◇炎嵐の前兆
地殻は進むにつれ不思議と明るさを増す。
流れるマグマの熱交だけではなく、肉眼で確認できるレベルの粒子が舞い始める。
パーティメンバーには半妖精や医学や治癒に詳しいリピナもいるが、粒子は妖精と関係はなく、マナなどでもない、と。魔女であるわたしから見てもこの粒子は魔術関係ではない事がわかる。
そんな粒子舞う道をぐんぐん進んでいると、ついに目的地の神殿が目の前に現れた───のだが、
「なんっだあれ......骨?」
「黒焦げの......骨だよね?」
わたしとプンプンは見たままをクチにした。
神殿前の広場には黒焦げになった骨達が武器を持ち徘徊している。数は......どこまで数えたかわからなくなるレベル。
岩陰に隠れ骨部隊を観察しているが、その場を離れる気配は微塵もなく、決まったルートもないらしく徘徊を続ける。
「......何をもって感知しているのか調べる」
トウヤは石ころを拾いながら言い、わたし達の反応を待つ前に神殿の壁付近までその石を投げ飛ばす強肩を披露した。しかし骨達は石ころの動きにも、衝突や落下音にも反応しない。
「反応なしか......気配にはどうだ?」
次はカイトが影を狼に変化させ、自身の影から切り離し骨達の中を進ませる。真横を通過しても骨は反応を見せないのでわたしが「ちょいぶつかってみて」とオーダーし、カイトの影狼は身近な骨へわりと強めに体当たりした。それでも骨は変わらず徘徊を続ける。
「もう突っ込んでもよくね?」
自分でもこの作戦は酷い、と思うが体当たりしても反応がないなら突っ込んで抜けた方が早いと誰もが思う。現にわたしの案に誰も否定意見をしないし、突っ込んで反応があったら対応すればいい、程度に考え始めている。
「まってエミー、上と下から何か来るよお?」
ここまで積極的に発言しなかったホムンクルスのだっぷーは天井と地面を見て接近する何かを警戒する。わたしは勿論、他のメンバーも接近する何かを感知出来てはいないが、
「地殻に来てからずぅーーーっと頭の中に周りの感覚みたいなのが流れてきてて、何かなあ? って考えてたけど今わかった! あの骨は次に左に曲がって、あっちの骨は振り向くよお!」
両指で2体の骨を指差し発言した数秒後、本当に骨がだっぷーの予言通りに行動した。
「なんでわかんの!?」
「予知系の能力??」
わたしとワタポはだっぷーを見て驚くも、能力や魔術ではなく、本当に頭の中に流れてきているらしい......立体化されたマップデータを上から見て、そのマップに配置されていたものがどう動くのか少し早く見える、みたいな感覚と。
「地殻に入ってから突然だから私もわかんないけど......能力だったら凄く雑かも。だってみんなの位置は無いし、神殿の中までは見えない。さっきの下に降りる階段の先も見えないまま! 神殿までの道がマップデータみたいに見えて、骨の位置や動きが見えるだけ」
「それじゃあさっき言った何か来るっていうのは?」
「もうすぐみんなも感知出来る距離に来ると思うよお! これは見えたとか流れてきたんじゃなくて、感知出来ただけだからあ!」
カイトの質問にいつもの調子で答えるだっぷーだが、感知出来ただけ、というその、だけ、の範囲が恐ろしく広い事を本人は無自覚に利用していたのだろう。ここにいる誰もが届かない感知範囲を持つだっぷーの鋭さはめちゃめちゃ役に立つんじゃないか? とその感知を使って地殻調査をサクサク終わらせる方法を考えていると、思考が全て焼き消されるような “魔力” が天井から振り落ちる。
全員が感知技術なしでその魔力を察知してしまう程、濃く灼熱の魔力。
続くように下───地面からは機嫌を逆なでするような魔力が吹き上がる。
「───! ガイコツを見て!」
ワタポの声に引かれるようにわたし達は骨部隊へと視線を向け、骨部隊が何を感知しているのかハッキリする。
天井と地面へ顔を向け武器を構えた骨。魔力だけに感知対象を絞っていたから体当たりにも反応しなかったという事がこんなタイミングでハッキリし、同時にこの魔力の正体をわたしは察した。
魔力の接近速度は遅い、逃げる余裕はある。
機嫌を逆なでするような変則的かつ変彩的な魔力は【クラウン】だとか【ジョーカー】だとか、ふざけた名前を振りまく【フロー】で間違いない。
もうひとつの灼熱の魔力......得意属性が魔力にまで影響しているのは宝石魔女の中でも上位に君臨する【四大魔女】であり、灼熱、赤は【紅玉の魔女】だ。
「上下から来る魔力はどっちも魔女......どっちも四大魔女、とにかく強ぇ魔女だ! 逃げる時間はまだあるけど───どうする? ちなみに下はフローだ」
このパーティのリーダーはわたしではなくカイトだ。
カイトが “みんなに任せる” くらいの事を言わない限り判断はリーダーに任せるべきであり、それがパーティのリーダーだ。
「フローってクラウンの?」
「あぁ、グルグル眼鏡で色も姿もぽんぽん変えて長年悪巧みしてたうぜぇヤツだ。心当たりあるんじゃないか?」
フローの本体......元々の姿をわたしも知らない。魔女界の頃の───昔の記憶が解凍した今でも記憶にあるフローの姿はここ最近のものとは少し違う。
変彩の魔女の名前通りアイツは変彩魔術を得意としている魔術で、変彩魔術は本来クソ雑魚、悪戯でもギリギリ使えないレベルの魔術だ。それを理解不能な水準で軽々扱っている時点で適性もセンスも全てが未知。
その未知を少しでも解明しなきゃ今後フローの存在が何よりもネックになる......とわたしは睨んでいる。
「俺とトウヤ、エミーとワタポは残って魔女を撃退する! 残りのメンバーは神殿へ入りこの気温の原因を突き止めてくれ!」
カイトの指示に誰ひとり反発せず素早く動き、プンプン、ひぃたろ、リピナ、だっぷーの4人は神殿へ突入した。
それを見送りながらカイトは、
「悪い、治癒術師を神殿側に入れてしまった」
メンバー配分でこっち側に治癒術師がいない事を謝る。が、
「俺は別に問題ない」
「ワタシもそれがいいと思ったよ」
「怪我しなきゃ問題ないぜ。して、どっちがどっち行く?」
このレベルの魔女を相手にリピナひとりでは確実に手が回らない。神殿側に治癒術師を配分したのは安心感という部分も含めてナイス判断だとわたしも思う。
残る問題はだれがどの魔女を相手にするか、だ。
「俺は確認したい事があるから、トウヤと下から来る魔女を。エミーとワタポは上を頼む」
わたし達の相手は上───紅玉の魔女となり、広いエリアを存分に利用する形でお互い距離を取る。
「ワタポ、紅玉の魔女はとにかく火、炎を得意とする魔女でその属性では私より全然強い。前衛頼んでいいか?」
「───うんっ! 任せて!」
なぜか嬉しそうにワタポは前衛を承諾し、紅玉の魔女を待ち構える。
相手は四大魔女......シェイネやグリーシアンとは序列上ではワンランク上の魔女だが、実力はワンランクでは足りないだろう。
それでも、やるしかない。
もう外界の連中や【レッドキャップ】と【クラウン】、謎個体や強者の存在に掻き混ぜられるだけの立場は終わりだ。
わたしはひっそりと気合いを入れ、霧薔薇竜の剣と対魔竜の短剣を抜いた。




