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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
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作詞作曲コンビ

 レッスンを終えた後、天出優子と八橋けいこは一緒に食事をする。

「天出って、どれくらいのペースで曲を作れるの?」

「曲にもよりますね。

 ピアノだけの曲とかなら、10分くらいの曲だと早ければ15分くらい?」

「は?」

「早い時は、ですよ。

 まあ30分から1時間ってとこですかね。

 歌詞が着いていないと、割と自由に作れますから」

「うわあ……、信じられない。

 こりゃ私も負けてられないわ」

「八橋さんはどうなんですか?

 歌詞とか書くのは?」

「私、一から作詞するのは初めてだから、よく分からない。

 小説で良いなら言えるけど、まる一日くらいかな」

「一日でどれくらいの文字なんですか?」

「うーん……、10万文字くらいかな。

 調子が良い時なら20万文字、小説一冊の半分くらいは書けるかも」

「……八橋さん」

「なに?」

「十分早いと思います。

 私が400字の原稿用紙で、読書感想文書いた時なんて、1日かかってやっと5枚くらいでしたよ」

「読書感想文とか懐かしいね。

 あんなの、5分くらいで終わるでしょ」

「…………」

「…………」

「お互い、相手の事は分からないようですね」

「そういう事だね」

 そう言って、二人は一旦水を口にする。


「私は今回が初作詞だから、一回戸方さんに提出して、直しをしてもらってから天出に曲を作ってもらう事になるけど、それでいい?」

「いいです。

 ただ、私の方が先行して曲を作りたい時もあります。

 曲に合わせて歌詞を書くのって、いけます?」

「大丈夫だよ。

 音に文字あてるのもやれる」

「なら、こっちから曲を送る事もしますので」

「了解」


 そして、作詞作曲にあたり、アルペッ(ジオ)の事について話が及ぶ。

「あそこは、清楚系だから、私の和のテイストが生きるとは思う」

「あはは……」

(直に会うと、イメージがぶっ壊れてしまう。

 そうすると、歌詞が壊れたイメージに引き摺られてしまいそう。

 言えない、たまに見るくらいなら良いけど、1時間も一緒に居たらこっちにも感染しそうな変人集団だなんて……)

 優子の配慮により、八橋はアルペッ女に対して綺麗なイメージのままで創作する事になる。


 その後、二人は次以降はオンラインで話す事にしてレストランを出た。

 優子は先行創作に取り掛かる。

 だが

「ダメだ。

 良い曲が思い浮かばない……」

 音楽の天才にしては珍しい事に、綺麗なメロディーが出て来なかったのだ。

 しばらく考えた後、

「よし、気晴らしをしよう!」

 と言って、別の曲を作り始めた。

 ダイニングでお菓子を食べながら、「曲が作れない」から「よし、気晴らしに別の曲を」とブツブツ言っている優子を見て

「姉ちゃんさあ、作曲出来ない気分転換に作曲するって、どういう事?」

「ママも初めて聞いたわ……。

 言っちゃなんだけど、我が娘ながら変わってるよねえ」

 と母、弟が顔を見合わせていた。


 一旦集中モードに入ると、雑音が耳に入らない優子。

「よし、出来た!」

 と1時間程で1曲書き上げてしまった。

「あの人たちを、清楚とかお嬢様って思って書こうとしても、実物を見て、思考が汚染されていた。

 だったら、今のあの連中に合った曲を作って、吐き出そうか。

 これで頭がリセットされた。

 改めて、綺麗な旋律の曲でも書こうっと!」


 作り出した曲は、天出優子(モーツァルト)にしては珍しく、音を歪め、不協和音や不安を煽るような音を多用している。

 かと思えば、急に整った旋律のパートに繋がり、ラストは畳み掛けるような勢いのある曲となる。

 そして、音楽は唐突に終わる。

 情緒不安定な感じの曲だが、だからといって酷い出来ではなく、良曲には仕上がっていた。

 それに、後から歌詞を付け足す。

「よし、とりあえずプロデューサーに送っておくか。

 まあ、あの変人たちを思った時に浮かんだメロディーを繋ぎ合わせた曲だし、お蔵入りでも良いとするか」

 気分が良くなった優子は、改めてアルペッ女の曲を聞いて、イメージを膨らませる。

 そして脳裏に浮かぶのが、変人の百鬼夜行から、清楚な制服姿の少女たちが回り歌う映像に変わり、

「よし」

 と言って音符を紙に殴り書きする。

 勢いのままに書き上げ、それを眺めながら口ずさむ。

 ちょっと気に入らない箇所があり、修正する。

 そしてそれをタブレットを使ってデータ化していった。


 彼女の作曲スタイルは多様である。

 DTMで楽器を使い、演奏しながら打ち込む事もあれば、先に脳内に音楽が出来上がり、後でデータ化する事もある。

 今回は後者であった。

 一曲完成し、八橋に送りつけた。

 すぐに返信。


>早っ!


