◇84
闘技大会で盛り上がるイフリー大陸の街 デザリア。
ドメイライトと変わらない規模の街がイフリー大陸の温度を更に上げる。
その街の屋台でわたしは知り合いと出会った...と言えば聞こえはいいが、屋台で大声を出し騒ぐ知り合いに見つかった。と言った方が正確だろう。
ティポルと呼ばれる食用モンスターの串焼きを食べ盛り上がっていたのは この街を熟知している、元デザリア軍、現冒険者のアスラン。
その隣には皇位ギルド マスターのジュジュ。そして恐らく高ランクであろう冒険者の烈風。
チームメンバーの猫人族るー が、知り合いなら挨拶しなさい。と言い始めは無視するつもりだったが、こちらもチームメンバーの皇位情報屋 キューレが迷う事なく屋台へ直行し無視する作戦が潰された。
まぁ、まぁいい。恥ずかしげもなく騒いでいる知り合いを外から見るよりも混ざってしまった方がまだ...まだいいだろう。しかしこの中になぜ、コイツがいる。
「ティポルってキモいにょにウマイにょニャ。びっくりキャッツだニャ」
こんがり焼けたタコともイカともクラゲとも言えぬ、ティポルの串焼きを食べ感想を言う。猫人族でグルグルメガネを装備したボサボサ頭の青い奴。シケットの城でわたしは1度コイツと会っている。
「フロー本当 似てるよニャー。そっくりだニャ」
るーの今の言葉を無視する事はわたしには出来なかった。
このグルボサ猫の名前が フロー。わたしはエミリオ。
しかしるーは わたしをフローと呼ぶ。
「わたしがこの ちんちくりん とどこが似てるんだよ!」
「わたしがこの ちんちくりん とどこが似てるんだニャ!」
...コイツ。またわたしの真似をしてくるとは...そろそろ無視できない存在、消すべき対象になってきたな。
「キミ達似すぎやろ」
アスランの言葉さえ耳に入らないわたしは獰猛な狼の如く、青い奴を睨み言う。
「お前は闘技大会に出場するの?」
さぁ答えろ。答えてみろ!そのユルんだクチで答えてみろ!
「しにゃいニャ。お前は出場するんにゃろ?」
しない...だと?
残念だよ。もし出場するのならば大勢の前でそのムカつくグルグルメガネを粉砕してやろうと思っていたが、出場しないとは。フローの質問にはわたしではなく、同族のるーが答える。
「出場するニャ。俺と同じチームニャ」
「そ...。んにゃら、頑張って大会を盛り上げるニャ。わたしも楽しみにぃしてるからニャ」
ティポルの串焼きを三本食べ、五本持ち、あっさり屋台を後にした。アイツ...何なんだ?
青い奴の姿が人混みに溶け消えると、キューレが言う。
「フロー。不定期クロニクルを作っとるのが、あんな変なヤツだったとは驚きじゃの」
キューレの言葉に全員が眼を開きフリーズする。
不定期クロニクル。
冒険者、ギルドの雑誌でその名の通り不定期発行される。
色々と濃い内容で熱狂的なファンも多く、わたしも読ませてもらっている雑誌だが...。
「あのアイツが!?うっそだしょ!?」
と、言わずにいられない。
不定期クロニクルの内容は本当に色々あり、面白い記事から真面目な記事、どうでもいい記事まで様々。なので読む人も様々だ。冒険者以外は勿論、貴族や騎士まで手に取るレベルの雑誌を...頭悪そうなアイツが組み上げていたとは信じられないが...キューレの情報に嘘はない。見た目はあんなだがアイツも中々やる様だな。流石はわたしに似てるだけの事はある。
グルグルフローの話はさて置き、この...アロハズも大会に出場するのだろうか?
一番あっさり教えてくれそうな...アロハが絶望的に似合わない烈風へ質問してみた所、やはり出場するらしい。
アスラン、ジュジュ、烈風の3人はチームイメージにアロハシャツを選んだ頭の中が年中常夏チーム。
チームのイメージ...わたし達3人にはそれがない。猫耳でもつけるか?それとも前髪を結んでヤシの木ヘアーか?
