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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第四章 王家篇
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第49話 出来損ない少女の新たなる施策




「今回の件で、不測の事態に対して不便なことが沢山あると思い知らされました」


マナの言葉に何名かが頷き、反応を返してくれる。


「それで今回、各領地の領主邸に通信機を置けないか検討したいと思います」

「通信、機?」

「はい。王宮と各領地を繋ぐ物。直接会話できる方法がないかと思案しています。開発は私の夫をはじめ、私の直属の臣下におこなってもらおうかと思っています」


マナの言葉にマナの後ろに立っている三人が頭を下げて立場を示す。

キリュウはいつも通り直立不動だが。

この場ではっきりと四人がマナの臣下だと知らしめる。

これで四人はマナが直々に動かせる人物なのだと全員に伝えられた。

それを見てマナの義父は目を細め、オラクルの父親であるラインバーク当主は少し目を見開く。


「此度の事件で私は自分が王宮から動けず、また現地に派遣したこの四名と連絡が取れず、指示が伝えられないことが障害となっていました。ターギンス領の様子を見に行って貰い、彼らが戻ってくるまでに二日。ターギンス領の支援をラインバーク当主に願うよう使者となって貰って結果を聞くまでに二日。次にリョウフウ領を見に行って貰い、対処してから帰還して報告を受けるまでに三日。これが迅速な対応して掛かった日数です。もし各領地に通信機があれば、この日数が一日で事足りると思いませんか?」


マナの言葉に皆考える。


「通信機が各所にあれば、ターギンス領の様子がすぐに報告され、そしてすぐに私が直接ラインバーク当主に支援を頼む。さらにそのままターギンス領に居る者達にリョウフウ領へ向かうように指示する。そしてホウライ国の者を捕らえられたなら」

「最速で一日どころか半日もあれば全ての事が片付く…」


瞬時に割り出してくれたのは、マナの義父。

情報が命のフィフティ家なら、その重要性にすぐに気づいてくれる。

マナは内心感謝した。

フィフティ家がどんな位置にいるのか知っている者はフィフティ家を敵に回したりはしない。

むしろフィフティ家の味方の位置に回る。

その方が自分たちもその恩恵を受けられるからだ。


「そうです。これが行えていたなら、もしかしたらリョウフウ領民もターギンス領民も助けられた人数がもっと多かったかもしれません。ですから通信できる魔導具を。欲を言えば映像も見れるような魔導具を作れれば、と思っています」

「私は賛成です。出来れば私の所の人間も開発に加わらせて頂きたい」


義父がそう言う。

マナはそれに頷いた。


「私も異論はありません。私の領に異変があったときも、直ぐにご報告できるという解釈で宜しいのですよね?」

「はい。出来上がれば、王宮内の詰め所など、常に誰か居るような所へ設置して女王か私に直ぐ伝わるようにしたいと思っています。当主の方々には出先でも使えるように、身につけられる装飾品みたいな形でもいいかと思います」


その言葉を聞いて、全員が賛成してきた。


「悪用されないように、本人の認証式にしたいと思っています」

「認証ですか?」

「はい。自分の魔力を魔導具に記憶させ、魔力を注げば起動できる。剣闘系の方も当主なら多少魔力はありますでしょうから。ホウライ国に悪用されないためにも、明らかに通信機という見た目をしてない物に出来たらと」

「それはいい考えだと思います」

「開発に多少時間が掛かってしまうでしょうが、優先事項として行わせて頂きます」


マナの言葉に全員が頷いた。

そして会議は終了し、退出となった。




「………はぁ、疲れた…」

「お疲れ様リョウランちゃん。でもリョウランちゃんって会議ではちゃんと王女様なんだねぇ」

「………今までの私は違ったの…?」


ジト目で見るとヘンリーは笑う。


「だって僕にとってリョウランちゃんは学園で出会った時のままの感覚が強かったから。さきの命令はちゃんと王女様だったけど、忠誠を誓ったからかな? リョウランちゃんが立派に見えたんだよね」

