◇赤魔女
「思ったより酷くないな」
デザリアに到着した第一声が言葉通りだった。
炎塵の女帝が暴れ狂ったとばかり思っていたが、街としての姿は全然残っている───が、気温はトラオムなんてレベルじゃない。
「夜なのに凄く暑いね......この気温をどうにかしないと誰も住めないよ......」
まだ魔箒から降りていないというのに汗が吹き出る暑さ。ワタポもこの異常な温度に顔を歪める中で安置を発見する。
「エミちゃ、あそこにみんないるよ」
「まぢだ。急降下すっから捕まって───......?」
アグニに呼ばれた冒険者や騎士が集まる場へ豪快に落下してやろう、と悪戯に考えるも魔箒を急降下させるのをわたしは止めた。
「どうしのエミちゃ?」
湧き上がる熱気は地殻が原因......拾える気配は集まっているみんなのもの、なら、この見られている気配はなんだ?
わたしの行動ひとつひとつを見ているような、嫌な感じは......
「ワタポ、ちょい先行ってくれな」
「え? ───!?」
返事を待たずわたしはワタポを空間魔法で強制移動させる。距離も短く、場所もハッキリ見えているとはいえ空間魔法を使うのが上手くなったな、と自分を自分で評価しつつも、やはり消えない気配に苛立ちさえ覚える。
見られていたのはワタポではなく、わたし。
相手はわざと感知出来るギリギリで見ている。
感知出来ても掴めないラインで。
高度を少しずつ上げ、どこまでこのウザったい視線が届くのかを確認するも全く消えない。近付いてもなければ遠くもならない、理解出来ない位置からわたしを凝視する何か。
「............どっから見てる?」
不意にフォンが鳴り、気を向けつつ周囲の索敵は消さず通話を受け取ると、
『なにしとるんじゃ! はよぉ降りてくるのじゃ!』
確認せず通話を受けたが、相手は老人のような言葉、のじゃ、を使う情報屋のキューレ。
「悪い、わたし抜きでやってくれ......いや、全員に警戒しろって伝えてくれ」
『はぁ??』
「何か、誰か、見てるぞ」
この視線は絶対にわたしを中心に見ている。それは間違いないが、たまに視線が外れる気がする......地面の方を見たり、わたしを見たり、何なんだコイツ。
『見とるって何がじゃ!?』
「わっかんねーけど確実に誰か今ここを......わたしを見てるヤツがいる。とりあえず警戒しつつ話を進めて次へ行ってくれ、一旦切るぞ」
通話を終了させ、そのままフォンポーチから装備を取り出す。フル装備状態に仕上げつつ数種類のポーションをベルトポーチへと収納し、フォンをしまう。
目的......狙いもわからないまま一方的に見られる感覚。
不愉快なんてレベルじゃない現状だが、こっちかは何も出来ないまま時間だけが溶けていく。
◆
エミリオをターゲットに観察している視線は魔女の魔術。
鉱山の街オルベアを観察し、破滅させた魔眼術の下位互換だが、規模を狭めターゲットを絞る事で隠蔽術で覆い隠しやすくなる。
「あれがエミリオちゃんなんだね、当たり前だけど大きくなってる」
赤と橙の髪、同色の瞳を持つ魔女が空から視線を向けていた。
正確には魔女界から地界、イフリー大陸のデザリアを映した魔法陣を覗き込んでいる。
「天魔女様ほどではありませんが、対象を定めれば私達にも使える魔術ですわね」
赤魔女の隣には全体的に白い魔女が、同じくデザリアを覗き込む。
「この気温はヴォルフフェンリルが地上へ敵意を飛ばしているからだね。神霊の眷属が地界にいたとはね......どうりで探しても見つからないワケだ」
赤魔女は瞳を燃やすように視線をデザリアの地面へと向ける。するとすぐに白魔女がエミリオへと視線を向け、
「それで、私にエミリオのお相手をしろ、という事ですか? ラヴァイア様」
「相手っていうか、あたしが四大を手に入れるまで邪魔させないようにしてくれれば殺しても遊んでも、好きにしていいよ。プリフィア」
「他の方々は?」
「そっちもあげる。てかそれが狙いであたしに付き合ってるんでしょ?」
「ま、まさか! 私がそのような、はしたない女性だとお思いだったのですか!? ラヴァイア様は!」
「いやいや、魔女ならみんな知ってるよ。プリフィアは男も女も種族問わず大好きな肉欲魔女だって───あ、ごめ」
言い終えてからラヴァイアと呼ばれる赤魔女は失言に謝罪するも、もう遅い。
「どなたが?」
「え?」
「どなたが私の事をそのように語ってらっしゃるのですか? どなた?」
白魔女、プリフィアは微笑みながらも深い魔力を渦巻かせ赤魔女の両肩を掴む。
「落ち着いてよプリフィア」
「どなたが仰ってらしたの?」
「〜〜はぁー、サフィアンだよ。でもプリフィアも怒るって事は心当たりがあるって事だよね?」
「サフィアン様でらっしゃるのね! あ、私急用が出来てしまいましたのでここで失礼させていただきますわ」
「へぇ? ちょっと待って、待てってば......あー」
白魔女は微笑みの表情を貼り付けたまま、どこかへ───十中八九サフィアンの元へ向かってしまった。ひとり残された赤魔女は額に手をあてつつも、自分ひとりで四大を奪うプランへと移行する。
赤魔女───紅玉の魔女。
四大魔女のラヴァイアはイフリー大陸で眠る四大【イフリート】を奪うべく観察していた。
白魔女───真珠の魔女。
宝石魔女のプリフィアは別の魔女へ苦情を言いに行ってしまった。
「さーてと、久しぶりに好きにやっちゃお」
紅玉の魔女はスクロールを取り出し、書き込まれていた空間魔法を執行し地界へ。
独特な形状の、鉄製の長棒に座ると先端から炎が吹き、空気を燃やす。
バーナーのような特性のこれがラヴァイアの魔箒。
四大魔女は方角を確認し、地界中心からイフリー大陸へと爆進していった。