ルール上、イメージは必要ではないが、出場するからには目立って優勝したい。
まだ大会も始まっていないし今日ゆっくり考える事にしよう。
「で、エミリオ達は街の観光か?」
アロハシャツ、ハーフパンツ、そして黒いブーツという謎のファッションをした皇位持ちジュジュがわたし達の登場理由を訪ねてくる。
なぜここに来たのか思い出せないわたしの変わりにキューレが年寄り口調を炸裂させる。
「ウチらは宿屋の場所を確認するために歩いとったんじゃがのぉ。お前さん達がおって挨拶をしただけじゃ」
そうそう宿屋だ。出場者には宿が主催者から提供される。その場所を確認する為に今このデザリアをのし歩いていたのだ。
宿屋は全部で4つありどれも大きく、主催者が適当に決める為、どのチームと同じ宿になるのかは解らない。
4つの宿屋は色が違い、赤で[フレアヴォル]、青で[アストール]、黄で[マーウェズ]、緑で[オルグル] と命名つけられている。
わたし達は本気の色で有名な青[アストール]の宿屋。それを言うと、この街に詳しいアスランが場所を教えてくれた。
「うむ、じゃそろそろウチらは おいたま するのじゃ」
場所はわかったが建物の外装も知りたいのでここでチーム常夏と別れる。大会中にあたった場合は敵になるが、こうやって別チームとも仲良く楽しくできるイベントは初めてなので全てがワクワクする。
今まで張り詰めていた事ばかりだった...それでも頑張って進んできた。
たまにはこんな感じに、楽しく気楽なイベントも悪くない。
そう考えていると大会中泊まる宿屋 青へ到着した。
わたし達の部屋は三階。取り合えず中へ入り出場者である事を伝え、部屋へ案内してもらった。
部屋は中々いい感じだ。
寝室が1つでベッドが4つ並べられているが...チーム唯一の雄はるー。問題なさすぎて色気に欠けるが...不安な夜を過ごすよりマシだろう。
とりあえずソファーに座り、一旦休憩する事にした。
るーは気が利く猫で、この猫の手ならばいつでも借りたいと思える。そんな猫が小さな冷蔵庫から飲み物を取り出し、わたしとキューレへ。
出場者はこの部屋にあるモノ全てを自由に使っていい。
しかし減ったモノは大会中、補充されないので飲み物等が無くなった場合は自分達で補充するのが決まり。初めからそのつもりだったので、この初回サービス的なノリはありがたい。好みのコーラではなく、オレンジジュースをチョイスしたるーのセンスへ文句を言いたいが、取ってくれただけでも感謝すべきか。
わたしはソファーを占領し、黒いブーツ、固有名はシャドーブーツというイカした名前のブーツを脱ぎ捨て、超ロングな靴下も荒々しく脱ぐ。
1度ティポルマントを外し、上着...シャドーチェスタを装備解除、ティポルマントを再び装備してどっぷり休憩を貪る。
キューレはフォンを数台操作し情報の整理か何かをしている様子。
るーは...何してるんだ?
「るー何してんの?爪とぎたいの?」
猫というのはすぐ爪をとぎたがる。壁をガリガリし修理代請求でもされたら最悪。もし爪とぎっぽい行動にでたら全力で阻止せねば。
「んにゃ...そうじゃにゃいけど...」
爪とがねーよ!とかそんなツッコミで返事をしてくると思ったが、会話よりも優先して何かをしている様子。
花の絵の裏や冷蔵庫の裏や下、そう言った見えない部分を必死に覗き確認している。
「まぢで何してんの?誰かがピーピングでもしてる感じすんの?」
ピーピング。盗み聞きや盗み見のスキルや魔術。
遠くの何かを対象にバレない様に聞いたり見たりする場合は魔術になる。魔術の場合はわたしは誰よりも早く気付けるが...魔力なんて全然感じない。
「ピーピングじゃにゃいニャ...んにゃ俺って昔かりゃアタリ多くてニャ」
「アタリ?」
気になる言い方をする猫人族の黒毛だが、キューレは周りの音を遮断しているかの様にフォンとにらめっこ。
会話が邪魔にならない様子なのでこのままるーと話をしよう。
「昔にゃ...イフリーにぃ用事で来た事あってニャ。この街じゃにゃいけど...」
「猫ズって、他族と関わらないんじゃないの?」
わたしはそう聞いていたし、猫の森でも他族を猫里へ近付かせない様に幻想、または幻影系魔術で迷わせる様になっていた。天才魔女エミリオ様の手にかかればあんな魔術、子供騙しでしかないがな!
