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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
四章

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百二十六話 呪いあれ

 明らかに手遅れで、病人の末期を思わせる弱々しい身体。

 以前出会った時、白磁のような服に隠れていた身体の部分が容赦なく黒い斑によって食い荒らされている。


 テオドールの言葉が正しければ彼は呪いを〝大陸十強〟に押し付けた張本人。

 ならば、彼の身体にあるアレが呪いなのだろうか。定かではないが、心なし険しくなっているアダムの表情を見る限り、碌でもない物である事は間違いない筈だ。


『本来の姿というより、本来あるべき姿と言う方が適当か。これはいわば、僕の罪、とでも言うべきもの。だから、そう憐れまなくても、同情しなくてもいい。テオドールから話は聞いただろう。あれは、概ね真実だ。彼の言う通り、元凶は全て僕にある。これは、その報いなのだから』


 アダムの瞳は、異様なまでに澄んでいた。

 どれだけ見つめ返しても、そこからは感情一つ見透せない。

 だから彼がどうしてテオドールの話は真実だとあえて言わなくてもいい事を口にしたのか、俺には理解不能だった。


「言い訳、しないんだな」

『すれば、信じてくれたかな』

「いいや。多分、信じなかったと思う」


 レッドローグにて一度邂逅したという事実を踏まえても、俺は信じなかっただろう。

 ならば仕方がなかったと賛同するにしても、あまりに被害が大きく、巻き込まれた人間も多過ぎた。

 とどのつまり、どんな選択を彼が取っていたとしても、俺がアダムに歩み寄る事はなかっただろう。

 そもそも俺は、彼の事を何一つとして知らないのだから。


「でも、助けたかったんだろ。家族を助けたい。そう言ってたじゃないか」


 家族を助ける為なら、泥だろうが汚名だろうがなんだって被るし、どんな犠牲や代償も受け入れる。俺はアダムという男をそういう存在だと認識していた。


 だから遠回しに、俺を利用したら良かったじゃないかと告げた。

 今の俺に何が出来るのかは知らないが、それでもテオドールの事を認めたのなら尚更だ。


『……』


 なのに、否定をする言葉は勿論、肯定の言葉すらやってこなかった。

 小さく溜息を吐くだけで、視線を逸らす。

 痛いところを突いてしまったのだろうか。

 だが、答える気は無いのだろう。

 アダムの口は閉じたまま動かない。


 周囲で明滅する景色。

 まやかしのような場所であるここ────〝楽園(エデン)〟もまた、ダンジョンに侵食されつつあった。

 時間は有限だ。

 相手の返事を辛抱強く待つわけにはいかない。俺は話を変えることにした。


「俺をここに呼んだ理由は、一体なんだ?」


 テオドールの話についての認識があるならば、現実世界の俺の身体の状態も分かっているだろう。

 虫の息。死にかけの重傷。

 そんな人間に、テオドールを止める事が無理だという事は子供でも分かる覆しようのない事実だ。


『頼みがあるんだ』

「頼み? あんたが、俺に? ……冗談だろう」


 だから、堪らず笑ってしまった。

 今のアダムに出来て、今の俺に出来ない事は無数に浮かぶ。けれど、その逆はたった一つとして思い浮かばなかったから。


 刹那、テオドールの慟哭のような叫びが、頭の中で巻き戻されたかのように過ぎる。

