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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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十九話 四者四様 vsフロアボス(?)

 タイミングも、魔法も。

 全てが完璧。今出来る最高の攻撃であり、連携。そう言い表すべきものであった。


 しかしただ一つ、予想外だった事があるとすれば、それはきっと目の前の化け物に備わっていた本能と称すべき危機察知能力。


「ガッ————」


 巨体を掠める一筋の雷光。そしてそれは、次いで貫き穿つ凶刃と化し、容赦なく降り注ぐ。


 一瞬ばかり聞こえた苦悶の声すら上塗りして、轟く衝撃音。地面すら刺し穿つソレは文字通り全てを呑み込み、息を吐く(いとま)すら与えない————筈だった(、、、、)


 本当に、直前。

 魔法を発動するコンマ数秒前に、目の前の化け物は臆したのか。死に体ともいえたあの状態にもかかわらず、その場から逃げる準備を整えてみせた。


 〝雷鳴轟く(サンダーボルト)〟は数ある攻撃魔法の中でも発動速度は最速と謳われている。

 だが、それすらも上回り、数瞬先の危機を察知してあの体勢から逃げの一手を繰り出した。


 そのお陰で化け物は多数の魔法陣による〝雷鳴轟く(サンダーボルト)〟からの直撃は免れている。最早、天晴れという他ない。


 ……ただ。


縛れ(、、)クラシアああぁぁあああッ!!!」


 ただ、攻撃はまだ終わってない。

 オーネストが喉を震わせ、そう叫び散らした事こそがその証左。


「うるっさいわねえ!? そのくらい、命令されずとも分かってるわよっ!!」


 後方で待機していたクラシアの手には一張の弓。オーネストに言われるまでもなく既に腰を落として放つ体勢に入っており、程なく化け物の頭上目掛けて光を帯びた一本の矢が撃ち放たれた。


 それは真っ直ぐ、化け物の頭上へ飛び真上に届いたところでふっ、と霧散。

 同時、消えた矢の代わりに浮かび上がるは金色の特大の魔法陣。

 その魔法の名を、


「————〝降り注ぐ光矢(アローレイン)〟ッ!!!」


 化け物の身体と地面を縫い付けるように、一斉に生まれ出、降り注ぐ光の矢。

 数える事が馬鹿らしくなる程の物量。

 ただでさえ、〝雷鳴轟く(サンダーボルト)〟を完全に避け切れなかった事で痺れが回っているのか。その上更に矢を受けた事によって身体の動きが目に見えて更に鈍くなる。


 そして、それにとどまらず


「ボクの事も忘れないで欲しいかな」


 化け物の行動を阻まんとする声がもう一つ。

 苦笑い混じりに聞こえてくるそれは、ヨルハの声。


 彼女の視線は、その場を離脱しようともがいていた化け物の足下に向けられており、


「〝拘束する毒鎖(バインド)〟」


 言葉を発した側から大きく広がり、展開される毒々しい色の魔法陣から這い出るように膨大な量の鎖が出現。

 搦め取るようにそれは肢体に絡みついてゆく。


「グ、ガアアァァァァァアア————ッ!!!」


 2人掛かりによる押さえ込み。

 生まれ持った規格外の膂力にものを言わせ、化け物はその拘束から逃れようともがくも、既に生まれてしまった数瞬の硬直がこの場では生死を分ける。


 つまり、


「ンな事をしたところでもう手遅れだわなぁ!? てめえは既にでけえ的でしかねえよ!!」


 チェックメイト(詰み)


 目の前の化け物に後出来る事はといえば、行動を阻まれて(なお)、それでも尚と抗う事だけ。


 しかし、とうの昔にオーネストの右手で握り締められていた黒槍は、思い切り引き絞られていた。右足を後ろに下げ、身体を捻り、残すはあと一工程。


 必殺を期した投擲まで、残すはあと一瞬。

 そして、オーダーをこなした側から次の攻撃の準備に入っていたオーネストに『躊躇』なんてものが入り込む筈もなくて。


「そ、ぉらッ、食らっとけデカブツ————ッ!!!」


 大きく振りかぶり、全てを消し飛ばさんばかりに、撃ち放たれる投擲。

 

 一筋の黒い線が眼前に描かれ、化け物の身体を一直線に貫き穿つ。


 その一撃によって生まれるは、刹那の空白。それで、十分。

 その一瞬さえあれば、事足りる。


「〝四方封陣(しほうふうじん)〟」


 今度は、既に手負い。

 本来の敏捷性は勿論、怒涛とばかりに続いた連撃によって蓄積されたダメージのせいで、今度はもう間違いなく避けられない。

 ならば次こそ、確実に仕留められる魔法を展開する。実行する。ただ、それだけ。


 程なく浮かび上がるは、特大の魔法陣。

 灼熱を思わせる色合いのソレが、化け物を囲むように前後、左右。計4つ。


 四方から対象をまるで封じるように展開し、攻撃を余す事なくぶつける手法故に——〝四方封陣〟。


 けれど、直後。


「ガ、ァ————っ」


 化け物が大きく口から息を吸い込んだ。

 やがてキィン、と耳障りな金属音が盛大に場に轟き、化け物の口元に大きな円い魔法陣が描かれる。


 その行動はいかにも、避けれないのならば、たとえ痛み分けになろうとも、でき得る限りの力を尽くして己の障害を見境なく壊してしまえばいい。

 そう言っているようでもあって。


「お前、意外と冷静なんだな」


 ほんの少しだけ、目の前の化け物に対して俺は恐怖心を抱いた。


 怖い敵というものは逼迫した状況下であろうと冷静に物事を判断し、最善を導き出せる存在。

 俺はそう認識してる。

 だから一見、自棄とも取れるその行動であるが、確かな冷静さからやって来るものであると感じ取り、思わず言葉を溢す。


「でも、悪い(、、)


