◇92
埃っぽい渇いた地下でわたしエミリオ様は結構ヤバイ状態に。
フェアリーパンプキンの試合が終わり、わたしは3人へ勝利の抱きつきをプレゼントしようと急ぎ、キューレ達を気にする事なく単独で突っ走った。
そしてトラップを踏み、空間魔法を抜け、埃っぽい地下に。
声は響くも外に漏れる事は望めない。わたしにピッタリなイケイケ武器、氷樹の細剣はフォンポーチの中。眼の前には犯罪ギルド赤帽子のメンバーが3人。言うまでもなく、わたしは1人。
逃げるにしてもどう進めば外に出られるのか謎。逃げ切れる気もしない。
詰んだ。
詰んで命を摘まれた。なんつって~...と、黙っているとくだらい事しか思い浮かばない。
思考回路がバカになる前に、わたしは黒髪赤眼の悪魔へ話しかける事を選択した。
「さっき、わたしの魂を貰うって言ったよね?」
今の状況をどうにかする作戦は残念ながら思い浮かばない。しかし黙って殺されるのはゴメンだ。
「うん」
...この悪魔め。会話のキャッチボールをしようともしない。
うん って...そりゃ答えとしてはアリだけども、うんって...まさかこの悪魔、友達いないな?
冷たい返事でも、ここで会話も、生きる事も、諦める訳にはいかない。
今頃キューレは責任を感じてしょぼん。ワタポは泣き崩れ、プーは走り回り、るーは白目、ハロルドは唇を強く噛み...みんな悲しみに呑まれているに違いない。
頑張れエミリオ、生き抜けこの状況を。
頑張れわたし、きっと何とかなる。
自分で自分を応援し、言葉を選び、クチから溢れたのは、
「うんって、もう少し会話しましょう とかゆー 気持ちないわけ?さては友達いないな?」
結局、悪魔の返事を聞いてわたしが思った事だった。
「友達なんて邪魔なだけ、私には必要ない存在」
「「うわ、でたよそーゆーの」」
むぉ?このベルと呼ばれている男、わたしの返事とシンクロさせるとは中々わかってるじゃないか。
よし、次のターゲットはお前だ。
「ほら仲間も同じ事思ってんじゃん。悪魔ちゃん友達作ってみ?多分楽しいよ。んで、ベル...だっけ?友達多そうだねー!」
友達と言うワード、こりゃ中々万能だ。
会話を続けさせる事もでき、相手をバカにする時にも使えて、相手を誉めたり気を引いたりする時にも使える。
友達って素敵だね!...って今思うと何か違うと言うか酷い気がするけども。助かった!
「痺れるツレが沢山いるぜー、今度紹介してやろうか?」
「お、まぢで!?是非紹介してよ!わたしの友達も痺れるのいるからさ!」
文字通りビリビリ痺れる友達を紹介してやろう。と思っていると羊が呆れ笑いで会話へ乱入する。
「今魂、つまり命を狙われてる立場でよく普通の会話ができるな」
言い終える前に羊は動いた。
素早い動きでハルバードをフォンから取り出し地面を叩く。衝撃波の刃がわたしをターゲットに迫る。
以前のわたし、エミリオならばこの状況に焦っていただろう。しかし、甘いぞ羊。今のエミリオは大型アップデートされたのだ!
