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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
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前リーダーの願い

 スケルツォで最長期間リーダーを務めた馬場陽羽ひのはの卒業コンサートが、さいたまスーパーアリーナで開催された。

 このコンサートは1公演のみだが、その分曲数が多い。

 セットリストも馬場自身が考えたものだ。

 その特徴として、馬場と少数メンバーとで歌う、いわゆる「ユニット曲」が多い事が挙げられる。

 例えば、馬場と灰戸洋子のデュオ曲だったり、馬場と照地美春・富良野莉久のトリオでの「ザ・アイドル」な曲だったり。

 天出優子は、同期3人と馬場とで歌う曲と、夏限定ユニット「カプリッチョ+馬場陽羽」、そしてデュオで歌う曲の3回出番が設定された。

 優子一人がそうなのではなく、メンバー全員が3回は少数で歌う機会を与えられている。


 優子は、馬場の事を敬愛している。

 天出優子は百年以上過去に死んだ天才音楽家モーツァルトの記憶と才能を持ったままの転生体だ。

 本来の性格なら、自分より才能が劣る人間なんて歯牙にもかけない。

 しかし、転生後に普通の家庭で成長して凡人を見る目がかなり優しくなった事に加え、この時代の先輩の経験が18世紀欧州人では得られないものだったりして、素直に百年以上後輩の女性に敬意を持てるようになっていた。

 馬場陽羽は、努力で実績を積み上げたアイドルである。

 モーツァルトという、天才でありながら、こと音楽に関する限りは努力を惜しまない性格。

 それが転生後も引き継がれているが、前世同様、その努力をしている事を見られなかったりする。

 余りにも凄い才能を目の当たりにし、人は「才能だけでやっている」と思いたがる。

 努力したって天才には敵わない、そう思って自分を慰めているのに、努力する天才とか、そんな「才能でも努力でも勝てない」存在なんて認めたくない。

 自分の努力は、いつか何かで報われる、努力しない天才を努力した凡人が倒すようなシナリオが溜飲を下げるのに、凡人以上に努力する天才なんて、チート過ぎて楽しくない。

 そんな感じで、優子は「良いよね、才能があって」と言われがちだったが、馬場はそうは見なかった。

 才能を認めながら、等身大の優子を見守っていた。

 凄まじい才能に目が眩む事無く、弱点を克服する為の努力を見抜いたのだ。

 そして、ある意味僻んだ意見を退ける。

 競争社会で、その地位を必死に守っていた前世において、モーツァルトが活躍しやすい環境をわざわざ用意してやるお人よしな同僚はいなかったし、自分を正当に評価する凡才もいなかった。

 それが、転生後では何人も存在する。

 優子はスケル女に入って良かったと、心から思うようになっていた。


……色々と内部事情を同級生から聞けるようになったライバルグループのフロイライン!に入っていたら、宮廷音楽家として時に衝突していた前世同様の経験をした上に、運動神経的にポンコツ極まりない優子は、「音楽は楽しむもの、楽しませるもの」を実践出来なかったかもしれない。


 そんな敬愛する前リーダーが、優子とのデュオで選んだ曲は、中々の難曲である。

 ツインボーカル曲であるが、普通はメインとハモリの担当が固定されているところを、この曲は交互に入れ替わる。

 Aパートでメインを歌っていたのに、Bパートではハモリに変わり、Cパートでまたメインに……と言った感じである。

 さらにハモリも、低音ハモリだけでなく、高音ハモリもあるし、スキャットになる部分もある。

 それをゆっくりしたテンポでなく、ダンスナンバーとしてハイテンポで歌い上げる。

 アイドル音楽としては保守的な戸方風雅楽曲にしては、随分と攻めた曲だったのだ。

 天出優子登場以降、攻めた曲を相次いで作っているから、戸方Pも単純な「売れ筋から外れた曲を書かない」ビジネス優先の音楽家ではない。


 この曲を、馬場卒業コンサートで披露する。

 イントロが流れた時、客席はどよめいた。

 アイドルオタクたちも、攻めた曲で、半端な歌い手だと大怪我をする曲だと知っていたからだ。

 この曲の相手に、経験豊富で歌も上手い灰戸洋子や、スケル女一番の歌唱力の帯広修子ではなく、中学生の天出優子を選ぶとは!


