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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【闘技大会】
94/759

◇93



歓声沸き上がる闘技大会 会場。

熱の入った声が会場から離れた街、デザリアまで届く中、ドメイライトの騎士を前にワタポはテーブルの一点を見つめ黙る。


闘技大会1日目最後の試合を見に行こうと歩いていた時、懐かしい声にワタポは足を止めた。そこにはかつて自分が所属していた組織、ドメイライト騎士団の自分の隊メンバーが討伐任務の為、デザリアへ訪れていた。

討伐任務のターゲット。

それはモンスターではなく、他種族でもなく、人間だった。





人が行き交うデザリアの大通り。

パラソルが太陽の光を受け止めてくれるテーブル席で、ただクチを閉じる元騎士隊長で元ギルドマスター、現ギルド フェアリーパンプキン所属、両義手の冒険者ワタポ。


「....その、大変ッスね。3つの名前を持つって」


現ドメイライト騎士団 隊長、元ドメイライト騎士団 ヒロ隊小隊長のヒガシンがトカサの様な髪をガシガシと掻き言った。

今ヒガシンの眼の前で黙り一点を見つめている人間こそが、今回の討伐任務ターゲット。

本来ならば迷わず拘束するが、相手が元上司で訳アリとなればヒガシンも人間だ。話の1つ2つを聞かなければとてもやる気になれない。


「クゥ、元気だったか?あ、エミさんは元気?」


他愛ない会話でもいい、とにかく会話をしようとする隊長ヒガシンだが、その声はワタポの耳には届かない。

ひとクチも飲んでいないアイスコーヒー。グラスには水滴のドレス。


なぜ自分が...ワタポはそんな事を考えている訳ではない。


自分が元ペレイデスモルフォのマスターに間違いない。

当時のギルドメンバーが今、最悪の犯罪ギルド レッドキャップのメンバーである事も事実。

そして、この討伐任務を騎士達へ下したのはドメイライト騎士団 団長でレッドキャップのメンバーである フィリグリー。


フィリグリーの狙いはレッドキャップの邪魔になるであろう存在の排除と騎士団を裏切ればどうなるかを全騎士へ言葉ではなく結果で伝える事。

そして、冒険者と騎士の衝突。


ワタポはバリアリバル女王の側近として他の冒険者よりも多く選ばれ行動を共にしていた。そんな冒険者が騎士に殺されたとなれば、バリアリバルの者達は黙っていない。


この任務を受け入れ、命を捨てるのは簡単だ。しかしそんな事しても何も変わらない。

いっその事フィリグリーの事も話すべきか迷うも、それも違うと判断する。

ここでフィリグリーの事を伝え、騎士団が内部分裂したとしても団長の取り巻きは団長が絶対。不信感を抱いた騎士を文字通り切り捨てるだろう。


ヒガシン達に抵抗すればワタポだけではなくフェアリーパンプキンも全騎士からターゲットにされる。


受け入れ騎士の言うままになればバリアリバルが動く。


フィリグリーの正体を言えば騎士団が崩れる。



どのルートを選んでも結果、得をするのはレッドキャップという事になる。



「ねね、ヒガシンは誰を討伐する為にここに来たの?」


黄金色の瞳を騎士隊長ヒガシンへ向けプンプンが質問する。


「ターゲットはさっきも言ったけど...ヒロ隊長だ」


「へぇ~」


プンプンはヒガシンの返事を聞き流し、ひぃたろを見て今度はひぃたろへ質問する。


「ねね、ひぃちゃん。ヒロって誰?」


プンプンの言葉にワタポがクチを開いた瞬間、ひぃたろが素早く答える。


「さぁ?知らないわね。ワタポ ならギルメンだけどヒロって人はウチとは関係ない人物」


「だよねぇ~。ボクもヒロって人は知らないよ」


この2人は何を言っているんだ?ワタポがヒロでヒロもワタポも自分だ。