 そして最後に、神を信用するなとテオドールの声で幻聴が聞こえて、声は消えた。


『冗談じゃないさ。冗談じゃないから、こうして君をここに呼んだ。この頼みは、君か、テオドールにしか出来ない事だ』

「……」


 俺の瞳に映り込むアダムの目は、真剣味を帯びていた。

 全くの出鱈目という訳ではないのだろう。


『でも、テオドールは僕の頼みに聞く耳を持たないだろう。だから君にどうか、僕だけ(、、、)を殺して欲しい』


 己の耳を、疑った。


 喉の奥が引き攣りを起こして、上手く言葉が出てこない。

 でも、アダムは冗談を口にした様子もなく、じっとただ只管、俺を見つめている。


「……なんで、俺かテオドールなんだよ」


 どうにか出てきた言葉が、それだった。


 間違っても俺はテオドールと対等ではない。

 剣士として。冒険者として。魔法師としての技量など、俺の上に位置する者などそれこそ腐る程に存在する。

 メイヤードにいた人間に限っても、瀕死の状態の者も含めてしまえば、ロンにアヨン。それと学院長。オーネスト。親父。

 あげ始めたらキリがない。


『君はユグレットで。テオドールは、一番初めの〝望む者〟だから』

「……意味が分からない」

『彼から話は聞いたと思う。〝望む者〟とはそもそも、神が〝望んだ者〟という意味を持つと。ああ、そうだ。その通りだ。そして僕の望みとは、全ての元凶となった〝呪い〟を僕自身が引き受けたその瞬間に、殺される事だった。だけど、普通の人間にそれは無理なんだ。君も体験しただろう。ただの攻撃。ただの魔法。それでは、テオドールに擦り傷すら負わせられない。僕の身体も、同様だ』


 テオドールの身体の事情を身を以て理解していたからこそ、その話はすんなりと受け入れる事が出来た。

 でも、引っ掛かる部分もあった。


「……俺はユースティティアから力を、取り込んだ。だから確かに、テオドールに傷をつけられる。でもなんであんた、あえてユグレットって言った?」


 思わず表情が険しくなる。

 限定的とはいえ、〝神力〟を使える人間だから。でいいのに、彼はあえてユグレットだからと口にした。


 その理由が分からなくて問い質すと、アダムは笑みを深めて口を開く。

 俺はそこで漸く、あえてアダムが話を誘導したのだと理解した。


『〝望む者〟が例外であるように、ユグレットもまた、例外だからだ。〝神力〟を使えるだけの人間に、僕は殺せない。そもそも可笑しいと思わなかったかな。どうして、ルシア・ユグレットはテオドールを止められたのか』


 ユースティティアは言った。

 かつてテオドールを抑え込めた人間は、俺の先祖にあたるルシアしかいなかったと。


 だが、テオドールと戦ったからこそ、違和感が生まれる。神に呪われ、〝神力〟を手にする以前に相対していただろうに、何故、彼女はテオドールを止める事が出来た?


 既にその時、テオドールの背後には神とやらの関与があり、〝操り人形〟の立場であったにも関わらず、だ。


『何故、ルシアは僕らに協力が出来たのか』


 それらの問いは、たった一つの事実を認めてしまえばストンと腑に落ちる。


 ────ユグレットもまた、特別だったと認めてさえしまえば。


「……仮に、俺があんたを殺せば、その後はどうなるんだ」

『テオドールの力の源は、()にある。僕が死ねば、幾ら押し付けてしまった物とはいえ、力の大半は失われる。君達はその状態のテオドールを止めてくれればいい。その後は、息を潜めているホムンクルス(、、、、、、)の彼が、禁術を使って時間を巻き戻す。全て、何もかもが元通りになる筈だ』

