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 レーシャが自分が異能を持っていることに気付いたのは、実は生まれてからかなり後の事だった。

 周りでさえレーシャに異能があるとは気付かないほど、その異能は少し変わった能力だった。



 レーシャは物心ついた時からそれが見えていた。物から発生する音に重なって見える、不思議な図形が。

 フェーナにとってそれは物心ついてからずっと当たり前のことで、それが他人に見えていない物だとは知らなかった。


「この音って鋭いね!」


 小さい頃のフェーナは金属同士をぶつけた時に発生する音に見える鋭い針の様な模様を見てそう言った。

 だが周りの大人達は、元からレーシャがちょっと天然気味だったので、随分面白い言い回しをすると思っていたがそれをただのレーシャの個性だと思っていた。


 その能力がレーシャにとってハッキリとその真価を現し始めたのは、レーシャが文字を覚え始めてからだった。


 レーシャは普段人の口から出る声から出る奇妙な形の羅列が“文字”なのだと気付いた。

 そして人の感情に合わせて色や形が変わることにも気がつき始めた。規則性があるのだと理解し始めた。


 今まではなんとなくしか捉えていなかった物にレーシャは初めて違和感を抱いたのだ。しかしそれを両親に訴えても、あまり不思議なことを言い出した娘に首を傾げるばかりだった。

 イラリアにも、当時はまだ兄だったイラリアにも言ってみたが、イラリアもまた妹が変なことを言い出したぞ?くらいにしか考えていなかった。


 そこで初めてレーシャは自分の見えてる物が他人には見えてないのかもしれないと気づいた。その一方でその能力を理解し始めるとよりハッキリと音が視え始めたのだ。


 嘘をつけば声は捻じ曲がり、笑えば跳ねて、怒れば滅茶苦茶に震えて、悲しければ霞んで、また人柄によってもその声の元々の色や質も違ってくることに気がついた。


 レーシャは人の本心のような物が形や動きと関係してあることに気づき始め、それに混乱した。天真爛漫なレーシャにとって、日常に満ちた嘘や隠された感情は暴力のように襲いかかってきた。素直で人を疑う事を知らないレーシャにとって、口にしている言葉と感情が一致しないという人が少なくない事は理解の出来ない恐怖だった。


 そんな折に出会ったのが、フェーナである。フェーナの演奏する楽器の音から、どうしようも無い孤独と寂しさを視たレーシャはフェーナに近付いた。

フェーナが邪険にしても、突き離しても、その声はとても綺麗な色で、温かみがあった。どうしようもない孤独に苦しむ影がさしていた。


 だからレーシャは必死になって近づいた。この子の寂しさを自分で埋めたい。それ以上に自分と似た孤独の音を持つフェーナに引き寄せられた。


 フェーナとレーシャの両親は共に娘が人には明かせない特殊体質であるが故にサークリエに相談をしており、その縁で互いの事情もある程度知っていた。だからこそ自分達の娘を引き合わせることに抵抗がなかった。


 そしてその交流の中でフェーナが先に折れた。フェーナは異能を打ち明けてレーシャに触れて、レーシャの能力の全容を理解した。そこで初めてレーシャに黄金の魔力だけでなく、強力な異能が秘められていたことがフェーナによって明かされた。


 幼くも賢かったフェーナはそれが他人に明かしてはまずい能力だと察した。そしてフェーナはレーシャ自身にも口外を禁ずる事を約束させてレーシャはそれを愚直に守った。


 人の感情を朧げながら見抜ける異能など、もし周りが知ればきっと拒絶する能力である。

 だが、それはフェーナには良い能力だった。表情で表すことが下手なフェーナにとっては、声で感情を察してくれるレーシャの存在は気楽に接することができる存在だった。


 だからフェーナは沢山話すように心がけた。その方がレーシャに伝わるからだ。結果としてフェーナは見た目や性格によらずよく喋るようになったのは、そんな事情が裏に存在しているからなのである。


