全国ツアー開幕、まずは東京公演だ!
アルペッ女の全国ツアー、チケットは思惑通り高騰し始めた。
曲数が多過ぎる事を利用した「どれ一つとして同じセットリストが無い」ツアー。
計算してのものではなく、抽選してバラけたユニットたち。
アルバムにも収録されていない、意外なメンバーと天出優子とのデュオ。
スケル女元リーダー馬場陽羽の卒業コンサートで見せた、馬場と優子のデュオの評判は、アイドルファンの枠を超えて高くなっている。
「お互い食い合うような、攻撃的な歌い方。
それでいて、ただの喧嘩歌唱ではない。
ハモリ部分が強いと普通は下品になるが、強いながらも引く部分は引いている。
負けじとメインが強く歌い過ぎると、バランスが崩れるのだが、圧の強い歌と絶妙な音程を調和させていた。
バチバチぶつかり合いながらも、ハーモニーが完璧だ。
馬場陽羽はそのキャリアの集大成を見せた。
それを受けて立った天出優子、『音楽の天才』という噂は、嘘・大袈裟なものではない」
音楽評論家がこんな事を語った為、アイドルを一段低く見ている層も、調べてあの時のパフォーマンスを観て、凄さに驚いて、他のライブ映像も漁り出しているようだ。
「高々アイドルの歌なんかで『音楽の天才』とか、宣伝にしても酷いものだ」
と笑い飛ばした評論家は、ある時、若手の世界的ピアニスト・堀井真樹夫に衝撃的な事実を告げられる。
彼が弾いたオリジナルのピアノ協奏曲。
これは彼が一から作った曲ではなく、主旋律は天出優子という、アイドルをしている少女が10分くらいで作ったものだ。
「僕は彼女の後を追いかけている。
僕は彼女にクラシックの世界に来いと言っている。
しかし、彼女は敢えて来ない。
聴く人が楽しい音楽をしたいから、敷居の高い音楽はしたくないそうだ。
なのに、こんな綺麗な、クラシック音楽として一級品の曲を書く。
分かりますか、これ、片手間で作った上に、大した思い入れもないから、僕にくれたんですよ。
作曲の練習に使ってくれって言って。
そして、そういう曲が20曲くらいあり、僕は宿題を貯めてる状態です。
貴方のように、アイドルを低く見て、甘く見られているのは、彼女は幸いと思ってますよ。
クラシックの世界に引っ張られないで済みますから。
ただ、彼女の足元に及ぼうと日々努力している僕は、そんなナメた評価には文句を言いたいです。
何故なら、彼女の評価が低いというのは、僕自身も低く見られているようで、我慢ならないからです」
つい最近、オーストリアの国際コンクールで大人含めた部門で3位になり、オリジナル曲も注目されて
「作曲家としても新世代の希望」
と世界的に認められた中学生の発言である。
高々日本国内限定の、斜に構えた事だけが売りの評論家では、彼に何も言い返せなかった。
こういうやり取りも聞いていた業界関係者からも優子は注目され、
「その天才が、今度はどんなアイドルを高みに引き上げるのだろう?」
と、妙な注目を集めていたのである。
「えーっと……皆さん、お疲れ様です。
東京にようこそ……」
業界注目の天才アイドルは、今まさに面食らっていた。
東京で初日を迎えるアルペッ女の全国ツアー。
地元民だから先に会場入りし、広島から来たメンバーを出迎えたのだが、そこで優子は意外なものを目にしていた。
普通の格好なのだ。
優子が広島に行って、一緒に行動している時の服装は、それはそれは酷いものだった。
寒いからと着ぐるみで歩いていたり、逆に暑いからとドライアイス焚きながら歩いて酸欠になったり、最近見ているアニメが丸わかりのコスプレ姿だったり、何故か炊飯器をバッグのように持ち歩いたり。
そんな百鬼夜行が、普通の清楚系の衣服、もしかしたらそのままライブに出られるんじゃないか、というくらいの、可愛らしい服装でやって来たのだ。
「言いたい事は分かるけど、あの格好で新幹線乗る程、私たちも狂ってないけえ。
私たちは狂おうと思って狂ってるだけで、空気読む事もやって出来ない事はない……と思うよ?」
ちょっと疑問形ながら、そう説明したのは東京在住の長門理加である。
長門と筑摩紗耶は東京住みだから、優子と同じく先に会場入りしていた。
この二人は、言動はエキセントリックだが、服装に関しては常識の範疇にあったりする。
「今日はデュオ、よろしくお願いします」
そう美女に挨拶される。
「えーっと……」
「わしは駒橋杏です!