「なるほど。それでめでたくハッピーエンドって訳か」

『ああ。その通りだ』


 俺の近くの人間は、誰もいなくならない。

 テオドールやアダム、アヨン達については分からないが、それでも俺からすれば断る理由のない提案だろう。


 今に至るまでに、多くの被害を受けた。

 メイヤードの住民だって巻き込まれた。

 だから、受け入れるべき提案なのだ。


 けれど、誰かを殺せなどという頼みを安易に受け入れる事は出来なくて口籠る。


「……あんたの言いたい事は、分かった」


 間違いなくアダムは、本気で己の死を望んでいる。瞳の奥には生に対する諦念と、信念が強く湛えられていた。


「でも、死にたいならテオドールに頼めばいいだろ。わざわざこうして俺を呼んで、殺してくれという理由が分からない。あいつなら、頼まずともあんたを殺してくれる筈だ」

『……。そう、だろうね。でも、彼は僕を素直に殺す事はないだろう』


 その通りだった。


 テオドールを上手く使って己の死を誘導するにしても、彼はアダムを安易に殺さないだろう。出来る限り惨たらしく、苦しんだ果てに死ねと思っているから。

 アダムが死なない限り彼の力がそのままであるならば、確かに俺が殺す他ない。


『何より、そうしてしまえば彼女までも殺されてしまう』


 そして、ここで漸く繋がった。

 アダムに家族を助けたいと言っていたじゃないかと言葉を投げかけた時、返事をくれなかった理由に。


『僕が死ぬのはいい。でも、彼女は────イヴには、何の罪もない。だから、彼女だけは何があっても守りたい』

「あんたはここで、死ぬのにか」

『ああ』

「……、なんで、それを隠そうとした」


 彼の中ではそれが最善だったのだろう。

 でもだったら、そう言えば良かった話だ。


 なのに一度誤魔化した理由は何であろうか。

 隠し事をすることで、己を殺してくれなくなる事を危惧してか、アダムはあっさりと答えてくれた。

 自嘲気味に、悲痛な面持ちでゆっくりと。


『だって、狡いだろう。彼女を助けたいから、僕を殺して欲しい。なんて言葉は』


 ……人質を取っているみたいじゃないか。


 目を伏せて、ぎりぎり聞こえる程度の声量で言葉が続けられた。


 俺の性格を少なからず理解しているからこそ、その台詞を安易に切り捨てられない事を分かった上での発言だった。


『テオドールは、止まらないだろう。本意であれ、そうでなかれ、彼はルシアの死に関わった存在を赦しはしない。僕の後は、イヴまでもが殺される。彼は殺すだろう。それこそ、地を這ってでもね』


 アダムは、その未来をどうにかしたいのだろう。故に彼は、俺を頼った。


「……テオドールは、悪だ。とびきりの悪で、クソ野郎だ。あいつのせいで、多くが死んだ。死ななくていい人間が、多く死んだ。だから、俺はやっぱりあいつが正しいとは思えない。でも、あいつの気持ちが分からないでもない自分もいる」


 たった一人の人間の復讐の為に、関係のない多くの人間を殺すなどあまりに馬鹿げている。

 正当化される事はない。


 だけど、テオドールにとってはルシア・ユグレットの存在が全てだったのだろう。

 唯一手を差し伸べてくれた彼女が、世界の全てだったのだろう。

 それ以外は、何もかも無価値と断じられる程に。


「話を聞いた。あいつの慟哭を、この耳で聞いた。取り繕った叫びじゃなかった。あいつはただ、恩人への恩返しと、義理立てと、もう二度と自分のような人間が生まれないで済むように。それを只管願ってた」


 手段は最悪だったが、それでもその願いだけは共感出来るものだった。

 喚く姿は、唯一の拠り所を失った子供のようで痛ましさだけがそこにあった。


「だから……答えてくれよ、アダム。テオドールを、操ってたのは一体誰だ。その明言だけは、頑なに避けてただろ」

『……答えなかったら?』

「あんたとの会話は、ここまでだ。無謀にはなるが、俺なりに違う道を探す事になる」


 冗談で口にしている訳ではないと理解をしてか、アダムの表情が目に見えて歪んだ。


「テオドールに同情をしてる訳じゃない。ただ、それを聞かない事には俺はあんたを信用出来ない。仮にもし、その人物があんたが守ろうとしてるイヴだった場合、俺はテオドールの手を取ってでもイヴを殺すつもりだから」


 相手が神であろうと、そこは変わらない。

 たとえ、贖えない罪を背負う事になろうともだ。


 葛藤があったのだろう。

 ややあった後、漸くアダムは口を開いた。


『僕じゃ、ない。イヴでもない。答えられるのは、それだけだ。そこまでしか、言葉では(、、、、)答えられない。答えたくない』


 この期に及んでまだ口を閉じ続けるのかという呆れの感情がやってくる。

 けれど、あえて口にされた「答えたくない」という言葉に、引っ掛かって。

 「言葉では」とあえて発したアダムは何を思ってか、俺との距離を詰め始める。


 一体、何をするつもりなのだろうか。

 一瞬、そう考えたところで腑に落ちた。

 はなから彼は、こうするつもりだったのだ。


『だから、君が視て理解してくれ』


 〝魔眼〟を使えという事なのだろう。

 俺が惚けている間に、アダムの顔はすぐ目の前にまで迫っていた。

 程なく、おでこ同士がこつんと軽く接触。

 身体中に広がっていた黒の斑は、何故か顔にだけは広がっていなかった。


『それと、ひとつだけ約束をしてくれ』


 不意に脈を打った己の心音が、頭の中で殊更に大きく木霊した。


『この事は、何があっても他言はしないと。そうしたが最後、間違いなく君は殺される事になる。嗚呼、口が裂けても許してくれなんて言わない。出来ればどうか、僕を恨んでくれ。君達を巻き込んだこの僕に、どうか呪いあれと願ってくれ────』