 レーシャも成長していく中で自分の能力が人にとって非常に忌避される物であることを理解し始めた。


 レーシャも家族に聞いてみたことがある。

 「もし、人の感情を読めるような力を持つ人がいたらどう思う?」と。

 イラリアを含め家族達は変な質問だと思いつつ、正直に「もし居たら、ちょっと嫌かもね」と解答した。

 だがそれはレーシャにとっては自分への拒絶と同義だった。


 それでもレーシャは持ち前の明るさで、そんなショックを吹き飛ばした、はずだった。


 そんな折に、レーシャの人生を大きく狂わせる出来事が起きる。

 レーシャが本当に怯えたのは、盗賊団の視線では無い。彼等の下卑た獣欲を含んだ声の、奇妙な熱を持った悍しい形状と色の音が、レーシャにとってはとても怖かったのだ。


 まるで涎を垂らした薄汚い獣に顔を舌で舐められるほどの激しい生理的嫌悪がレーシャに刻み込まれた。


 それ以降、レーシャの身体を見て話す男の声にそれと似通った物が大なり小なり含まれていることに気付いてしまった。

 一度気づけばそれに敏感になっていき、レーシャはそれが怖くて怖くて堪らなくなってしまった。


 男を見るだけで恐怖に囚われてしまうようになった。



 そんなレーシャに真摯に向き合ったのがイラリアだ。女装して現れたイラリアに対して、レーシャは最初は本当に知らない女性だと思っていた。

 しかしそれが兄であると明かされた。その時レーシャは久しぶりにまともに音を“視る”ことができ、兄の声に自分が恐れた色や形は無く、ただ深い心配だけがある事に気づけた。

 父も祖父もただ自分だけを心配して深い悲しみに暮れている事に気が付いた。


 それがきっかけでレーシャは立ち直るチャンスを得たが、一度刻み込まれた恐怖の爪痕は深すぎた。

 そんな時、レーシャは澄んだ声を視た。

 イラリアにある温かさと優美さを含んだ歪みの無い形で、フェーナのように透き通り澄んだ色をした声を視た。


 レーシャは人が考えている事を正確に見抜ける訳ではない。文字に含まれた感情が読めるだけだ。


 例えばイラリアにカマかけされた時を例にとると、レーシャはあの時にイラリアの声に揶揄うような、面白がるような感情が含まれている事を見ていた。

ただしそれが、レーシャが実際に耳や頬が赤くなっている事を笑っているのか、カマをかけてその後の反応を予測しての笑いなのかはわからない。


 また、嘘も、本人が後ろめたさを感じているほど声もねじ曲がっていくが、ちょっとした鎌かけくらいの物なら楽しさが先行しているのでレーシャも簡単に見抜けない。


 むしろ情報量が増えるからこそレーシャは簡単な嘘には逆に騙され易かったりするのだ。これが重めの嘘だったりレーシャに悪意を持ってつかれた嘘なら、レーシャもあっさり看破できてしまったりする。


 閑話休題。


 考えが読めないが、レーシャは声の質でその人の本質まで見抜けてしまう。


 イラリアは金色の暖かく太く、そして少し丸みを帯びた声の形、フェーナは黒曜石のような形と色のキラキラして透き通った宝石のような声の形、サークリエには何か轟く様な大いなる物がうねるようでありながら、深い温かみと森の中の爽やかを感じる達筆な声の形。


 そしてアルムは、この3人を合わせた様なレーシャの見たことのない形の声をしていた。


 サークリエのように何か大きな物が秘められつつも、フェーナの様に透き通って輝き、イラリアの様な暖かみと力強さを帯びた、そんな不思議な声の形をアルムに視た。


 アルムが見せる気遣いも褒め言葉も曇りのない物であることがレーシャだからこそわかる。そこになんら下心が、レーシャの恐れた色や形が含まれていない事に気付ける。


 だからこそ、男性恐怖症のレーシャも強いプレッシャーを感じずアルムと接する事ができた。

 どんな事をしても曇らない綺麗な声を放つアルムに、レーシャは心を開いていった。


 それはレーシャだけにしか分からないが、レーシャだからこそ深く理解できるアルムの良さであった。




 ただ、レーシャ今も少しだけ不思議に思うこともあった。それは自分が交渉をこっそり聞いた時に見たアルムの声である。


 アルム以上に不思議で、奇妙で、見たことのない記号が見えたのだ。冷たさと温かさが同時に存在し、灰色ではなく白と黒の二面にはっきり分かれていて、透き通っているようなのに所々霞がかかって、無骨で丈夫そうなのに少しひび割れた、何故か静かな孤独が眠るような声の形。