「みんにゃがみんにゃ、そうじゃにゃいニャ。外が気ににゃるヤツもいる...俺もぽよも、それにぃフロー達来た時にぃりょくん達居にゃかっただろ?」
確かに言われてみればあの時りょくん烈火は居なかった。あのレベルの猫が里にいたならばレッドキャップも簡単に手は...いやそこは居ても居なくても結果は変わらないか。
レッドキャップクラスまで行けばSクラスの冒険者が2.3人増えても問題ない。S2.S3となれば話は変わりそうだが...。
「あの時りょくん達は外に行ってたんニャ」
「ふーん。で、それが今のその行動と何があんの?」
「さっきも言ったけど...俺結構アタリ部屋多いんニャ」
「だからそのアタリって何さ!詳しく話してよ暇だし」
そしてわたしは後悔した。
るーの言うアタリは わたしの感覚では大ハズレ。
昔るーがイフリー大陸へ用事で上陸した時に泊まった宿。
突然シャワーが出て、止めにいくと次は部屋に付いているフォンが鳴り響く。るーは恐る恐るその室内専用フォンを手に取ると次は窓が、外側から強く何度も叩かれている様な衝撃音。
さすがの猫人族も恐れ宿を飛び出し夜明けを待った。
そして夜が明け街が起き始めた頃、荷物を取りに宿へ戻ると、窓には赤い手跡が複数。部屋の見えない場所には和國の呪術や護りなどに使われる お札 と呼ばれる謎で奇妙な文字が書かれた紙が...隙間なく貼られていたらしい。
るーの言っていたアタリは、ホラーハウスの事だった。
「この部屋は大丈夫ニャ!」
「まぢ?絶対?」
「うん。それにぃ多分この街は大丈夫ニャ。観光客も多いし首都にゃろ?俺が行ったにょは街外れもいいトコだったニャ」
この部屋は大丈夫。その言葉だけでわたしは救われた。闘技大会で浮かれていた心をまさかチームメンバーに激落させられるとは...。
「んし、ウチも情報整理が終わった終わった!エミリオお前さんは興味本意でそんな話聞くから気分下がるんじゃぞ。まぁ浮かれておったし丁度いいと思うがのぉ」
情報整理しつつ周りの音は確り拾っていたのかこの女。
さすがは情報屋、言い方を変えれば噂好きなヤツ だ。
「まぁ昔の話だからニャ。それにこの街は問題にゃいだろ。それよりこの後どうするニャ?」
時間は昼を過ぎ、普段なら落ち着ける時間帯だが、参加者確認も完全に終わって街は先程以上に盛り上がる。
この宿、この部屋は窓から顔を出せば中心街が見える。わたしと同じ様にティポルシリーズを装備している人影も多くなり、闘技大会と言うより楽しい大規模キャンペーンイベント感が強い。
前日でこの楽しい雰囲気。大会開幕後はどんな雰囲気になるのか想像もできない。
「もうウチらはやる事終わっとるし...好き勝手に時間を潰してええんじゃろ」
「んだんだ。それでいいさ、自由時間!」
と、言ったもののやる事ないので時間だけを持て余しそうな予感。
ワタポ達もデザリアにいると思う。けど、大会で再開!って感じが格好いい気がするので連絡はしない。
「キューレ、情報収集はいいの?」
「うむ。ウチは大会に出る身じゃ。誰も情報はくれんじゃろなぁ...大会中に情報を集めるのじゃ」
ちっ!情報収集するなら付いていこうと思ったが残念だ。
ならば。
「るー、予定は?」
「俺は酒場に行きたいニャ」
「酒場?酒飲みたいの?まだ昼だぞ?」
「もちろん夜ににゃったらだけど、酒場で夕食ってどうニャ?バリアリバルに来て初めて酒場を知ってニャ。雰囲気が好きニャ」
確かに酒場は冒険者やギルドは勿論、街の人々も集まって各々盛り上がっている場所。
わたしも初酒場はテンション上がった。酒は嫌いな方だが予定がない日は今でも足を運び夕食を済ませる夜もある。
大会中で知らない街の酒場となれば行かなければ冒険者ではない。
「んじゃ夜ごはんは酒場で!この街で一番人が集まる酒場わかる?」
勿論この質問はキューレに対してだ。
情報屋はこの質問を予想していたのか、すぐに返事をする。
「中心街にある [シルロア] という酒場が人気じゃ。銀色の看板が嫌でも眼に入るらしいぞ」
決まりだ。今夜は朝までシルロアで盛り上がり、明日の大会を迎えようではないか。
そして、夜が来る。
◆
デザリア1の酒場と言われる中心街にある[シルロア]は噂通り銀色の鳥とも言えぬ看板を掲げていた。
巨大な2枚ドアは全開でスイングドアを抜けて外まで大勢の声が届けられる。
「入ろーぜー!」
弾む心を抑えられずそう言うと、2人はクチを揃えて言った。
「「その装備で?」」
そう言われ自分の装備を今一度見直す。
