表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
128/160

灰戸洋子卒業コンサート

 灰戸洋子の卒業コンサートは、本人の強い希望で日本武道館で行われる。

 彼女の人気や知名度を考えれば、もっと大きな会場も使えただろう。

 しかし、

「私にとっては、日本武道館がステータスなの!

 今回は私の我がままが認められるんだし。

 絶対『ライブハウス武道館へようこそ!!』って叫んでやるんだ」

 と目をキラキラさせながら語っていたし、プロデューサー含めて何も言わない事にした。


 日本武道館は1万人近く入る会場ではあるが、ドームやアリーナに比べれば半分以下の座席数である。

 当然、チケット入手は難しくなっていた。

 ではあるが、

「チケットありがとうございます。

 と、フロイライン!一同の分、礼を言っておいてもらえる」

 と、学校で武藤愛照(メーテル)に言われ、天出優子は驚いた。

「えーっと、フロイライン!一同って?」

「ああ、比留田茉凛(リーダー)も直接お礼言うとは言ってたけど、私にも同級生(あなた)経由で挨拶しといてって言われたの。

 流石に研究生分は無かったけど、正規メンバーの分は全員、関係者席が用意されてた」

 抽選で入れないファンには残念な話だが、関係者席は別枠だからファンは入れないし、本人の希望でこういう使われ方しても文句は言えないだろう。


「天出さん……ちょっとお願いが……」

「悪ぃ、ちんちくりん、俺の分もチケット欲しいんだが……」

 堀井真樹夫と、伝統芸能のドラ息子も、妙に腰を低くしてチケットをねだって来た。

 有名人の権力みたいなのが、灰戸洋子には通じないようで、関係者席は彼女が招待したい人用で全てキープされたようだ。

「……あんたらは、灰戸さんを観たいんじゃなくて、天出さんのパフォーマンスを観たいだけでしょ?」

 愛照が呆れながら言うと、男子は二人して

「それの何が悪い?」

「前の馬場さんの卒業コンサートの歌、あれを聞いてしまったら、また観たいと思っても仕方ないじゃないか!」

 と変な感じでリピーター化していた。


 更に他のクラスメイトや、芸能クラスの下級生、更には高等部の先輩までもが

「チケット無いですか?」

 と、藁にも縋る思いでクラスを尋ねて来て、優子は流石に閉口した。

 結局、

「立ち席、機材置き場を空ける事で出来るスペースが解放されて、その席の再募集が掛かるんだけど、スタッフさんがそこで良いなら優先してあげるって言ってた。

 ファンクラブ入ってないから、正規料金にはなるよ」

 と返したのだが

「いや、ファンクラブ入ってるけど」

「俺様がファンクラブに入るなんて、滅多に無いからな、誇りに思え」

 と会員証を見せられ、優子は思わず溜息を吐いていた。




 コンサート当日。

「やっほー、師匠、来ちゃった!」

「スケル女のライブ、勉強させてもらいます!」

 アルペッ(ジオ)のほぼ全員が楽屋にやって来て挨拶をした。

 別の用事で遅れて来る者と、どうしても体調が悪くて来られない者を除き、正規メンバーが揃っている。

 壮観なのだが、いつもの変人衣装ではなく、普通に綺麗な服装だから調子が狂う。

 まあ、優子は全国ツアーで、他所行き衣装のメンバーにも慣れたから、軽い違和感程度で済んでいたが。

「今回はお呼びいただき、ありがとうございます」

 体育会系な挨拶は、大阪の姉妹グループ・アダー(ジョ)のリーダー、垂水悠宇のものだ。

 その横には、連行された犯人のように手錠と腰縄をされた藤浪晋波(くには)が居た。

 優子ならずとも、奇異に感じるが、何も言えずにいると

「今日はこの子の暴投(誤字に非ず)に付き合っている時間がもったいないので、このような見苦しい姿としました。

 ご迷惑をお掛けします」