そうワタポが思った瞬間、ヒガシンが笑い、言う。


「それは失礼しました、えっと、あなたはヒロではなくワタポさんで間違いないですね?」


「えっと...え?」


突然の流れに戸惑うワタポだが魅狐と半妖精はこの流れを加速させる様にクチを開く。


「ワタポだよ!ボク達のギルメン!」


「信じられないなら闘技大会の受け付けやユニオン本部にでも聞いてみたら?フェアリーパンプキンってチームやギルドにワタポの名前があると思うから」


「いや、その必要はないかな。ギルドマスターがそう言うし、登録もされているなら間違いなくこの人はワタポ、俺達が探しているターゲットのヒロじゃない。人違いだったみたいだ。すみませんでした」


ヒガシンは席を立ち頭を深く下げワタポへ謝罪すると、隊メンバーも同じ様に。


「ちょ、やてめよ、えっと」


ワタポは戸惑い続け、魅狐と半妖精へ助けを求める視線を送ると2人は笑い騎士達へ「気にしないで」とだけ言う。

ヒガシンはその言葉を聞き頭を上げ「ヒロを探しに行く」 と言い隊を下げる。去り際にワタポを見てヒガシンは「いい人達に会えたッスね、隊長」と小声で溢し、あっさりフェアリーパンプキンの前から姿を消した。



「えっと、2人ともありがとう」


「気にしない、気にしない!」


「ギルメンを助けただけ、当たり前の事。それより今の」


「うん。多分だけど...レッドキャップが動き始めたって事かも」



騎士の任務内容を見た時から3人の脳にチラつくレッドキャップの存在。

半端な覚悟と実力ではレッドキャップに対抗出来ない。レッドキャップを深追いするな。と騎士やギルド、冒険者の中でも言われている事。



「動いても動いてなくても、ボクはレッドキャップを探すつもり。その為にボクは強くなったし、もっともっと、もっと強くなる」


揺れる事のない黄金色の光を瞳に宿し、プンプンは2人を見る。

ワタポ、ひぃたろ、プンプン。この3人の中で一番レッドキャップの恐ろしさを知っているのはプンプンだ。

恐ろしさを知って、逃げ出さずレッドキャップを探す事をプンプンは選んでいた。


「最初はモモカの願いを、止めてほしいって、終わらせてほしいって願いを叶える為にリリスを探してた。そのリリスがレッドキャップにいてモモカも...。そしてレッドキャップは黄金魔結晶を世界樹から奪った。きっとモモカが生きていたら、レッドキャップを止めてってボクにお願いしてきたと思うんだ。みんなの為に止めてって。だからボクはレッドキャップを探して、魔結晶でしようとしてる事を止める」


襲撃事件、魅狐がディアを暴走させたあの日から、プンプンの中に生まれた目的がレッドキャップを止める事。

妹のモモカの願いを叶える事は勿論、街を襲撃したり、目的、自己満足の為に人の命を消耗品の様に使うレッドキャップをプンプンは許せないのだろう。

自分と同じめに合う人を増やさない為にプンプンはレッドキャップを追うと決めた。


「ワタシもレッドキャップは許せない。セツカ様をドメイライトから追放したのも、世界樹やデザリア王の命を奪ったのもレッドキャップだ」


「今回ワタポを自分達の手を汚さず消そうとしているのも、レッドキャップね」


ひぃたろがそう言った時、楽しんでいる様な質を持つ声が3人に降り注いだ。


「ん~...おしいね半妖精。ボク達が直接消してもいいんだけど、フィリグリーの犬がどこまで使えるのかテストしてみたくてね。結局無能だったみたいだけど」


普段会話する音量で声を出す。これでハイディングは簡単に溶ける。

隠蔽術が溶けた瞬間、3人は声の主がいる場所を知る。

それ程までに近くでハイディングしていた声の主。


眠そうな瞳を持つ現レッドキャップのメンバーで、元ペレイデスモルフォのリョウは日除けパラソルの上で堂々と騎士や3人の会話を聞き、今自分の存在を教えるかの様にクチを開き、パラソルごと3人が座る席を大鎌で斬る。