 声の形がそこまで別物に変わるケースはレーシャは今まで一度も見たことが無かった。だがレーシャがまた部屋に入った時には元に戻っており、レーシャは余計に混乱していた。


 しかしどちらの声であろうと、レーシャは信じてみたいと思った。悪い人ではないと思った。自分の直感に全てを賭けたのだ。



 そして、アルムはレーシャの願いに応えられる存在だった。アルムにとってはレーシャの異能はユニークで面白い能力でしかなかった。アルムは歓喜を持ってその能力について色々と問いかけた。



「なるほどね、使いようによっては更に化ける能力だね。そうなると召喚する使い魔の方向性も格段に絞れるかな?」


「あ、それはやるんだ?」


「うん、やるよ。使い魔がいた方が習得が速いし」 


 自分にとっては人生を賭けたレベルの告白でもケロって受け入れて次へさっさと進もうとするアルムに、なぜフェーナとアルムがあそこ迄深く馴染みあったのかわかった気がした。

 妙に自分が親近感を覚えるのも、アルムに親友の姿がチョコっとチラつくからだとレーシャは改めて実感してクスッと笑った。


「取り敢えず触媒とかは揃ってるし………」


 アルムは虚空から“ダレッド”の実や魔残油などを取り出して床に陣を描き出す。


 するとルリハルルが反応し、一瞬姿が霞んだ。それは本当に一瞬だったが、アルムはルリハルルがイヨドにすり替わったことを勘付いていた。


『忙しない奴じゃな。今度はそんな面妖な物を使って派手なことをしようとしている』


 ルリハルルに化けたイヨドは念話で苦言を呈しつつ、アルムの側にやってくる。


「もし良ければ、手伝っていただけると助かります」


『そんなもの下手に触媒するな、戯け』


 アルムの呟きを見てレーシャは首を傾げる。尊敬や畏敬が含まれたその声の対象がわからなかったのだ。


 そんなレーシャを放置して、アルム達は召喚陣を形成しだす。


『防御特化、それとは違うな。その触媒を使う理由を読めてきたぞ』


「お見それしました」


 アルムは“ダレッド”の実をはじめとした触媒を陣の中央にワープホールの虚空で設置して、親指の先を魔法で切り裂き出血させるととてつも無い魔力を超えて陣に押し付ける。


 そこにイヨドがさり気なく自分の抜け毛を触媒に乗せてアルムの魔力の補助をしてやる。


『また危なっかしい力の使い方だな。知識欲も程々にしないと痛い目を見るぞ』


 それは耳に痛い忠告だと思いつつも、アルムはレーシャに指示を出す。


「レーシャちゃん、血を出して魔力を陣に流してくれる?その時に、大きな生命力の尽きない大樹をイメージしてくれる?制御限界があるから、無理なら僕がやるよ」


 レーシャは自分の指を切れずアルムが差し出した手に触れてみると、指先が切れた。


「ごめんね、雑で。でも本当に色々と限界だから、早くお願い!」


 凄まじい魔力が脈動する陣にレーシャは慄きつつ、アルムの声を鋭さに押されて指示のままに魔力を纏わせて陣に触れる。自分の故郷にある巨大過ぎる大樹をイメージしながら、陣に魔力を流し込んだ。



『この娘も神に愛され過ぎた者か!』


「そう言う事ですね!」


 アルムはオリジナルの召喚属性と呼べる魔法を発動し、フェーナの特性に合う存在に一気に探査をかける。そして触媒を頼りに自分の声に応える存在をアルムは探し当てた。

 ラフェルテペルの時はもっと戦闘力だけで、しかもアルヴィナの神奉具の指輪が仲介して喚び出せたが、今回は純粋な性能ではない特殊性に重きを置いた複雑な召喚。アルムの額にも汗が滲むが、手応えはあった。


「レーシャちゃん、魔力を全開で流し込んで!」


 アルムの鋭い声がレーシャに刺さり、レーシャはそのまま魔力を一気に流し込む。すると魔法陣が発光し、陣中央の触媒も発光して混ざり合い、それが更に金色の光を放ち始めると大きく膨らみ、レーシャの顔より一回り小さいくらいの大きさに。