 と、放浪防止用の緊急処置であると告げる。

 更に

「灰戸さん、卒業おめでとうございます」

 と言って、フロイライン!メンバーも楽屋を訪ねて来た。

 ギスギスした空気で有名なこのグループだが、流石に他人のコンサートでは空気を読む。

 礼節を守って、静かに佇んでいた。

 その中から、武藤愛照がリーダーに耳打ちしてから列を離れ、優子の傍に来た。

「天出さん、ちょっと離れた場所で話す時間ありますかぁ?」

 こちらも他所行きモードで話しかけて来る。

 アイドルの時の武藤愛照は、照地美春や陸奥清華と同じ、ぶりっ子、あざと可愛い、昭和のアイドル風なのだ。

 その仮面を外しても大丈夫な、資材とかの影に移動すると

「クラスの連中、来てたよ」

 と教えて来た。

「一応、目当ては天出優子じゃなくて、灰戸さんだからねと釘は刺しておいた」

「ありがとうね。

 今日の主役は灰戸さんだし、私目当てで騒ぐのはやめて欲しかったから。

 まあ、こんな会場だとそんな声はかき消されるだろうけど」

「理事長と校長と担任も来てたよ」

「え?」

「ここ来る途中すれ違った。

 関係者以外立ち入り禁止の場所にいるから、何だろうって思ったら、貴女のとこのプロデューサーと立ち話をしていた。

 二人は知り合いみたいで、そっち経由でチケット入手したみたい。

 そういうコネがあるなら、クラスメイトはともかく、他の方はそっちを使って欲しかったよね」

「まあねえ……」

「あと、客席には結構見知った顔のアイドルが来てた。

 貴女は他所のグループには興味が無いんだろうけど……」

「失礼な。

 興味が無いんじゃないよ。

 顔と名前を覚えられないだけで」

「まあ、貴女はそういう人だよね。

 だから、私が覚えていたから、そういう事だと伝えたかった。

 じゃあ、コンサート楽しみにしてるから」

 そう言って、メンバーの元に戻っていった。




 コンサート開演。

「アイドル」というものが大好きな灰戸洋子らしい、可愛らしいステージ。

 口が悪い人は「三十過ぎてるんだから、年齢考えろ」とか言うだろうが、そういう手合いには

「うっせー、バーカ」

 と灰戸洋子は返すだろう。

 とにかく、「ザ☆アイドル!」なコンサートが繰り広げられる。

 音楽的には見るべきものは無いコンサートだったかもしれない。

 しかし、アイドルのコンサートとしては満点だ。

 華やか、煌びやか、可愛い、わちゃわちゃしている、ほんわかしている、そして何より楽しい。

 スケル女のスキルアップしたものが、ハッキリと目に見えはしない。

 このセットリストなら、一部の最近の曲を除けば、同じようにパフォーマンスするくらい、大学のアイドルサークルや地下アイドルも出来るだろう。

 しかし、スキルアップは余裕という形で現れている。

 スタミナ切れしない、多少遊んでもリズムが崩れない、客席に愛想を振り撒いてもダンスが乱れない、その自信が表情にも仕草にも現れる。

 簡単に言えば、7女神という人気と技術とで認められた存在、その領域に出演した全員が達している。

 当然、7女神の辺出ルナ、暮子莉緒、品地レオナ、帯広修子、照地美春はそれ以上になっていた。


 優子の同級生の若手ピアニストは思った。

 難しい曲はテクニックで誤魔化せる。

 緩やかで一見簡単な曲こそ、奏者の表現力や感情の込め方が分かるのだ。


 同じく同級生で、普段はドラ息子だが、継承したい伝統芸能に関してだけは真剣な男子も感じた。

 弛まぬ練習をした者だけが、独自の解釈を許される。

 守・破・離なんて言うが、「破」は「守」をしっかりした者しかやっちゃいけない。

 伝統通り出来ない者が「破天荒」を気取っても、形にならない無残なものにしかならない。


 彼ら2人は、一見ただのアイドルコンサートが、完成した者たちの余裕がもたらす雰囲気に満ちていると悟った。

