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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第四章 王家篇
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第48話 出来損ない少女と不正行為




定例会議までになんとか報告書作成は終わった。

新たな施策として女王に進言する書類も作り終える。

マナは四人の臣下を連れ、定例会議がある室へ向かう。

王家が出入りする扉と他の者が出入りする扉は違う。

一度別れ、マナは王家の扉に向かう。

そこにはホウメイが立っており、マナを待っていたようだ。


「顔色がいいわね。眠れた?」

「はい。大丈夫です」

「良かったわ。そうそう、臣下が増えて良かったわね」


ニッコリ笑って本当に嬉しそうにするホウメイを見、マナはげっそりした。


「………なんで許可したんですか…」

「だって、もう忠誠の誓いをたてた後っていうじゃない」

「ひぃ!?」


まさかの事後報告だったらしい。

イグニスは成り行きかもしれないが、ヘンリーとオラクルは絶対に確信犯だろう。

マナに拒否されないように。

女王にダメだと言われないように。


「いいじゃない。なんだかんだ言って、彼らといい関係を築けていたんだし」

「………私は女王の臣である彼らを奪う形に…」

「奪ってないわよ。だって彼らは私に忠誠の誓いはたててなかった。彼らの意思は彼らのもの。誰に忠誠を誓うかは彼らが決めること。命令された忠誠は忠誠ではないわ」

「………それはそうですが…」

「もう彼らはマナの物。国の物ではないわ。だから、前を向きなさい」

「………はい」


ホウメイに鋭い視線を向けられ、マナは最後のわだかまりを捨て去り頷いた。

彼らはもう自分の物だと、ホウメイの言葉で胸の中にあった罪悪感が消える。

やはり母の言葉は胸に響くな……と思った。


「さ、切り換えていきましょう。マナは今から頑張りどころでしょ」

「はい」


女王に報告したのはマナで、実際に問題を解決したのはマナと臣下。

今から全員に事の次第を説明するのはマナの役目。

深呼吸し、マナはホウメイと共に室へと入室した。




まず初めに周りが驚いたのは、ホウメイとマナが座ると同時に、先に入室していたキリュウ、ヘンリー、オラクル、イグニスがマナの背後に付いた事。

マナの背後につくということはすなわち、マナ直属の臣下になったことを他者に分からせることを意味する。


「では、本日の定例会議を始める。まずは貴族の中で問題がある事があれば挙手を」


マナの臣下のことはスルーし、シュウが言葉を発した。

この会議中、下位の者から上位の者へは、話題が上位の者から提示されない限り、同一の話題のみしか言葉に出来ない。

それ以外のことは聞けないのだ。

社交の場も同様で上位の者から言葉をかけられない限り下位の者は話しかけられない。

その決まりのおかげでマナは追求を逃れることが出来る。

内心助かったと思う。

そんな事を思っていると、一人の男が手を上げた。


「ラインバーク当主」


シュウの言葉にマナはハッとする。

オラクルの顔をチラ見すると、微かに頷くオラクル。

マナの目に、オラクルの父親が映る。

彼は五十代と聞く。

オラクルと同じく綺麗な顔をしている。

蒼の瞳に同色の髪。

伸ばしている髪を後ろで束ね、右肩にかけている。

体格が良く、顔と体付きがアンバランスだが。


「王家からのご命令で私はターギンス領へ部下を送り込みました。そのターギンス領から見つかった不正資料のご提示をしても宜しいでしょうか」


事情を知らない王族と貴族がザワつく。

動じてないのは女王と王女、宰相とフィフティ家当主だけだ。


『さすがお義父様。知っているのね』


マナはチラッと義父を見ると、義父はマナを見、目を細めた。

まるでその視線でマナを褒めているかのように、優しい目で。

彼にはマナがした命令のことも一部始終知っているのだろう。

恐ろしい人だとマナは思う。

それで怖がったりはしないが。


「ではその前に全員に情報共有を致しましょうか。殿下」

「まず事の発端は、オラクル・ラインバークとイグニス・エンコーフ、キキョウ・ヘンリーに指示した魔獣目撃の件で動いて貰ったことから始まりました」


マナはオラクルに視線を向けた。


「私とここに居るエンコーフとヘンリーがターギンス領へ向かったところ、魔獣が出始めたのは一月前のこと、そして魔獣が食物を食い散らかしたのは最近ですが、ターギンス領の民は餓死しかかっていました」


