兼任な以上、スケル女の活動も疎かには出来ない
天出優子は広島のアルペッ女に移籍したわけではない。
スケル女との兼任である。
アルペッ女の全国ツアーも毎週あるわけではないし、優子が欠席する公演もある。
優子とのデュオは見どころの一つだが、それだと「天出優子ありきのグループ」になる為、優子本人と戸方風雅総合プロデューサー、南雲支配人の全てが否定した。
故に、優子無しでも成立するように、アルペッ女で最も歌が上手い筑摩紗耶や、秋津洲由美を軸にしたデュオも実施している。
「伝説のコンサート」から入った新規は
「天出優子居ないの?」
と残念がるが、アルペッ女自体のファンは
「天出優子無しでも、うちのメンバーはちゃんと歌えるんだよ!」
と、ちょっとムキになりながら反論する。
筑摩や秋津洲は、優子のようにパートナーをリードして、良さを引き立てるまではいかないが、歌自体は優子に刺激を受けて上達していた。
元々上手いメンバーではあったが、滑舌や発声などの基礎的な部分を自ら鍛え直し、ベースアップをする。
それにより、ハイトーンの部分の抜いた歌い方や、弱発声部分でも、歌が聞こえやすくなった。
全体的に上手くなったからこそ、難しい部分でも声がか細くならず、声を届けられる。
その2人だけでなく、メンバー全てが自分なりの方法でスキルアップに励んでいた。
目標となる歌手と、全国ツアーというモチベーション、2つ揃ったアルペッ女メンバーはやる気に満ちていた。
以前はやる気が無かったわけではない。
今はやる気がエネルギー充填120%、或いはシンクロ率400%といった所だろう。
さて、アルペッ女の全国ツアーが無い週、優子は東京に留まり、スケル女の定期コンサートに出演する。
ただ、立ち位置は後列になっていたし、歌割りやユニットの割り当ては減らされていた。
兼任してる負担を減らしているわけだが、それ以外に「レッスンに来ているメンバーにきちんと報いたい」というプロデュース陣の意向もあった。
アルペッ女のツアーで忙しい優子を、如何に「音楽の天才」なんて世間の評価が有るからと言って、他のメンバーを押しのけて主要パートを任せるのは依怙贔屓になってしまう。
戸方総合プロデューサーはともかく、スケル女のマネージャーや楽曲スタッフには特に、判官贔屓に似た「単に上手い子だけを優遇しない、頑張ってる子にこそ報われて欲しい」という感情が強い。
歌番組なんかのメディア仕事の時は、どうしても人気メンバー中心になってしまうから、定期コンサートのような自前の仕事の時は、色んなメンバーにスポットライトを当ててやりたい。
こういう事情を優子は、兼任の先輩でもある灰戸洋子から聞いていた。
兼任先の方に注力し過ぎると、本籍地の方の居場所が小さくなるといった言い方で。
優子はスケル女の方を疎かにはしていないが、各都道府県ごとのアレンジを考えたりで、アルペッ女の方に重心が移動している自覚はあった。
ゆえに、後列でも不満は無いし、そこでも全力を尽くそうと思っている。
不満とかは無いが、驚きはあった。
自分が後列に回り、定期公演の常連であった先代リーダー馬場陽羽が卒業、優子同様別仕事の為に出演しない照地美春や品地レオナ、灰戸洋子といったメンバーに代わって前列でパフォーマンスする子たちのレベルが上がっているのだ。
元々オーディション合格で、研究生を経ずに正規メンバーとなった富良野莉久は、馬場陽羽の生写しのような熱い歌唱をするようになっている。
かつて伸び悩んで、悔しさから泣いたりもした後輩の兵藤冴子や戸伏クロミも、見違える程上手くなっていた。
優子が全国ツアーで定期公演に出られなかったのは、三週間だけである。
その三週間でここまで変わるのか?
「驚いてるね」
公演終わりに、歌詞指導の晴山メイサが肩を叩きながら声をかけて来た。
「皆、凄く上手くなったでしょ」
「はい。
先生はどんな指導をされたんですか?」
「私の指導は変わってないよ。
皆が頑張ったのは、貴女のお陰だよ」
「え?