「………あ、そう…」


マナは今更ながらのヘンリーの評価に脱力する。


「ヘンリー、マナに近づくな」

「久しぶりだねその台詞」

「距離が近い。それに話すな」

「どれだけ!? 臣下なんだからいいでしょ」

「良くない。減る」

「いや、リョウランちゃんは減らないから」

「いいや、減る」


このやりとりも久しぶりで苦笑するマナ。

二人のやり取りをオラクルとイグニスと共に眺める。

問題が一段落し、更に提案も受け入れられた。

マナの心に余裕が出来、二人のやり取りも笑って見ていられる。

この時間が大切だと、改めて思う。


「学園ではいつもこうだったのですか?」

「大体ね。訓練の時も時々やってたでしょ?」

「あの時は極力近づかないようにしてたので……」

「ああ…確かに。オラクル………って今更ながら呼び捨てで良い?」

「構いませんよ」

「じゃあオラクル。貴方あの時私の立場にビクビクしてたわよね」

「………忘れて下さい」


フイッと顔を背けるオラクルに苦笑する。


「なんだお前、挙動不審だったのか。似合わねぇな」

「お前は殿下が殿下だと知らなかったから楽観的に言えるんだろうが! 俺は覚えているぞ。殿下のお披露目があった時、口を間抜けに開けてほうけた顔で殿下を凝視していたことを」

「げっ!?」

「そして段々真っ青になって、『お、俺、う、打ち首か!?』って焦ってただろうが」

「それを言うなよ! あの時俺は戦場で殿下に命令した後だったんだぞ!?」

「まぁ、あの時は一魔導士だったしね」


マナが相づちを打つ。

が、イグニスは動揺しきっているのか、更にオラクルに焦りながら言う。


「更に俺に強化魔法かけろとか言ってたんだぞ!?」

「いや、あの時は仕方ないし、それに私の方が助けてもらってたし、それぐらい気にしないでよ」

「しかも俺は殿下のことお前呼ばわりしてたんだぞ!?」

「リーダーはオラクルとイグニスだったし、いいんじゃない?」

「……はっ! で、殿下!?」


イグニスは漸くマナが隣に居ることに気づいたようだった。

会議室から今まで一緒に居たというのに、忘れられてるとは思わなかったマナはイグニスを呆れた顔で見る。


「え? 相づちしてたの私なんだけど」

「し、失礼い――っあいた!」


また舌を噛んだイグニス。

この男はつくづく敬語苦手だなぁとマナは眺める。


「気にしてないし、自分の臣下を打ち首にするわけないっしょ。信頼してるんだから、頼らせてよね」

「お、おう………じゃない! はい!」

「エンコーフ、マナに近づくな」


突然キリュウが間に入ってくる。

ヘンリーとの言い合いは終わったらしい。


「おま!? 年上を呼び捨てすんな!」

「俺はⅠ、お前はⅣだろ」

「臣下序列主義かお前は! ヘンリーに先越されてたくせに!」

「何のことだ。俺はⅠだ」


Ⅰを強調するキリュウに、マナは苦笑する。

よっぽどマナのⅠが嬉しいようだった。

キリュウが喜んでいるのは、いつもの無表情でとても分かりにくいがマナとヘンリーには分かる。

無理をしてでも番号を変更したのは正解だったようだ。

キリュウの為ならそんなこと、苦労でもなんでもなかった。


「殿下」


和んでいるところに声をかけられる。

振り返ると、そこにはオラクルの父親であるラインバーク当主がいた。


「ご苦労様でしたラインバーク当主。援助も凄く助かりました」

「いえ。私も隣の領地の事は把握しておりませんで、民を苦しめてしまい申し訳ない気持ちです」

「貴方はラインバーク領の当主であって、ターギンス領の当主ではありません。貴方が気にされることではありません」

「ですが隣の領地での惨事、気にしておけば陛下や殿下に直ぐお伝えできたでしょう。これからは自分の領地だけではなく、他領地の事も頭に入れておかねばと思います」

「ありがとうございます。助かります」

「いえ。それで恐れ入りますが、殿下に息子と話す許可を頂きたいのですが」


息子と話すのに許可がいるのか、とマナは一瞬考えたが、オラクルはマナの臣下だ。

マナの臣下という立場が優先されるので、許可が必要なのだと納得する。


「構わないわ。私達は席を外しましょう」

「いいえ。同席して頂いて構いません」

「そう? じゃあ、座って話しましょ」


マナは自室にラインバーク当主を案内した。


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