 それだけだったが、八橋からも負けじとテキストファイルが添付されて来た。

「お、歌詞か。

 あの人もやっぱり早いなあ」

 わずか五・七・五の17音、もしくは五・七・五・七・七の31音で詠まれる和歌。

 それでも即興で作ったり、相手の歌に対する返歌をその場でする。

 和歌、俳句をする人はこういうのが鍛えられているので、何かインスピレーションを刺激されるような事があれば、すぐに文字が浮かぶようである。

 八橋もそう言った類の文人であり、優子の音楽を聴いた時に刺激を受け、すぐに詩作に繋がったようだ。


 その和風で、韻を踏んだ定型詩を読みながら

(凄いなあ……)

 と感心しつつも、優子の頭にも音楽が沸き上がって来ていた。

 優子は、文字を読む事でイメージが出来、それで書き上げる作曲もする。

 一回自分の鼻歌を録音して、それを楽譜に落とし込んだ。

 オペラなんかを書く時は、まず最初に台本があり、それを読んでイメージを膨らませる。

 アイドル楽曲も同じようなものだ。

 直接見てしまった事で、イメージが汚染されてしまい、1時間程スランプに陥った。

 だからむしろ、文字を読んで、そこから湧き上がるイメージで曲にした方が良いようだ。


 そして打ち込んだデータを、自分の声も入れた仮歌として八橋に再送。

 受け取った八橋は

「こっちが送ってから、2時間も経ってないじゃん。

 もうここまで完成品に近い曲になったの?

 本当に、あの子凄いねえ……」

 と呆れながらも、この曲を聴いている内に

「うん、また詩想が湧き出て来たわ!

 こんなの初めて!」

 と、パソコンに向かって文字を叩き込み始めた。

 優子が感じたように、この女性もまた異才。

 あっという間に新しい歌詞を書き上げると、優子に送信した。


「八橋さん、早っ!

 もう次の歌詞が出来たの?

 スケル女で一緒に活動していた時は、ここまでの人とは分からなかった。

 凄い人って、意外に身近にいるんだねえ」

 そう言いながら歌詞を読み、

「いい詩だねえ。

 切ない調べがこう、頭の中で鳴り響いているよ。

 ああ、これを楽譜に書き落とさないと気が済まない!」

 そして再び機械を使ってデータ化する。


「あ、また天出からデータが来た。

 もう曲になったの?

 本当に凄いわ。

 グループに居た時も凄いとは思ったけど、ここまでとはねえ。

 これも切なくて悲しい、でも綺麗なメロディーじゃないの。

 ああ、これを言葉にしないと気が収まらない」


 かくして永久機関じみた歌詞と音楽の交換は、翌朝5時まで続いた。

 軽い興奮状態でデータを送り合っていた2人だが、奇しくも同じ時間に

「もう限界。

 あの人、まだ続ける気かしら……」

 と言いながら机に突っ伏して眠りに落ちてしまった。


 数日後、戸方プロデューサーは大容量の圧縮ファイルを送りつけられる。

 チェックして下さいと、メッセージはそれだけ。

 解凍し、展開された大量の音楽データと、セットになったテキストファイル。

 読み、聞き、そして溜息を吐いた。

「僕はあいつらに、アルバムを作れと言った記憶はないのだが……」

 小出しにしてストックにするにしても、余りにも多い30曲。

 さっさと使ってしまわないと、もっと作られる可能性がある。


 とりあえず全部消費すべく、アルペッ女のアルバムCD、2枚組セットが急遽作成される事になったのである。

おまけ:

戸方風雅は、天出優子作詞作曲の歌を貰った。

「えーっと、なになに?

 タイトルは『変人たち(ゾンダーリンゲ)狂詩曲ラプソディー』。

狂人フェアリュッケン行進曲マーチ』。

 ……………。

 まあ、アルペッ女(あいつら)見てたら、こんな歌詞書きたくなるのは分かるけど。

 でも、ちょっと書き直しっと。

『人は誰だってユニークだから』

『踊ろう! 僕らは皆、唯一無二』

 物事は直接的な表現したらダメなんですよ」


音楽の天才が珍しく他人の修正を受けた曲となった。

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― 新着の感想 ―
執筆の息抜きに執筆するとか連載の息抜きに同人誌を作るとか異常な才能の創作家はそういうところあるよなあ。
どんな創作でも求められるものを作るのと自分の好きなものを作るのは違うからねぇ…
イラストレーターは、仕事のイラストを描いてる時に、息抜きでイラストを描くとか。 そう考えると、仕事の作曲の息抜きに好きに作曲というのも十分あり得るのかな。
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