わたしは地面を斬り進む衝撃波から眼を離さず、素早く華麗にサイドステップし、攻撃を回避。
ふっ、バカめ。直進系で速度も遅い攻撃など、寝ながらでも避けられる。
ここでわたしは両手を前に出し、手のひらを見せ言う。
「まったまった、落ち着け、わかったから一旦...3分でいいから落ち着けってほら深呼吸して」
吸って、吐いて、吸って、吐いて、と言いつつ一緒に深呼吸し自分も落ち着かせる。
突然攻撃してくるのはルール違反だろ!と心で怒りつつ、わたしは挑発的な言葉を吐き出す。
「羊と痺れとバナナ。わたしが黙って殺されると思う?思わないしょ?でも今武器はフォンポーチの中。そこで相談なのだけども、装備を整える時間を数分でいいからちょーだい。ど?魔女さんと痺れる戦闘とかしたくない?」
逃げ切れない。
勝てない。
でもそれはわたしが1、相手が3だからだ。
3人は黙りわたしを観察するように見て、頷く。
装備を整える時間、命の先伸ばしに成功した。
腰ポーチからフォンを取り出そうと、手を伸ばした瞬間、冷気の様な声が細く漂う。
「あら、楽し、そう、な事し、てる、じゃ、ない?、私、も仲、間に入、れて」
ユルい雰囲気でどうにか自分のペースに持っていこうと企んでいたわたしだったが、響く独特な声に奥歯を噛んだ。
この喋り方、声、粘りつく雰囲気...アイツだ。
レッドキャップのメンバーでわたしが一番ムカついていて、一番ヤバイと思ってる死体人形使い。
「お?お前も来たのか。痺れるじゃねぇーか」
「レッドキャップ1、頭のネジが足りないメンバーもキミが言った痺れる戦闘に参加しても問題ないよな?エミリオさん」
「リリス...魔女は私の。邪魔しないで」
「邪魔、なん、てしな、いわ。ただ、魔女、の、瞳、が欲、しいだ、け」
メンバーの会話を背に、わたしは堂々とフォンを操作し氷樹の細剣を腰へ装備、アイテムを取り出し腰ポーチを肥大化させる程 詰め込む。
さらに、状態異常耐性を上昇させるポーション、痛みを和らげ自然回復を高める痛撃ポーション、他にも複数のポーションを飲み、空瓶を地面へ捨てる。
小さな音をたてて空瓶は微量のマナへと変わり空間に溶け消る頃、わたしは4人を見て言う。
「瞳とか魂とか.......ップ、ごめん。もう1回」
ビビってポーション飲みすぎた...。格好つけるセリフを言い終える前に誤魔化せないレベルのげっぷが炸裂するとは...恥ずかしい。
気を取り直して、テイク2。
「....瞳とか魂とか、そんなに欲しかったらあげるよ。奪えるなら、ね」
よっしゃ、今度は完璧に決まった。
欲しいなあげる。ただこのわたし天才エミリオ様から奪えるならば!
どうだ?この強者的セリフと同時に炸裂させる余裕ある表情。泣く子も黙る赤帽子相手にここまで言えるヤツは他にいないだろ?
さすがわたし。雑魚共とはひと味もふた味も違う。
と、まぁここまではいい。
問題はここからだ。尻尾を巻いて逃げてきたあのダンジョンのボス ハルピュイアを4体相手にする方が、楽に思える程ヤバイ連中が今の敵。
作戦は無い訳じゃない。しかし成功率は低い。
クチに残るポーションの味が不安を煽る中、ベルが動く。
十二星座の獅子座にも負けない肉食めいた表情を浮かべ、砂を煙らせる。
わたしはベルの動きに気付いた瞬間、膝を曲げた。
「へぇ...痺れるねぇ」
先程ベルは素早すぎる動きで背後へ回り込み、首を狙ってきた。今回も同じだろう。というわたしの読みは当たっていた。わたしは地面を押す様に右へ回避し、途中、詠唱と抜刀を済ませ魔術を飛ばす。
円盤の様な風が地面を這う様に回転しターゲットを襲う魔術、エンドゥーム。
天才魔女エミリオが産み出した中級レベルの魔術、貴族の家へクエスト報告の為 行った時、広い屋敷を掃除する機械を見て思い付いた。勿論この真実は秘密にしている。
魔術を放ったからといって安心出来ない。アイスブルーの刀身を閃かせベルの追撃を弾く。
パリィできる と確信した瞬間、わたしは他のメンバーへ視線を長し状況を把握。
