◇85
昔、貴族はその権力を使って人々を争わせていた。
そう言うと聞こえは悪いが、騎士団が拘束した罪人等(金目当てで罪を犯す者)を貴族の権力で集め、罪人達にルールを与え争わせ、一番強い者を護衛として高額で雇っていた。
それが何時しか貴族達の娯楽になった。
自分の護衛はここまで強い。
いやいや自分の護衛の方が強い。
ならば戦わせてみよう。
それが広まり派生し、今の闘技大会が生まれた。
この世界で一番強い者を決める大会。
運営側が今回は1対1で。と言えばそうなるが、今回の大会はチーム戦。
この大会が与える影響力は大きく、参加者は賞金目当ても勿論いるが、自分の実力、存在を世界に見せ付ける為に出場を決めた者も少なくない。
過去、1対1での闘技大会で優勝した男は自分の存在と実力、妙な魅力を世界に散りばめた。
戦闘の専門用語でPK...殺し。
この大会はPK禁止の大会だが最終戦でその男は一切の迷いも見せず相手の命を奪い、笑った。
最強と最悪。2つの称号を同時に獲た男。
その男が現レッドキャップのリーダー。
その後数年間、闘技大会は開催されなかった。
そして今再び、闘技大会が開催され、その幕を上げた。
「ニャ...今回はどーにゃる事やら。おっとと、メガネ メガネ」
◆
こんなに出場者が多いとは。
わたしは大会運営者のありがたいお言葉へ耳を向けず周囲を見る。
闘技場はやけに広いと思っていたが、これだけの数が出場するならば、この広さも納得いく。
昨日酒場で見た顔もあり、いよいよ闘技大会が始まる。
この長くてつまらない話が終われば、記念すべき1回戦目が...。
「おいキョロキョロするでない!」
小声でわたしのティポルマントを引っ張り言うキューレ。
よくこんな話を黙って聞いていられるものだ。隣の猫を見てみろ。
昨夜のマタタビがまだ残っているのか、グロッキー状態で地面を見ているではないか。何度かマタタビを吐き出すモーションに入るも、さすがにここではマズイと堪える。
るーの表情が極限状態を示し始めた頃、やっと長い話が終わり、盛大な爆音を響かせ、客が沸き上がり、闘技大会が開始される。
アナウンスマテリアがこの建物の至る所に設置されているらしく、受付にいた女性の声が響く。司会者を今から紹介する、と。
ざわつく闘技場の中心に降り立った謎の影へ、全員が視線を送る。アイツ...空から降りてきたが、どうやって空に待機していたんだ?
見上げる先に天井はなく青い空と太陽が会場を見下ろす中、噂の司会はマイクを取る。
「みんなの視界に入るのは歯科医ではなく、司会!どうも始めまして大会進行を勤めさせていただきます、司会のケロッチです!フゥー!」
観客席が再び沸き上がり、ケロッチー!等の声も飛び交う。
「ケロッチって...有名なの?」
隣のキューレへ質問してみると「昔からアイツが司会をやっとるからのぉ」と答えが。
それなりに人気もある様で客は大会開始時よりも盛り上がる。赤のティポル帽子とマント、ティポルメガネ(サングラス)を装備する謎の司会者ケロッチは歓声を全身に浴び、満足そうにクチをユルませる。
「フゥー!最高の客に包まれて私、ケロッチはテンションカンスト状態!大会なんてどうでもよくなってきたぜ!今から皆で飲みに行こう!と、言いたい所ですが本心は隠して...記念すべき1回戦を始めるフゥー!今大会の初戦を飾るのは...」
ここで司会のケロッチはグッと溜め、観客だけではなく出場者さえも焦らす。
一瞬生まれた沈黙を逃さず、溜めた何かを爆発させる様にケロッチは高らかと言う。
「チーム 芸術家 vs チーム ベアーズ!10分後に試合開始!両チームは控え室へ、他のチームは適当に散ってくれフゥー!」
記念すべき1回戦のチームはどっちの名前を聞いてもピンと来なかった。冒険者やギルド以外にも貴族や自分に自信を持つ者達が参加する大会。
チーム名だけでどんな人物なのか想像する方が難しい。
司会のケロッチが言った様にわたし達は適当に闘技場から退散し、広すぎる観客席で1回戦を見る事にした。
試合開始まで10分あるので、移動中に食べ物と飲み物を購入。ここしかない、と思いわたしはティポルバーガーの青をセットで注文し、観客席へ到着。磨き上げられた木製のイスに座りティポルバーガーの紙包みをガサゴソと。
「見た目は普通じゃんね?」
取り出したハンバーガーをるー、キューレへ見せ言い、ひとクチ食べる。
「どうニャ?」
隣で感想を求めてくる猫の手には緑色のゲル状の何かが入ったビンが眼に映る。わたしはハンバーガーの感想を言い、そのゲルは何なのか聞く事に。