頭はティポル帽子、チェスタはフォンに収納してありティポルマントは装備。ロングソックスもブーツもフォン、色気ムンムンの生足と宿屋アストールにあった鳥型モンスターをモチーフにしたであろう、スリッパを装備している。
「うん、何か問題ある?」
何が悪い?裸やアロハなら問題しかないが、今のわたしの装備は純粋にこの街、イベントを楽しんでいる人物なら全員同じ格好になるハズだ。
この格好がダメならキューレのフードローブ、るーの和服なんて問答無用でアウトだろ。
「まぁ本人がええなら、ええじゃろ」
何とも言えない言葉をキューレが呟き、わたし達は酒場シルロアへ突入する。
「おっわ、ひっっろ...」
思わずクチから溢れた言葉。
バリアリバルの集会場本部をそのまま酒場にしたかの様な広さ、2階にも席がありティポルをモチーフにした制服姿のウェイトレスが忙しそうに店内を走る。
キューレはそのウェイトレスを捕まえ、人数を伝えると2階の席へ案内された。できれば1階が好ましいが...この混み具合なら1階に空席はない。
移動中にキューレはわたしとるーへ飲み物を訪ねてきたので、わたしはコーラ、るーはマタタビ酒と答える。席につくとすぐ飲み物と適当に食べ物を注文するキューレの行動は...グッジョブ。早く注文した方が勝ちの店内へ素早く適応するとはさすがだ。
雰囲気ある木製のイスとテーブルを堪能し、メニューを見る。
マタタビ酒というメニューは本当に存在している事に驚くと、バリアリバルにもある。と言われ更に驚く。
そんな適当、他愛ない会話をしていると注文したメニューが届けられる。
コーラと言ったが、店の粋な計らいでテッティポコーラが。
食べ物はチキンやポテトといったジャンク感が強い物だが、わたしは好きだ。
るーも問題なく食べられる様子なので、ここで乾杯を。
グラスをこれまでか とぶつけ合い、大会頑張ろう会の開幕。
テッティポコーラを勢いよく飲んで、気付く。
これは、酒、だ。
「「キューレ」」
「なんじゃい2人して」
「このコーラ酒じゃん!」
「マタタビ酒 強 にゃん!」
わたしのコーラは中々のアルコールを含む危険な味。
るーのマタタビ酒は中々の破壊力を含む 強 と呼ばれるモノらしい。
「まぁ良いじゃろ。大会前夜は盛り上がるのが決まりじゃろ!ほれ飲め飲め」
そう言われれば...確かにそんな気がしてくる。
ここで「お酒はNGなんです」と言うヤツは存在がNGだ。今夜は盛り上がろうではないか!グラスのコーラを一気に飲み、間髪入れず追撃のテッティポエールを。コーラでは甘い。と言う事で完全に酒であるエール系を注文し、マタタビでとろける猫の耳を引っ張り騒ぐ。
楽しく気分よく飲んでいると、少々荒い音が1階から聞こえ、覗き見下ろすとやはり始まった。
「おっ?始まったのぉ!祭りに喧嘩は付き物じゃ!」
何だか楽しそうにするキューレだが、その気持ちは解る。
この酒場にいる半数以上は明日から始まる闘技大会に出場する冒険者。自分の力に自信を持っていて、負けず嫌いの集まりと言っても過言ではない。そんな連中が集まって酒を飲めば喧嘩の1つや2つ当たり前だ。
「こんにゃに賑やかなんだニャ」
急性マタタビ中毒かと思っていたるーが喧嘩を見て、賑やか と言った。
少々違う気がするも、賑やかではない とも言えず。
「前日でこの有り様じゃ。んじゃが大会中はもっと賑やかじゃろな。勝った負けた、誰だ彼だで喧嘩も増えると思うぞ」
「「ほぉ~」」
「今のうちに相手を威嚇するつもりで喧嘩売るバカもおるって事じゃ。ウチらには関係ない事なのじゃ」
喧嘩相手だけではなく見学者も威嚇し、大会前に自分のヤバさを披露する。あーゆーのをバカって言うんだろう。
「あ、そだ。明日10時からスタートっしょ?1発目は誰が出る?」
大事な事を決めていなかったので、わたしはここで大会1発目に誰が出るのかを決める事に。できれば...
「お前さんでええぞ」
「うん、フロー出ろニャ」
「まぢか!いやぁー悪いねぇー」
できれば わたしが出たい!と思っていると2人はあっさり大会1発目の大仕事を譲ってくれた。
みんなが待ちに待った大会開催、その最初で派手に勝利しチーム エミリオの存在を全チーム...だけではなく、大会を見ている全員に見せつける。
「うんうんオーケー、任せといて。ビシッと決めてくるから」
「お、おう」
「...にゃんのオーケー ニャ?」
初勝利を願ってわたし達はデザリアの酒場、シルロアで何度目なのか乾杯をした。
騒がしくデザリアの夜は更けていく。




