◇96
何を言っていたんだワタシは。
わかってほしいだけだったのに、言いたい事、伝えたい事、わかってほしい事...全部がまとまる前に、言葉よりも先に感情が前に行ってしまった。
他人って割りきれるなら、もうずっと昔に割りきって行動してるよ...。ワタシは簡単に割りきれる人間じゃない。
心配していたのは本当。でも...それだけじゃない。そんな綺麗なものだけじゃない。
ワタシはバカだ。
エミちゃが助かったならそれでいい。それでいいんだ。
そうわかってるのに...ワタシがエミちゃを助けられなかった事にモヤモヤして、感情が先に出て、酷いことを言ってしまった。
あの場に居られないくらい、自分に呆れて、恥ずかしくて、悔しくて、もう....。
「ナイス、ワンちゃん。hoy!」
両眼に溜まる自分のワガママが溢れ落ちた時、声が聞こえた。温度を感じない指先でワガママの雨を払い、ワタシはゆっくり振り向く。
「ちょっ...とぉ、まっ...って」
クゥと並んでワタシに向かい走ってくる音楽家のユカちゃ。
その後ろで今にも倒れそうなリピナちゃ。
わざわざワタシを追って来てくれた。無言で出たワタシを心配して...、心配。
「追い付けてよかった、今1人で出歩くのは危ないぞ?ワンちゃんお疲れ様」
エミちゃも心配かけたくて行動した訳じゃないのに、そうなのにワタシは...。
「やっと追い付いた...INT極の体力で、頑張った方じゃない?」
呼吸を整えつつ言うリピナちゃの背後から、ひぃちゃとキューレさんまで、、。
「ごめん。ワタシ突然」
「たまには言いたい事も言わないと、心が疲れるわよ」
心が疲れる...か。
「ほぉー、いい事言うのぉーひぃたろ。ウチからも一言じゃ!言いたい事を言える関係ってそうそう無いぞ?羨ましいのぉワタポ」
「...うん。もありがと」
ひぃちゃもキューレさんも、ユカちゃもリピナちゃもクゥも、ありがとう。
「言い合いになってもいいじゃん?言いたい事言って、エミリオとちゃんと話してさ。心配してくれる人の存在って凄く嬉しい事だし、人間とか魔女とか関係ないと思うよ」
クゥの頭をグシャグシャに撫でユカちゃはワタシの背中を押す様に、ワタシの気持ちを支える様に言ってくれた。
「私も魔女について噂しか聞いたことないけど、エミリオが魔女って...ウケるし」
「ビン詰めの魔女をシェイクして投げるって...私笑いそうになった」
リピナちゃとユカちゃは堪えきれず笑った。
気を使ってくれているのか、いい雰囲気になる様な会話ばかりしてくれるみんなの存在がワタシの心を軽くしてくれた。
謝らなきゃ。
何に対してとかじゃなく、エミちゃに一言...謝りたい。
そして、ワタシはエミちゃを守りたい。助けたい。
ワガママって言われてもいい。
ウザいって言われてもいい。
エミちゃの近くに居たいし、エミちゃを守りたい。
ワタシに新しい道を、今の道をくれたエミちゃと一緒にこのまま進みたい。
きっとエミちゃに出会ってなければワタシの未来は白黒で....今こうしてる未来は無かった。
一緒にこれから先も色付けて進みたい。
「...。みんなありがとう。みんな...宿に戻ろう」
◆
「いい加減出せよ!...無視か!まーた無視か!」
....なんなんだよ。
ワタポはキレだすし、みんな無視するし、ビンの中だし、なんなんだよ本当に。
こっちがこの部屋から出たいっての。
わたしのイライラがビンの中で膨れ上がる。
このビンはホムンクルスや扱いが難しいデリケート素材などを入れるビン。
普通のビンより頑丈で特別な作りらしいが、ビンはビンだ。
その気になればこんなガラスビンぶっ壊せる。
しかしそれをやると、またワタポ辺りがガミガミ言うだろう。
魔女の魔力がぁ~、エミちゃは~って感じか。うぜー。
