第99話 色仕掛け
学校終わりの土曜日の午後。
「よお」
「勝っちゃんおひさー」
「ひさしぶりー。って、なんでエリカもいんだよ」
「別にいいでしょ。なに、私に見られたら恥ずかしいの?その黒髪」
エミとショーコの二人とファミリーレストランの前で待っていると、ほどなくして本田勝次が現れた。
見た事のある少々ケバ目の女と一緒に。
「うっせー、好きで黒にしたんじゃねーよ」
「うちらのチームの決まりなんだよ」
「チームカラーだろ。似合ってるじゃねーか。まあ立ち話もなんだし入ろうぜ」
本田勝次に促され、俺達はファミリーレストランへと入った。
「今日は俺のおごりだから、いくらでも食ってくれ」
席に着くと、本田がそう言ってくる。
因みに配置は俺の両隣りにエミとエリカって女。
向かいの席にショーコと本田が座っている状態だ。
「おー、流石勝っちゃん太っ腹」
「ゴチになりまーす」
此方としては無駄な金を使いたくなかったので助かる。
帝真一から金はその気になればいくらでも引っ張ってこれるが、その手の金に手を出すつもりはない。
頑張って働いてお金を稼ぎ、俺にお小遣いをくれる母への冒涜になってしまうからな。
「聞いたぞ安田。お前のチーム、あっという間に学校しめたらしいな。なんでも、鮫島も一発だったって」
「……ああ、あいつは勝手に倒れただけだぞ」
一瞬誰の事か分からなかったが、そういやそんな奴いたなと思い出す。
「目にもとまらぬ早業で一撃でやったんでしょ?やるわねぇ」
エリカが体を摺り寄せて来る。
香水臭いんだが?
まさか色仕掛けのつもりか?
そんなもん俺に通用しないぞ。
ケバイ女は基本嫌いだし。
「おいエリカ。安田に媚び売ってんじゃねーよ」
「そーだそーだ。おめーはもううちの生徒じゃねーだろーが。うちのチームのリーダーに粉かけてんじゃねぇよ」
「強い男に惹かれるのは女のサガよ。同じ学校かどうかなんて関係ないでしょ」
女性に取り合いされている様なシュチュエーションだが、不快感が凄い。
実際は違うってのもあるが、仮にそうだったとしても、3人とも嫌いなタイプなので、ただただそのやり取りがうざく感じてしまう。
「モテモテだな、おい安田」
「どうでもいい」
「おお、クールだなぁ。まあとりあえずお前ら、いがみ合ってないで注文するぞ」
睨みあう三人を軽く流し、本田が店員を呼んでその場のメンツの希望を聞きながら注文を通した。
手慣れている感じなので、こういった場を仕切るのが得意なのだろうと思われる。
「お待たせしましたー」
くだらない話が続き、注文した物が続々と運ばれて来る。
女三人と勝次とのやり取りが余りにも実の無いくだらないものだったので、エミとショーコを寝かしつけ(物理)てさっさと話を進めようかとも思ったが、もう少しだけ我慢してやる事にした。
幸せそうに食ってるのを邪魔するのもあれだしな。
「さて……」
食事を終え、腹が膨らんだところでエミとショーコにそれぞれ一発かまして寝かしつける。
首トンと、指弾で眉間を打ち抜く感じで。
どっちも素人がやると危険な行為だが、俺の場合は大怪我をしても魔法で回復させられるので問題ない。
まあ最悪死んでも、蘇生させればいいだけだしな。
「「——っ!?」」
急に二人が意識を失ったのを見て、本田とエリカが目を見開く。
「で?俺に何の用だ?」
「……俺達の目的に気づいてたのか?」
「ああ」
ここに来る前までは、単に偶然の可能性も考えられた。
低くはあったが。
だが、現れた二人の姿を見て俺は確信する。
こいつらは俺に接触するために来たんだと。
その確信の根拠は――
「お前ら、呪術を受けてるだろ?」
二人に呪術がかかっていたからだ。
風早グループに所属してて、しかも以前はかかってなかった呪術まで受けているのだ。
なので偶然の可能性はもう考慮しない。
つか、これで偶々俺と接触したんだったら逆にびっくりだわ。
「なっ!?」
「どうして!?」
二人が俺の言葉に驚愕する。
その様子から、俺が魔法を使うという情報までは知らない事が窺えた。
魔法を使える奴なら、普通は呪術の痕跡を見抜けるからな。
驚いてるって事は、知らないって事だろう。
情報として引っこ抜けなかったのか、もしくは上が必要ないと思って与えなかったか。
ああでも、そもそも魔法使いが何を出来るのかってのを知らない可能性もあるか。
まあなんにせよ……
「一々驚くな。そんな事より、お前らの話を聞かせて貰うとしようか」
その後どうするかは、こいつらの態度と話の内容次第だ。
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