
この人選について、戸方総合プロデューサーは
「広島のスタッフで決めてよ」
と丸投げしていた。
これは、常に身近で見ていたわけではない為、自分が決めたら単なる人気順にしかならないだろうという判断による。
任されて嬉しくもあり、悩ましくもある広島のスタッフたち。
「ここは、全部ではないけどツアーに帯同し、メンバーをすぐ近くで見て来た、天出さんにも意見を聞きませんか」
という山口チーフマネージャーの提案で、優子もこの会議に参加する事になった。
(本当、便利な時代になったよね)
こういう時に一々広島まで行かずに、オンラインで会議出来る事を改めてありがたく思う優子。
アルペッ女メンバーが疲れていて、回復に充てているように、優子もまた疲れている。
兼任メンバーの優子は、この休養期間中にスケル女のライブの方に参加しているのだ。
まあ、仮に広島に行く事になっても、飛行機や新幹線でずっと疲労少なく移動が出来る。
……どこぞのアルペッ女メンバーのように、あえて夜行バスとかフェリーとか寝台列車を選ぶような事をしないのだから。
優子は、灰戸の言った事を覚えている。
あくまでもスケル女がメインであり、過度に兼任先に入れ込むな、というものだ。
特に誰を選ぼうとか、そういう人事的な事には口を挟みたくない。
戸方Pとは逆に、物凄く近い距離、いわば中に入って見ていたメンバーだからこそ、自分で決めたくはない。
この辺の距離感というのは微妙なもので、遠過ぎると深く知らずに選んでしまうし、近過ぎると色んなものが見え過ぎて非情になれなくなる。
「いや、天出さんに意見を聞きたいのは、ただ単に1位の子を千秋楽で歌わせるやり方ではない、違う方法があるんじゃないか、って事ですよ」
山口チーフマネがそう言い、優子は
「どういう事ですか?」
と聞き返す。
「投票された順にコンサートに出演させる。
それは良いとしても、それだけじゃつまらない。
もう一工夫欲しいのですが、ここは天出さんにも意見を聞こうと思いましてね。
なんとなくですが、君はありきたりではつまらないって思うタイプじゃないかな、って感じましてね」
優子は内心苦笑していた。
性格を見抜かれてるなあ、と。
確かに、投票してセットリストが決まるってだけで、企画は完結した。
しかし、その上をいってこそ、より「楽しい」を実現出来る。
そう思いながら、ふと思いついた事があった。
「ちょっと考えたんですが……」
そして提案された事に、山口チーフマネは手を打って賛同し、南雲支配人は
「ちょっと危険ですね」
と悩んだが、それ以上の妙案もなく、厳重に注意しながらその案を採用した。
アルペッ女の休暇はまだ続いている。
しかし、一部のメンバーには連絡が入った。
「君が投票の結果、大阪会場でのソロに選ばれました」
とか
「投票の結果、東京会場でのデュオを歌う事になります」
というものである。
選ばれたメンバーは、場所を顧みずに狂喜し、大いに迷惑をかけていた。
だが、次の言葉でさらに素っ頓狂な叫び声を挙げる事になる。
「曲は自分で選んでいいし、衣装もデザインとか案があれば、それを用意します。
それ以外でも、やりたい事があれば、言って下さい。
このパートに関して、君のセルフプロデュースを認めます」
優子がこの案を考えた時、内心に
(自分以外にも、プロデューサー目線の同僚がいれば楽だったのに。
馬場さんとか灰戸さんとか、自分でコンサートを決めていたじゃないか)
という思いがよぎった。
そして
(いや、試してないだけで、セルフプロデュースは出来るんじゃないか?)
と思い直す。
かつて優子は、アルペッ女メンバーの内心を聞いた。
「『狂愚まことに愛すべし、才良まことにおそるべし。諸君、狂いたまえ』
『踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損』。
芸能界なんていう、普通じゃない世界に居るのなら、狂ってる、変である、阿呆である方が良い」
と。
変人っぷりも、あるいは鬱屈した表現欲が外に出たものではないか?
ならば、それを発揮する場面を作ってやれば、思わぬ才能を見せる者が出るかもしれない。
南雲支配人なんかは、それで彼女たちのイメージをぶち壊すようなアバンギャルドな事を仕出かす事を心配していた。
優子は「それで良い」と思う。
アイドルとしての顔は、しっかり作っている。
それに加えて、彼女たちの内なる真の顔を発現させても良いだろう。
素の魅力というやつだ。
物凄く近くで見て来た優子には、それが奇怪なものではなく、見せても問題ない、むしろ魅力を引き出すものだと思っている。
そして、適正な情熱のはけ口、優子の同級生のドラ息子の言いようでは「糞詰まり状態に穴を開けた」事で、彼女たちの表現力は支配人の不安とは別に、真っ当でかつ楽しいセルフプロデュースという形となる。
ある者は電子ピアノを使った弾き語りをしたいと言う。
ある者は浴衣を着てのパフォーマンスをしたいと言う。
またある者は、ゴスペルで歌いたいと言い出した。
一番おかしなもので、ステージ上で瓦そばを作りながら、というものであったが、これは歌詞が
「皆を幸せにしたい、世界に飢えや貧困がなくなりますように」
というものだから、言う程おかしな行動でもなかった。
こうして、一部調整に難航するものもあったが、アルペッ女全国ツアー後半日程、東名阪・札幌仙台
福岡、そして瀬戸内でのライブでは、メンバーが自ら演出した歌を披露し、ファンを大いに喜ばせたのだった。
これが優子がアルペッ女に派遣された意味で、一番大きなものだったかもしれない。
行き場の無かったやる気、それを「天出優子ありき」という形でなく、自らをプロデュースする形で花開いた。
これまでの期間、全国ツアーは成功と言える観客動員と観客の満足を得たいた。
そして自信をつけたアルペッ女メンバーは、このセルフプロデュースで更に一段上に上ろうとしていたのである。
おまけ:
まあ、自分でセットリストを決める、衣装をデザインする、パフォーマンスを考えるってのは出来るアイドルも実際に存在してますからね。
知ってる中で面白いセルフプロデュースのパフォーマンスは
「武道館だから、武道をしないと失礼なので、氷柱割りします」
とライブ前にやったものですかね。
(瓦そば(山口県の特産品)をステージ上で作る、も実際に行われたパフォーマンス)