 俺はオーネスト程の身体能力はないし、得物を持たせれば間違いなくどんな得物であろうとあいつの方が上手く扱う。

 補助魔法に関していえば、俺はヨルハの足下にも及ばない。だから、こうして宮廷から追い出される羽目になったのだから。

 回復魔法なんて、俺には一切の適性がない上、クラシアほど器用であるとは間違っても思わない。


 だけど、魔法学院では俺が上であると評価された。魔法学院だからこそ(、、、、、)、俺の方が評価された。


 オーネストや、ヨルハ、クラシアは口を揃えてそれは違うと言っていたけれど、少なからずコレが影響していたのは確かである。


 なにせ、


「俺にそういう魔法を向けるのは悪手だよ」


 十数年前に魔法学院にて、『天才』と謳われた麒麟児が編み出したとされる反則魔法——向けられた攻撃魔法を瞬時に相殺させる為に生まれた〝反転魔法〟を扱う適性に恵まれたのは、ここ十数年で俺と、当時の首席を除いて誰一人としていなかったから。


 名前は最後まで明かされる事はなかったけれど、きっとそいつの名は————。


「とっておきの魔法を、俺はエルダスに教わったから」


 脳裏に浮かぶ懐かしい男の顔。

 お陰で上手くやれると感謝の念を抱きながら、意識を目の前の化け物に戻す。


 そして程なく、割れんばかりの咆哮が轟いた。

 それを伴って撃ち放たれるは、猛炎帯びる特大の魔法攻撃————〝息吹(ブレス)〟。


 恐るべき速度で迫るソレに対し、俺は空いていた左の手で虚空に円を描く。

 必要な工程はたった三つ。


 虚空に円を描く事。

 己に向けられた魔法を強くイメージする事。

 そして、発動の言葉を口にする事。


 攻撃はもう、すぐ目の前。

 故に喉を震わせ、声に出せ————。


「〝反転魔法(リフレクト)〟」


 浮かび上がるは白銀の魔法陣。


 直径は俺の身長程しかない小さな魔法陣。

 しかし、そんな魔法陣からすぐさま、迫る魔法を相殺するべく音すら置き去りにして撃ち放たれる、全く同じ規模の魔法。そしてそれらは互いにぶつかり合い、爆風を生み出した。


 〝反転魔法〟を発動させた事で、憂いは消えたと判断を下し、右の手に若干の力を込めながら灼熱色の魔法陣に意識を向ける。


 相手に自由を許すな。思考を許すな。

 故にだからこそ、続けて唱えろ————!!


「————〝火葬(ヘイリオス)〟————!!!」


 転瞬、周囲の温度が爆発的に膨れ上がり、じり、と肌を焼く程の熱量が四方に展開された魔法陣より、一斉に放出。生まれる轟音。



 それは、十数秒に渡って続いた。

 断末魔のような怨嗟の咆哮を耳にしながらも、流石にこれで倒れるだろう。


 ……そう、思っていた矢先であった。


 〝火葬(ヘイリオス)〟の効果が切れる直前、すっかり焼け焦げてしまった化け物の腕が爆煙から顔を覗かせた。そして、壊れかけのブリキ人形のようにギギギとぎこちない動きを見せた後、オーネストが防いでみせた時よりも更に加速させた上で、繰り出される一撃。


 でも、食らえば間違いなく致命傷の一撃を前に、俺は無防備に立ち尽くしたまま、気の抜けたように笑った。


「……悪いけど、今そこは猛獣注意なんだよね」

「————〝貫き穿つ黒槍(アルマレステカ)〟」


 呆れるように言ってやる。

 するとちょうど、声が被さった。


 目の前に現れる一つの影。見慣れた背中。

 投げ飛ばした筈の槍を携えて、そいつは俺と瀕死の化け物の間に割って入ってくる。


「だーれが猛獣だ、ボケ」


 ふざけんなと言わんばかりに口にされる言葉。

 次いで、俺に迫っていた筈の必殺の一撃は、一度、二度、三度と目にも止まらぬ速さでオーネストが槍をぶつけた事により、苦もなく弾き返される。


 ……振り絞った最期の一撃だったのだろう。その攻撃を最後に、化け物は力なく地面に倒れ伏し、ずしん、と緩やかな地鳴りを残してその巨大過ぎる身体が風化を始める。


 ダンジョンにすまう魔物。

 それもフロアボスと呼ばれる魔物は息絶えるとその瞬間から屍骸の風化が始まる。


 〝核石(コア)〟や、〝古代遺物(アーティファクト)〟は基本的にこの風化を経た後にポツンと残される仕組みとなっていた。

 この巨体であれば、風化にもそれなりの時間を要するだろう。


 そんな事を思いながら俺は化け物からオーネストへと視線を移す。


「ナイスフォロー」

「当ったり前だ。なにせオレさまは、『天才』なンだからな」


 相変わらずの自尊に満ち満ちた言葉。

 しかし、慣れてしまえば案外、こういった言葉で締めるのも悪くないと思えてしまう。


 だから俺は、「次も頼むわ」と言葉を付け加え、屈託のない笑みを向けてやった。

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