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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
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ある程度は人に任せるという事

 天出優子は、前世の記憶持ちである。

 彼女の前世、モーツァルトは楽器のみのコンサートだけでなく、オペラも指揮したし、歌曲を提供した事もあった。

 だから「モーツァルトとしての才能」には、プロデューサー的な視点も含まれている。

 優子は、広島のアイドルグループ「アルペッジオ」に新曲を提供した。

 だから、アルペッ女運営としては、選抜メンバーと歌割りについて優子の意見も聞きたいと思っていたし、本人も口を出すつもりであった。

 しかし、今は少し考えを変えている。

 きっかけは先日の灰戸洋子との会話であった。


 グループ兼任の経験がある彼女からの貴重な話。

 入れ込み過ぎるな、という事。

 向こうのグループのメンバーも信じてやれ、という事。

 百年以上ぶりに、楽団を弄れると思って少し浮かれていた彼女には、頭を冷やす良いきっかけとなった。

 彼女の本業は現役アイドル。

 まず自分が演者として、前世では経験しなかった世界を生きる。

 楽曲提供はまだ良い。

 彼女にとって曲を作る事は、自分の頭の中に溜まった色んなものを発散する行為でもあり、仕事というより生理現象みたいなものである。

 だが、人を選び、指導するのは「仕事」だ。

 自分の思うがままに表現する作曲と違い、演奏や指導は他人と付き合ってのものである。

 傍若無人な天出優子モーツァルトとて、他人に不可能は押し付けられないし、演者のいないコンサートは行えない。

 他人に合わせる事だってするのだ。

 それくらいの事が出来なければ、前世で宮廷音楽家も、転じて大衆の為の音楽家にもなれなかっただろう。

 孤高の作曲家も歴史上存在しないわけではないが、大概死後に楽譜が発掘され、他人によって再評価のきっかけが与えられるものだ。


 スケルツォのコンサートの練習もあるから、何度も広島に行けない。

 オンラインで優子は、アルペッ女スタッフと打ち合わせをした。

 その中で優子は、アルペッ女メンバーが苦戦している事を聞く。

 優子と、作詞担当の八橋けいこが乗りと勢いで作った30曲あまりの新曲。

 しかし30曲を一週間で覚え、収録に臨むのは中々大変な事であった。

 やってみると、17、8曲くらいから段々とうろ覚えになり始める。

 結局、一発クリアとはならず、翌週再収録となった。

 もう一週あれば、彼女たちならなんとかするだろう。

 その一週間の余裕の内に、スタッフたちは考えた。

「選抜メンバーを少数にして、個人がもっと目立つようにする。

 14、5人のメンバーで30曲歌うより、5、6人、場合によってはソロの曲を作って、一人の歌唱パートを長くした方が良いのではないか?

 これだけ曲があるなら、いつもとは違う事を出来るのではないか?」

 だが、もし作曲した木之実狼路こと、天出優子がそれを望んでいなかったら?

 創作者の意思に反して、勝手な事をすると、色々拗れるだろう。

 如何に販売や演奏といった権利の関係上、著作権がスケル女グループの運営になっているとはいえ、作った人間の意向は無視出来ない。


 そういう考えから、優子の意見を聞く事になったのだが、優子の回答は実にあっさりしたものであった。

「アルペッ女のメンバーをずっと見て来たスタッフの皆さんが、その方が良いと考えるのなら、そうして下さい。

 私には異存は無いですよ」


 ホッとした表情のスタッフたち。

 咳払いを一つし、山口チーフマネが

「我々の意向を尊重してくれるそうで、安心しました。

 その上で聞きたいのですが、木之実先生としては、こうしたいという考えは無かったのですか?」

「ありますよ」

 そう言って優子は、曲のイメージとそれに合う選抜メンバー案を語り出す。

 明るい曲、哀しい調べの曲、力強い曲、情熱の籠った曲、30曲の中には様々な曲がある。

 それに合わせた人選案に、スタッフは「なるほど」と頷きもしたし、「ちょっと人選ミスかな」と思ったりした。

 なるほど、声や今までの楽曲から考えればその子を選ぶだろうが、それは選抜の都合上そう歌っているだけで、本人の意向や、レッスンでの歌唱を見れば違う感じの曲の方が得意だったりする。