ブツブツと1人文句を言っているとフォンが鳴った。
相手はるー。わたしは今超機嫌悪いですオーラを溢れさせ通話を繋ぐ。
「あい、なに?」
『にゃんだよ機嫌悪いニャ。フローその魔女の魔力?戻せにゃいのか?』
そうだ。この魔力をまた抑えて普通の人間と混ざれれば問題なくビンから出られるんだ。
しかしそんな事とっくに試した。残念な事に今この状態、女子力ではなく魔女力が溢れた状態がわたしの普通になってしまった。
成長すれば魔力も増える。
当たり前の事だが今まで気にしていなかった。
マテリアではとっくに限界を越えていたが溢れる隙間が無かった為、今まで何とか溢れさせず済んでいただけ。
微量の魔女力を使った瞬間、マテリアに小さな亀裂がピキッと。これでもう隠し抑えるではなく、溢れすぎない様にする為のマテリアになってしまった。全部が出てくる前に全部使える様にならなければモンスターより面倒になってしまう...暴走プーも面倒だったがあんなノリになってしまうワケだ。
簡単にるーへ言ってみたが、正直本人もどうすればいいかわからない事。他人がどうこう考えるワケないし、他人の事なんて表面では心配しても内心どうでもいい事だ。
『んーにゃ、もうあれニャ。魔女として堂々と生きればいいにゃん?ダメにゃのか?』
そう思っていた。
今るーが言った事を聞くまではそれが普通だと思っていた。しかしこの猫人族は...何だろうか、簡単に聞き流す様に、そうなんだ とか言って会話を終わらせればいいのに自分の考え...それも他人の為に考えた考えを言ってきた。
...ワタポもそうだったのか?
わたしの事...自分ではない他人の事を考えて考えた事を言って...、
『エミちゃん』
「ん?プー?」
猫の次は狐か。
よく考えたら凄いメンバーだったな...人間がいて、猫人族がいて、魅狐と半妖精に魔女。
本当に...凄い。
ここまで別種族が同じ時代で同じ空間で、同じものを見て、触れて、感じて、これは本当に凄い事だ。
『エミちゃんが言った、自分以外は他人ってボクは正解だと思うんだ。でもだからこそ、他人...相手の事を思って考えてあげなきゃ、うまくいかない。生き物って絶対1人じゃ生きていけないんだもん。助けてもらって助けてあげて、それでいいと思うんだ』
「プーも説教か?」
『いや、ん~...説教でもいいや。話を聞いてくれるなら何でもいい』
何でもいいのかよ。
...プーとこうして話すのは初めてかも。
『ボクはモモカと本当の家族じゃないんだ。でも妹だし...再開した時にモモカは死んだ、あれはモモカじゃなくて人形だ!って割りきろうとした。でも...無理だったんだ。だからボクね、モモカも産まれちゃったモモカも、全員...終わらせてあげるって決めたんだ。ゆっくり眠らせてあげるって決めたんだ』
魅狐と竜騎士族。
本当の家族じゃないって事は考えればすぐ解る。でも一緒に育って、一緒に笑ってたから家族...か。
その家族を他人、人形と割りきらずに戦う...終わらせるとか眠らせるとか、それは言い方が違うだけで殺す事でしかない。そう理解した上でプーはモモカを探し追っている。
『他人とか他人じゃないとか、どうでもいいんだ。その人を知ってその人を考えて思ったら...みんな他人で他人じゃない存在になるんだ。それを友達って言うんじゃないのかな?』
主人公っぽい雰囲気を出すプーへわたしは何も言えなくなった。その人を真面目に思えば他人じゃない存在になる。
考えた事もなかった。
他人は他人で、いや、わたし以外は全員敵だ。って思ってた時期もあったし、この世界に来てやっとわたし以外は他人だって思える所まである意味では回復していた。でもそれはまだ完全な形ではなく未完成だったんだ。
ワタポは友達として、わたしを大切に思っているからこそ言ったんだろうか?
