アルペッ女のメンバーたち
アイドルグループにも集団としての個性がある。
天出優子が属するスケル女は、メディア露出が多い為、奇を衒う事なく無難にまとまっているが、個々で見れば中々癖が強い子が多い。
様々なベクトルの才能を持つ女の子の集団ながら、全体としてはザ・王道なのは、プロデューサーの手腕に因るところが大きいだろう。
姉妹グループの、大阪を拠点とするアダー女は体育会系だ。
関西のノリで、体当たりで様々な事に挑戦し、体を張った頑張りと、そんな中でもボケて笑いを取れるメンタルの強さが、彼女たちを体育会系にした。
ライバルグループのフロイライン!は、超絶スキルと、メンバー間のライバル関係が個性となっている。
ここのメンバーは「全員がラスボス級」と言われるスキルの高さを持つが、スケル女のような多彩な才能ではなく、歌・ダンス・表現力・演技というステージパフォーマンスに、全員特化していた。
全員が同じベクトルの努力家だけに、圧巻のライブを見せられる一方、互いに優劣をつけたがるし、失敗を許さない厳しさもあり、結果バチバチした対立に見えてしまうのだ。
実の所は、「個人的には好きでも嫌いでもない、技術は認める、だからちゃんとやれ」とお互い思い合ってるくらいだ。
アイドル三大勢力の一角、「自由音楽同盟」通称FMsは、その名の通り自由さ、悪く言えば雑多さが特徴である。
元々バラバラに活動していたグループが、スケル女、フロイライン!という二大勢力に対抗する為に連合して始まった集団であり、FMsと呼ばれていても、そういう名前のグループは存在していない。
薔薇乙女騎士とかカクテルガールズとか毒舌淑女とか「アルテミスのネックレス」といった複数アイドルグループが合同でコンサートをしたり、シャッフルして活動しているから、「何が起こるか分からない」のが魅力でもあった。
さて、ここ広島のアルペッ女だが、グループとしての個性は「清楚・優雅」なパフォーマンスと、仲が良過ぎる関係性であろう。
変人集団なのは知る人ぞ知る個性なのだが、なにせ知名度不足な為、たまにイベントで見る層にとっては
「綺麗に揃った歌声と、緩やかで見ていて疲れないダンスをする、お嬢様集団」
にしか見えないのだ。
……変人たちだって、外仕事ではきちんとアイドルをやるのだから。
優子は挨拶の後、メンバーと一緒にレッスンをする。
それは実に和やかであった。
確かに真面目にレッスンするから、緊張感はある。
しかし、進化を常に求められるスケル女のそれとは違い、今出来る事を更に精度を高める感じの練習だ。
KIRIE先生のような、高難易度の無茶振りはして来ない。
だからレッスンは楽しいようで、1セット終えて疲れている中、お互いに改善点を言い合い、また一緒に踊ったりしている。
(こういうのも良いんだよなぁ)
天出優子は、スケル女に比べれば厳しさが無いアルペッ女の現場を見ながら、そう思った。
楽しい音楽を観客に提供する為に、演者は見えない場所では努力を積み重ねる。
それはその通りだ。
だが、音楽とは観客の為だけのものではない。
演者にとっても楽しいものであれ。
そうも考える。
厳しい練習に、時として泣く女の子を見るのは、ちょっと辛いものがあった。
下心丸出しで慰めもしたが。
だが、向上心の塊だけが生き残るアイドル界、彼女たちは自分の不甲斐なさに泣いても、そこから立ち上がり、歯を食いしばって厳しい練習に食らいつく強さを持っていた。
それはそれで良いが、一方で女の子たちが和気藹々と楽しみながら練習する姿も良いものだ。
それで馴れ合いになり、上達しなくても良しというのであれば、それは音楽を愛する者からしたら許せない。
しかし、アルペッ女は冗談を飛ばし、笑いが絶えない現場ながら、きちんと仕上げて来ている。
他にも東京とは違う事もあった。
優子の才能に嫉妬しないのだ。
現場を仕切るスタッフが
「うちらも歌うスケル女の曲だけど、折角本物が居るんだから、お手本見せてもらいましょう!」
と言い、優子にソロのパフォーマンスを見せるよう促した。
こういう場面だと、最初は抑えようと思っていながら、ついつい本気を出してしまう癖がある。
そんな優子の本気に、東京だと打ちのめされるメンバーが多数出た。
卒業した先輩には、それが理由の人もいるくらいだ。
だが広島では違う。
演じ終わると拍手が起こり
「流石、本物!」
「はい、師匠!