すぐに猫人族の るー から教わった回転するバックステップで距離を取りつつ全員の動きを見る。
「おい、リリー!情報と違うじゃねぇか...コイツは痺れるぜ!」
「...あなた、こんな、に、強かっ、た、かし、ら」
ここでダガーを抜刀する。
今はレッドキャップに所属してしまったワタポの友人、リョウから貰ったダガーを右手で、刃を下へ向ける様に逆持ちする。
キューレが言うにはダガーをサブで使う場合は基本的に逆手持ちがオススメらしく、わたしも色々と勉強し、今はこのスタイルを違和感なく扱えるまでにレベルアップした。
まさに天才。
「ダメ、よ。油断、し、ちゃ」
リリスの声が響き、わたしは急ぎ回避行動へ。
素早く流れる視界を横切る様に舞う血液と、その先に見えたピンク色の髪を持つ少女。
「うん、殺せると思ったのにやるね!」
完全に忘れていた。
リリスはモモカとセットだと言う事を。
無邪気な笑顔を浮かべ、ノコギリの様な刃に付着した血液を払い落とす様に振る少女。
その少女をわたしは確認する様に見る。
プーから話は聞いた。何もかも。
その時リリスとモモカの情報も、プーが知る限りの情報を聞いた。
「...本当に眼の色が違うんだな。モモカ」
モモカは沢山いる。
本物のモモカは両眼が薄ピンク色。他は死体を素材に作られた人形で瞳の色も違う。
今わたしの前で笑うモモカは、
「うん、街を襲撃した時にリリスがわたしを起こしてくれたんだよ。よろしくね!魔女さん」
襲撃事件の時に生まれたモモカは...自分の身体を悪魔の様に変化させるディア、エンハンスタイプを持つ個体。
エンハンスとか面倒なタイプが最悪なタイミングで湧くとは...わたしのLUKに呆れる。
斬られた右腕の傷はポーション効果でほぼ感じないが、それも時間の問題だろう。早く今の状況を変えなければ、相手が全員戦闘モードに切り替わったら本当に殺される。
「うん....スウィル、この剣あんまり良くないよぉ~」
「ハッハッハッハ!そりゃ相手が魔女だからな!」
モモカと羊...スウィルが緊張感ない会話をする。
この会話...どこかで聞いた気がしたが、今はそんな事どうでもいい。とにかく今はコレを。
「詠唱させねーよ!」
ベルがわたしの詠唱に気付き潰そうと接近するが、わたしは停止詠唱する必要はない。
唇を揺らしつつ重剣術でパリィすると、ベルだけではなく悪魔や羊も驚いた表情を初めて見せた。
「マジかよ...マジで魔女かよ!痺れるじゃねぇーか!」
魔女は停止詠唱する必要はない。
今の動きで完璧に魔女を相手にするスタイルへ変更した赤帽子だったがもう遅い。
リリスが情報をいい忘れていたのだろう。ならば連中はディア 多重魔法も知らない...てか、そろそろ格好いい名前つけたいな。
中級炎魔術 ファイアウォールを二連発動し、魔方陣が炎の壁へと素早く変化する。そこへわたしは腰ポーチごと投げ捨てすぐに詠唱。
上級風魔術 ストームを発動させた。
ポーチが炎の中で小さな爆発を起こし、パープルピンクの煙を大量に出す。その煙をストームで細かく吹き飛ばす作戦は成功、あとは祈り戦うだけだ。
「何か知らないけど無駄」
「そーでもないさ。悪魔ちゃん」
悪魔...ナナミと初めて剣をぶつけ合う。メイン武器は濃い紫色の刀身を持つカタナか。
細剣と短剣をクロスさせカタナを受け止めると、左右からベルが長刀で、スウィルがハルバードで攻撃を仕掛けてくる。
必死にカタナを押し返し、左右から迫る武器を両手の武器で受けるも簡単に押し返され、左腕と右腹部を抉られる。
このダメージはポーションじゃ誤魔化せない。
歯噛みし堪えるわたしを正面から闇色のカタナが振り下ろされる。
「終わり」
回避しようとバックステップモーションへ入るもカタナのリーチは長い。胸を通る闇色の線と、追うように湧き出る血液、痛み、熱。
知らなかった。ど真ん中を斬られるとクチからも血が出るんだ。これじゃ詠唱しててもファンブルするや。
死ぬの?最悪じゃん。やだよ死ぬの...ってか、こんな所で死んでる暇ないっての!