声を出し隠蔽をわざと消し、気配を感知させ、攻撃する。

言葉と気配。この2つを同時に与え思考を、言葉の意味を理解する と 突然感じた気配の正体 へ向けさる。

頭では言葉や存在を理解しようとしている為、身体への信号はワンテンポ遅れる。ここを狙い、リョウは大鎌で3人の頭上にある日除けパラソルごと、自分の姿を確認される前に攻撃を仕掛けた。


パラソル、テーブル、イスも1つ。

この3つが綺麗に両断され、周囲の人々は悲鳴を上げる中、リョウは小さく舌打ちする。


最低でも1人は殺せる、または致命傷を与える事ができる。そう思っていたが、3人の反応速度《RES》がリョウの攻撃速度《ASPD》を越えていた為、無傷に終わる。


両断したテーブルやイスを蹴り飛ばし、再び3人の視界を狭め死角を攻める作戦を選んだリョウだったが今度も攻撃は失敗した。

ワタポはバックステップで後ろへ下がりサイドステップで大きく横へ、プンプンは地面を蹴り酒場の看板の上へ、ひぃたろは最小限の動きで全てを回避。

リョウの攻撃は誰もいない空間を斬り終了した。



「ねね、あの子がワタポの言ってた元ギルメンの!?」


ビンから溢れるお酒をイメージした看板から声を出すプンプン。ワタポは何も言わず頷き、1歩前へ進む。


「久しぶりだねヒロ。初めまして、魅狐と半妖精。ボクはレッドキャップのリョウ、ヒロがボク達の邪魔になりそうだから殺しに来たんだけど...邪魔するなら2人も殺すけど?」


ドッと溢れる殺意が怯え逃げる人々を威圧する。

悲鳴を上げ恐怖に足を震えさせる無関係の人間をリョウは「うるさい」と言い命を奪い、黙らせた。雑魚モンスターを討伐する様に人の命を奪う行動は止まらず2人目を狙う。

大鎌が無抵抗の人間を狩ろうと動いた時、3人も素早く動く。

ワタポはリョウの武器を止め、プンプンはターゲットにされた人間を救出し、ひぃたろはリョウの喉へ剣先を向ける。


「殺すの?ボクを殺すの?ヒロ」


「....ッ」


「殺すなら殺していいよ。ほら早く」


持っていた大鎌を手放し、笑うリョウ。何を考えているのか全くわからない行動にワタポは揺れる。


これ以上罪を重ねないでほしい。

しかしきっと、罪を重ねるだろう。


ここでリョウを殺す?

ここで捕まえる?

その後は?


「昔は殺す事に対して、迷わなかったのにね」


リョウは眼を閉じそう溢すと、何かを地面へ落とす。

ゴツゴツした小さめの球体が...破裂する。

強烈な光が周囲に拡散し、視界を一瞬で白く塗りつぶす光。

スタングレネード、または閃光玉、または閃光弾、色々と呼び名はあるが、強烈な光を拡散させるタイプは相手の視界を潰す為のアイテム。

音と光で視界と聴覚を奪うモノもあるが、今のは視界だけを狙った便利アイテム、スタングレネード。


フェアリーパンプキンの3人は見事にスタン状態に。

リョウは笑いながらゆっくり大鎌を拾い、高く上げる。


「戦うまでもなかったね。さよなら」


ヒロの首を狙って大鎌を落下させる動作を見せた瞬間、フェアリーパンプキンのメンバーがリョウを攻撃した。

白い冷気を放つ爪が大鎌を凍結させ、砕く。

心地よい音と不快な音が並ぶように響き、リョウは舌打ちを挟み距離を取る。

この、距離を取らせる行為こそが狙いだった。


素早く空高くへ声を、仲間を呼ぶ様に響かせる。


「ッ!うるさいなぁ...少し黙っててくれよ!」


「黙るのはお前じゃ」


馴染みのある、愛敬ある言葉使いが聞こえ、ワタポ、ひぃたろ、プンプンは手に何かを持たさせた。


「ウチの奢りじゃ。ぐぃ~っとイっとくれ、ぐぃ~っと」


言われるがまま3人は手にあるモノをクチへ運び一気に流す。決して美味しい飲み物ではないそれは、全状態異常の回復を速めるポーション。

小瓶1つ1500vと高額すぎるが全状態異常に効果があるのでこの値段も頷けるアイテム。打ち消すではなく回復を速めるポーションなので、異常専用ポーションが存在しないスタン等には有効だ。