そんな事になっているとは思わず、当主達は動揺している。

まだ序の口だ。

これから聞かせることは余りに酷い事。


「魔獣が住む森に一番近いリョウフウ領も調べたところ、既に壊滅状態だった」

「なっ!?」

「そんな!?」

「先日の会議で見たリョウフウ当主はいつも通りでしたぞ!?」

「リョウフウ当主はホウライ国の者に魔術で操られていた。息子のフキョウ・リョウフウはホウライ国の者に協力し、領民達を殺し傀儡人形にしていた」


キリュウの言葉に、会議室は騒音の嵐。

皆感情的になり、落ち着いて話は出来そうになかった。

ホウメイとマナ、それと事情を知るものはそれを冷静に観察する。

他にホウライ国に加担しよう、加担する可能性がある人物はいないかと。

人は予想外の展開に動揺するもの。

それは繕える物ではなく、ごく自然に生まれる表情。

作っている顔は騙しきれるものではない。

数分が経ち、場は落ち着いてきた。

そのタイミングで、マナは口を開いた。


「すぐに四人に動いてもらい、リョウフウ領を占拠していたホウライ国の者と、反逆者であるフキョウ・リョウフウを確保。拘束して捕らえています。リョウフウ領民はわずか十名の生き残りしか救えず、その者達をラインバーク領へ預かって貰いました」


マナがラインバーク当主を見ると、目礼される。

マナもし返し、続ける。


「更にラインバーク当主へターギンス領へ食料の援助をして頂き、同時にターギンスの屋敷を調べて貰い、そこで見つけた不正資料を本日会議に持ち込むよう指示を出しました。ご苦労様でしたラインバーク当主。援助も迅速に対応して頂いてターギンス領民は餓死者を最小限に抑えられました。民に代わって礼を言います」

「いえ。勿体ないお言葉です」

「では皆に共有できたと思うので、その不正資料の内容を」

「畏まりました。内容は大きく分けて三つです。一つ、ホウライ国への奴隷斡旋。二つ、領民への税収強制。三つ、賊の手引き。以上三点の証拠資料を、不正書類としてお持ちしました」


またザワつく室内。

静まるまで待たなければならない。

それにまた数分を要した。

収まってからラインバーク当主はまた口を開く。


「奴隷斡旋は領民の弱みを握り、子を渡せと強要。その子供をホウライ国へ奴隷として引き渡し、金品を得ていたようです」

「………それはいつからですか」

「ここ二年ほどです」


二年なら、すでに殺されている子も居るだろう。

が、なんとかして取り戻せないだろうか…とマナは考える。


「売買された書類に子の名前は」

「ありませんでした」


ラインバーク当主の言葉に唇を噛む。

名前があればなんとかなっただろうが、これでは何も出来ない。


「続いて税収強制。この国ではどの領地でも収入の三割と決められております。ですが、ターギンスは六割取っていました。逆らえば殺されるからと、領民は怯えながら暮らしていたようです」


会議中にも関わらず、マナは思わず顔をしかめた。


「半分は自分の取り分としていたわけだな?」

「はい」


グッとマナは拳を机の下で握りしめた。

どうして領主になったのか考えるが、簡単だった。

領主は世襲制が殆どだ。

王家とは違う。

そして各領地は各領地の特色があり、統一管理とはいかない。

王家が統一出来ることではないが、これは酷すぎる。

なんとか対策を練らねばと、マナは頭を働かせる。


「最後に賊の手引き。生活苦で道を踏み外したならず者共と取引し、欲しいものを窃盗させ自分のものにしていたようです。領民から摂取した税の三割の半分はこの報酬に充てていたようです。中には人間も入っていたようで、虐待したり女性には……おおやけに口にできないようなことをしていたようです」

「………」


マナは言葉を発しないように唇に力を入れる。

最低な奴だな、と口走らないようにするのが精一杯だった。


「これで刑は確定しました。アシュトラル宰相。明後日みょうごにちターギンス当主を公開処刑します」


女王がここで初めて口を開いた。


「畏まりました」

「フキョウ・リョウフウも同日公開処刑の用意を」

「はい」

「リョウフウ当主は、もう少し時間をかけましょう。どうにかして元の状態に戻せないか」

「お言葉ですがそれは難しいかと」


女王の言葉に反論したのはキリュウだ。


「リョウフウ当主の脳を殺し、別人格を入れられている状態。死んだ脳を生き返らせることは不可能かと」

「………そう。出来た人だったから国境近くの領地の管理者に適任だったのに、残念です。宰相、せめて安らかに眠らせてあげて下さい」

「畏まりました」


シュウが頭を下げ、了承する。


「リョウフウ領は更地にし、森の一部とするために木を植えることになりました。ターギンス領は別の当主を用意し、正常な状態に戻します。時間が掛かるでしょうから、王都から定期的に物資を送ります」


女王の言葉に、皆頷いた。


「この件は解決したということで、王女から提案があるそうなのでもう少し時間を下さい」


次の話題ということで女王からマナに振られる。

マナは頷き、口を開いた。


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