わたしは種族の枠を越えて、みんなでいい感じになる世界を見たいし。
それに、わたしを産んだ母親と取り巻きを黙らせるまで安心して死ねない。
「うん、クビ切るよー!」
「瞳、は、回収、し、てね。モモカ」
「うん、魂も....!?」
モモカがノコギリソードを振る前に、わたしはモモカの両手首を撥ね飛ばした。
「死ぬかもって状況で渋ってたら本当に死ぬわな。面倒な事になりそうだけど、まぁワタポ達なら何とかしてくれるっしょ」
パキッ、と小さな音がわたしにだけ聞こえた。左手に装備しているブレスレットの宝石部分...マテリアに小さく弱いが確かな亀裂1本。
全身から魔力が溢れる様な感覚と少しだけ頭の中がスッキリする感覚。
足へ針が大量に刺さっている様な痛みと、熱。
「お前らに魂なんて、やんねーよバカ」
バチバチと音を荒立て、わたしのブーツを雷が纏う。
プーの狐モードを見た時から考えていたこの魔術。
速度ブーストしたい時だけ足に雷を纏わせ、雷速で移動する。
これも立派な雷魔術、多重魔法が使えるわたしだからこそ実現出来た...サンダーブーツ。
痛みはあるが死ぬよりはマシ、プーに比べれば遅いがそれでも充分使える。
「いつ詠唱したの?これが魔女の魔力量と質...」
悪魔がポツリと呟いた言葉へわたしは返事を言う。
「この魔力は本当に少しだけ。まだまだあるけど、脳ミソまで完全魔女になっちゃうから使いたくない。そんで詠唱は...説明いる?」
「魔女、は、上、級魔、術、以上、じゃ、な、いと、詠唱、す、る必、要、はない。微、量で、も今、あなた、は、魔女、本来、の、魔力、を、使っ、ている」
「正解。んだから今のわたしは魔力量がアホ多い人間ではなく、魔女として感知される」
わたしも数ヵ月遊んでいた訳じゃない。闘技大会で優勝は勿論狙っている。
でも、わたしが視野に入れてレベリングしていた存在は闘技大会ではなく、お前ら赤帽子や魔女、悪魔、チート的強さを持つ生き物だ。
平均、当たり前、普通。これじゃダメなんだ。チート対抗するにはこっちもチートになるのが一番早い。
本来のわたしの魔力...魔女の魔力と力を完全に解放すれば、何でもかんでも壊したくなる。自分で自分を操れていない魔女の典型。ここが魔女界ならば魔力を完全に操れる様になるまで、面倒を見てくれる魔女が近くにいてくれるが、魔女界じゃない。それにわたしの面倒を見てくれる魔女...正確に言えばわたしの魔力を押し潰し黙らせる程の魔力を持つ魔女 は数人しか存在せず、その数人は同族の面倒よりも他族攻略に忙しい。
魔女界じゃない、師となる魔女がいない。なのでわたしはこうして自分で少しずつ魔力を操り、モノにするしかない。
この力はディアではないのでデメリットがすぐに発生する。
デメリットは...現段階のわたしは疑い様がない程、完璧な魔女として感知される事だ。
ま、その分 本来の魔力。力を多少でも取り戻せて、自在に扱えるまでに成長したので魔女達には難しい、魔力を隠し静め生活する事 が自然と可能になった。
この瞬間は魔女として感知されるが、隠してうまく言えば何とか誤魔化せる気もする。
「すげぇ痺れるけど...どういう仕組みだ?全然理解できねぇ」
「理解する必要ないしょ。ほら、魂と瞳...なんならこの身体も使う?リリスのディアなら魔女も悪魔もモンスターも、身体を消滅させずに殺せて魂も奪えるんじゃ、ない?」
わたしは言い終える前にリリスへ攻撃を仕掛けた。
氷樹の細剣で魔剣術を使い、詠唱なしで下級魔術を放つ。
