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ある日、子どもが不登校になりまして  作者: 千東風子


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14 中学三年生の十一月

 

 中学三年生の十一月

 穏やかな日々



 期限はまだ先だったが、忘れないうちに合格したサポート校の学費を納める。一年間の学費は私立の大学なみ……。高校の学費は年明けの納入だ。貯蓄がすごい勢いで減っていく。諭吉様の大移動。

 国の高校無償化の補助制度は所得制限にひっかかって該当しない。フルタイムの共働き世帯は額面だけ見ると稼いでいるように見えるが、所得税は高いし、今までの保育園の利用料だって高かったし、他の色んな補助制度も該当しないことが多く、可処分所得にけして余裕はない。

 私立の通信制高校に通う生徒がいる家庭に東京都が助成してくれるので、そちらで補填を期待。ただ、手続きが複雑そう。取得単位数でいくらくれるか決まるから、在籍学年の秋に申請して、審査に合格すれば助成をくれるのは年度末になる。

 高校の授業料もまずは自分たちで払わなければならない。


 中学校の三者面談は、既に進路が決まったこともあって先生も穏やか。卒業までの学校の予定を確認して終わった。

 間違いなくクラスの中でも悩みの種の生徒の一人だっただろう娘。娘の行く先が決まったので先生もホッとしたもよう。ほかの生徒たちはこれからが受験の本番。先生にもキャパがある。うちの娘のことも気にかけてくれていたから、一人分の肩の荷が下りたのだろう。先生なんだから当たり前かもしれないけれど、当たり前のことをしてくれる人がこの中学校にいることがありがたい。別室登校の娘のところへ、誰に言われるでもなく来てくれる先生方も当たり前のようで当たり前ではない。来ない先生は来ないらしいし。


 娘はこの中学校に入学して一年半で通えなくなった。色んな要因があるだろうけれど、中学校の環境が大きな原因の一つではある。

 でも、今、医師やカウンセリングの先生、気にかけてくれる学校の先生方や周囲の支えのおかげで未来が見えている。

 ただただ、感謝。


 病院では、進路が決まったことでストレスや悩みが軽くなり、きっと症状も軽くなっていくのではないかとの見解。眠りやすくする薬をやめて様子を見ることになった。

 医師もカウンセラーも娘の合格を我が子のことのように喜んでくれた。娘はそれが何より嬉しかったようだ。


 私は職場に退職を願い出て、受理してもらった。ありがたいことに引きとめてもらったが、子育ての最終局面で側にいるタイミングを逃したくないとの私の気持ちを汲んでもらった。翌年度初めの人事異動にあわせて後任が来る。

 約二十三年務めた職場。終わりを決めてからは惰性でやっつけてきた仕事さえも「コレが最後、次に私はいない」と名残惜しむように大切に取り組むようになった。仕事では「もっとこうすれば良かった」という反省と改善点は後任に託せるが、子どもとの関係はそうはいかないなと改めて思った。


 去ると決めたからには立つ鳥跡を濁さないように、三月の退職までずっと続く繁忙期に通常の仕事をしながら引き継ぎ資料を少しずつ作ることにした。私も人生の正念場。


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