「コレんま!最強かも!で...そっちのは何?」
ハンバーガーは見た目の普通感を越える味。
セットなのでティポテトと青色だがコーラが付いてくる。ティポテトは少し濃い味で青コーラは強炭酸のコーラ。
ティポテトバーガー青セットはアタリだ。
「コレは発光オルグルゼリーってやつニャ。何とも言えにゃい味だけど...まぁうまいニャ」
ゲルの正体はスライムではなくアメーバでもなく、ゼリーだった。オルグル...と言えば緑色の宿屋名だったハズ。他の宿屋名を持つ食べ物飲み物もあるなら是非コンプしたい。オルグルゼリーは名前の通り発光するらしく、クチへ入れると緑色の弱い光が猫のクチから少し溢れる。
「ウチはトサカネズミの唐揚げじゃ。食うか?」
トサカネズミ。頭にトサカを持つ小型モンスター。その肉を揚げたゲテモノフードをキューレは美味しそうに...。
1つくれると言うが、ここは丁寧にお断りし、わたしはティポルバーガーをひとクチ。
「そろそろ、始まる?」
シャキシャキとした赤い野菜と緑のチーズを楽しみつつ、わたしは呟くと丁度、司会のケロッチがマイクを取り参上する。
「お待たせしました!これより闘技大会を...本当にマジで始めちゃうぜフゥー!さぁ両チーム!闘技場へキャモォーン!」
ケロッチの声に観客が沸き上がり、少々驚いた。
そりゃ試合が始まれば盛り上がるのは理解できるが、チームが闘技場に現れるだけでここまで盛り上がるとは...自分が試合する時の登場は最高に気持ちよさそうだ。
「ニャ?おいフロー、あのメンバー」
猫人族全員が持つ耳をピクピク揺らし、るーは闘技場を指差す。
指の先にはチーム...どっちかは解らないが、堅苦しくない黒いスーツ姿の3人。赤い長髪は赤いハルバードを、茶色の長髪は腰に2本の短剣を、金髪は背腰にナックルを。
茶色はネクタイを少し緩める仕草をして客に手を上げると、8割女性の声で仕上がった歓声が沸く。
驚いた。しかしその驚きはすぐに消え、わたしはニヤリと笑って言う。
「さっすが。女性ファンが多いですなぁ」
赤髪の女性...に見える男性。
茶髪のクールな顔立ちの女性。
そして初見の金髪男性。
この3名で組まれたチームは間違いなく チーム芸術家。
考えてみれば...あの2人が真面目に戦っているシーンを見るのは初めてではないか?一回戦なので全力で戦わない舐めプも有り得るだろうけど、それでも戦闘を最初から見るのは初めてだ。
「試合観戦も情報集めじゃぞ。勝利チームとやり合う場合は最初に情報量で優劣が決まるからのぉ」
「んじゃ、その情報収集は任せまっせ。皇位情報屋さん」
「俺もそーゆーの苦手ニャ。任せるニャ」
情報収集をキューレに任せ、わたしは席を立ち、許されるギリギリまで闘技場へ近付き叫んだ。
「ビビ様!音楽家!勝って、わたしのチームと戦おう!」
声が届いた様で、2人はわたしを見て笑顔で手を振ってくれた。
闘技大会の1回戦目はマスタースミスの称号を持つ鍛冶屋ビビと音楽系魔術を操る天才音楽家ユカのチーム 芸術家。
勝って、どこかで戦おう。
わたしはもう1度小さく呟いて席へ戻った。
◆
1チームの初期ポイントは0。
今から始まる闘技大会の試合は勝ったチームにポイントが入り、負けたチームはポイントを失う。ポイントがマイナスになった場合でも闘技大会は続く。
試合でのポイント変動は+-1。負けても勝っても3戦でき、何も出来ず負けた、なんて事はない。観客達もチームメンバー全員の試合を見る事が出来るので満足する。
勿論、1人で3人を相手にする事もルール上許されるので、メンバーは数合わせだ。と言う参加者も存在する。
ここで全勝すれば、+3のチームと-3のチームが生まれる。
この大会中にマイナスをプラスに変える事が難しく、初戦で全敗だけは絶対に避けなければならない事。
なぜ難しいのか。
それは貴族の性格が絡んでくるからだ。
プラス10のチームにわざとマイナスのチームをぶつけたりする貴族の暇潰しがこの大会中にも例外なく発動される。
賭けをする者も多いので大穴狙いの場合はマイナスチームに全額賭ける作戦もある。
出場者も主催者も観戦者も色々な方法で楽しむ闘技大会の1戦目。
チーム芸術家からは金髪の男が、チームベアーズからは名前通りガッチリした体型の男が闘技場に降り立った。
「にゃはは、どっちが勝つかニャ。楽しみぃすぎて眼が回るニャ...メガネがグルグルしてるだけだったニャ」