私?」
「あと、馬場さんね。
世間じゃ『伝説のコンサート』って言われてる、馬場さんの卒業コンサート。
あれを間近で観ていたメンバーが、一番刺激を受けていたんだよ。
あれから、貴女の同期や後輩たちは、個人的に予約を入れて私のレッスンを受けていたんだ。
皆の目の色は変わっていたよ。
貴女に圧倒されていた子たちだったけど、馬場さんとのデュオには感じ取るものがあったみたい。
凄い頑張ってた。
その努力が、貴女が居ない時に形になった。
そして前列で歌い、目立ち、歓声を受けて自信を付けていく内に、私も驚くくらい上達したんだよ」
ここにもモチベーションの向上と舞台経験数とで、飛躍的に伸びている歌手たちがいた。
優子は把握していないが、この現象はスケル女だけではない。
同級生の武藤愛照属するフロイライン!は、ライバル心から自分たちのスキルアップを図っている。
他のメジャーからローカルまでのアイドルグループは、ライバル心ではなく、単純に「あんな風にカッコ良く歌いたい」と目標にして努力する。
フェス等において、そのデュオ曲をカバーするグループが増え、セットリストがかぶりまくる「歌われ過ぎ問題」を作り出す事にもなる。
かなりの影響を与えたようだ。
それはさておき、スケル女の同期・後輩たちの成長が嬉しくもあり、負けん気を引き出されもする。
音楽の才能からすれば、まだまだ自分には及ばないかもしれないが
(皆、頑張ってるんだな。
音楽に対する情熱は、私だって負けてはいない。
私も更なる努力をしないと!)
と密かに闘志を燃やしていた。
……妙にやる気を出した優子に、メンバーは刺激を受けるだけだったが、やる気の余波でまた大量に曲が作られてしまい、スタッフは頭を抱えた。
戸方Pはニコニコしながら
「良い曲ばかりだから、ボツには出来ないね。
歌詞が無いから、作詞して音に嵌めてね。
じゃ、上手くやっといて」
と丸投げしつつ、お蔵入りは封じていた。
アルペッ女のスタッフと比べ、スケル女のスタッフが優子に対してちょっと距離を置いてしまうのは、こういう才能の暴風の直撃を受けるからだったりする。
「あっははは!
天才・天出優子にして、後列に回って、危機感を覚えたか!」
スケル女が土日の定期公演終了後、同じ日にソロのイベントをして合流して来た灰戸洋子が、数人のメンバーを誘って食事に行った。
一人一人を労った後、自分と同じく兼任の苦労をしている優子と話し、どこか嬉しそうに笑う。
「いや、危機感を覚えたとかでなく、皆が努力したのだから、私も負けてられないなぁって」
「いやいや、それで良いよ。
どう活躍してるか、戸方さんや(八橋)けいこから聞いてるけど、スケル女が本来の居場所な事を忘れないのは良い事だよ」
そして皆に向かい
「優子が、皆の活躍を見て、自分も頑張らないと! って言ってるよ!」
とバラした。
「いやいやいやいや……。
あの卒業コンサートの時の天出さんに、全然追いつけてませんから」
そう謙遜するメンバー。
灰戸は
「皆、頑張ってね。
そして、私の卒コンの時はよろしくね」
と寂しくなる事を明るく言ってのけた。
灰戸洋子の卒業の発表と、卒業コンサートの日程が正式に決まったようだ。
卒業コンサートは、アルペッ女の全国ツアーとは重ならない。
全国ツアーで都道府県を一回全て回る前半日程と、ファン投票を踏まえて東名阪と瀬戸内でコンサートをする後半日程。
その前半と後半の間の時期に、卒業コンサートが行われる。
優子は欠席する事なく、敬愛する先輩をまた見送る事が出来る。
おまけ:
2012年に指原莉乃主催の「ゆび祭り」で、Buono!の「初恋サイダー」が現役及び将来のアイドルたちに衝撃を与え、持ち歌が少ないアイドルグループがカバーしまくり、セットリストが被りまくる「初恋サイダー歌われ過ぎ問題」なるものがありまして。
それを元ネタにしてます。