 アダムのその言葉を最後に、まるでどこかに強制転移でもされたのかと錯覚してしまう突如のホワイトアウト。

 視界からはアダムが消えた代わりに、目の前には真っ黒の男がいた。

 側には、小さな少年がいる。


 誰かに、似ていた。

 俺の知る、誰か。


「────この世界は、間違っている」


 真っ黒の男が告げたその言葉のお陰で、俺はその少年の正体について理解した。

 彼は、テオドールによく似ているのだ。


「自分如きの都合で人を殺し。自分如きの都合で快楽を貪り、自分如きの都合で他者を虐げる。そんな人間に何の価値があるのだろうか」


 滔々と言い聞かせるように男は語る。


「博愛の文字など、最早何処にも感じられない。そんな醜い世界に、醜い人間に、一体何の価値があるのだろうか」


 男の顔が歪む。


「イヴは、愚かだった。何故、腐り切った人間などを助けようとするのか。わたしには理解が出来なかった。同調したアダムも、愚か極まりなかった。だからわたしが、代わりに〝浄化〟をせねばならない。汚物を、この世界から一度、取り除かなければならない。その為に、君の力が必要なのだ」


 テオドールに似た少年に、男は囁く。


「これから先、アダムの愚行によって〝望む者〟に選ばれた君は多くの苦難に見舞われるだろう。多くの試練に挑む事になるだろう。果てに、多くを失う事になるだろう。他でもないイヴを助けるというアダムの自己都合によって」


 ────嗚呼、だから。

 そう続けられて、顔を醜く歪めながら脳髄に深く刻み込むように男は呪詛を吐き捨てた。


「……呪われろ」


 皮切りに、どこまでも浸透させるように。


「呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ」


 不自然に、テオドールの胸が跳ねる。

 その言葉が、ただの言葉でない事は一目瞭然で、何かをされたのだと理解した。


「忘れるな。*****。君の悲劇は全て、彼らのせいであるという事を」

「……ベリ、アル」


 そして最後、微かにテオドールが男の名を呼んで────そこで、男と目が合った。


 まるで、俺に向けて何かを告げるように男は口を動かす。

 けれど、俺はその言葉が何一つとして理解出来なくて。何を言っているのか、上手く認識が出来ないと言った方が適当か。

 なのにどうしてか、最後の一言だけは理解が出来た。




 ────愚かな人間に、呪いあれ。




 それを最後に、目の前の光景が切り替わる。


「──────あ」


 認識し切れない情報の奔流。

 それが、一瞬にして俺の頭に流れ込んでくる。誰かの記憶だ。


 知らない世界。知らない感情。知らない声。知らない願い。知らない、誰か。


 一瞬後には欠片すら残らないイメージの渦。

 それらは全てが色褪せて鈍色に染まり、最後は血と悲鳴で埋め尽くされて、知らない笑みと、笑い声で締め括られる。

 