リリスだけではなく、ベル、モモカを同時に吹き飛ばし、悪魔ナナミの闇色の刀身をわたしのアイスブルーの刀身がギリギリと音をたて押し合う。
「俺の事を忘れてるぞ」
羊のスウィルがハルバードを豪快に回し1歩踏み込んだ瞬間、わたしはニヤリと笑う。
魔術を放ってすぐに、術式魔術を設置して置いた。
スウィルは今術式によって拘束状態に。術式拘束から脱出する為にはわたしの決めた簡単なルールを攻略すればいいだけだ。そのルールは...この場に存在する人数が2倍以上になれば術式消滅。
赤帽子はモモカを含めて5、わたしは1の合計6。
12以上がこのマップに現れれば拘束系術式は消える。
この事を説明しなかった理由は術式対象者はそのルールを確認する事が出来る。
それと...わたしは魔術詠唱をしていたからだ。
悪魔ナナミはわたしとほぼ密着状態。吹き飛ばした3人は立ち上がり今まさにわたしへ攻撃する為に多少でも接近してくる。詠唱した魔術はわたしを中心に足元へ発動される範囲魔術。わたしと距離が近ければ近い程 ヒット率、威力が増加する。
「ぶっ飛べ赤帽子」
赤紫の魔方陣が広範囲展開され、魔方陣内全てを対象とした 上級範囲闇魔術 イービルゲート。
わたしも魔術攻撃対象だが、この防具 ジャドー系は闇耐性値が高く闇ダメージカット効果は期待しても裏切られない。
圧力、脱力、そして言葉に出来ない、斬でも刺でも火傷でも打撃でもない様な、あるいは全てではないか と思う様な痛みが爪先から頭の天辺までを激しく駆け回り、揺れる。
長く苦痛な5秒が終わり魔方陣は収縮し消える。
収縮を始めた瞬間から次の魔術が詠唱可能で、わたしは闇魔術を詠唱する際に、足を包んでいた速度ブーストバフを持つ雷魔術を終了させていた。
身体に残る圧と痛みに表情を歪めるも、脱力に身体が思う様に動かない状態で、わたしは中級魔術を詠唱なしで二連発動する。
モモカとリリスの中心、ベルとナナミの中心を狙い、中級魔属性魔術 マナバーンを破裂させ4人を吹き飛ばす。
荒くなる呼吸を整える事もせず、わたしは言った。
「どうだよ、これが魔法剣士の戦闘だ バカ帽子!」
属性魔剣術、攻撃魔術、バフ、デバフ、術式、体術。
わたしが持っていたスキルとわたしが組み合わせたスキル、そこに今まで出会った人のスキルを少し混ぜ完成したのが今のエミリオだ。
素の体力が低いわたしは色々なジャンルの戦闘スキルを使えばすぐ体力が底をつく。
魔術のみの戦闘なら、まだまだイケるが今は魔術戦ではない。が、さすがに人間なら死んだだろう。
魔属性魔術は魔女以外に効果抜群で魔女でも数名しか持っていない属性だ。勝負あったな赤帽子。
「いってぇ...今のはマジで痺れたぜぇ」
え...。
「モモカ、壊れ...、ちゃっ...た、、ッ」
うわ...。
「久しぶりに自分の血、見た。黒い」
おえぇ...。
「これでまだ未完成の魔女とは凄い」
コイツ等まぢかよ。スウィルの言った通りわたしはまだ未完成...と言うか本来の力ではないが、それを使えば関係ない人も豪快に巻き込む事になる。
でも、今の段階で低級魔女と同じレベルだぞ?それで死なないって...イカレてるなんてレベルじゃない。
「数年前から魔女や悪魔、他の種族への対策として色々やっといてよかったぜ...下手すりゃ今ので死んでたぞ。痺れるぜマジで」
「リー、ダー、が、黄金、の、話、を言、い、出し、て、から、私、達、の、敵は、人間、だ、けじゃ、なく、なっ、た」
「人間に呆れていた所だったし、私は望んで悪魔になった」
...想像以上にヤバイ連中かよ。
そもそもレッドキャップの目的はなんだ?
