アルペッ女とアダー女
スケル女グループは、姉妹グループが現在2つある。
大阪のアダー女と広島のアルペッ女である。
この2つは、東京のスケル女から兼任という名のテコ入れメンバーが送られる事がある。
現在は天出優子がアルペッ女と兼任していた。
一方アダー女の方は、独自の人気を得ている為、もう兼任メンバーを必要としていない。
体当たりな仕事が多い為、そうでなくても売れているスケル女メンバーにしたら、大阪でそういった仕事をするメリットが全く無いのもある。
今回、アルペッ女はアダー女のお膝元・大阪と神戸でライブを行う事になっていた。
天出優子が絡んで決められた全国ツアーでは、抽選により歌うメンバーが変わったり、ユニット曲の組み合わせが違って来る。
大阪・神戸公演では、アダー女に敬意を表し、その楽曲のカバーをする事になっていた。
また、天出優子とのデュオ曲は、大阪公演の昼の部では、大阪出身の盆野樹里が担当する。
「抽選と言ったって、これは出来過ぎ。
絶対にやらせ」
とファンからは言われていたが、実際その通りである。
他3公演は確かに抽選だが、折角大阪でライブをするのに、盆野に凱旋歌唱させないのはもったいないので、ここだけは編集で「いつの間にか決まっていた」事にしていた。
なお、抽選の様子を配信した中で、盆野が当たったシーンは流していないし、抽選したとは一言も言っていないので、ギリギリ嘘はついていない。
編集で、一部の人選に関しては見せない事で、全体として抽選で決めたように錯覚させているのだ。
「あそこ、アダー女の皆さん、観に来てるね……」
全体曲が終わり、ユニット曲の時間になり、舞台袖に引き上げて来たメンバーが囁く。
大阪の会場も、観客の多さを見込んで大きな場所を使っていた。
そこには関係者席もある為、見上げれば誰が来ているかが分かる。
アダー女のメンバーが大量に座っていて、その圧が凄かった。
アダー女は、スケル女ともアルペッ女ともグループの雰囲気が違う。
ライバルグループのフロイライン!に近い感じの体育会系である。
フロイライン!のような不仲でギスギスした感じは無いが、バンジージャンプだの、昆虫食だの、格闘技挑戦だのといったアイドルならちょっと二の足を踏む仕事も
「うじうじ言ってないで、やったれ!」
というノリなのだ。
合わない人には、徹底的に合わない。
そして、関西人という個性を前に出した派手な私服。
そういう女性たちが陣取って、ライブを凝視していると、どうしても圧が凄くなる。
そんな中で、盆野とのデュオ曲が始まった。
天出優子と盆野樹里は、オーディション同期である。
盆野が、スキルを高めてカッコイイ方に舵を切ったスケル女よりも、昔の名残を残し清楚で優雅な曲を歌うアルペッ女に移籍したのだ。
そんな経緯を知っている優子は、盆野とのデュオのアレンジを、少しテンポを遅くし、キーも変えて悠然と歌うようにした。
微妙な変化に過ぎない。
しかし、僅かな変化でハイトーン部分での声が通るようになったり、振付のリズムが変わる事で表現力が豊かになったりと、盆野に取って歌いやすくなったりする。
楽しそうに、堂々と歌い上げる盆野。
その様子をアダー女メンバーは凝視していた。
昼公演が終わり、夜公演との間の休憩時間に入る。
この休憩時間に、メンバーはそれぞれのやり方で次に備える。
仮眠する者、昼の部のビデオを見て自分の動きを確認する者、飲食をしてエネルギーを補充する者、脚本を読み直して再度動線を確認する者、等等。
中にはリラックスして、あえてダラダラする事でリフレッシュする者もいる。
こういうのは大体のグループが同じようなもので、変人集団アルペッ女と言えども、ライブとライブの間におかしな事をするメンバーはいない。
「アルペッ女の皆さん、お疲れ~」
ライブ間の短い時間だが、アダー女のメンバーが楽屋を訪問して激励に来た。
「これ、差し入れな。
ガラス瓶入りのプリンに、アイスキャンディー。
うちらすぐ楽屋出てくんで置いてくけど、今じゃなくて夜公演終わってから食べてや。
ドライアイスも入れてるけど、クーラーボックスにしまっとくで」
「豚まんは無いんですか?」
「豚まんは冷凍で売ってないんや。
出来立ての熱々を食べないと、ちょっと残念やし」
「たこ焼きは?」
「あれは店で食いや!