 何か凄いことが起きている。

 それは無知なレーシャにも本能的に分かるほどの奇跡。

 その光の中から光の塊と同じ大きさの何かがコロンと転がり出てきた。


 それは両手に乗るサイズの丸々した金色の生物だった。やけに毛がふさふさでデカいひよこのようだが、スイキョウには雛ではなく、こころぴょんぴょんする某作品で知名度が急上昇したアンゴラウサギに似てる気がした。

大まかな形は目元まで毛に覆われるようなアンゴラウサギ、だが小さな嘴、前脚は小さな羽になっており、それが鳥である事を主張していた。毛並みはキラキラと光る金色で、本当に毛がふさふさすぎて後脚が全く見えない。


 可愛らしい…………とはちょっと言えないふてぶてしささえ感じる見た目にアルムは「あちゃー」と思うが、レーシャは両手で優しく拾い上げるとキラキラした眼でその謎生物を見つめていた。


「何これ!?すっごい可愛いね!」


「え?」


 それはアルムの予想したリアクションと大きく異なるもので、レーシャはハイテンションでその謎生物を愛でていた。


《アルム、世には『ぶさかわ』という理念があってだな、時に女性の感性は男では理解できない時があるんだ。まあ可愛いって言ってる自分が可愛いアピールしてるやつもいなくはないが、今回の場合それは無い。

アルム、こういう時は否定せずにただ微笑むのが正解だぞ》


 スイキョウがなにを説いているのかはよくわからなかったが、アルムはレーシャが喜んでいるようなので結果オーライと考えた。






「レーシャちゃん、一応その使い魔について説明させてもらっていい?」


「え?これ使い魔なの?」


 置物かと思うくらいに反応を示さない謎生物をじっと見つめるレーシャ。その謎生物は身動ぎもせずぼーっとしていた。


「そうだよ、レーシャちゃんの使い魔だよ。ただし、普通の使い魔じゃないところが沢山あるからね」


 アルムは取り敢えずレーシャをベッドに座らせて少し落ち着かせると説明を始める。


「えっと、取り敢えずこの使い魔の特徴は、存在自体が魔法っぽいって言えばいいのかな?半実体型で幽霊に近いところがあるかもね」


 アルムはだいぶ言葉を選んで説明するが、レーシャは全然わからん、と言いたげに首を傾げる。

 だがアルムなどの理解力がおかしなだけで、レーシャの反応は別におかしくはない。恐らくアルムの説明を聞いても9割方は似たような反応になることが予想されるほど奇異な特徴だからだ。


 そこでスイキョウが助け舟を出し、アルムはそれを復唱する。


「えっと、難しいことは全部すっ飛ばして本当に要点だけ絞ると、この子には普通の使い魔と違って魔力の供給が一切要らないよ。その代わり、実体を維持できるよう………ああ、今のは忘れていいよ。とにかく1番大事なのは、レーシャちゃんと一緒のタイミングでいいから1日3食野菜を食べさせて欲しいんだ」


「使い魔なのに、ご飯が必要なの?」


「うん、肉より野菜ね。果物でもいいよ。ただしたっぷり与えてあげてね」


 アルムは本当に説明をガッツリ省いているが、今回召喚した使い魔は非常に特殊な性質を持っている。

 

 実は性質的には精霊に少し近い存在で、存在自体が魔法に近いのは強ち間違いではない。“黄金の魔力”体質は空気中の魔力にも反応するので、常に魔力を微弱に消費している状態と似ている。この謎生物はその無駄に消費している魔力を吸収する寄生型の生物である。本来なら魔力は簡単に吸収出来ないが、黄金の魔力だと話が変わる。この生物とレーシャの体質が合致するのだ。

 そしてこの謎生物は、本来ちょっとの魔力を体内で増幅させることで活動するが、黄金の魔力で必要量以上を常に確保できるのでかなり状態的には最高の状態を維持する。増幅される魔力はさらに強力になり、それが結果的に反魔力石に近い状態になる。

 ただし、増幅される元の魔力がレーシャの魔力故にレーシャはその影響を受け難い。


 レーシャの魔力障壁がうまく機能しない弱点をアルムはこの生物を使うことでカバーしようとしていた。

 この生物が何かをする必要はないのだ。レーシャの無駄な消費魔力を吸い上げて、勝手に活性化してるだけでレーシャの周りに反魔力結界の様な物が形成でき、更には自然界の魔力まである程度弾くのでレーシャの魔法の使用が格段に楽になり魔力消費まで大幅に抑えられる。