「目的はなんだ?って顔してるな魔女」
わたしの思考を読んだのか、たまたまなのか、クールな声が背後から飛び響く。と同時に今まで人間相手に感じた事のない寒気が走る。
「教えてやろうか?レッドキャップの目的。魔女も協力してくれるならな」
今わたしは下級レベルとはいえ、魔力のオーラや質は魔女だ。
魔力量は下級とは比べ物にならない量。
この時点で人間だけではなく、他種族も恐れや警戒をするが...この黒髪ロン毛は警戒もせず近づき、わたしの肩をポンっと叩き、仲間の元へ進む。
この行動だけでわかる事は、あの男は他族との戦闘に慣れている事と、戦闘経験値がここにいる誰よりも多い事。
それは同時にここにいる誰よりも強いと言う事になる。
ベルより、スウィルより、悪魔より、リリスより、強い。
「...お前が赤帽子のリーダー?」
「ハハハ...レッドキャップって言ってくれよ魔女」
小さく発光している様な青い瞳をわたしに向け、男は会話を続けた。
「ギルド レッドキャップのリーダー、パドロック。よろしく魔女エミリオ」
「ははは...マジックナイトって言ってくれよロン毛」
ギルド名を赤帽子と言った時に、この男が返してきた返事を今わたしも返す。別に意味はないが、少しでも黙れば押し潰されそうな程...重い空気が充満する。
「お前等 遊び過ぎだ。雑魚でも魔女、舐めプで死んだら笑えないぞ」
遊び過ぎ?雑魚?舐めプって...嘘だろ。
「どんなもんか知りたくてねぇ。今の魔女でA+って所か?痺れるぜぇ。痺れるけど、ちっと足りねぇな」
「ま、だ未、完成、だも、の。本気、にな、ればき、っと、S3、よ」
「何でもいいけど、術式から出してくれよ」
「遊んでるからだ。ナナミ術式を壊してお前があの魔女を狩れ。他は戻るぞ。あとリリー、お前がオーダーした素材だけど...アレ使えるのか?ぐちゃぐちゃだったけど」
「大丈、夫。戻り、ましょ、う」
雰囲気が一瞬で変わった。
隙が無いと言うか...1人を狙えば他に瞬殺されるイメージしか浮かばない。かと言って1対1で勝てる気もしない。
本気になった時のレベルが見えない。
わたしも強くなった、強くなったんだ。
でも、全然足りない。
リリスがもう1人、光ない薄ピンク色の瞳を持つモモカを召喚し、空間を無理矢理開く様に空間魔法を使い、ナナミを残してレッドキャップは消えた。
「....大丈夫。遊んでたと言っても私達にダメージを与えた。それは凄い事。もう頑張らなくていいよ。エミリオ」
悪魔は微笑み、囁き、カタナを揺らす。
もう頑張らなくていい...頑張って、魔女の力を引っ張り出して、この結果か。
知らず知らず奥歯を噛み、両眼を閉じていた。
カタナで斬られる?
そんなの知らない。
悪魔が攻撃してくる?