「クゥ、よくやったのじゃ!」


「本当にね。ナイスクゥ!ビビが今度装備作ってやるぞ」


「で、あの少年は?この状況は?」


3人を助けたのはギルド フェアリーパンプキン 所属のクゥ。

魅狐や猫人族にも負けない反応速度《RES》と回避《AGI》を持つワタポの相棒フェンリル。


閃光を見たキューレ、ビビ、大空は異常事態だと感じ、すぐに走るもデザリアは広い。場所がハッキリせず迷走している所でクゥの声が響き、場所を確定できた。

キューレ達の乱入により時間が少々空き、ポーションの効果も乗り、徐々に3人の視界が戻りスタンは終了する。


「7対1、か....ハハッ、もう少し遊びたかったけど終わりみたいだ。ヒロ、これでわかったろ?ボク達の邪魔をするなって事だよ」


リョウがそう言った直後、全員が地面から...地面の下から恐ろしい魔力を感知する。

魔力感知能力がマイナスだったとしても感じる程濃い魔力。


「それじゃボクは戻る。追えるなら追ってきてもいいけど...今のお前達じゃ無理だね」


楽しそうな笑顔、まるで遊びに来たかの様な笑顔でリョウは突然展開される空間魔法へ飛び込み、この場から姿だけではなく気配も消した。



リョウの事は後回しにし、ワタポはこの湧き上がる魔力について話そうとした瞬間、キューレが声を出す。



「話しは後じゃ。ここにリピナ達を呼んだのじゃ、ウチらは下へ急いだ方が良さそうじゃぞ...ビビと大空はユカラミと合流して、猫はもう無視じゃ!眼の色変えてどっかに走っとった猫なんぞウチは知らんのじゃ!」


キューレの指示に従いビビと大空はユカ、ラミーと合流する為、嫌な魔力が地面から湧き上がるデザリアを走った。


「ボク達は下へって...どうやって行くの?それにこの魔力....何か凄い嫌な感じするけど」


「もしかして、この魔力って」


プンプンとひぃたろの言葉にワタポが短く答える。


「エミちゃだよ」


ワタポはこの魔力よりも、もっと濃い魔力を近くで感じた事がある。そして左腕を失った。この魔力はワタポが知るエミリオの魔力量よりは遥かに少ないが、間違いなく魔女の魔力。