 客席はその意外さや、難しいから最近はめっきり歌われていない曲の復活に驚いていた。

 優子はそんな事には驚かない。

 レッスンの際、曲名は告げられていたのだし、何度も歌い込んだのだから、本番でファンと同じように驚いていたなら、その方が問題である。

 優子は、客席とは違う驚きを感じている。

 それは、レッスンやリハーサルの時と、馬場の歌い方が違っていたからである。


 練習している時の馬場の歌い方は、実に普通だった。

 楽譜通りの歌。

 それはそれで、基礎の反復練習を重んじる馬場らしいと言える。

 だが、今日の馬場は違う。

 16拍子よりもっと短い、刹那の拍子分、馬場は早く歌い出していた。

 練習時の淡々とした歌い方と違い、熱量が高い。

 そして、強弱のメリハリがハッキリしている。

 ふと馬場が優子の方を見た。

 その表情は、いつになく好戦的な感じに見えた。

 目の光が強く、笑顔ではあるが、

「かかって来い」

 というような、戦士が好敵手を見つけた感じの闘志に満ちた笑顔であった。

(なるほど)

 天出優子(モーツァルト)は理解した。

 馬場は優子とバチバチの対戦をしたかったのだ。

 対戦というと語弊がある。

 お互いグループでの歌唱という事で、制限(リミッター)をかけて普段はパフォーマンスをしている。

 それを外した全力で歌いたい。

 それで相手が平凡に聞こえたなら、それは相手の問題だ。

 普段、思いっきり自分を抑え、グループのバランスや、出来ないメンバーの事も考えていた馬場陽羽。

 卒業コンサートで、どうやらエゴを剥き出しにして優子に「挑戦」して来たようだ。


(それならそうと、言ってくれても良かったのに)


 とは思うものの、馬場は普段の言動からも優子に対し、深く信頼している。

 だから、

(あんたなら、私のいきなりの我がままにも付き合ってくれるよね)

 という信頼もあったようで、好戦的な笑顔の中、アイコンタクトでそう伝えて来ている。


 優子はそれに応える事にした。

 彼女も馬場と同様に、一瞬早い歌い出し、キレの良い強弱、「リズムの鬼」と呼ばれるキレのある動きで相手を圧倒しにかかる。

 馬場の笑顔が更に良いものになる。

 彼女が身につけた全てを出して来た。

 優子が如何に音楽の天才とはいえ、それは作曲や劇作という分野である。

 一歌手としては一級品ではあるが、同等の技術を他人が持つ事は可能だ。

 馬場は優子に食らいついて、圧倒されない。


「おい、なんだこれ」

 そういう感想は、配信を見ている者たちが挙げる。

 現場で聴いているファンたちは、激しい歌のぶつかり合いに、ただ言葉を失い圧倒されていた。

 微妙な変化だが、直接声を聴ける者たち程、優子と馬場の決闘のような歌い方に呑まれる。

 決して不快ではない。

 アイドルグループという枠では味わえない、歌の競い合いに魅了されてしまっていた。


 歌い終えると、優子は汗でぐっしょりしていたが、馬場の方は息も絶え絶え、肩で呼吸していた。


「ちょっと待ってね。

 給水するわ」

 と客席に言って、水を一口。

「いやあ、熱かったわぁ!

 この子生意気な天才と、一回こうやって全力で歌うって事したかったんだ!

 皆さん、楽しんでいただけましたか?」


 客席も緊張から解放されたのように、歓声を挙げて応える。


「優子、ありがとうね!

 私の希望の一つが適ったわ」

 そう言って握手を求めて来た。

 二人は固く握手をかわし、そして優子がステージから下がる。

 馬場はまだこの後、他のメンバーとのユニット曲が残っていた。


(大丈夫かな?)

 優子は、自分も結構消耗し、舞台袖で冷却を必要としている事に気づいた。

 久々に自分も熱くなったように思う。

 他のメンバーから

「凄いステージだった」

「マジ感動したわ」

 とか言われていたが、余り頭に入って来ない。

 中々の充実したステージであった。


「理想のリーダー」と呼ばれた馬場陽羽の卒業コンサートは、その事実だけでファンたちの中で名公演となるのは約束されていただろう。

 それに加えて、この優子と馬場の決闘にも似た歌唱は、後に動画で拡散もされて

「伝説のコンサート」

 として語られる事になるのだが、それはもう少し先の事である。

おまけ:

メインとハモリが目まぐるしく入れ替わる曲、これの元ネタは解散した°C-uteの「悲しきヘブン」です。

作者は以前やはり元ネタにした、別グループの曲が合体する「超ハッピーソング」とか、「悲しきヘブン」とか、仕掛けて来ている曲が大好物なものでして。

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― 新着の感想 ―
悲しきヘブンの方だったんですか! てっきり、大好きだから絶対に許さないかと思いました!びっくり!
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