そんな事どうでもいい。
何に対してか...いや、自分に対してだ。
頑張った フリ をしていただけ、誰よりも頑張った気でいただけの自分に、
「ムカツク」
「!?」
闇色の刀身を横から叩く様にアイスブルーの線が埃っぽい地下を通る。
手に伝わる振動も耳を刺す音も今は聞こえない。
氷樹の細剣と短剣が水色の光を、冷気を纏う。
闇色の刀身が強い無色光を放つ。
緑色の眼光と赤色の眼光が揺れ、剣術の光が全てを上塗りする。
氷属性三連突魔剣術 アイスリーエッジを短剣で、五連魔剣術 アイスブルーホライゾンを細剣で撃ち込む。
三連突きでカタナ剣術の威力を削り、氷属性がナナミの体力を微量だが削る。続く五連斬りでナナミの剣術を相殺する事に成功。
カタナ剣術は剣や細剣より威力が高い為、相殺狙いの場合は連撃を撃ち込む必要がある。
襲い来るディレイに逆らわず詠唱なしで魔術を連発する。
中級風魔術と中級水魔術を同時発動させ、詠唱なしで上級氷魔術を作り出す。
上級広範囲氷魔術 ダガーブリザード。
短剣の様な氷が冷気の嵐に乗り荒れ狂う広範囲火力魔術をナナミは回避しきれず黒い血液を撒き散らす。
「...ウザい」
悪魔が小声で呟き、闇色のカタナをひと振りした瞬間...ブリザードは煙の様に力を失い消滅。
魔剣術のいい所は剣術に属性を乗せる事が可能な点だが、悪い点は魔力を消費する ではなく、ディレイタイムが増加する点だ。
それを連撃系剣術で左右の武器で発動させたわたしは今もまだディレイタイム。
迫るナナミを武器で迎え撃つ事は不可能だが、魔術は使える。
先程と同じ様に詠唱なし+ディア で発動させた二種類の中級魔術は闇色の一閃を受け消滅、鈍く発光する剣術の光と、その奥にある闇色の刀身が煙る速度で振り落ちる。
今まで感じた事のない痛みを感じた直後、力が抜かれる...吸収される...消される様な感覚がわたしを呑み込み崩れ落ちる。
喉から無意識に漏れるザラつく様な声、身体から際限なく溢れ出る温かい液体。
視界が霧かかる様にボヤける。
「終わり。....あ、忘れてた」
悪魔の呟きも耳に届かない中、ボヤける視界で最後に見たのは ゆっくり迫る悪魔の手。
わたしは悪魔に光を盗まれた。
◆
エミリオがレッドキャップとユルい会話していた頃、アスラン達の宿を後にしたチームエミリオ、チーム フェアリーパンプキン+、チーム 芸術家、ラミーは闘技大会 会場へ戻ろうとしていた。
芸術家とチームエミリオが会話していた時に2試合目が終わり、チームアロハズの宿屋に居た時、4、5試合目が終了した。
あと1試合で1日目の大会は終了する。本日最後の試合は数分でも見ておきたいとキューレが言った為、闘技場へ戻る事になった。
「隊長!」
デザリアの街、人混みから言葉が抜け、隊長 と言うワードにワタポが反応し振り向くとそこには懐かしいメンバーが立っていた。
元ドメイライト騎士団 隊長だったワタポことヒロ。
その時の隊のメンバーが難しい表情を浮かべワタポを呼び止めたのだ。
「ヒガシン!久しぶり!ワタシもう隊長じゃないってば」
「知った顔じゃったか。ウチらは先いくのじゃ。ごゆっくりのぉ~!」
キューレはワタポ達フェアリーパンプキンへそう言い、ワタポ、ひぃたろ、プンプンが残り、他のメンバーは闘技場へ向かった。
「隊長」
「ん?どうしたの?」
懐かしいメンバー、騎士をほぼ無言で抜けたワタポに対しても当時と変わらず接してくれるメンバーとの再会にワタポは嬉しい気持ちだったが、素直に喜んでいい空気感ではない。
隊長のヒガシンは1枚の紙...任務通知を取り出しワタポだけではなく、ひぃたろとプンプンにも見える様に広げる。
「俺達はまだ信じられなくて、でも最上位からの命令で、この大陸にさっき上陸して...。とにかく話をしよう隊長」
任務通知内容は、元騎士団 隊長ヒロはペレイデスモルフォのマスターマカオンと同一人物で、今はフェアリーパンプキンに所属。ペレイデスモルフォのメンバーがレッドキャップに所属している事から、ヒロはレッドキャップメンバーである確率も濃厚に。
騎士の情報をレッドキャップへ流し、ギルドの情報を冒険者として探り、レッドキャップとしてギルドと騎士を壊滅させようと企んでいる確率が浮上した。発見次第、処刑し、確認のため死体を本部まで。
と、黒と白が並んでいた。
そして、キューレ達の元へ桃色の影が接近していた。