「ほれ!急ぐのじゃ!エミリオが魔女の魔力を使う事態じゃ。間違いなく連中が絡んどる」




左腕へ痛みと腕を失った時の記憶が甦る中、ワタポは地下への道を探した。





エミリオが魔女の魔力を使う少し前、街でスタングレネードが破裂する少し前、キューレ達はダラダラと闘技大会 会場を目指し歩いていた。

うだる様な暑さに会話する体力も削られる。まるで火傷系スリップダメージの様に。


皇位情報屋でチームエミリオのキューレ。


猫人族で大剣使いチームエミリオの るー。


戦う音楽家 チーム芸術家のユカ。


マスタースミスを持つチーム芸術家のビビ。


ナックル系を自在に操る体術を持つチーム芸術家の大空。


1回戦目で芸術家と戦ったチームベアーズの幼い召喚術師ラミー。


なんとも珍しい組み合わせで会場へ向かっている。

殺し...PKではなく、腕試し要素が強いPvP大会では試合後にお互い仲良くなる事はよくある。ベアーズのメンバーは入院状態だが無事なラミーはユカを気にいっている。

ここから色々な人と関係を持ち、自分の世界を広げる事が今後の冒険者ライフに影響を与えるだろう。


しかし今はこの太陽が今後も続くであろうデザリアライフに影響を、全員のライフポイントに影響を与えている。


「あじぃ...アジリティ極のウチでもあじぃのじゃ」


よく解らない事を呟き、汗の滴を落とすキューレへ、ツッコミを入れる体力を持ち合わせていないメンバーは無言で、地味に遠い会場へ向かう。

その途中、神は安息を与える。



「ティポルの汗、1つ400vですよー。冷えてますよー」



なんというタイミングなのか、冷え冷えのドリンク、ティポルの汗を歩き売りする大会関係者なのか雇われNPCなのか、キューレ達あじぃ部の前に現れた。


売っているティポルの汗は前日に猫人族のるーが飲んでいたドリンク。1つ350ミリリットルで400vの値段は考える必要なく、高い。

しかしティポルの汗は胃で更に冷え、内部から体温を下げてくれるのでデザリア...イフリー大陸の人々は愛して止まない有能ドリンク。


キューレ達は迷わず購入し、日陰でティポルの汗をあおる。どこかトロピカルな味の後に抜けるミント的爽やか感が、あじぃ部を癒す。


「生き返るー、ビビ暑すぎて髪真っ赤になったかも」


「元から真っ赤だろ!」


ビビへツッコミを炸裂させるユカ。どうやら体力は回復したらしい。

髪も黒く、装備も黒で厚いるーは回復まで少々時間が必要な様子なので、ここで数分休憩する事に。


「そんな剣を背負っとるから疲れるんじゃぞ」


キューレはティポルの汗で喉を潤し、るーへ言う。

すると、るー&大空が わかってないな。と言う様なため息を吐き出した。


「なんじゃ!今のため息は!」


ガミガミとうるさいキューレへ、るー&大空の武器マニアがガミガミと。

それを見ていたラミーは楽しそうに、寂しそうに、羨ましそうに笑い、ポツリと呟く。


「私もあんな風に...楽しい仲間がほしいなぁ」


見た目も中身もまだ幼いラミー。出会って初めて本心...自分が思っている事を呟いた。


「んなもん、もうあるじゃん?」


ユカが隣へ座り、言い、ティポルの汗を飲む。ぷはぁ~と豪快に飲みラミーを見て言う。


「もう私もビビも、みんなラミーの仲間じゃん。他のフレも紹介してあげるけど...賑やかすぎて疲れるかもなー」


ニッと笑い言うユカを見てラミーは最高の笑顔を、試合中では考えられない程 可愛らしい笑顔を浮かべ頷く。

リリスと戦って自分が強い、自分は強くなった事を体感したい。そう願っていたラミーだが、本心では誰よりも楽しく生きたいと思っていた。

リリスが怖くて、でも逃げたくない。ならばリリスと戦う事を、自分で怖い事へ立ち向かう事を選んだ。

それは悪い事ではない。しかし急ぐ事でもない。


「ゆっくりいこう」


ビビが言い、ラミー、ビビ、ユカの3人は意味もなくティポルの汗が入って瓶を乾杯する。


「そんな剣ずっと背負っとるから疲れるんじゃ!髪も切ってしまえ!服も脱いで涼しい格好せい!見とるこっちが暑くなってしまうのじゃ!」


まだやってるよ。

と言う様な顔でキューレ達を見ていると、るーの耳が一瞬ピクつき、鼻をヒクヒクと動かす。