 しかし存在が高等過ぎて本当に魔法みたいな存在なので、物理攻撃を無効化できる反面、定期的に実体のある物を摂取させておかないと勝手に霧散しかねない。なので使い魔なのに定期的に餌やりが必要なのだ。


「お野菜とか果物をたっぷりあげればいいんだね。わかったよ!でもひよこに見えるけど、餌をあげてると大きくなるの?」


「使い魔だから成長しないよ、って言いたいけど、僕の感じたイメージとちょっと違うってことはこの形態が完全体って訳じゃない筈なんだよね」


 ラレーズも興味があるのかツンツンと謎生物を突いてみるが反応は無し。しかしクチバシあたり指を伸ばすと急に齧ろうとしだしたので慌ててラレーズは手を引っ込めてアルムの元まで避難する。


 ラレーズは元が植物なだけに迂闊に悪戯すると割と危ないことを身をもって体験する羽目になっていた。


「えっと完全体になって、って頼める?」


 そんなラレーズが目に入ってないほど熟考していたアルムは、物を試しだと結論付けて徐に提案するが、レーシャは首を傾げる。


「うーん、全力を出して、ってその子に頼んでくれる?」

 

 アルムがそこまで噛み砕いて説明するとレーシャも理解して、素直にお願いしてみる。


 だが反応が無い。


 しかしアルムの後ろに居たイヨドが威嚇するように一声唸るとビクッと反応して、急に発光し出して姿がぐぐぐぐっと変化してレーシャの手からふわっと降りて床に着地する。


 それは非常にシャープな形状の金色の雄鶏に似た生物だった。見えなかったはずの長い鳥型の脚をを晒し、毛で覆われていた顔もシャープになって黒色の目が光る。


 それは生物というより彫像の様で、溢れるほどの強烈な存在感を放っていた。そしてスイキョウにはそれが“鳳凰”と呼ばれる物に酷似していると思った。頭が鶏、嘴は鸚鵡、頸は龍、胴体の前部が鴛鴦、後部が麒麟、足は鶴、翼は朱鷺、尾は孔雀、羽は金色だが裏側は鮮やかな朱色、紺碧色、本紫色、白色の4種で、この世の生物からは隔絶した雰囲気を放っていた。



「わっ、急にカッコよくなっちゃった!」



 レーシャは素直にビックリするが、アルムは自分が本来喚んだはずの存在であることが確認できてほっとした。


「この形態だと、吸収力が強化されて多分フェーナへの攻撃も根こそぎ吸収しちゃうかな?逆にフェーナの魔法も発動しなくなっちゃうけどね。あと強力な天属性系の魔法もこの形態なら使ってくれると思う。最大の利点だと、この子は眷属として繋がってるから魔力が足りない時にレーシャちゃんはこの子から魔力を分けてもらうことができるよ」


 アルムはとんでもないことを口走ってるが、よくわかってないレーシャはなんとなく凄い存在ことだけを理解した。

 そんな神々しい鳥にレーシャがそっと触れてみようとすると、もう気が抜けたのか元のひよこ形態に戻ってしまった。


「気に入ってくれた?だったら名前をつけてね。それで完全に契約は締結されるから」


 本来ならこんな簡単に済む物ではないが、今回も大いにアルムとイヨドが介入している事で手間をカットしている。


「うーん、じゃあティッp「それは嫌な予感がするからやめとこう?」」



 そんな事は梅雨知らず、呑気になんとなく危険そうな名前をつけようとしたレーシャをアルムが阻止。

 暫くレーシャは謎生物を撫で回しつつ悩むと、「じゃあ昔話に出てくるあたしの母語古い言葉、金の鶏冠って意味の『グビムカリン』とって「ムカリン」とか?」と呟くと謎生物が発光してレーシャとの間にパスが出来たことをアルムは確認する。


「ムカリン、だね。ちゃんと名付けに成功したよ」


「え?これでいいの?」


「うん、もうムカリンは完全にレーシャちゃんの使い魔だよ。頭の上にでも乗せといてくれれば勝手に魔力を吸っているから、ご飯まで放置していいからね」


 ルーム君って結構凄い人なのかな?とレーシャも今さらながらにことの凄さを理解しつつも、無邪気にムカリンを頭の上にのせてくるくる回ったりしてみるのだった。




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