 それは関係者席で観ている「スキルお化け」ことフロイライン!の面々もであった。

 スケル女、更に言えば今日の公演を自己プロデュースした灰戸洋子の目指すアイドルグループと、フロイライン!の目指す先は異なる。

 それでも、完成されたスキルと、メンバーの余裕が作り出すコンサートは心地よい。

 彼女たちやそのファンは「ビシビシ震えるようなスキルの暴力」「絶えず進化し続ける凄さ」を求めていたが、灰戸の世界もこれはこれで良い。

 排他的とか言われるフロイライン!とファン「戦闘員」たちだが、それは低レベルな相手に対してであり、ここまで完成されたパフォーマンスには、方向性を乗り越えて賞賛の拍手を惜しまない。

 フロイライン!以上に、姉妹グループのアダー女、アルペッ女メンバーには響いている。

 完成されたアイドルコンサートとは、こんなに良いものなのか、と。




 卒業コンサートもラスト。

 灰戸洋子が挨拶する。

 湿っぽさを振り払うように明るく

「スケル女は卒業するけど、私はアイドルやめないからさ、だから泣いてる人は泣き止んでよ!」

 等と言った。

「今日は良かったよね?

 自分ではすっごく良かったと思うから、否定はさせない。

 だから、次のコンサートのスケル女は、今日より落ちるかもしれない。

 私が抜けるんだから、同じものにはならないでしょ?

 でも私はそれで良いと思う。

 万物流転、守・破・離、テーゼ・アンチテーゼ・アウフヘーベン、色んな言い方あるけど、完成したといって安住せず、次を目指す為に一回壊れたり、否定するのはアリだと思う。

 だから、次の進化を信じて、私の可愛い後輩たちをこれからも応援し続けて下さい」

 そう言って頭を下げた。

 万雷の拍手の後、また明るい言葉で笑いを取る。

「あ、後輩ちゃんだけじゃダメだった。

 私も応援してよね!

 見捨てないでね!

 私、皆の応援が無いと生きていけないからね!」


 卒業コンサートながら、明るさと笑いと感動の中で終了した。


 楽屋に戻ると、メンバー皆が灰戸を出迎える。

 灰戸は一人一人と握手したり、ハグをしながら言葉を交わしていった。

 優子の番である。

 灰戸は優子をハグ……というより抱きつきに近い形で耳元で囁いた。


「優子の才能は凄い。

 よくスケル女を選んでくれたって感謝してる。

 その上でお願いね。

 貴女はいずれ、ただの歌手じゃ収まらなくなる。

 でも、私の年齢までとは言わない、大学卒業する年の22歳くらいまでは、スケル女を引っ張っていって欲しいの。

 その方が優子にとっても良い、と何となく思う。

 100パーその通りにしなくて良いから、気に留めておいて欲しい」


 優子は黙って頷いた。

 その目からは、涙が溢れ落ちていた。

 灰戸の言葉は、優子のこれからの指針になるのだが、今はただ別れを惜しむだけであった。

おまけ:

灰戸洋子、名前の元ネタはフランツ・ヨーゼフ・ハイドンです。

モーツァルトとは先輩ではあるが同時代人で、互いを深く尊敬し合う友人だったので、関係が深い描写にしました。

顔が前世の奥さん・コンスタンツェに似ている設定は、誰かに使いたかったのに適当な人がいなかったので、この人にしました。

コンスタンツェさんの事は嫌いじゃないですが、どうも知った顔に見られると気後れするというか。

自由奔放にやっている姿を、家族に見られたら、なんかテンション下がるというか、そんな感じの感情です。

キャラ的なモデルは、具体的に存在してますが、その人からの使用許可は貰ってないので、実名は出さないでおきます。

元は2人の性格を混ぜてましたが、段々ほぼあの方の性格になってしまって……。

いつか本人に話して、許して貰えれば良いなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