「にゃぁぁ...この匂い...にゃぁぁ」


溶けそうな声を出しキョロキョロする猫を観察していると、突然るーがティポルの汗を投げ捨て「にゃフォァァア」と声をあげ走り去った。

何が何だかわからないメンバーはクチを開き呆然とする。


「あの...バカ猫!勝手にどっか行きおって...ほっとけ!もう知らんのじゃ!」


怒り、ティポルの汗を一気に飲み干すキューレ。

ラミーは何だか楽しい気持ちになり笑った。


それから数分進んでまた休憩していると、それは起こった。

街の大通り辺りで、フェアリーパンプキンが今いるであろう街で光の柱が爆光した。


一瞬の閃光。


キューレはすぐに何が破裂したのか気付く。


「閃光玉じゃ!」


街中で閃光玉。非常識極まりない行動だが、今のデザリアには冒険者が集まっている。喧嘩になり、アイテムを惜し気もなく使う冒険者も存在する。

戦闘=情報収集可能。

キューレの脳は素早く情報屋モードへ切り替わり、恐ろしい俊敏性を披露し街まで爆走する。


「ビビと大空は追って!」


自分も行きたい。しかし行きすぎた喧嘩だった場合、ラミーを巻き込んでしまう。

ユカはビビと大空をキューレへつけ、自分はラミーと会場を目指すルートを選んだ。

2人は楽しそうに「了解」と言い、情報屋を追った。


「私達は行かなくていいの?」


「うん。どうせ喧嘩でしょ。私と一緒に会場行こうラミー」


喧嘩となれば見たい気持ちもある。が、夜に酒場でも行けば喧嘩の1つ2つ見れるだろう。とユカは自分に言いラミーと会場を目指し進もうとした。しかし足を前へ出さず会場とは別の...自分達が今進んできた方向を振り向く。


「!?」


振り向いた瞬間、眼の前に、ほぼゼロ距離に、知らない女の子が、痛々しい縫い傷を持つオッドアイの女の子がいた。


「ばーん!」


女の子がそう言い、両手持ち槌...ハンマーでユカを叩き飛ばす。振り向いた瞬間にハンマー攻撃を浴びたユカは吹き飛ばされ会場までの階段から場外する。


「モモカー!今の人拘束しといてね!」


「...うん。わかったよモモカ」


もう1人女の子が現れ、何かを掴む様に両手を閉じ頷く。


「ありがと!さてさて...ラミーちゃんだよね?わたしモモカ!」


ピンク色の長髪を揺らし、ラミーよりも幼い女の子は可愛らしく笑って、ブイサインを見せる。


「ラミ...逃げて!」


フリーズするラミーへユカが叫ぶも、全身が見えない糸に拘束され身動きがとれない。


「...音楽家は、いいの?モモカ」


黄緑色の奇妙な瞳をギョロりと回し、ユカを見てモモカがモモカへ問い掛ける。


「その人はいらない!邪魔しない様に糸でグルグルにしてねー!モモカ!」


ピンク色の瞳とグレーの瞳を持つオッドアイモモカが楽しそうに言い、ハンマーを構える。


「ラミーちゃん。これから仲良くしようね」


可愛らしい笑顔。

飛び散る血液。

残酷な笑顔。

飛び散るラミー。


動けず、声も出せず、ただ何度も何度も潰されるラミーを、ユカは見ていた。

眼をそらす事も出来ず、考える事も許されない程、突然の出来事。


何度も、何度もハンマーで叩き潰し、赤い血液が階段を流れ、飛び散る。


「眼は必要ないって言ってたし、これでいいかな?ぐちゃぐちゃだねモモカ」


「...うん。いいと思う。それ...グルグル巻きにする?」


「うん!お願い!」


返り血をペロリと舐め、ハンマーで何もない空間を叩くと、その空間が割れる。


「帰ろう行こうモモカ!その子持ってね」


「...わかった。モモカ」


「音楽家さん、さようなら。また会えるといいね!」



時間にして5分もない。

そんな短時間で整理できない事が現実に起こった。

眼で見た情報、身体が感じた情報、その全てを脳が整理出来ず、音楽家はフリーズしていた。



長い、長い階段をゆっくり下る血液も、散らばったラミーの破片も、全身に残る痛みも、何も解らない。




精神を庇い脳が強制終了。


ユカはそのまま意識を落とした。




直後、地面の下から魔女の魔力が湧き上がった。








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