 この辺り、ずっと見て来たスタッフと、全員と会ったのは数日だけで、あとは既に公開されている楽曲から判断した優子の差となる。

 それでも

「選抜された事が無い子、まだ研究生の子までよく特徴を把握しているなあ」

 と、その耳には舌を巻いた。

 名前に関してはうろ覚えで

「あの天狗の面の子」

 とか

「ポケットに色んな食べ物入れてる子」

 みたいな言い方をしているが。

 まあそれでも、全員が忘れ難い特徴を持っているから、特定はしやすいので問題無い。


 更に優子は、これでセットリストを組む場合のアイデアも出した。

 彼女のプロデューサー能力は非凡なものがある。

 ちょっと舞台セットは壮大過ぎて、ライブハウスでするなら無理だろ、というのもあるが。


 一通り意見を出した後で、こう続ける。

「ですが、これはあくまでも私の意見です。

 アルペッ女をずっと見て来た皆さんの方が、良い選択を出来ると思うので、私の意見は参考程度にして下さい。

 私は兼任メンバーでもありますから、私自身を含めて演出となると、自分には見えない事もありますからね。

 曲を提供し、全国ツアーという案も実現して貰いました。

 あとは皆さんの指示に任せたいと思います」


 本来、前世の天出優子モーツァルトはこんな殊勝な性格ではない。

「私に任せろ、君たちは私より才能が無いのだから、私の言う事に従えば良いのだ!」

「なんでそんな演奏をするかな?

 私のイメージが台無しだ。

 これだから才能が無い奴は嫌なんだ」

 こういう事を平気で言うから、嫌う人からは思いっきり嫌われていた。


 だが、モーツァルトと天出優子は違う。

 前世の音楽家やパトロンたちに囲まれて英才教育を受けていたのとは違い、転生後は小学生までは偏りなく普通の人たちに囲まれて育ったのだ。

 幼稚園時代のクソガキが、成長するにつれ、才能を目覚めさせたのも見て来た。

 教える事で伸びる子も見た。

 職を得る為には目立て、他人より秀でろ、という英才教育も受けていない。

 前世の享年は35歳だが、転生後14年生きて、通算なら来年度で50歳になる。

 35歳なんて、余程の苦労人でない限り、人生ではまだ未熟者である。

 二回の人生で、モーツァルトはやっと成熟した人格になって来たのだ。

 まあ、まだ挑まれたら叩き潰す、無神経発言をする、下ネタ大好きだ、歯止めが外れる才能を暴走させるという、大人になり切れない部分も多々あるが。


 打ち合わせは終わった。

 アルペッ女スタッフたちは

「東京のスタッフが、天出さんは生意気だし、何かちょっと怖いとか言ってましたが、そうでも無いですね」

「我々の事を尊重してくれるし、良い子じゃないですか」

「他人の評価は当てにならないですね」

 と話していたが、それは彼女が成長したからである。

 東京のスタッフには、どうもオーディション当時の優子が印象に強く残っていて、今でもおっかなびっくり接するか、不穏当な言動を警戒して過度に注意し過ぎる傾向があった。

 だが、優子は良い先輩の影響を受けて、良い方に変わっていた。

 様々な経験をして来た灰戸洋子からは、有益な話を何度も聞いている。

「信用して、任せても良い」

「入れ込み過ぎるな」

 その言葉を実践し、優子はアルペッ女スタッフと円満な人間関係を作り出せた。


 他にもいる敬愛する先輩の一人、馬場陽羽ひのは

 彼女からは、努力というものを学べる。

 正当な努力でどう報われるか、間違った努力に気づく術、諦めない心と、それ故に空回りする場合の対応、努力は時に人から評価されないが、見ている人は見ているのだという事。

 彼女のアイドル人生が、それを全て示していた。


 そんな馬場の卒業公演は、もう間近である。

おまけ:

プロデューサーやマネージャー、宣伝広告マンやチケットセールスという、音楽周辺の世話は音楽家以外がするようになったのは、19世紀からだそうで。

モーツァルトの時代は、音楽ビジネスとしては規模が小さく、貴族相手の売り込みとか、製作請負とかは音楽家自身がしていたようです。

……ビジネスセンスがあまり無く(比較対象はハイドン)、浪費家なモーツァルトは生活が厳しかったのですが、彼に生活まで世話する敏腕マネージャーが居たなら……。


あ、現代の超敏腕マネージャーがタイムスリップして、生活はポンコツ過ぎる音楽家(該当者多数)をマネジメントする小説もアリですな。

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― 新着の感想 ―
>>あ、現代の超敏腕マネージャーがタイムスリップして、生活はポンコツ過ぎる音楽家(該当者多数)をマネジメントする小説もアリですな。 巻末参考資料欄にえげつない量が並びそうですね……
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