なんで覚えてないんですか?」
「会った時、天狗のお面してたり、鬼のメイクをしていたり、領域展開しないように目隠ししてるからです……」
一人称が「わし」な辺り、完全な常識人モードかは怪しいが、とりあえず外目には普通のアイドル集団に見える。
ポリ……ポリ……ポリ……
また何かポケットの中から出して食べてる人もいるから、中身は変人のままなようだ。
ライブが始まる前に、スケル女メンバーが楽屋に激励に来た。
優子もかつて、先輩の付き添いで同じ事をした。
その時にアルペッ女におかしな印象を抱かなかったから、以前から仕事モードの時はちゃんとしたアイドルに擬態出来て、気付かれなかった模様。
今も
「優子ちゃん、アルペッ女に迷惑かけていない?
セクハラしてないよね?
やっていいのは、スケル女内だけだからね!」
等と、優子の方をヤバい人扱いしている。
安藤紗里、斗仁尾恵里は盆野樹里と久々の同期再会で、会話に花が咲いている。
盆野はメンバーの変人ぶりには、一切触れようとしないので、サリ・エリコンビもアルペッ女のヤバさは噂程度にしか知らない。
同じく同期の優子の方が変人だと思っているらしく、極めて遺憾であった。
更に、いつの間にチケットを買っていたのか、同級生の芸能関係者である武藤愛照、堀井真樹夫、そして伝統芸能のドラ息子も楽屋に差し入れを持ってやって来た。
この3人は、アルペッ女が極めつけの変人集団なのを一部なりとも知っているから、
「随分と今日は大人しい感じじゃない?
もっと動物園みたいな楽屋だと思った」
と耳打ちして来た。
この状態だけ見れば、ごく普通のアイドルである。
メイクバッチリしていたり、イヤホンして音楽聴きながら集中していたり、ストレッチをして体を解していたり、小さい声で歌って本番に備えていたり。
そんな感じだから、楽屋訪問した人たちも長居はせず、差し入れを置いて早々に帰っていった。
ついに開演。
優子は、アルペッ女のライブに自身も参加し、中から彼女たちを見て、改めて感じた事もある。
「音楽を楽しむ」
これが一番出来ていた。
スケル女も、自分たちも楽しみながらコンサートをしているが、技術が最近は高めになっており、少しプレッシャーも抱えている。
アルペッ女は、特にダンスにおいて、出来る事以上はしない。
だから余裕があり、またメンバー同士も仲が良い為、醸し出す雰囲気がなんともほんわかしている。
楽曲や衣装も相まって、お嬢様学校の学芸会のような感じで、観客も温かい目で見守っていた。
そして優子の見せ場が来た。
回代わりで、アルペッ女メンバーをリードして歌うデュオ。
普段は天狗の面を付けたり、フェイスペイントをしたりと奇抜な駒橋杏だが、素顔は和風の綺麗な美人であり、歌は音域が狭く、音がふらつくが、ピッタリ合う幅ではアルトの歌が切なげで良い。
(メインよりも、ハモりで本領発揮する)
そう見抜いた優子は、本番までに、メインとハモりが激しく交錯する歌割を大幅に変え、オクターブも弄って、駒橋の声がハマるように頼んだ。
本番では、自分の音量を調整し、どちらかが強くなり過ぎずに、綺麗な和音で歌い終えた。
天出優子の天才さを期待していた人には、肩透かしだったかもしれない。
普通に上手い歌が聴かれただけで、目立つ事は何も無かったのだから。
だが、関係者など内部事情を知る者や、駒橋杏をよく見てきたファンなどは、舌を巻いていた。
選抜に一回も選ばれた事が無く、歌割も少ないから、歌が好きだが場慣れはしていない駒橋杏。
コンサートでは時に緊張で声が裏返る事もある。
そんな彼女が堂々と歌い、様々な弱点を全く見せず、知らない人からすれば「特徴は無いけど、上手いのは上手いね」なんて思うパフォーマンスを見せてくれた。
そうなるようリードしたのだろう。
自分が目立って実力を見せつけるやり方をせず、パートナーを引き立てて魅せた。
やはり天出優子、恐るべし、と。
おまけ:
武藤愛照は考えていた。
フロイライン!で出されている課題
「個人のスキルを高め、天出優子が見せたパフォーマンスに上回る」
これを成すにしても、彼女には個人的な凄い歌手や指導者の知り合いはいないし、
語学的な問題で事務所が用意した外国人とはコミュニケーションを取れないし、
効果的な修行法も知らない。
……実際に滝行で「滝の爆音に消されない発声と肺活量を鍛える」が効果的かどうかはともかくとして。
悩んだ末、彼女は簡単な事実に気がついた。
「天出優子のパフォーマンスを観て刺激を受けた……。
天出優子は私の同級生じゃないか。
あの子に直接指導して貰えば良いよね。
灯台下暗しというか、目標がすぐ隣に居たのに、なんで気付かなかったんだろ」
とりあえず、優子には迷惑かもしれないが、頼み込む事にした。
(本編に合流する)