それもハッキリわからない。
でもそうだったら、わたしは嬉しい気持ちになるって事はわかる。
わたしも誰かを真面目に思って考えれば相手は嬉しい気持ちになるのか...それもわからないけど、これは悪い事じゃない。
相手を理解したい自分の事を理解してもらいたい。
それで喧嘩になっても理解したいし理解されたい...か。
複雑で難しい事を考えているとドアをノックする音が響き、プーがドアを開いた。
そこには黒髪の男と金髪の男...、
「プー!離れて!」
『え?』
わたしの声に反応し振り向くプーへ金髪の男が容赦ない蹴りを炸裂させた。
室内へ蹴り飛ばされたプーを確認する暇もなく2人の男は部屋の中へ。
『へぇ、今のをガードしたのか。痺れるじゃねぇか』
『遊んでる暇はないぞベル』
地下で会った2人だ。
レッドキャップのベルとスウィル。
魔女の魂を入手出来なかったナナミの変わりにここへ来たのか...ビンを破壊して出てもこの大きさじゃ何も出来ない。
『誰にゃ?』
『お前が誰だよ』
『るーだニャ』
『そうか。俺はベルだ』
無駄に挨拶をした瞬間ベルがるーへ襲いかかる。地下で会った時とは雰囲気が違う...。
「わたしを出して早く逃げろ!こいつ等レッドキャップだ!」
まだ通話中だったので声は室内に響いた。
そしてわたしは発見された。
『ウィル!』
『わかってるよ。魔女はお前が連れていけ、だろ?』
この会話が終わる前にるーが動こうとするも、ベルは太刀を抜き猫人族の動きを止める様に刃先を向ける。
『他も動くなよ。今は何よりも魔女が優先でな...邪魔だと思った瞬間、殺しで』
動いたら殺される。
これは脅しではなく本気だ。
『武器があったにゃら、お前にゃんか瞬殺ニャ』
『おぉ、痺れるねぇ...お前猫人族か?鬼か?』
『るーだニャ』
冗談ではない雰囲気を溢れさせるベル。動きたくても身体が言う事を聞かない。雰囲気だけでレベルの差を感じたのは初めてだ。
プー、ビビ様、大空が圧倒されている中、るーは表情1つ変えずに挑発まで言って見せた。
『挑発に乗るなよベル、魔女は捕獲した』
スウィルがそう言うまでわたしは、ビンを捕まれていた事に気付けなかった。それ程までにベルの威圧感が重くのし掛かっていたのか...とにかく戦うのは絶対にダメだ。間違いなく殺される。
『おいおい、ビンに入ってるとは痺れねぇな』
『そうだな。戻るぞ』
堂々とドアから部屋へ入り、ドアから出ていこうとする2人。
プーが大きく1歩踏み込んだ瞬間、るーがプーを止め、同時にベルが背の太刀を少し抜いた。反応速度が異常すぎる。
わたしは素早くプーへメッセージを送った。
送信完了の文字が画面に表示された時にはもう、ドアは閉じられていた。
2人は短い会話をして窓から外へ。着地して数歩進むと術式が発動され、足元に現れた空間へ最初にベルが、次にわたしを持ったスウィルが進み空間魔法の入り口は消える。
このビンはあくまで捕獲や保存用。中からも外からも声が届かない。
通話やメッセージのやり取りが可能だったのは近くに相手が居たからだろう。今はフォンも使い物にならない。
またみんなと離れてしまった。
またレッドキャップに会うんだろうか...いや会うだろうな。
傷や眼の痛みが残る中、わたしはまたレッドキャップに会う事になった。