教えて下さい!」
「天才って長門理加が言ってたけど、その通りだよねー!」
と暢気な反応である。
地方ゆえに、競争で蹴落とされるというガツガツさが無い。
自分と比べ、自分が年下の優子に遠く及ばないと、プライドがズタズタになる事も無い。
相手を素直に格上と認め、いつかそれに皆で追いつけたら良いなあ、といった長閑なものだった。
それが長所でもあり、短所でもある。
変人集団ながら、ライブ時には温かく、ほんわかした空気になり、それが観客には心地良い。
この和やかな空気が良くて、移籍した盆野樹里も生き生きしている。
……それで少し太ったのは……言わないでおこう。
しかし、ハングリーさがなく、悠長に構え過ぎていて、急激なレベルアップはしない。
悪い言い方をすれば、ぬるま湯に浸り切っている。
良くも悪くも、地方のアイドルグループなのだ。
優子には短所はハッキリ見えた。
しかし
(別に悪い事じゃないよね)
とも思う。
時代によって進化する交響曲やら映画音楽やらポップミュージックやらがある一方、変わらないのが気持ち良い民謡とか童謡というジャンルもある。
どちらが劣っているとかは無い。
どちらにも良さが有る。
だから、アルペッ女のファンがこういうのを求めていて、彼女たちもこれが楽しいのなら、それは「楽しい音楽」の一つの形なのだ。
(方針が見えて来た。
アルペッ女の良さは変えない。
スケル女の真似をする事はない。
アルペッ女は、アルペッ女のままで良くなれば良いのだ。
おそらく戸方プロデューサーも同じ考えだろう。
変えたいのなら、私を兼任させるよりも、スケル女に書いているような曲を渡し、振付師と歌唱指導を派遣して指示すれば良いのだから)
天出優子が編曲を任される曲は、スケル女のものもあるが、アルペッ女の曲が大半である。
音楽的に合っているようだ。
無論、常に新しい音楽を取り入れている天出優子は、やろうと思えばギターのピックスライドやオーバードライブを用いたロック調の曲だって書ける。
16ビートで音符を細かく刻んだ曲も作れる。
しかし、渡された歌詞からイメージされる曲は、昔書いた自分の曲の感じと重なった。
(自分ならアルペッ女に、もっと提供出来る!!)
広島に来て、皆の中に入り込んで良かったと思った。
スタッフルームで支配人、チーフマネージャー、現場スタッフと打ち合わせし、この旨を伝えて同意を得る。
南雲支配人は安堵した表情であった。
彼は、今まで築き上げたアルペッ女を変えられたくない気持ちがあったようで、その路線のまま曲を増やし、ライブを増やすという優子の考えは嬉しい。
これで広島での仕事を終えた。
さあ、東京に帰ろう。
……と、すんなり行かないのが変人集団相手という事を優子は思い知る。
スタッフルームから出て来た優子に、筑摩紗耶が抱きついて来た。
「師匠!
今夜こそカラオケ行きましょう!
行ってくれないと、紗耶、首釣っちゃいます」
「物騒な事言わないで下さい!
帰りますんで!
親が待ってますから」
すると、長門理加が胸を張りながら、思いもかけぬ事を言って来た。
「杏奈さんには、今日泊まって行くって連絡しといたよ。
お土産買って来るように、との伝言」
「は?
なんでうちのママの連絡先知ってるんですか?
いつの間に知り合ったんですか?」
「ほら、カプリッ女の時。
優子ちゃんが中々連絡先教えてくれないから、杏奈さんが迎えに来た時に友達になって、連絡先交換したんだ!」
この変人のコミュニケーション能力を甘く見ていた……。
「というわけで、今日は歓迎会!
皆で楽しむけぇの!」
「おー!!」
「この前出来なかったカラオケもするでありますぞ!」
「逃げ遅れたか。
覚悟が決まってなかったからじゃ」
「師匠、今日は私の家に泊まって下さい!
いっぱい話しましょう!」
……前もそうだったが、改めて分かった。
この奔流のような行動力、恐るべし。
それに流されてしまえば、抗う事は難しいようだ、と……。
おまけ:
アルペッ女は変人揃いである。
当然、付き合いが悪いメンバーもいる。
付き合いが悪いというか、マイペースというか……。
長門「お〜い、日菜ちゃん。
優子ちゃん歓迎会行こうよ〜。
一緒にご飯食べよう〜」
間宮日菜「ごめん、今日は無理」
長門「何か用事あるの?」
間宮「ご飯炊いてるんで、ご飯食べないとダメから」
長門「…………」
間宮「ご飯食べるの」
長門「明日にするとか出来ん?」
間宮「ご飯食べるの……」
かくして、ご飯の誘いをご飯で断りましたとさ。
(別に優子が嫌いとか、騒ぐのが嫌だとかでなく、ご飯炊いたから食べないとならなかった模様)