銀座なんとかっつーの、うちら大阪の者は認めてへんで!」
しばし差し入れ話に花が咲く。
そんな中、リーダー垂水悠宇が優子に話しかけた。
「聞いたで」
「何をですか?」
「アルペッ女のアルバム、あんたが30曲も作ったって事をな」
優子は周囲を見渡す。
皆、差し入れに夢中でこちらの話を聞いている様子は無い。
「正体隠してるのは知っとるよ。
アダー女では、私とサブリーダーしか知らん話やし。
私は、作詞担当の八橋けいことは親友やから、あの子から話は聞いたんよ」
あの30曲を急に出して来たアルバムに、アダー女メンバーも驚いたという。
身も蓋も無い言い方だが、アルペッ女はグループの序列では一番下。
そこに2枚組になる量の新曲が書き下ろされるのは、考えにくかった。
まずスケル女が最優先され、次はアダー女である。
テコ入れが必要だったグループとはいえ、短期間に30曲の新曲というのは力の入れ具合が凄過ぎた。
そんな中、垂水は作詞や作詞協力という名前に「梅枝雲井」という名が多い事に気づく。
彼女は、それが親友でもある京都出身の八橋けいこのペンネームである事は知っていた。
「よくこんなに曲を作れたね」
と電話で話をしたところ、乗りと勢いで作り過ぎたという返答であった。
そこから、作曲・編曲の木之実狼路というのは、スケル女の中学生メンバー、音楽の天才と最近あちこちで言われている天出優子の事であると教えられた。
八橋も無思慮の正体をバラしたのではない。
彼女は、戸方風雅総合プロデューサーから、気づかれた場合に真相を話して良いメンバーは指示されていて、アダー女リーダー垂水悠宇は話しても良いリストに含まれていたのだ。
「で、だ。
ここからが本題なんよ。
天出ちゃん」
「はい」
「アダー女にも曲書いてーや」
「あ、いいですけど……」
「なんや?
なんか条件付きかいな?」
「いや、私、作詞の方はまだまだなんですよ。
歌詞が古臭いとか、仰々しいとか言われていて」
「そういう時の為の八橋けいこやん」
「はあ……」
「八橋けいこにはもう話をしてるに決まってるやん。
書いてくれるって言うとったよ」
「あ、それなら問題無いです」
「よっしゃ!
もう覚悟は出来とるでな。
30曲と言わず、60曲でも90曲でもええで!」
「……それ、垂水さんは良くても、メンバーとスタッフが泣くんじゃないですか?」
「泣くような我がままは許さんよ。
うちらは限界に挑戦するグループやからな」
(同級生から話に聞くフロイライン!と似た臭いがする。
なんか、どんな無茶でも根性で突破するような所が。
最早、反対意見は通らなそうな所も。
それで楽しく音楽をしているなら、私に否やは無いけどね……)
結局、今はアルペッ女の全国ツアーに専念するから、それが終わった後、その時に垂水がまだリーダーを続けているかどうかは不明だが、今度はアダー女のアルバムを作るのに協力する事になった。
(中々強引な交渉だったな)
優子は苦笑いしながら、アダー女リーダーを見ていた。
そう言えば、アダー女にも問題児が居たはず。
今日は姿をまだ見ていない。
優子がそれを口に出そうとした時、先にその問題児の従妹が口を開いた。
「ところで、晋波ちゃんは今日ここに居ないんですか?」
藤浪晋波、かつて夏限定ユニット「カプリッ女」でメンバーとなった、放浪癖があり、どこに飛んでいくか分からない厄介な子。
従妹の盆野樹里からしたら、今日は最初から来る予定が無い、そうであってくれと祈っていた。
だが、答えが残酷であった。
「フジな。
また行方不明になってん。
大丈夫、樹里ちゃんはライブに専念しとき。
既にスタッフが捜索に向かっているから」
そうは言われても気が気でない盆野。
彼女は思った
(デュオを歌うの、昼公演で良かった!
夜公演で、こんな不安な心で歌っていたら、絶対ベストパフォーマンス出せなかったよ……)
結局彼女は、一日間違えた神戸のハーバーランドでウロウロしている所を確保されるのであった。
おまけ:
優子「確か、あの後も作ってた曲が20曲くらいありましたよね?」
八橋「でも、アルペッ女用の曲の使い回しは失礼だよ」
優子「そうですね。
改めて書きます?」
八橋「そうしようか」
垂水悠宇が、自重しないこの2人の乗りと勢いの物凄さを知るのは、後の話である。