 数時間にも感じられる一瞬を味わって────唐突に、終わりはやって来た。


 外からの介入があったのか。

 アダムの限界が訪れたのか。

 判然としないがそれでも、あるべき痛みが胸にじんわりと広がって、あるべき景色が視界に映り込む。

 そして、覚えのある声が聞こえて来た。



「────アリアに続いて、アレクの命まで取るってのは、やり過ぎだろ。クソ野郎」


 それは、親父の声だった。


 どうやって此処に辿り着いたのか。

 いつから居たのか。


 謎だらけであったが、そんな事よりも先に危機感が脳裏を埋め尽くした。


 ……だめだ。

 幾ら化け物染みた親父だろうと、テオドールを相手にしちゃいけない。

 そう、言いたいのに声は出てくれなくて。


 一瞬先の親父の敗北は、俺だけが予期した未来ではなかっただろう。

 けれど、その予感はあり得ない光景によって上書きをされた。


「まさかてめえ、このおれが十七年間何も準備をしてなかったとでも思ったのかよ?」


 〝古代遺物(アーティファクト)〟ですら灰と化した〝愚者の灰剣(ヴァルガ)〟の一撃を、あろう事か親父は当たり前のように剣で受け止めていた。


「何を驚いてんだ?」


 剣同士の衝突音。

 場に驚愕が広がる中、誰よりも驚いていたのはテオドールであった。


「剣を、剣で防いだ。子供でも分かる当たり前の事だろうが?」


 それが、ことこの場面では当たり前でないから親父があえて口にした事に気付けない人間は誰も居なかった。


 テオドールの不意をつける唯一のタイミングであるこの瞬間に、親父は声を張り上げる。


「アレクにそれを飲ませろ!! 嬢ちゃん!!」

「え、わ、ぇと、う、わわ」

 

 親父からヨルハへ、乱雑に小瓶が投げ渡される。その行為を遮る事が不可能と悟ってか。

 はたまた、親父をどうにかする事が先決と判断を下したのか、見向きもせずにテオドールは剣を振るう。


「……どうしてきみがここに」

「おれの行動も把握してたって訳か。まあ、そうだろうなとは思ってたが」


 テオドールの言葉に、親父は顔を歪める。

 しかしそれも一瞬の出来事で、


「ただ、てめえがタソガレ(あいつ)の行動を読んでたように、タソガレ(あいつ)もてめえの行動を読んでた。これは、ただそれだけの話だろ」


 分かりきった事を聞いてんじゃねえよ、と親父は攻撃を対処する。

 一撃、二撃、三撃────。


 響き渡る重低音を撒き散らす剣撃は紛れもなく本物で、剣同士で切り結ぶその光景が決して偽物でない事を思い知らされる。


 その間に、ヨルハが親父から投げ渡された小瓶の中身を俺の口元に近づけ傾ける。

 独特な形状の小瓶には見覚えがあった。

 これは、グランが携帯していた小瓶と、全く同じもの。

 なら、グランが寄越したものなのだろうか。


 いや、彼はあの時点でもう何も持っていなかったはず────。



 俺がそんな考察をする間に、まるで時間が遡りでもしたかのように身体の傷が塞がってゆく。あまりにふざけた効力だった。


 その様子を一瞥しながら親父は言った。


「〝大陸十強〟と呼ばれる化物が、一筋縄でいかない事はてめえが一番分かってるだろ?」


 一筋縄でどうにかなる相手であれば、〝大陸十強〟などという異名をつけられる事は決してなかっただろう。

 例外極まりない化物だからこそ、彼らは〝大陸十強〟なのだ。


 ……これは恐らく、グランではない。

 〝大陸十強〟と呼ばれる化物が生み出したものなのだろう。


「……知ってる。知ってるさ。僕を救ってくれた人間もまた、〝大陸十強〟と呼ばれる事になるひとだったから。でも理解してるのかな。僕もまた、」


 ────〝大陸十強〟だって事を。


 あまり好ましい呼び名ではないのだろう。

 そこには、憎しみに似た感情が込められていたが、今この瞬間だけは、テオドールはいやに強調をした。

 程なく、〝神力〟が込められた大魔法が展開される。

 剣では決して防ぐ事の出来ない物量だった。

 けれど親父は、問題ないと言わんばかりに叫ぶ。


「知ってる。知ってるとも。そのイカレ具合は、おれもよぉく知ってる!!! だから、私情を殺した(、、、、、、)!!!」


 そうだ。

 親父は、出来る限り何事にも俺を巻き込もうとはしないひとだった。

 俺の性格をよく知る親父だからこそ、遠ざけようと考えた場合、ある程度なら怪我を負っていた方が都合が良いと思った事だろう。


 だから本来、全快する薬など渡さない。


 なのに渡したという事はつまり、


「────隙だらけだぞ、テオドール」


 俺に、手伝えと言っているのだろう。


 座り込んだまま、どうにか上体を起こしていつもの要領で魔力とは異なる力を込める。

 このタイミング。この距離。

 全てが完璧だった。


 これなら、使える。

 きっとテオドールが、微塵も警戒していなかったこの技が、綺麗に嵌る。



「────〝反転魔法(リフレクト)〟────」

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