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ある日、子どもが不登校になりまして  作者: 千東風子


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09 中学三年生の六月

 

 中学三年生の六月

 入院



 入院当日は、やはり様々な感染症の検査を午前中に行い、すべて陰性だったら午後から病棟に入る。検査入院の時の新型コロナ陽性が頭をよぎるが、医師がノーマル白衣で現れたので、検査結果を聞く前に安心した。


 午後、もう大人のような中学生だが、小児科の病棟に入院。

 小児科病棟は空いているベットがほとんど無いと聞いていた。もしも入院が延びた子や緊急性の高い子がきて、娘の入院時にベッドが空いていなければ一般病棟に入院することになるとも聞いていた。それくらい病院はフル稼働しているのだ。

 うちの娘は命に関わるような入院ではないかもしれないけれど、必要と判断されての入院。回復のために与えてもらった機会を大切に過ごそうね、と娘と話した。

 コロナ禍の院内でも小児病棟は特に制限されたエリアで、入院患者は自由に外に出ることができない。面会も保護者一名一日三十分限定。面会時は手を洗い消毒して熱を測り、髪の毛が出ないように不織布のキャップを被り、身体は割烹着みたいな不織布の感染防止衣をしっかり着込んでから病棟に入る。もちろんマスクをしているので、目だけしか出ないちょっと間抜けな格好だが、面会者は全員同じ格好になるので、すぐ慣れた。


 娘の病室まで行くのに通る乳幼児の病室はガラス窓で、赤ちゃんが入院しているのが分かる。点滴が外れないようにぐるぐる巻きにされた腕が痛々しい。

 みんな、元気になってここを出て行けますようにと、ただ祈る。


 面会は、娘の顔を見て洗濯物を引き取り、一日の話を聞いていたらあっという間に時間が過ぎた。

 娘は規則正しい生活とジャンクフード欠乏症に苦労しながらも、医師と看護師の指示を守って真面目に入院生活を送っていた。

 特につらいのは昼寝ができないことらしい。朝起きたら晩ご飯が終わるまで一切寝てはいけない。

 指を動かすリハビリやマシーントレーニングの時間もあり、リハビリと検査以外は自由時間で、ボーッとすると寝てしまうので、持ち込んだゲーム機でゲームをしたり本を読んだり、たまに問題集を解いたりして何かしらして過ごす。一日のスケジュールは割と入っているが、何かに追い立てられることもなくゆったりと過ごすことで、入院十日目頃には睡眠が規則正しくなっていった。


 入院中も診察やカウンセリングがあって、カウンセリングでは、精神や知能に障害や特性がないか、しっかりと検査してくれた。娘の知能は標準で精神に障害はないけれど、マルチタスクが非常に苦手との診断だった。いっぺんにアレやコレを指示されたり考えたりするとパニックになってしまうとのこと。


 すごく覚えがある。

 朝、起きなさいよ! から始まり、ご飯食べなさい、ゴミの日だから自分の部屋のゴミを入れてからゴミ袋出しておいて、洗濯機回すから先に着替えてパジャマ脱いじゃってよ、今日は部活だっけ、何時帰るの? 提出のプリントここにあるからね、自分のお茶碗洗っといてね、畳んだ洗濯物は部屋に持って行って、じゃあ先に出るよ、火の元と電気と鍵よろしくね……と、アレやコレや。

 私は思い出したことや思い付いたことをつらつらと話してしまうのだが、娘からは大抵「分かってるってば!」とイライラした返事が帰ってくる。そして、ゴミを出すのを忘れたり茶碗を洗い忘れたりと、言われたことを完遂できないことが多かった。


 カウンセラーの先生曰く、三つ目くらいから先はパニックになって聞こえていないのではないかと。おそらくその通りだと思う。

 一つか二つ、それが終わったら次のやることを考えるようにすると、ストレスがなく滞ることもないとのことで、簡単な話のようで、検査して分からなければ「また忘れて!」と小言を言ってしまい、娘もわざとではないのに嫌な思いをしてしまうことになっただろう。

 特性を知るということは、とても大切だと思った。


 毎日、仕事終わりに病院に向かって、到着するのが大体二十時頃。二十時半が面会終了時間なので、電車の乗り継ぎが悪いと到着が遅れて十分位しか面会できない日もあったけれど、毎日通う日々。

 面会が終わり、帰る途中で立ち食いそばをかっ込み、家に帰ると二十二時をとうに過ぎている。それから家のことと翌日の準備をすると一時を過ぎ、何もかもが中途半端。諦めて寝ればいいのにぼーっとそのまま夜明けを迎えることもあった。

 仕事は繁忙期で、定時で上がって病院に向かうため残業ができない。そんな中、休みなんて難しい。


 疲れた。


 幸い、経過が良好なので三週間の入院は少し短縮された。顔色と表情が明るくなった娘を見られたことが何よりの救い。


 入院代は自治体のマル子医療証のおかげで室料の差額分や食事代などの費用で済み、加入していた医療保険で私の交通費も含めてトントンにできた。マル子に感謝。保険加入、本当に大事。


 以後、服薬しながら月に一回程度の診察とカウンセリングは続けることになったが、大分好転している感触。


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