◇二種の影撃
強烈な熱風が上から全身を伏せさせるようにのしかかる。
温度が高く重い風属性魔術がわたしとワタポへ襲いかかったのは紅玉の魔女が魔煌を燃やした直後だった。
高速詠唱なんてレベルをとうに越えている事実に驚きが勝るも、状況的に驚いている余裕はない。
上から押さえつける風をどうにかしなければ絶好の的───だが、わたしがいる時点でこんな魔術無意味だ。
右手に持つ対魔竜の短剣【ローユ】を強く握ると、意図を汲み取ってくれたかのようにその効力を存分に発揮する───魔術を打ち消すという魔女にとっては厄介極まりない特種効果を。
風の圧力が消滅し、ワタポはすぐにラヴァイアへと回り込む。その姿を視線で追いながらラヴァイアはわたしへ炎属性上級魔術を高速詠唱で放つ。流石は四大魔女と言った所か、詠唱速度が異常だ。
「魔術は任せろ!」
魔術を気にするワタポへ一言叫び、わたしは水属性中級魔術で───能力の多重魔術で3発同時に執行し───ラヴァイアの魔術を迎え撃つ。
四大魔術のレベルを相手にする場合は0.5秒でも相当なタイムロスだと今知った。相手の魔術を見て対属性を詠唱する時点で間に合わない。
自分の能力がここまで有能だと思えたのは初かもしれないな。
上級魔術に対し中級3発で相殺は割に合わない、と普段なら思うが相手は四大魔女。それも火や炎の属性に適性を持つ魔女。中級3発で相殺出来たのは安上がりだ。
炎と水が豪快に絡み合い、水蒸気を発生させる中でわたしは内心───水魔術は得意な方じゃねーんだよな、と毒づきながら次の魔術、勿論属性は水を詠唱する。
『ダメだよエミリオちゃん。もう始まってるんだよ? ちゃーんと考えなきゃ』
この一言でわたしは自分の失態に気付く。
戦闘は既に始まっている。
戦闘───殺し合いだ。
相手は魔女の中でも一線先に立つ四大魔女である事と、この場が紅玉の魔女にとって最高の環境である事を忘れていた。
魔術は───妖術は詳しく知らないが───環境の補正を受ける。ここはイフリー大陸の地殻であり、高温のマグマが流れる環境。
水属性の恩恵は減り、火属性の恩恵が上昇する。
つまり、ここは紅玉の魔女の適性環境。
水属性上級魔術を詠唱し留めていたわたしの四方で炎の渦が巻き起こり、ラヴァイアは別の魔法陣を展開する。緑色光の魔法陣は風属性。
『バイバイ』
炎の渦は暴風で煽られ、巨大な炎嵐がわたしを包んだ。詠唱済みの水属性上級魔術を咄嗟に放つも、無力に蒸発。炎嵐は狭まるように小さくなり焼ける壁が迫りくる中でも、わたしに焦りひとつない。
「あめーよラヴァイア」
短剣【ローユ】を構え剣術を立ち上げ、貫く形で炎渦から脱出するのは余裕───、
「───ッ!?」
剣術の姿勢のまま、視界の端で捉えたのはキラキラと輝く微粒子のような何か。
時間が凝縮されるように縮まりながらも思考は普段と変わらない速度で巡る。
どこかで見た微粒子───爆破粉塵。
わたしと炎壁の間に爆破粉塵が煌めいているという事は......回避不可能な爆発が起こる。
いやまて、地属性魔術で盾を作るか?
ダメだ間に合わない。
これは───ぶっとんだな。
役に立たない思考が出した答え通り、粉塵は炎の熱に触れ爆発を起こした。
視界は一瞬で爆光に潰され、対応する隙さえ無い爆風と灼熱がわたしの全身を叩いた。
◆
「おっほぉ〜! 派手にヤッたナリねぇ! 炎魔術と爆裂魔術のコンボはウザすぎるっちゃ」
遠くからエミリオとラヴァイアを観察しつつ、フローはひらひらと攻撃を回避して見せた。
トウヤの槍や影、カイトの剣を掠める事なく。
ラヴァイアが魔煌を燃やして10秒程で鼓膜を刺激する爆発が炸裂し、トウヤとカイトもその音に気をとられる。
超近距離でダイナマイトを爆発させたかのような爆音、爆風が水蒸気を消し飛ばしワタポの姿も露になる中でラヴァイアは次の上級魔術を詠唱した。
ラヴァイアを中心に規格外なサイズの炎刃が横横なぎに振られ、ワタポ、トウヤ、カイト、フローはそれぞれの方法で回避する。
マグマが沸騰する場でも空気が焼かれるのを実感すると同時に、あの魔女はカイト達も同時に焼き斬るつもりで超広範囲魔術を執行したのだ。
灼熱の剣線は壁を焼き斬り、岩は溶ける。
あんなものを食らえば肉体は一瞬にして灰となる事をトウヤ、カイト、ワタポは見せつけられ戦慄するも、フローは大袈裟に地面へ伏せながら頭上を通過した魔術に「あっぶねー!」と感想を向ける。
「エミーは!?」
紅玉の魔女と戦闘していたのはワタポとエミリオで、そのエミリオの姿が無かった事にカイトは焦りを滲ませた直後、
「余所見は寂しいナリぃ〜」
「カイトォ!!!」
いつ、どうやって、フローは移動したのか。
既にカイトの背後にピッタリと立ちグルグル眼鏡を嫌に輝かせたピエロは自分の影を拾った石に纏わせ刀剣を型取りカイトを貫きつつ、自分の影を槍のように伸ばし同時にトウヤを貫いた。
これはまるで、カイトとトウヤの能力だ。
自身の影を自在に纏うカイトの能力。
自身の影を自在に変化させるトウヤの能力。
性質も違う強化系と特質系の能力をあろう事か他人が同時に使用したのだ。
「まぁまぁ上手くいったナリ」
狙った軌道では無かったらしいが、ふたつの影を使い攻撃を与えるという点では成功し、フローは及第点に不満気な声を出した。




